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エッセイまとめ

「ダブルブリッド」が私の人生に残した影響について考えてみた

作者: よもぎ

中村恵里加著の「ダブルブリッド」との出会いは学校の図書室である。

キラキラしいラノベが収められた中にしれっと紛れ込んでいた第一巻にのめりこんだ私は、図書室にはない続刊を買い求めた。

独特の世界観、血生臭さを感じるストーリー、仄暗い雰囲気、それらが好ましかったのだ。

実際一巻を読んだ際の「この後幸せになるビジョンが見えない」という私の印象は正しく、「ダブルブリッド」はありがちなハッピーエンドでは終わらなかった。

いわゆるメリバというのだろうか。

本人はある程度満足して終わるのだが、周囲は大惨事だし今後のことを考えると頭痛がとんでもない状態だ。

少なくとも主人公である片倉優樹関係のあらゆる部署と母親は大変なことになることは間違いない。


この話の内容として、主人公は「人間と鬼のハーフ」である。

特殊な能力を幾つか持ち合わせ、カリスマ性を支持される人物でありながらも、アルコールを日常的に摂取したり、食事に積極性があるわけでもなく、勤務先である特殊警察の第六課に住み込んでいる。

彼女はお気楽に暮らしているようで、内心には大きな葛藤やトラウマを抱えており、人間ともアヤカシとも距離感を感じる付き合いしかしない。

母親にさえ内心を打ち明けていないのだから相当なものである。



主人公である片倉優樹と、恐らくヒーローポジションの山崎太一朗との出会いから「ダブルブリッド」は始まる。

終わりもこの二人の話である。


勿論その間に登場キャラクターは増えていく。そして退場するキャラも勿論出る。

そのいずれもが別段悪いことをして消えていく者たちばかりではないところに複雑さを感じたものだ。

一巻で出てくる高橋幸児などは環境によっては、あるいは本人の意識次第では片倉優樹と同じように、あるいはそれ以上に己の能力でのし上がることが出来た人物である。

不幸というべきか、快楽殺人者に落ちた以上、彼は救われない。


他にも何人もの登場キャラクターがいるが、誰一人として幸せな状態にはならない。

よくて現状維持。悪ければ死亡、あるいは社会的な死を迎える。

具体的なネタバレは控えるので、気になったなら読んでみて欲しい。




私が「ダブルブリッド」に受けた影響として、物語は完全に解説する必要もないし、ハッピーエンドに思われる終わり方をしなくてもいいというところだろう。

ある程度の解説や理解させようという話の展開は必要にせよ、全てを読者に開示する必要はない。実際、ダブルブリッドはある種の投げっぱなしストーリーだ。


片倉優樹の葛藤やトラウマはある程度作中で語られるが、アルコールを必ず摂取しなければいけない理由は語られなかった。消毒用アルコールであっても非常時なら飲むほど必要な物資であるにも関わらずだ。

ただし鏡や写真を嫌う理由は開示されている。己の姿の変容を嫌ったがためである。これは第一巻で明らかになっている。


言ってみれば幹や太い枝となる部分は明らかにする必要がある。

しかしフレーバー程度で細かい枝や葉の一枚程度の情報は明かさなくても話は進むし、問題なくついていける。


一から十まで納得いくように解説しながら刊行されていたら、京極氏の小説並の分厚さの小説になっていたに違いない。




ハッピーエンドでなくてもいい。

これは私にとっては衝撃的で、見せかけだけでも装うことをしなかった事に本当に驚いた。

それなのに読後はスッキリしていたのだから余計にだ。

今でも「ダブルブリッド」の終わり方はあれしかなかったと思うし、二次創作としてハッピーエンドを書こうというつもりにもなれない。

片倉優樹にとってはあれが最善だった。

そう思わせるだけの説得力があった。


私も素人ながら物書きなので、物語を〆る時にどうするかは常々考えさせられる。

自分が納得いけばそれでいいのか。

読む側にも納得してもらうにはどうすればいいのか。

お気楽短編であればともかく、ストーリー性を重んじて作った短編で適当こいてお粗末な終わり方をすれば、それまで読んでくれた読み手にも失礼だが、書いた自分自身にも失礼である。

まず書いて、終わらせて、それから頭から読み返して納得いくかどうか。

短編ではこの工程が大事だと思っている。


なろうにおいては連載しているのはお気楽な小話、一話完結型の実質短編群のみだが、以前までは長編もそれなりに書いてきた。

その時最初に考えていたのはいつだって終わらせ方だった。

プロットなんて上等なものは組んだ覚えがない。

パソコンのメモ帳を開いてそこに書きたいものを並べ、この話はどうオチをつけるのか?を考えてうなっていた。


ハッピーエンドで終わらせたことは多い。

しかしバッドエンド、メリバエンドもそれなりに書いた。

話として完成しているなら突き進めば良かった。


説得力を持たせるための積み重ねを応援してくれたのは、言うまでもなく「ダブルブリッド」だと思う。




それ以外で言うと、私は人外好きだ。

これは書き手としてではなく個人としてである。

少女にしか見えないのに中身が大人だったり老人だったりすると大喜びする。


また、異種族恋愛譚も好きだ。

死別で終わる恋話も好きだ。

ビターエンドも大好きだし、このシリーズで小説に飯テロを食らう楽しさも知った。



「ダブルブリッド」は決してメジャーになれる話ではないだろう。

だが、私にとってはその後の人生に影響を与えた名作である。


もしも興味を引かれた方がいたら、今でも販売はしているだろうのでどこかで探してみて欲しい。

第一巻だけ読んでみてくれればいい。

受け入れられたのなら最後まで読んで、そのあとでまたこのエッセイを読み返して欲しい。

そういうことか、と感じていただけると思う。



1、2巻のイラストレーターさんも好きだけどそれ以降のイラストレーターさんも独特の雰囲気があって好き

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― 新着の感想 ―
[良い点]  漫画版ももうちょっと続いて欲しかったが、丁度良い区切りとなると1巻で切るしかなかったでしょうね。  とにかく遣る瀬無さ満載の作品だった記憶が。  ほぼカタルシスが無かったような。  だか…
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