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9:仲間との別れ

 カモフラージュを見抜く必要はない。既に僕たちがいることは知っているはずだ。サシェを前の晩から張り込みを続けているが接触してくることはない。


「サトウの視線に気づいて警戒しているんじゃないか?」


「ミュールは僕が怖いか?」


「怖いわけない。でも、他人はそうじゃない」


「シャギーからの伝言が伝わっているはずだろ」


「向こうにだって事情があるんだ。気ままに行こうぜ」


「悠長に待っていられるかよ。僕はラインがどうなっているかわからない。エリックの状況が気になって仕方ない。ラフィアと会いたいのに会えない。こんな状況で僕が笑っていられると思うか?」


「そうは言ってない。昔はもっと余裕あっただろ、前みたいに楽しくな」


「あの頃との違いは学園と冒険だ。当時は学園で勉強して寝て過ごしていたこと。今はこんな隣に死体があるような環境で生きていることだ」


「俺はサトウを元気にしたいだけで責めたいわけじゃない」


「気を遣っていることはわかる」


 ゲームだと思えば気楽でいられたんだ。


「ミュール。僕は大人げないな」


「そんなことない」


 サシェが一人になった時を狙って声をかける。


「あなたがグラードですか?」


「違います」


「何故嘘をつく?」


「嘘じゃないから」


「シャギーからはなんて言われていますか? 僕たちのこと聞いていますよね?」


 サシェは僕の手を引いて裏路地に連れ込む。


「……あまり大声で話しかけるな。俺にだって段取りがあるんだよ」


「ローウェル王国の情報が聞けると思ってきたら、牢屋に入れられて少ない水と食料で労働させられて、ここで情報を知る為にカルテルに入って人探しを続ける毎日だ」


「俺を探せて良かったじゃないか」


「連絡取れるならこの国に入る前に取りたかった」


「俺もここでやることがあるから無理だな」


「やることってなんだよ」


「見た目は子どものようであまり気は進まないが、俺の仕事を手伝うならなんでも話す」


「仕事ってなんだ?」


「俺も危ない橋を渡ることがある。その時に協力者が欲しい。カルテルに入っているなら実力はあるはずだ」


「それなら両方のカルテルに僕たちは入っている。レルメッチ共和国の政府側にも知り合いがいる」


「それは頼もしいな。フルブローグ持っているな?」


「あるが」


 サシェは自分のお腹を開いた。


「ここにそれを入れてくれ」


 言われた通り入れるとお腹が閉じた。しばらくするとお腹を開きフルブローグを手渡す。


「これで常に会話ができる。今後は俺から指示を出す」


 後日サシェから数日ごとに連絡が入る。その度にガルメアカルテルとロアマルカルテルの内情を話す。政府についてはフォブレイがいることを伝える。これを幾度か繰り返すうちに話が弾んで色々な話を聞けるようになる。


 サシェの現在の仕事はローデン連邦へやってくる人間の調査だ。この薬物を使うと脳に異常をきたす恐れがあるのと、一時的に魔法を使用できること異性への強い執着が起こる。ローデン連邦は貴族が入れない国だ。それなのに近頃は魔法を扱う人間が増えているという、それで調査を進めているとレルメッチ共和国が出てきた。そして芋づる式にローウェル王国の関与が疑われた。ローウェル王国のやり方は主に二つある。他国を侵略して他人を意図した方向へ誘導する、他国を侵略せずに薬物など欲望を具現化させて誘導する。


 ここで製造販売されている薬物で他国を貶める手段として利用しているのが、問題視されていること明かされた。


『サシェはローデン連邦から依頼されているんだな』


『出身はカメリア村だが、元々が平民だから王国側に比べると信用されやすい』


『だが、他の国ではそうもいかない。リムレス、プロート、アルベール、テラードの四カ国は、この大陸内でも貴族の地位が高い。俺が取り入るのは時間と金が必要で結構苦労したよ』


『ローウェル王国と関係を結ぶのは危険では?』


『一般的な平民なら危険だが重要な人物を使えると思えば使う。使えないと思えば切り捨てる。ローウェル王国は意外にも必要な殺し以外はしない』


『僕は魔王の考えていることがわからないよ』


『魔王の考えなんて理解するものじゃない。大抵は部下が考えて実行していることだ』


『そうなのか?』


『シャギーとも話したが、魔王には欲が見えない。ローウェル王国の連中と話をしても魔王様は優しいという話ばかり聞く。ローウェル王国にいれば金も名誉も何もかも手に入る。そんなうまい話があると本気で思っている奴がいるとは思えないが、魔王は優しいわけでも厳しいわけでもない。単純に興味がないんだ』


『それでローウェル王国の関与を証明すればいいわけか』


『いや、その必要がないくらい明確だ。ローデン連邦も疑うまでもないと判断を下している』


『それじゃ、サシェはどんな依頼で動いているんだ?』


『依頼内容をすべて言うわけないだろ、ただの諜報だ。情報を渡すだけでローデン連邦からお金が手に入る。そしてローウェル王国にも情報を渡せばお金が貰える』


『シャギーもよくこんな奴の義兄弟になったな』


『あいつとは付き合いは長いが、諜報活動をするようになったのはつい最近だ。数十年前に他国の問題に介入した時は死にかけたが、こうして生きている』


『それで僕たちは他に何をすればいいんだ?』


『もうないからレルメッチ共和国から出ていいよ』


『カルテルの話と政府の話しかしていないぞ』


『もうお腹いっぱいだ。それにお前はフォブレイを紹介してくれた。あいつは使える』


『そうかな。簡単に裏切りそうだけど』


『お前あいつの仲間ならわかりそうなものなのに』


『どこがだよ』


『少し話しただけでいい奴だとわかる。保身の為に本気で動く奴なら、会った時にサトウのことを誰かに話していたはずだ。顔は冷静でいたが心の中は穏やかじゃないだろうな』


『そんなのわかっているさ』


『わかっていないから年寄りがこうして言ってやっているんだ』


『僕たちとしてはすぐにでもアルベール王国に行きたいんだが、あの国は今どうなっている?』


『変わっていないんじゃないかな。そもそもあの国にそんな余力があるとは思えないし』


『わかった。これを最後に聞く、ライン・アルベール第二王子の居場所を知っているか?』


『アルベール王国の王子か。学園に通っていると聞いたな、エリック・アルベール第三王子と一緒に。国の代表だった者は従えば傀儡として扱う、そうでなければ使い捨てるだけだ』


『ひとまず無事なんだな。それでラフィア・ローウェルは?』


『お前あの第四王女様と知り合いなのか』


『ラフィアって第四王女様なの?』


『そうだが』


『僕の好きな人だ』


『それは色々と大変だ……』


『それでラフィアは?』


『……ローデン連邦だ』


『え?』


『今ローデン連邦に連れてかれている』


『なんで!』


『ローウェル王国は薬物のことをあっさり認めて首謀者をローデン連邦に送った。それがラフィア・ローウェル第四王女様だ』


『いつ送られたんだよ!』


『つい数日前かな。もう既に決まっていたことで両国は手を結ぼうとか話は進んでいる。言っておくがローデン連邦に行くのは無理だぞ。魔法を使える者はすぐ捕まる』


『行くに決まっているだろ!』


『死ぬぞ』


『それでも行く』


『……それなら方法はある。シャギーの友人に言うのは嫌だが仕方ない。少々荒っぽいが、体を機械化すれば不可能ではない』


『それで助けに行けるなら』


『これはローデン連邦がやる貴族に対する枷みたいなものだ。機械化すると魔法を制限される。一見すると単純に一部を機械にしているだけだが、ローデン連邦が行う機械化は魔力の流れを妨げる。これをされると実質最下層に落ちる。平民の奴隷が貴族という構図の出来上がりさ』


『あの国ってそんなことをしているのか』


『元々貴族が嫌いな奴が集まってできたのがローデン連邦だ。あそこでは貴族は生きていけない。平民と偽って入国すれば簡単だが、平民と貴族じゃ魔力の流れが違う。貴族は常に魔力に溢れて魔法を放出できるようにできているが、平民は魔力が弱くて生まれた時から生きることを許されていない。そんな考えを抱く奴も世の中にはいるのさ』


『入国すれば捕まればいいのか』


『これも方法の一つというだけだ。他にもあるかもしれない』


『方法があるならやってみることにする』


『無茶なことをするな。たとえ魔法を使えても強力な武器には勝てると思えば痛い目に遭うぞ』


『油断しない』


『ローウェル王国がバーキン連邦との戦いが終わらないのも理由がある。貴族は単純な実力では上だが平民は自分が劣っている自覚がある分だけ努力をしているんだ。同じ武器を持つ貴族なら別だが何も持たない貴族が戦いを挑んでも死ぬだけだ』


『ここで待つなら死んだほうがいい。それにここからローデン連邦に行くだけなら簡単だ』


『行くだけならな。そこからお前がラフィアを連れ出して、ローデン連邦から脱出するまで誰一人攻撃しないわけがない』


『もう、いいだろ』


 僕は通信を切った。

 やることは決まった。

 ミュールとシフォンに話をした。戻れないかもしれない話だ。ついてくると言い出したのでシャギーにカメリア村のボルドに「アーバンをレルメッチ共和国に呼んでほしい」と頼んだ。

 彼がいれば安心だ。


「俺たちじゃ不満なのか!」


「不満だ。ここでアーバンを待ってろ」


「サトウ、わたしはあなたに感謝している。困っているなら助けになりたい」


「シフォンはわかっていないな。一人のほうが動きやすいから言っているんだよ。それに感謝ならいらない、君は僕といなくても助かっていた」


 僕は二人の声を無視して走る。追ってくる姿が見えなくなる頃にはローデン連邦行きの船にいた。平民に紛れていたが船内で簡単に拘束される。暴れることもなく大人しくしていた僕を奇妙に思う者もいたが問題は起きなかった。レルメッチ共和国に戻る可能性を危惧していたが貴族を捕らえていることでお金を稼ぐ者もいるのかローデン連邦に入国することができた。

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