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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第四章 魔王編

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73:互いの愛

 ツキヨから送られてくる情報はバーキン連邦を移動する大地の位置だ。魔王になっていた頃の記憶があるので現在近づくのが第五部隊だとわかる。今は第六部隊が敵対したとは思わずに連絡を取ろうとしているに違いない。フルブローグでの連絡は以前傍受の危険性から禁止にしたからだ。無闇な戦闘をせずに僕が行けば第五部隊も仲間にできると考えて行動したが結局戦闘は起こった。


 既に地上に降りていた僕とミュールを取り囲むように第五部隊の面々が揃っていた。上を見上げれば空を移動する味方の戦艦と敵のゴーストブラッド機が撃ち合うのが見える。


「何をしたかわからないがローウェル王国に敵対する者には容赦しない」


 ソーニャが元々第六部隊だった者たちを薄い布の鞭で捕らえている。


「弱いから第五部隊ってわけじゃないんだな」


「ミュール、あなたは魔王様のお気に入りだったというだけでしょ。本来ならわたしが魔王様の近くにいたはず」


 第六部隊の時と同じような展開だが厄介なことにエポール・ローウェル第三王女がいた。彼女に表立って反抗する者は少ない。顔が違うだけで同じ魔王と同じ魔力を感じて怯える者もいて、想像以上に支配魔法ベリツラーマの効果がなかった。


 近くに魔王はいないと思っていたが下手に動けばミュールも殺されてしまう。


「大人しく投降しなさい。そうすればミュールだけは許してあげる」


「聞かなくていい」


「サトウ……仲間も捕らえているんだぞ」


 僕はミュールの前に出た。


「あなたは?」


「フランネルだ。素直に聞きたいんだがここにいるみんなは魔王を本気で好きなのか?」


「それが関係あるの?」


「あるさ。好きじゃないと思っているからベリタも賛同した」


「……へえ、フランネルとか言ったね。あなたがミュールたちを惑わせた平民か」


 ソーニャは人差し指を僕に向けると小さな魔力の塊を集めて解き放つ。顔面に向かって進む魔力を両手で包み込むと僕はソーニャの持つ鞭を狙って跳ね返す。同時にソーニャとの距離を縮めて捕らえている者たちまで近づいた。


 思わず後ろに下がったソーニャは地面に落ちていた鞭を拾う。


「平民にも強い者がいるとは知ってたけど、魔力を弾くことができるんだね」


「ソーニャは魔王が好きみたいだが、今の魔王は君が好きな魔王じゃないよ」


「わかったような口を聞くな」


「彼女に聞けばわかる話だ」


「魔王様とわたしが話をできるはずないだろ」


「以前の魔王ならできただろうね。それこそサトウならさ」


「お前サトウのこと知ってるの?」


「知ってるよ」


 なるべく少数精鋭で乗り込んだので他に捕らえている仲間はいない。


 エポールは黙って僕たちを見ているだけで動く気配はないが、何がきっかけで魔法を使うかは考えなければ全員死ぬ可能性がある。


 この場で動いても動かなくても僕は死ぬ。


「ミュールはここにいる仲間を守ってほしい」


「わかった」


 ミュールが仲間たちの手を取る。


「ソーニャは毎回魔王の話ばかりだが、そんなに魔王が好きなのか?」


「それがわたしのすべてだからよ」


「マキシマム部隊だからか?」


「よく知ってるね。ミュールから聞いたの?」


「いいや。前から知ってただけだが……元々魔王を倒す為に作った部隊が一番強かったのはベルベットの考え通りなのかな」


「何を言ってるのかわからない」


 異界魔法ハグラボルグ。


 ミュールたちがいる地面から現れた渦に彼らを落とす。声を上げる暇もなく消えたミュールたちと一人残された僕だけになる。


「今の魔法……」


 エポールが僕を見て首を傾げている。


「まさか」


 誰もいなくなった状態なら僕の正体を明かしても問題はない。


「エポールは気づいたようだね。僕はサトウだ。ソーニャも昔一緒に旅をしたじゃないか」


「サトウか……サトウね。そういえばそんな奴もいたな。あいつも顔を変えられたから不思議じゃないか」


 ソーニャは上を見上げながら一歩下がるとフルブローグで誰かと連絡を取っている。僕を見ると周囲の人たちは徐々に距離を取り始める。


「好き勝手に国をかき乱して暴れて仲間たちを誘導する害悪。あなたがそのサトウならローウェル王国を内側から崩そうとして魔王になったんだね」


「魔王になった経緯は違う。僕の場合は特殊で普通の人間が魔王になることはない」


「経緯なんてどうでもいい。あなたはわたしたちの国がどうなろうと知ったことじゃないの。だから平気で裏切ることができる。わたしにとっての脅威は……サトウだ」


 彼女は僕を指差すと周囲が光り輝いた。上から降り注ぐ光は複数のゴーストブラッド機から放たれる魔力の塊だった。避けようとするも追尾するかのように光が向かってくる。受け止めるか弾こうと考える暇もなく降り注ぐ光の雨に躊躇している場合ではなかった。


 水魔法ドキュレス。


 辺り一帯を包み込むほどの水を発生させながら光の雨と共にゴーストブラッド機を包み込む。水はゴーストブラッド機を食い殺して消えていった。


 ソーニャは全身を濡らして僕を見ていた。


「今の魔法はなんだ」


「水魔法ドキュレスだ。古代の魔法で水を発生させることができる」


「そんな魔法聞いたことない!」


「失われた魔法だからな」


 魔王の使う食事魔法マデカーレはこの魔法から分岐されたものだ。この水魔法と違って食事魔法は単純な栄養摂取にしかならない。他にも水分魔法という水分と考えれば相手を爆破できる魔法もある。それらも同じ魔法を分解させて魔王が使い始めたものだろう。


「失われた魔法を何故お前が使えるんだ!」


「さあな」


 ドラゴニアが使えるはずの魔法を魔王や魔王の遺伝子が混じった貴族たちが使えないのも無理はない。水魔法ドキュレスを今使っただけで残っていた魔力の大半を失った。神の力は世界からの魔力共有あってこそだが今日だけで何回古代魔法を使っただろうか。


 肉体がまだ力に慣れていない。


 汗を拭っていたらどこからか声が聞こえる。


 上を向くと何かが空から落ちてくるのが見えた。


「フランネル!」


「ナージャ!」


 僕が思わず叫ぶと彼女は地面に叩き落された。


「大丈夫か!」


 ナージャは地面から出てくると僕に抱きついた。


「あの時はごめん! みんなが襲われているのを見てわたしだけ逃げてしまった。生きていた良かったよ……」


 遠くにある戦艦から落ちてきたのだろうか。


「ナージャはゴルアと会った?」


「会わなかったよ」


 フランネルがどうなったか何も知らないのか。


「ナージャ、あのね」


「ナージャ! ようやく会えたな!」


 僕の言葉より早くソーニャはナージャを見つめる。


「久しぶり。元気そうで良かったよ」


「とても元気だよ……ずっと会いたかった……あの日から!」


 ソーニャは手に持っていた鞭を振り回してナージャの体に巻き付けた。


「裏切り者のあなたを殺したくて……待ってたの」


 ため息をつくナージャは魔力を込めると巻き付いた鞭を粉々にした。


「未だに血の掟から離れられないようだね」


 砕けた鞭を捨て拳を構えるソーニャは笑い出す。


「当然だよ。わたしたちはローウェル王国の為に産まれた存在で、この王国と魔王様に尽くすことはわたしたちマキシマム部隊が生きる意味にも繋がるの」


「わたしたちは実験動物だよ」


「知ってる」


「なら」


「だからってローウェル王国がわたしたちに何も悪いことをしたわけじゃない。食べるものも住む場所も与えてくれた。何も不自由ない暮らしなのに国を裏切るほうが変だよ」


「……マキシマム部隊は魔王の苗床となる運命と話したけど、そこは表向きの理由で裏ではマキシマム部隊は国家転覆を目的としたベルベット・ローウェル第一王女の部隊なんだ」


「それで何が言いたいの?」


「わたしたちより上の世代は見たことがない。平和ならベルベット・ローウェル第一王女の手によってローウェル王国が滅びるまでは魔王の苗床になる運命。そうじゃないならローウェル王国を破壊する為の道具という運命だ。未来を考えたら裏切るのは当然でしょ!」


「言いたいことは終わった?」


「あなた自分の頭で考えたことあるの? 頭悪いんだから少しくらいは考えなさい!」


「ナージャはわたしと同じ歳なのに偉そうなこと言わないでよ! わたしたちを見捨てて遊んでたような無責任な人じゃなくて、わたしにも立場というものがあるの!」


 不意にエポールから魔力を感じて僕は彼女を見る。


「ねえ……ナージャ……黙ってわたしの元に来て」


 突然エポールがナージャを手招きした。その体からは不自然な魔力を感じられる。エポールを見ていたらナージャが頷き歩き始めた。笑顔のエポールは手を広げたが急にソーニャが割って入る。


「何をしているの? ソーニャ?」


「ナージャを殺すつもりですよね?」


「ええ」


「わたしにやらせてください」


「それなら早くしてね」


 ソーニャがナージャに近づくので僕が足を動かそうとする。だが、エポールの口元の笑みに気づき後ろに下がると正面の地面が溶けていた。


「最後の別れを邪魔しないでよ」


 今動けばエポールに魔法を使われる。できるなら極力魔法を使わないでいたかったが覚悟を決めるしかないか。


 僕が息を整えていると僅かに太陽が顔を見せる。


 そろそろ朝になるか。


 寝ないで戦っていたようだ。


 ソーニャの両腕がナージャの体を抱きしめる。そうしてソーニャはゆっくりと両手でナージャの首を掴んだ。苦しむ様子のないナージャを見つめていたソーニャを見てエポールは舌打ちをする。


「あなた口だけなの?」


「今殺しますから!」


 どういうことなのだろうか。以前もソーニャはナージャを殺そうとしていた。彼女は血の掟を守っていたし。ナージャを許せないと思っているはずなのに魔力を使うどころか力も込めていない。きっと今のナージャはエポールの洗脳魔法で動けない。


「なんで……殺したいのに……なんで!」


 ソーニャは泣き出した。


「……ナージャ目を覚まして」


 エポールの言葉で目を覚ますとナージャは目の前にいるソーニャに驚く。彼女に首を絞められていることに気づき離れる。


「ソーニャはローウェル王国を裏切るんだ」


「違うの。魔王様……ナージャを殺そうとすると動けなくなるの!」


「あなたその子を殺そうとしていたのに何を今更言ってるの?」


 息を切らして拳を構えるソーニャだがナージャは落ち着いている。


「ソーニャ、もうやめよう。多分、あなたはわたしを殺せない」


「今からやるって言ってるでしょ!」


「わたしずっと不思議だったことがある。雨の中ミハイルが死んだ時、あの頃は怒りでよく考えもしなかったけど……ソーニャってわたしを本気で殺そうとしてなかったね」


「逃げたから殺せなかったのよ」


「ずっと疑問に思っていたのが逃げ切れたこと。だってソーニャの足と魔力探知で何度も追いつかれたのにバーキン連邦まで来なかった。海を渡ってバーキン連邦まで行こうとしたわたしたちを撃ったのに」


 ソーニャはうつむいた。


「あの時わたしは海に投げ出されたけど、無事だったのが不思議だった。そして海に潜っても追撃がないことも違和感があった。海の中だろうと動けるはずのゴーストブラッドが来なかった」


「見失ったの」


「なんでわたしを殺さなかったの?」


「だってさ、好きなんだから殺せるわけないじゃん」


「え?」


「言いたくなかったのに……もういい! ナージャが悪いんだからね! あの時わたしがいるのにルージュにキスして……それが王族なら……女性ならって思ったけどさ。女性でもない男性で、しかもサトウとかいう一番気に入らない奴のことを好きになった! わたしも本気でサトウを誘惑してナージャから取り戻そうと考えたくらいよ!」


「知らなかった」


「こんな時に言えるわけないでしょ」


 ソーニャはどういう気持ちで僕を見ていたのか。


 僕は二人を微笑ましく見ていたがエポールの魔力の変化に気づく。彼女は目を閉じて集中しているがゆっくり手が正面を向く。全身に魔力を流してナージャに近づこうと動く瞬間エポールが笑った。


 僕が動くよりも早くナージャの前にいたソーニャの両腕が溶けていた。


「ソーニャはローウェル王国を裏切るみたいだね」


「違うよ、わたしはナージャを守っただけだ。それにあんたがナージャを攻撃するならわたしはあなたを許さない」


 エポールとソーニャが睨み合う中、支配魔法ベリツラーマを使用する。強力な洗脳は使い勝手が悪いのだが、現状相手への負担を減らして味方を作る魔法は最強といってもいい。魔王を敵対するというだけの単純なものを受けて周囲の反応は変わって、エポールに向けて銃を向ける兵士や剣を構える兵士が現れた。


「ここにいる全身、自害しなさい」


 エポールの言葉を聞いた者はお互い顔を見合わせていたが何も起きず首を傾げる。


「今持ってる銃で頭を撃ち抜けと言ってるの! 剣でもいいからお腹に突き刺しなさい! 魔法でもいいから自分の体を吹き飛ばして!」


 自然と兵士に囲まれているエポールは頭を抱える。


「なんで魔法が効かないの……」


 兵士を睨みつけるエポールはソーニャに手を向ける。


 誤認魔法リミスゲイン。


「え? なんで」

 

 僕はエポールが見ている人を全員を彼女が見たいものに変化させた。これで多少時間を稼げる。一度休んで休憩する為に僕はナージャに近づいた。


「ねえ、なんであいつ動かないの?」


「えっと、ナージャには色々と話さないといけないことがあるからさ」


 フランネルが死んで、今は彼女の体を借りていることを話す必要がある。


 銃を向ける兵士たちは近づくエポールに対して一斉に攻撃をした。何度も撃たれたことで血を流しながらも兵士たちに近づこうとするので、怖がる兵士たちは何度も撃った。全員の心を利用したことでより抑えていた勇気が溢れたのか。魔法が込められた剣を振り火を放つ兵士たちによって肌や髪が焼けていくエポールは立ち尽くす。


「あ……ラフィア……強くなった。こんなにも大勢いるラフィアから愛を貰えるなんて」


 笑顔のエポールに向かって兵士たちは容赦なく剣を突き刺した。


 僕が近づくとエポールはまだ動いていた。


「こうして大好きなラフィアから殺されるなら本望だよ……ねえ……ラフィア? なんで何も言ってくれないの?」


 動けなくなったエポールに触れて水魔法ドキュレスで肉体を食い尽くす。その場に破片すら残さず消したことで魔王の力は大きく減ることだろう。


 ラフィアがエポールを殺せたかわからない。こういう状況で感情で訴えられたらラフィアには殺せなかったかもしれない。


 こんなことを何度もやる必要があるのか。


 手に残る感触を忘れられない。


 僕は笑い合うソーニャとナージャの背後にいる太陽が上がって朝になっていた。


 安心したら急に疲労から体が動かなくなる。


 その場に倒れた僕を心配そうに見つめるナージャに笑いかけながら目を閉じた。

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