ナーベルの決意
ルビィは俺に話してくれた。
どういう家で育ち、どう思っているのか。
冷たい扱いを受けながらも、彼女はカーノルド家を恨んでいないようであった。
それより、家としての誇りすら持っている。
俺はそんな彼女を尊敬できると思った。
孤独に戦っていたのだった。今まで助けすら求めずに。
同時に彼女は間違っているとも思った。彼女を蔑ろにする家に敬意を払っても、彼女が不幸になるだけだ。
「ルビィ、聞いてください」
こくり、と頷くルビィ。話しながらも泣いていたので目は真っ赤である。
「まだ知り合ってまもない俺が言うことではないかもしれません。でもルビィは頑張りました。」
話の中では暴力を振るわれたり、食事を与えられないこともあったようだ。また、兄ルーキスに無茶振りをさせられて死にかけたことも一度や二度でないらしい。こんなの児童相談所行きだ。
「君は……ルビィはもう頑張らなくていいんです。俺と一緒に暮らしませんか?お父様とお母様に頼み込んで一緒に住めるよう頼み込みます。絶対になんとかしてみせます。」
「えっ」
驚いた表情をするルビィ。
「わたしは……わたしが……いいの?」
いつもの偉そうな態度はない。しんみりとした態度であった。
「はい。俺がルビィを守ります」
ぎゅっとルビィを抱きしめる。
血のつながりがないとはいえ、義理の母のグエルはろくなやつじゃないな。大人のすることではない。
なんとかしてあげたい、俺はその一心であった。
「お父様、お願いがあります。」
素振りをしているディーゼルに声をかける。ルビィと話した後、そのまま直で家に帰ってきた。当の本人も俺の家が近づくに連れて口数が減り、緊張しているのが肌で感じられた。
「おかえりナーベル。その子がルビィちゃんか?もう夕方だから早めに返した方がいいんじゃないか?」
その通りだ。しかし、先ほどの話を聞いた俺はルビィを1人で返すことに抵抗があった。
「そこまでお時間は取りません。」
真剣な顔の俺を見て察したディーゼルは
「わかった。母さんも呼んでくるからリビングで待っていてくれ」
と木刀を片付け始めるのであった。
「それで、話ってなんだ?」
「はい。俺はお母様やお父様にたくさん愛情を注がれてここまで育つことが出来ました。かわいい妹にも恵まれました。とても感謝しています。そんなみんなに負担をかけることになることをお許し下さい。」
「その気持ちだけでとっても嬉しいわよ。」
「ああ、ナーベル。子供ってのは親に迷惑をかけるもんだ。気にする必要はない。だから遠慮なく本題に入ってくれ」
頼もしい限りだった。前世で両親が生きていれば、こんな風に言ってもらえたのかもしれない。
「はい、それでは本題を」
コホン、と咳払いをして深く息を吸う。
「家でルビィと暮らすことはできないでしょうか」
まあっと声をあげるジーナ。絶対違う意味で解釈してるだろこれ。
そして頭を抱えるディーゼル。
「色々聞きたいことはあるが、ひとまずはっきりさせておこう。」
「はい。」
「その子は捨て子なのか?」
「捨て子ではありません。家族も帰る家もあります。」
言いたいことはわかった。仮にでも家がないのなら住まわせるかもしれない。だが、帰る家があるならばそちらにということか。
ため息をつくディーゼル。
「……あのな、ナーベル。いくらその子が好きだからって、一緒に住みたいは早いんじゃないか?もちろん、泊まって遊びたいくらいなら親御さんが許せばいいが、そういうわけでもないんだろ?」
「うふふ、ナーベルは大人な子って思ってたけど、ここまで大人びてるとはね?」
「ちちちがいます!ルビィが好きだから一緒に住みたいってわけじゃないです!」
「「「えっ」」」
いやなんで3人反応してるんだよ。
「ナーベルは、私のことが好きじゃない……?」
「だぁぁぁぁ!違いますよ!好きですけど、そういうんじゃないでしょう!」
「そっちもニヤニヤしてないでください!」
なんだこの収拾つかない勘違いコントは。ルビィもいつもはもっと偉そうなのに、傷心中かフニャフニャだ。調子狂うぜ。
なんとか誤解を解いて、ルビィの家の事情を話した。さすがに大人たちも真剣な顔になり、考えてくれるようになった。
「ナーベル。それでも家に住ませてあげることは出来ないな」
「どうしてですか!?」
「そりゃ簡単にどうぞなんていかねえよ。その子は貴族の娘さんなんだろ?本人が良くても帰ってこなけりゃ拉致騒動だ。そんでもって貴族の子供を受け取るには金銭を要求される。うちは貧乏でもないが、貴族の子供を引き取れるほど金持ちでもない。この説明でわかるか?」
「……なるほど。」
「だが、手がない訳ではない。ルビィちゃん。君のところのお母さんは貴族だったりするのか?」
「……ライオット家」
「ライオット!?」
驚愕の顔をするジーナ。ディーゼルは貴族に明るくないようだが、ジーナは3女だが貴族の娘だ。驚くということは有名な家なのだろう。
「それなら、お祖父様かお祖母様の家に引き取ってもらうという線もある。ジーナは貴族の娘だし、その辺の連絡網は持ってるだろ?」
「ええ、ライオット家にご連絡すればいいのね」
頷くディーゼル。
「それでも、すぐにお迎えが来るとは限りませんよね?」
「おそらく、ライオット家の方ならすぐに迎えが来ると思うわ。もうお年だから頻繁に外に出ることは出来ないだろうけど、とっても優しい方々よ。」
もっとも、領地に距離があるため数年かかるかもねとジーナは付け加えた。
「その間ナーベルはルビィちゃんのそばにいてやれ」
もちろん、そのつもりだが……。
「でも、一緒に住むことはできないんですよね」
「住むなとは言ってないぞ。家に連れてくるのは無理と言っただけだ」
「ディーゼル!まさか!ナーベルはまだ5才よ!」
とジーナは抗議の声をあげているが、ディーゼルはどこ吹く風だ。
どういうことだ?うちでは住めない。一緒には住む。うーん。ルビィはライオット家から連絡が来るまでは家を出れない。ってことは俺がルビィの近くにいるためには……?
「カーノルド家に行く……?」
「その通りだ。貴族の娘さんなら従者は連れているだろう。将来の騎士にするために、雇っている貴族は多い。ナーベルから話を聞いた通りだとするなら」
と仮定を立てて続ける。
「カーノルド家の面子を保てないことになる。当主の娘に教育も従者も与えられない家となる。」
貴族にはそんなやっかみもあるんだな。余裕がない家という烙印を押されることは避けたいわけだ。
「わかりました。俺はルビィの従者になります」
そう決まったのであった。でもこれカーノルド家の了承なしに決まっちゃってるけど大丈夫なのかなぁ……?
趣味なのでのんびり書かせてもらいます。
誤字等あればこっそり教えて下さい!
見切り発車なため多少の改変あるかもです!