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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第四章 魔王編

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78:向き合う二人

 一人でカンターレンの元へ行く彼に声をかけるも力を貸すことはできなかった。ローウェル王国の兵士たちはわたしたちが見えていない。互いに恨み言を並べながら剣を突き刺す。血で汚れていく地面に漂う鉄の匂いが鼻に伝わる。息を吸うことさえ嫌になり、顔を背けるが見える景色は変わらない。


「ベルベットは戦わないの?」


「サトウの判断に任せるよ」


 サトウとカンターレンとの戦いに参加したかった。彼が命をかけるなら一人で黙って見ているつもりはない。


 準備を万全にしようと全身に魔力を巡らせるとフェルトの悲鳴が聞こえた。


 隣にいたアーバンとシフォンが跡形もなく消えていた。


 呆気に取られていると突然二人の姿が元に戻る。アーバンとシフォンに駆け寄るフェルトに当人たちは首を傾げているがサトウを向くと彼が魔法で元に戻したのだろう。


「良かった……わたしアーバンが死んだら……」


「えっと」


 困っているアーバンはフェルトを見つめる。


 何も言えないアーバンはフェルトに声をかけ慰めている。シフォンはわたしに近づき「わたしも死んだのか。なるほど」と言いながら彼女はサトウを見る。


「彼はわたしと似た魔法を使ったの……かな」


 安心してシフォンと話をしていると目の前にカンターレンが現れた。彼は持っていた銃剣を手にしてわたしを見るがすぐに隣のシフォンを狙い、斬りかかるが基礎魔法で守りながら彼女の目の前に一歩踏み出すとカンターレンは手を止めてフェルトを一刀両断する。叫び声を上げるアーバンの腕を斬りつけていると思ったら、この場にいる全員が傷も消えて元の位置に戻っていた。


「あ、良かった。みんな無事で」


 ふらふらとしながら倒れるシフォンをわたしが支える。


「一度の魔法でここまで魔力を消費するなんて……」


「基礎魔法と違って死ぬほど疲れるのよ。これで昔は無理してでも国の未来を変えようとしたんだけど、苦労して手に入れたのが今の未来。そしてやり直すのにはまたわたしの体力が必要になる。こんなのを繰り返しても人は簡単に死んでしまうの」


 彼女の手を強く握る。


「大丈夫。サトウがいれば、こんな状況を変えてくれるよ!」


 シフォンとの会話に夢中になっているとサトウの声が聞こえて彼の方向を見る。


 サトウが突然ベルベットに近寄るが彼女はサトウを蹴り飛ばした。


「なんで」


「なあ、サトウ。わたしに命令してくれないか? 人類を滅ぼせと」


「できるわけないだろ」


「魔王を殺す方法は生物を滅ぼす以外ない」


「どうにも変だと思ったがベルベットの仕業だったか」


 アーバンがベルベットを睨みつけるが彼女はサトウしか見ていない。


「どの道死ぬ男が些細なことを気にするな」


「お前!」


「やめろ! 死ぬぞ!」


 サトウとアーバンのやり取りなど気にせずベルベットは呆れた表情でサトウに目を向ける。


「拘束なんて奴には意味がない。他に方法はないのがなんでわからないんだ?」


 ベルベットとアーバンが睨み合うとフェルトがアーバンの腕を掴み泣き始めた。


「もう、いいよ……無理して戦う必要はないからさ。ほら、今まで通り魔王に従うのも悪くないよ」


「ふざけているのか?」


「ベルベットは黙って!」


 フェルトが掴んでいる腕をアーバンが離す。


「悪いが戦いをやめて従うのは死ぬよりも苦痛を伴う。善良な統治者なら問題ないが、あいつは悪事に躊躇がない」


「いやいや、大丈夫だよ。心を入れ替えるかもしれないからさ」


 既にフェルトの心は折れていた。


 気持ちはわからなくもないが逃げる場面とは思えない。


「フェルト……今更怖がるなんて」


「わたしはずっと怖かったよ! それがあなたが突然死んで更に怖くなったの!」


「……誰が死んだと言った?」


「アーバン、あなたよ」


 首を傾げるアーバンはサトウを真っ直ぐ見る。


「本当なのか」


「事実と言っていいかわからんが死んだように見えたのは確かだ。僕が魔法で死ぬ瞬間の姿に戻したからさ」


「そうか。助かったよ」


 アーバンはカンターレンに向きドラゴニアに変化していく。


「元を辿ればドラゴニアに原因がある。そしてわたしはバロック王国の戦士だ。最後に残された者として戦う義務がある」


 アーバンとカンターレンとの戦いは一瞬で終わる。


 彼はフェルトを安心させようと彼女を喜ばせていた。


 わたしが知らない間に人は変わっていく。


 昔はもっと自分のことばかり考えていたアーバンも、今ではフェルトのことを大事に思っている。彼は恋愛なんて知らないような顔をしていながら好きな人ができていた。


 アーバンが人間の姿に戻り、フェルトと抱き合っている。


 その関係を微笑ましく眺めていると何かの音が聞こえた。


 アーバンの体が徐々に変化していく。


 腕の中にいたフェルトを見ていたアーバンの顔がカンターレンに変わる。

 

 フェルトの首を容赦なく折ると彼は「無意味な戦いだったな」と言いため息をついた。


 アーバンの魔力は体内に残っていなかった。


 思わずカンターレンに蹴りを入れるとサトウも同様に蹴り上げていた。


 攻撃に魔力が込められていたが威力が足りなかった。カンターレンはわたしたちの頭を掴み地面に叩きつけると冷静な表情で「過去改変魔法パイリッシュは便利な魔法だが魔力消費も大きい」と口にしていた。


 一瞬遅れてシフォンを見るが彼女は血を流して倒れていた。


 カンターレンはわたしたちの頭から手を離すと背を向ける。


 サトウは手を伸ばしていたが意識を失った。


 見上げるとカンターレンの背中しか見えなかったが地面や壁に衝撃が伝わる。息遣いと共にエリックの叫び声が聞こえた。サトウに駆け寄り彼を抱えると少し離れた位置まで行く。カンターレンがエリックに攻撃しようとしたがエリックの動きは常人離れしていた。鍛えられた体が全身にまで魔力を巡らせる。カンターレンが黒色の糸で彼を貫こうとしても簡単に避けていく。


「エリック! それも魔王の肉体の一部だ! 魔力を見るんだ!」


 わたしの声を聞きエリックは黒色の糸に食らいつく。


 カンターレンはわたし同様に驚いたのか呆然としていた。


「お前、何を」


「滅びた王国の資料を調べていた時に魔力を食べる鳥でピッターがいた。そいつは魔力しか食べないが体内の構造は人間と似ている。近縁種ではないかと一時期調べていたんだが、他にも人間と似ている生物が幾つも見つかった」


 エリックは黒色の糸を食べ終わると全身の魔力が高まる。


「俺はギャバジンや他の地域で研究者と話をした。それはピッターや他の生物は年代からドラゴニアによって滅ぼされた生物。そしてこれらの生物が何故人間と構造が似ているのか。一つの結論を見つけたんだ。古代に滅ぼした生物とドラゴニア、その二つが魔王の遺伝子と合わさって現代まで生き残っている」


「だから?」


 エリックはカンターレンの纏う黒色の糸を瞬時に掴むと口に入れる。避けながら食べていく姿は滑稽だが口から溢れる血は目を背けたくなった。


「魔王が他種族を食らって成長するという話はあまり有名じゃない。サトウたちの話で始めて聞いた。そして俺たち貴族がお前と同じ遺伝子を持つのも始めて知った。それを聞き、思った。どんな人間でも魔王と同じことができるはずだと」


 エリックの魔力は急激に膨れ上がっていく。


 ローウェル王国の貴族でも見ないほどの魔力量をしている。


「この魔力なら、お前たち王族にも勝てる」


「確かにべフェール並には強くなっているかもな」


 エリックがカンターレンに突進する。


 一瞬エリックの動きが止まり、彼が反対方向に飛ばされた。


 カンターレンはエリックに手を伸ばすと周囲の空間が歪み始めた。風が強く吹き、壁や天井がカンターレンを中心にして集まっていく。エリックは飛ばされないように近くの柱に掴まるがカンターレンに引き寄せられてしまう。


 わたしが基礎魔法でエリックを吹き飛ばすとカンターレンは笑い始める。


「ラフィア! サトウを連れて逃げろ!」


 意識のない彼と一緒に戦うのは不利だ。


 幸いにも壊れた壁が大きな穴を開けていたので逃げることにする。


 少し離れた位置にいるとベルベットが近づく。


「戦わないのか?」


「サトウが起きない」


「そうだね」


 ベルベットはわたしの腹を蹴り上げる。地面を転がりながら草花を掴むとわたしを見下すベルベットの姿が見えた。


「臆病者が……お前は一人じゃ何もできないのか?」


「できる。だけど、わたしだけの力なんてたかが知れているから力を借りるんだ!」


「あなたみたいな心の弱い人間にサトウを任せられるとは思えない。いつだって人に守られてばかりで自分では何もしない人間が、いざって時に助けてくれるわけがないよ」


「お前にわたしの何がわかるんだ! 必死に頑張って生きてきたんだ!」


 立ち上がりベルベットに触れようとするが彼女の声は背後からした。


「ねえ」


 急に地面に倒れるとわたしの背中の上にベルベットが乗っていた。


「あなたはわたしにサトウとの子どもをプレゼントしてくれるのだと思っていた。あなたには所詮はその程度の役割しかないの」


「は? プレゼント?」


「サトウはカンターレンを殺して、世界中の人間を殺してくれる……こんな腐った世界にいる生物をすべて壊してくれる崇高なお方。その付属品程度のものがサトウの為に戦わないでどうするの?」


「喧嘩売ってるよね」


 立ち上がろうとするがベルベットが重くて立てない。


「大体さ、ベルベットもサトウに頼ってばかりで何もしてないじゃない!」


「……わたしは彼の為に死ぬ役割があるからいいの」


 ベルベットを基礎魔法で吹き飛ばす。


「どっちが臆病者かわからないな」


 睨みつけるベルベットを指差す。


「ベルベットは怖いんだよ。自分の行動が! 無責任なことをしておいて今更サトウに頼る。全部自分の力で片付ければいいんだ!」


 ベルベットがわたしの両肩を掴み押し倒すと地面に背中が当たる。


 今は少しの痛みも感じない。


「あなただって人のこと言えないじゃん!」


「……何もかも……」


「何?」


「何もかも手に入れた人間が偉そうなこと言うな!」


 彼女が顔を近づけて怒鳴りつける。


「サトウから愛されて、更には女神としての力もある人間が何もしない。わたしとあなたじゃ立っている場所からして違う」


 わたしは彼女が泣いている姿を始めて見た。


「わたしは他の人間と違い自分の子どもを産むことも育てることもできない。それらはすべて魔王の遺伝子が宿った怪物にしかならず、すべての魂はあなたと違い魔王のものだ。感情が高ぶれば人間らしい心を手に入れることができる。だが……虚しいだけだ」


「ずっと苦しかったんだね」


 わたしには理解できない。


 環境の異なる人を慰める言葉を正確に表すものは存在しない。


「わたしはあなたと違うけど、協力はできるの。だから……」


 不安定な感情を見せるベルベットの涙が落ちていく。


 涙を見せていた顔が空を見上げる。


 上空にはエリックとカンターレンが戦っていた。そうしてエリックがカンターレンによって地上に叩き落される。


 わたしが近づくとエリックの全身から魔力と一緒に血が流れる。


「随分と鍛えたのにやっぱり勝てないな……ラインよりも俺強くなれたかな」


 彼はわたしなど気にする様子もなく、空に浮かぶカンターレンを目指して地面を蹴り上げる。


「そこで大人しく待ってな……サトウをよろしく」


 ベルベットはわたしにガリアノンを渡すとサトウにキスをして空に向かう。エリックとの戦いに飽きていたのかカンターレンは力を抜いていた。ベルベットの登場に目を輝かせるとカンターレンはエリックを指で弾き城に吹き飛ばすと、ベルベットに突進して抱きしめて粉々にする。


 血で濡れた体を拭きながら地上に行くとベルベットが再生を開始して彼女が両手を広げる。


 周囲の風が変わり、ベルベットを中心に竜巻を発生させる。


「わたしを吸収しようというのか!」


 カンターレンはベルベットが自身の肉体を吸収することに気づき彼も同様の魔法を使う。お互いの魔法で周囲の建物や人間は次々と吸収されていく。


 エリックとシフォンは支え合いながら魔法に抵抗していた。


 わたしがサトウを抱きしめていると徐々にカンターレンとベルベットの距離が縮まっていく。


 二人の肉体が近づき合わさると静かになった空間で肉体が変化を開始する。


 わたしはサトウから離れてどちらに変わるか確認しようと顔を覗き込む。その顔は長年見てきた恐ろしい存在で彼の目はわたしを捉えていた。不意に触れようする手をかわして彼の行動を注視していると、エリックが基礎魔法で剣を作り出して斬りかかる。


 剣を手で受け止めた彼は雄叫びを上げると四方八方に爆音が響き渡り、激痛を伴った衝撃が体に伝わると瞬きの間に遥か彼方の地面に倒れていた。


 サトウに手を伸ばすも届かない。


 カンターレンに向かうエリックは壁に叩きつけられた。


 わたしは息を切らせながらサトウに近づくがわたしを見ていない。


 彼に抱きつく。


「なんで、誰も悪くないのに人が死んでいくの! こんなことなら人生をやり直そうと思わなければ良かった!」


 死んだように動かない彼にキスをする。


 これで終わっても構わない。


 そうすると彼は目を開けてくれた。


「あなたはわたしと死んでくれる?」


 サトウは首を振ると「一緒に生きよう」と言って立ち上がった。


 彼が見つめる先にカンターレンがいる。サトウは地面にあったガリアノンを持つと立ち尽くしたまま何も言わなくなった。


 表情を変えないサトウにカンターレンがゆっくりと近づく。


 彼はガリアノンをカンターレンに渡した。

 

 カンターレンの持つガリアノンは輝きを増していく。


 わたしは止めようとするが辺り一帯を埋め尽くす光に阻まれた。

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