カーノルド家での仕事1
そのまま俺はとんとん拍子にルビィの従者となった。
さすがにルビィを泊めるわけにもいかず、一旦帰った後、翌日にカーノルド家へ凸した。
どうやらルビィが執事長と当主代理のグエルに話を通してくれたらしい。
……具体的になにをするのかわからないけど。
カーノルド家に入った途端、外で少し待たされた。その後、スーツを着た老人が来た。老人といえども体は鍛えられており、ただものではないオーラを纏っている。
「私は執事長のセバスと申します。あなたが我が家の従者志望ということでよろしいですね?」
セバスさんは見定めるようにじっとこちらを見つめていった。少し怖いな。それはそうと、執事定番の名前すぎて覚えやすい。執事って改名制度でもあるのかしら。
「はい、ナーベルと申します。よろしくお願いします。」
「ではナーベル君。私が屋敷を案内致しますのでついてきてください。」
ここで住み、働くことになるのだからしっかり教わらないとな。
食堂やリビングなど、いろいろ案内してもらい最後には使用人室へ連れて行かれた。
「こちらが使用人の部屋です。」
「部屋をいただけるんですか?」
「ええ、ルビィ様専属の使用人はおりませんので、部屋が余っております。」
そこでこじんまりした使用人の部屋をあてがわれた。大きくないとはいえ、部屋をもらえるだなんて思っていなかったのでびっくりだ。
生活感がなく、しばらく誰も部屋を使っていなかったのだろう。しかし掃除は行き届いている。さすが執事のいるお屋敷。すげえぜ!
「中にスーツをご用意しています。ナーベル君のサイズに微調整するので採寸してもよろしいですか?」
「ぜひお願いします。」
セバスさんはテキパキと俺の採寸を済ませて服のサイズを合わせた。
「では、お着替えをお願いします。着替え終わったら奥様方への挨拶をしていただきますので、外に出てきてください。それでは。」
音もなく部屋を去るセバスさん。やつはNINJAなのだろうか?
着替えを済ませ、当主代理のグエルと次期当主のルーキスに挨拶をする。
グエルはとても人相の悪そうなおばさんだった。ルーキスはこの前あったイケすかないイケメンのがきんちょだ。
「グエル様、ルーキス様、カーノルド家に新しく使える従者を紹介致します。」
「入りな」
「失礼致します。」
「こちらナーベルでございます。」
セバスさんはこちらを見て頷いた。自分でも話せということだろう。
「お初にお目にかかります。今日よりルビィ様の従者をやらせていただきます。ナーベルです。よろしくお願い致します。」
「この前のくだらんガキではないか。せいぜい我が家のために励むのだな。」
と生意気なルビィ兄のルーキス。鼻へし折ってやろうか?
「セバス!」
「はい。」
「朝の水汲み、火付け全部こいつにやらせな。どうやらたっぷり仕事したいみたいだ。」
「かしこまりました。」
と現当主代理のグエル。いやみなばあさんだ。
ただ、この2人とよろしくするつもりはない。俺はこの2人からルビィを守るためにいるのだ。
さてはじめての仕事は
「それではさっそく水汲みをお願いしますね、ナーベル君」
水汲みらしい。ルビィの従者というくらいだからつきっきりで働くのかと思ったがそうでもないらしい。
「はい、井戸から汲んでくれば良いのでしょうか?」
「いえ、井戸はございません。屋敷の裏口に川が流れておりませので、そちらからお願いいたします。」
なるほど、ならばもっと楽できるかもしれない。
「でしたら水魔法で入れても構いませんか?」
「……もちろん構いませんが、かなりの量ですよ?」
セバスさんの先導でバケツの場所まで連れてってもらった。俺は全てのバケツに水を入れたが、全部で3個ずつしかなかった。
「バケツが3個しかないのですが、足りますか?」
「ええ、普段は足らなくなったら汲みに行くのです。ひとまず午前中はこれで足りると思います。午後またお声掛けるかもしれません。もちろんマナを使い切る必要はありませんからね。足らなければ川に行けばいいだけですので。」
「ちなみに一日どれくらいの量を使うんですか?」
「そうですね……」
少し考え込み、
「ナーベル君の分を考えても10杯で足りるでしょう」
「それくらいならマナを使い切らないと思います。」
ラッキー!仕事ついでにマナまで減らせるなんて。どうせ無駄に生成しては蒸発させていただけなので助かる。
一度ジーナに水汲みを俺の魔法で賄おうかと提案したことがあった。しかし、
「井戸って使わないとどんどん悪くなっちゃうの。だからナーベルの気持ちは嬉しいけど、毎日汲まなきゃいけないのよ」
と断られた。考えてみればそうだ。しかし、カーノルド家は川の近くということもあってか井戸がないらしい。
「……いやはや驚きました。とんでもない魔術の才にございます。」
「……あはは、水出してるだけですけどね」
もっとこう、かっちょいいことして褒められたかったな。