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8:腐敗のレルメッチ共和国

ちょっと過激な描写になっているかもしれません。

 結論から言うとレルメッチ共和国に入れたが、何故か牢屋に入れられている。入るのは簡単だが出るのが大変らしい。入国の際に少しだけお金を取られた。それ自体は問題ではなかったが、どこに行ってもお金を取られてしまう。払えないと言うと牢屋だ。牢屋に入る前にシャギーの言葉通りにグラードの名前を言ったが聞き入れてもらえなかった。


 僕たち三人は何人もの人間と一緒に牢屋で暮らしている。食事は水とパンだけだ。時折牢屋から出されると労働を強いられた。畑を耕したり衣服を作ったりしている。工場内にある施設での労働に対価はなく、日々痩せ細る体との対決だ。


 ここでは平民だろうと貴族だろうと平等だ。


 牢屋内では常に乱闘が起きていた。寝ている時も誰かが叫び声を上げて顔面を殴る。そうと思えば別の誰かが背中を蹴る。この光景はどこでも起きていて珍しくない。実際僕も血だらけになった。他の二人も怪我をしたが、回復の魔法がある為すぐ治った。


 どうにも薬物カルテル同士の争いが長年続けられており、牢屋でも例外がないらしい。この国から逃げることを考えていたが、なんの為にレルメッチ共和国に来たのかわからない。


 意地だけで牢屋にいたが全員限界がきていた。夜中に鉄格子を砕いて牢屋か出る。音を出したが牢屋内にいる者は寝ているのか気にした様子はない。僕たちは魔法が使える為牢屋から出ることは簡単だった。


 夜歩いていると声をかけられることがあった。その男性は僕の腕を掴むと何度も顔面を殴ってきた。金銭目的が多くて嫌になる。最近はそんな理不尽な仕打ちにも慣れてきた。


 僕はそんな奴らを魔法で壁に叩きつけて対処していった。


 他の二人は僕ほど怪我はない。積極的に前に出る僕に集中させている。怪我をさせないように誘導もしている。時々シフォンに手を出す女性もいたので容赦をしなかった。


「ねえ、サトウ」


 シフォンは言った。


「あまり無理しないでね」


「俺に頼ってもいいんだぞ」


「大丈夫だ」


 ここに来ることを決めたのは僕の判断だ。

 まずはグラードを見つけなければならない。


 飲食店らしき場所に入るも酷い匂いがしていた。腐敗臭などが強烈だ。ここは特に酷いが町中には死体もあった。

 店員らしき人物に話を聞くと近年薬物が流行っていて、長年ここに住んでいた人はローデン連邦などに移り住むことを決めたほどだ。


「俺もお金がたまったら行くんだ」


 そう言っていた彼も翌朝には床で両足を折られた状態で転がっていた。既に息はなかった。こんな状態の人間はレルメッチ連邦には多い。


 僕たちは路地裏で水を飲んで生きている。少ない水も店内や他人の家で勝手に飲んでいた。グラードの話は聞かないが薬物カルテルの同士の抗争が激化しているようだ。主な組織はガルメアカルテルとロアマルカルテルだ。彼らは民家に入って金品等を奪う。お金を持たない人間を牢屋に入れさせて、何もかも奪った状態で刑期を終えてもまともな仕事はカルテルぐらいしかない。


 抗争に巻き込まれたくはなかったのでどちらの組織にも入らなかったが、それが気に入らなかったのか両方の組織から日夜狙われることとなる。他にもレルメッチ連邦の政府と両方のカルテルは繋がっているのか。組織以外の者からも情報が売られているように思える。きっと既に脱獄したことも知られているはずだ。眠っている時も安心はできない。ミュールの首元にナイフが迫っていた時は飛び起きて相手を吹き飛ばした。


 ここにいる人間すべてが悪だとは思っていない。巷で聞いた話ではカルテルに利益のある情報を提供すれば優遇されて、組織にとって不利益な情報だと判断すれば親族が殺される。大抵はその前の拷問でカルテルの情報を喋ってしまう。


 身内が自分のせいで殺されるなら誰だって悪に染まる。

 でも、ここで数日過ごしていると自分が可愛いだけの人間しかいないように思えてくる。

 僕だけじゃない二人も疲れが顔に出てきている。

 早くグラードを探さないといけない。

 僕たち三人は相談してガルメアカルテルに入ることにした。室内の空気は湿気と埃で酷いもので、こちらを見る視線も常に殺気が混じっていた。


 付近にいた男性が話しかけてきた。


「お前たちが噂の貴族か、うちに入りたいらしいな」


「ああ」


「じゃあ、そこにいる奴らと戦え。どの程度魔法が使えるか見たい」


「わかった」


 何人かの人間が近づいてきたので魔法を込めた腕で弾いた。するとまとめて地面を転がった。痛そうに腕を押さえる人や頭から血が出ている人もいる。


「噂には聞いていたがすごいな。なんで俺たちに興味を持ったんだ?」


「興味? ゴミ箱から宝物を見つける為に、ゴミに入っただけだよ」


 それを聞いて笑って僕の肩を叩く。


「合格だ。お前みたいな貴族は見たことないな」


「元々貴族でもない」


「そこにいる二人はどの程度強いんだ?」


 彼はシフォンに襲いかかるが腕を掴んで投げ飛ばしてしまった。ミュールを襲う人も魔法で地面に叩きつけた。


 起き上がると男性は言った。


「これはいい駒だ」


「サトウ、わたしも強いよ。守られてばかりの女性じゃない」


「俺もだ」


 僕は二人を見て「……わかった。しばらくはこの人たちの命令を聞いてくれ。僕は他にやることがある。もしかしたらグラードがいるかもしれない、見つけたらフルブローグで連絡をくれ」と言った。


 シフォンは頷いた。


 僕は室内から出ると太陽を浴びながら歩いていた。風と共に腐敗臭が漂う。時折聞こえる悲鳴も時間が経てば静かになる。

 僕に対する視線が次第に集まってくる。ここら辺がロアマルカルテルなのだろう。先程から武器を構えた人が増えている。

 その一角にある入口を守っている人を魔法でドアごと吹き飛ばす。勢いで付近のテーブルに座っていた人たちのほうまで飛ばされてしまった。


「いきなり何するんだ!」


「ここに入りたい。カルテルだろ?」


「お前みたいな奴を入れるわけないだろ」


「何故?」


 そう言っていると背後から銃を構える音が聞こえたので魔法で銃を弾いた。


「これでいいか?」


「お前貴族か」


「まあ、そうだな」


「ここは平民が多い。貴族で入りたいとはもの好きだな、いいだろ」


 僕はそこからロアマルカルテルで仕事をすることになった。恐喝などで人を脅したり窃盗の時に仲間を守ったりしてお金を稼ぐことだ。薬の流通はどこからくるかわからないが、どうにも裏で貴族が入り込んでいるというのが常識らしい。


「貴族ってのは自分の利益しか求めない。ここの政府は平民だが、貴族との繋がりが前から噂されているんだ。俺たちも甘い汁を吸えるから文句は言わないが」


「何故カルテル同士で対立しているんだ?」


「客の奪い合いと、血の気が多い奴が勝手に争っているだけというのもある。見るところによるとお前はあまりこういう世界に疎いらしいからわからなくても無理ない」


「なあ、グラードという奴を知らないか?」


「グラード? 知らないな」


 両方のカルテルで動くことで情報を把握できるようになった。夜になると隅でシフォンとミュールに今日の報告をする。二人も最近はずっと元気がない。カルテルの話になるとため息をつく。


「俺が言えた義理じゃないが、あいつら下品すぎる。少なくともアルベール王国じゃ、あそこまで酷くなかった」


「わたしも同感」


「それでグラードはいたか?」


「それらしき人物はいなかった。俺たちも恐喝の手伝いをしているがわからない。機械の体とはいっても見た目は人間にしか見えないからな」


「わたしの目を見て」


 シフォンは目を開くと周辺を照らした。眩しさに僕とミュールは目を閉じる。


「ごめんね」と言いながら彼女は自分の目を指で触れてみる。


「人間に近いだけで機械だから触ると固いの。わかるのは、それぐらいね」


 ミュールは壁に寄りかかる。


「ただ、面白い情報がある。ここの連中が誰かと話をしているのを見かけた、そこにいたのがフォブレイだったんだ」


「あいつレルメッチ共和国にいたのか」


「間違いない。フォブレイが行った先まで確認した。今から行こう」


 この国にしては整備が行き届いている区画に入る。警備兵らしき人もいたので空に浮かんで地上の様子を見てみる。侵入できそうな窓を発見して中に入ってみる。室内は明かりがついていない。僕たちは暗闇で問題なく動ける。シフォンはずっと目を閉じているが手を引いていれば大丈夫だ。暗くなると自動的に目が光り始めるのを便利と呼んでいいのかわからなくなる。


 すべてが個室となっていて何人もの人が寝ている。明かりのついてある部屋もあるので慎重に進んでいくとミュールがドアを開けて「ここにいる」と呟いた。


 ベッドまで近づくと僕はフォブレイの耳で「フォブレイ」と囁く。


「な、なに! え?」


 フォブレイは飛び起きて僕たちの姿を確認する。


「誰? いや、よく見るとサトウか。ミュールと知らない人」


 シフォンは頭を下げる。


「こんばんは。シフォンです」


「フォブレイ、久しぶりだな」


 僕の声を聞いて涙を流しながら言った。


「久しぶりだ。本当に、まさか生きているなんて」


「夢じゃない。僕は生きている」


「わかっているさ。でも、どうしてここに?」


「フォブレイ……俺がお前を見つけたんだ」


「ミュール……お前がここにいるとはな」


「俺がどこに行ったかまで知っているのか?」


「ああ、何かとボイスがみんなのことを話してくるからな」


 僕はフォブレイに詰め寄る。


「みんなの居場所を知っているのか!」


「あまり大声出すな……知っている。だが、聞いてどうする」


「会いに行く」


「会ってどうするんだよ」


「困っているなら助ける」


「みんな別に困っているとは限らない」


「それでも行く」


「サトウは何も考えていないんだな。みんな今の生活がいいんだ。無理強いするな」


「そんなわけないだろ!」


「だから大声出すなよ!」


「こんなところにいて今の生活がいいなんてよく言えるな!」


「言えるさ。俺は賢いからな」


「賢いなら我慢して生活していればいいのか。僕は諦めることなんてできない! 何をみっともない顔してんだ、フォブレイ!」


 僕はフォブレイの胸ぐらを掴むと彼の頭を僕の頭で強打する。


「簡単に割り切るな」


「簡単じゃない」


「諦めるのは簡単さ」


「そんなわけない。俺は苦しんだ、もっと苦しめと言うのか」


「レルメッチ共和国を見ただろ、こんな状況で何もしないで生きていろと言うのか」


「正義感だけで生活できるなら俺だってしたさ」


 僕はフォブレイから手を離した。


「わかったよ。もう誘わない」


 離れようとする僕にシフォンが言った。


「冷静になって、ここにはグラードがいるから来たんでしょ」


「教えるわけない。あいつは敵だ」


「サトウ。どうしたんだ、お前はそんなこと言わない」


「ミュール、何を言っているかわからないが僕は言うよ。フォブレイは敵だ。こんなゴミ箱を守りたいんだとさ」


「そこまではフォブレイも言っていないだろ。何か知っていることがあるんじゃないか?」


 ミュールの言葉を聞いて一言「あるよ」とだけ言ってから口を開こうとした。

 そこで少しの沈黙の後「俺は言える情報しか言わない。俺から情報が漏れたと思われたくない」と言って話を続ける。


「仲間のことを聞きたいのだろうから言うが、ボイスから聞かされた内容を全部言うつもりはない。俺以外の奴も知っている内容だけ話す。まずフリル・ベルマーズはベルベット・ローウェル第一王女の実験台になっている。彼女の場所はローウェル王国だ」


「それは聞いたことある。実験の内容は?」

 

「そこまでは知らない。ラインやエリックも僕は言えない。ラフィアは……」


「ラフィアがどうした?」


「いや」


「……それだけか」


 もう仲間のことは聞けそうにない。


「ああ」


「わかった。最後に、グラードという名前じゃなくていい。レルメッチ共和国の政府やその他貴族、他のカルテルとも繋がりがある奴の名前だ」


「それならサシェという女性だな」


「女性なのか」


「髪の長い女性でよく色々な人と一緒にいるのを見たことがある」


「ありがとう。収穫があった」


 僕は窓を開ける。


「フォブレイも元気で」


「サトウもな。ミュールもね……」


 僕たちは夜の空へ戻っていった。

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