69:復活する魔王たち
闇の中で彷徨っていた僕はベルベットを見つけた。彼女以外にも誰かいたがベルベットは何故か距離が近かった。他の人は僕に興味がなさそうだったがベルベットだけは好きと言葉に表していた。彼女に理由を聞くと顔が好みとかふざけたことを言ってきた。魔力とか顔とかで人を好きになるのは納得いかなかった。そんな落ち込んでいた僕を見て「ラフィアが好きなのはずっとあなたよ。多分、彼女はどっちでもない」と言ってきた。
「ベルベット……僕を好きとか言って、本当はどうでもいいんだろ」
「面倒な人。でも、間違ってないかもね」
「ほら、やっぱり」
「それも嘘かもしれないよ」
「嘘か本当か、どっちなんだ」
「さあね」
目を覚ますと正面にはラフィアとラインがいた。体は動かなかったが状況は理解した。頭が上手に回らなくて目を閉じそうになったが不意に背後にいたキャリバーを見る。彼のポケットから落ちるネックレスと指輪を目にするが口は勝手に動き出す。べフェールは僕をベルベットと呼んだ。二人の会話を聞きながら頭は先程のネックレスと指輪を思い浮かべる。
ラフィアがべフェールを撃ち抜くとすぐさま逃げ始めた。移動している最中、地面に手を伸ばしてネックレスに通された指輪を掴むも誰も見ていない。これをどうしてキャリバーが持っているのかわからないが彼は僕を見ようとしなかった。僕は彼からしたら別人で僕も自由に体を扱えるわけではない。ラフィアとの会話をしているうちにベルベットが声をかけてきた。
「わたしがチャンスを作った。余裕があるうちにラフィアと話をしておきな」
「どうしてベルベットは僕とラフィアのことを考えてくれるの?」
「二人に興味があるからさ。今のサトウは肉体としては魔法の使える貴族だが、本来君は魔法の使えるはずのない平民だ。それが神の力によって魔法が使えるようになった。そして本来魔法を満足に使えないラフィアが女神の力によって本当の魔法を使えるようになった。わたしは平民と貴族では子どもを作れても魔法を扱える者は滅多に出てこないと考えていた。それは実際に見てきた。でも、一つ確かめたことのないものがあるんだ。神の力と女神の力を宿した人間にはどのような子どもが誕生するのか見てみたい。二人の神は永遠の時を生きる。その人間というのはどんな存在なのか確かめたいんだ」
「……本当に好きなんだな」
「人の生死を超越した存在に興味があるだけだ」
僕は自分の体が動くことを確認すると「ラフィア、ごめんね。僕の心が弱いせいで君を傷つけてしまった」と言って彼女にキスをした。困惑する彼女に続けて「もう一度僕に好きと言ってほしい」と言って抱きしめると彼女は何度も好きという気持ちを言葉にした。
こんな状況で愛し合う僕を見ていたべフェールが睨みつける。
「二人で何をしているんだ」
「女でも気にしない世界だったと思ったが違ったか?」
一瞬べフェールが動きを止めて僕を見つめる。
「ベルベット……いや……誰だ?」
「俺は佐藤星だ。この世界でこの名前を何度も名乗ったことは多くない」
「貴様は死んだはずだ!」
「ここで生きてるとベルベットが言っただろ?」
僕は自分のお腹を軽く撫でる。
「意識まで取り戻すなんて……ベルベット! 聞こえてるか! お前が俺を恨む理由がない。わかるか! 魔王と神は争いを続けていた。神とは敵同士だ! 敵に身を委ねるんじゃない!」
ベルベットが笑い始めた。
「敵の力を借りていたお前に言われるとはな。敵の力をどうしようとべフェールには関係ない。それにわたしが借りているのは佐藤星という無力な一般人だ」
「器を掌握して悦に入るのは勝手だが、長年魔王として君臨してきた俺に敵うと思うなよ。その力の半分はこちらにもある」
フェイズの魔力を感じる。
僕はべフェールから伝わる魔力をベルベットを通して理解した。
周囲にいる人たちの手に一瞬触れながら崩壊と再生の魔法を使用する。肉体が崩壊すると同時に再生されて元に戻った。べフェールの表情からして水魔法を使ったが、水という存在がなければ使えない欠陥のある魔法だ。古代魔法全般に言えることだが水だと思えばたとえ液体じゃなくても魔法を使える。べフェールは本当に神の力を借りただけのようだ。
異界魔法ハグラボルグ。
べフェールの地面を異界に繋げて彼を別の場所に移動させる。
「消えた……」
ラフィアの顔を覗き込む。
「場所を変えただけだ。じゃあな」
僕もべフェールと同じ場所に移動する瞬間ラフィアが持つガリアノンを奪い取る。
「それは」
「使い方は知ってる」
「そうじゃな」
ラフィアの言葉を聞かずに移動した。
荒れ果てた土地を見回すとべフェールがため息をつく。
「ベルベット……いや、佐藤星。何故俺の邪魔をする? 貴様の望み通りラフィアを手に入れることを選んだだろ。何が不満だ?」
「不満しかない。僕が欲しかったのは彼女自身と彼女が望む世界だ。何もかも奪って僕と彼女が幸せになって世界を手に入れても欲しかったものは手に入らない」
「ベルベットの望みはなんだ? 今のが佐藤星の望みならお前は何がしたい?」
「わたしは二人の子どもが見たいだけよ。それに……あなたのこと好きじゃないし」
「なるほど、随分嫌われたな。何もしていないのに」
「あなたはわたしの佐藤星を殺した。それが許せないだけ」
水魔法ドキュレス。
べフェールは水を受け止めながら水分魔法イグラシアで爆発させた。
僕はまさか自分ごとやるとは思わず動くのが遅れた。その隙をついて彼は僕の首を掴む。魔力の流れに気づき離れるが僅かに魔力を持ってかれてしまう。
「ベルベット、他の家族の魔法を使わないのは何故かと思っていたが意識を乗っ取られることを恐れているんだな」
「それもあるがわたしの下の妹たちが使う魔法は少々厄介なものだからな。使用してべフェールに使われることがないようにしているんだよ」
ベルベットは僕を譲り渡すつもりはない。ベルベットが一番意識がはっきりしているのは融合魔法で取り込んだという理由もある。他の人も同じ理由で表に出てくる可能性はあるが彼女が拒んでいる。僕としてもベルベットのほうが利害は一致していたので都合がいい。
「俺から下の弟たちの魔法を奪わなかったのは何故だ?」
「余裕がなかったのと、奪うまでもない魔法だったから」
べフェールはうつむき笑い始めた。
「これらはすべて同じ魔王の遺伝子を持つ者なら誰でも扱える魔法だ。一時的に分かれていたとしても使えないことはない」
「使えないさ。神の繋がりがないと、古代魔法は意味をなさない」
「使えるだろ」
背後から声がして振り向くとべフェールの魔力を感じたが誰もいない。足音と魔力がして彼の声が聞こえる。「再生魔法を使え」と言われて自分に使うと肉体から血が噴き出した。半分になった状態で意識があるのも変だがベルベットの体なら死ぬことはない。
「こんな状態では魔法も使えないな」
べフェールは透明魔法ディアファニスを使用して移動魔法プラフティで背後を取り、洗脳魔法シルディンで僕に再生魔法ルンパーダを使用させた。体内に存在する過去の傷を再生させる魔法でラフィアに切られた状態に戻ってしまった。
しかも今僕は体の自由がないのとベルベットの声も聞こえない。
べフェールは空にいるゴーストブラッド機を吸引魔法で引き寄せると中から兵士を取り出す。暴れる彼を僕のもう半分の体に押さえつけると彼の体は膨れ上がる。そこから出てきたのはムートン・ローウェル第六王子で僕が殺した相手だった。彼は状況を理解して喜んでいたようでべフェールに近づく。
「まさか新たな肉体を手に入れるとは思いませんでしたよ」
「これで神の力は手に入れたようなものだ。考え方を変えれば強力な仲間が複数にいると思えばいい。従う自分だけで構成すれば問題はない」
「手伝いますよ。べフェール兄様」
その時僕は地面に倒れるドラゴマニアの姿を目にする。きっとフェザー連邦から来た機械生命体を連れてきたのだろう。それが先程の水魔法ドキュレスによって近くに来たのか。
融合魔法シーデクジ。
それは僕の体と合わさると失ったはずの肉体が変形しながら体が別の女性の姿になった。
一部始終を見ていたべフェールは言葉を失っていた。
相変わらず体の自由はないが彼女の笑い声が聞こえてくる。
「そんなんだからベルベット姉様に出し抜かれるんですよ」
「イブ……お前を呼んだ覚えはないぞ」
「ラフィアがいなくなってから標的はわたしになった。なんせ、わたしは弱いから……ねえ……ムートン」
「お前じゃ俺に勝てないのはわかるだろ!」
ムートンが叫ぶ。
「昔からな!」
「ラフィアが特別弱かったからだと思ったけど、わたしもあなたたちの間では同じだったのね」
睡眠魔法スウハバベルツ。
べフェールとムートンは地面に倒れた。
「おやすみなさい。永遠に」
しかし、倒れたと思ったべフェールとムートンは瞬きの間に立ち上がっていた。
「なんで」
「俺にはどんな魔法も通じない」
べフェールは不敵な笑みを浮かべる。
「わからないわけないだろ?」
「そんなことわたしたちの魔法全般に言えることじゃない!」
「なあ、イブは俺たちと一緒に行動しないのか? もう今更嘘を言うのをやめよう。これからは同じ魔王として世界を支配しよう」
「誰があんたと……ムートンのように誰にでも尻尾振るほど従順だと思わないことね」
ムートンは自分のお腹に両腕を突っ込み引き裂く。その異常な魔力の流れを感じてムートンを見つめていると彼は笑っていた。
僕は自分の体から急激に魔力が流れ出ていくのを感じた。血が出ていないはずの腹からは血が溢れていて僕は意識を失くして倒れてしまった。
海岸で海を眺めていた僕は一人で空を見上げている。
砂浜にいた物体は形を変えて人間へと変化していく。その人間は何もない空間で見ていた景色と違って世界は色鮮やかな景色で包まれて綺麗だったと呟くと、近くにいた若い男性に声をかける。そこにいた若い男性は人間へと変化していく体に戸惑っているようだ。二人が意気投合して生活をしていくうちに彼は自分の中に潜む欲望に気づく。いつしか死んだ若い男性の腹から自身の子どものようなものが産まれてくることに疑問を持たなくなる。
彼は始めて産まれた子どもにべフェールと名をつけた。頭の良い子で狭い世界しか知らなかった彼は子どもの好奇心によって突き動かされた。子どもと二人で世界征服を試みる頃には子どもが増えていた。次は女性に興味を持ち、そこから産まれてきた子どもにベルベットと呼んでみた。彼女が産まれた頃は他にも恐怖で支配していた仲間が増えていたが、人が死にすぎた戦争で彼女はあまり外に出なくなった。泣き止まない彼女を僕が見ているとベルベットが僕の顔を見る。
「みんな気に入らない……こんな世界で生きるなんてどうかしてる……殺して。みんなを、魔王すべてを」
僕が目を覚ますと壊れかけた室内で寝ていた。起き上がるとべフェールとムートンが椅子に座って起きた僕を見ていた。
「起きたか。ベルベット」
僕はべフェールの言葉に戸惑いながら落ちていたガラス片を見る。確かにベルベットの顔だが以前のように彼女の声は聞こえない。呼吸音が聞こえて隣を見るとフェイズ・ローウェル第二王子がいた。彼は地面に転がる死体を蹴り飛ばしてべフェールに近づく。
「また魔王になる為に身内同士で戦うのか?」
「もうその必要はない。俺たちには神の力が使える。それは誰にも敵わないということだ」
「何故俺たちにそのことを言わなかった?」
「魔王になった者しか知らなかっただけだ。たとえ魔王になる為に争えと言ってもすべての者が頷くとは思わなかった」
僕は近くに倒れている人間を見る。
「べフェール、彼は?」
「ああ、そうだな」
べフェールは優しい表情で倒れている人間の腹に触れる。倒れていた人間は叫び声を上げながら膨れ上がる腹の痛みに耐えていたがすぐさま声も出さなくなった。彼の腹から現れたのはルージュ・ローウェル第二王女だった。彼女は僕を見て抱きついてきた。
「ベルベットお姉様!」
「多分、そろそろ戻ってくるはずだが」
べフェールが言うとジュラ・ローウェル第三王子とベゼル・ローウェル第四王子がガリアノンを手に戻ってきた。
「べフェール兄様、これはすごい。威力だけでいったら他とは段違いだ」
ジュラの言葉に頷くベゼルは楽しそうに椅子に座る。
「ジュラと二人でバーキン連邦の兵士で試してみたが、これならどんな敵も一瞬だよ」
荒れ果てた室内には死体しか転がっていない。不意に後ろを振り返るとレリーフ・オリエンタルが下半身を失った状態で死んでいた。彼の近くにはエポール・ローウェル第三王女が欠伸をして座っている。彼女を見ながら僕がレリーフの死体を指差す。
「何故レリーフが死んでいるんだ?」
「あれ? 彼はローウェル王国を裏切ったと聞いたはずだけど」
それ以上言及できずにいるとクラバット・ローウェル第五王子がラフィアを連れながら戻ってきた。側にはイブ・ローウェル第五王女もいる。
「ラフィアが何故」
べフェールはラフィアに近づき髪の毛を掴んだ。
「お前が持つ女神の力を頂こうと思ったが、考えてみればお前も我々王族だったな」
「卑怯者……」
「卑怯か、俺たちは間違ったことを言ったか?」
「何もかも間違ってる! わたしが行かないとバーキン連邦を滅ぼすと言われて、更にはあなたたちはベルベット共々サトウを殺すとも言った。みんなを人質にして何かを手に入れる方法は正真正銘の魔王らしくてうんざりよ!」
「今までは力を分けなければ適応した魔法しか満足に扱えなかった。それが佐藤星のおかげで家族同士がいがみ合わずに互いの魔法を使用できる。これこそが世界平和だ」
「それは王族で争わないことで平和とは言わない!」
「平和だろ。世界には我々しかいらない。なあ、ベルベット……そうだろ? 佐藤星」
べフェールの目を見れなかった。
「ベルベットと違って貴様は利口だと信じてる。だってラフィアをお前は見捨てられない」
ルージュは僕から離れると顔を覆う。
「この感じ……まさかあなたは違う人? 本当に……ベルベット姉様はわたしたちを見捨てたの……」
「ルージュよ。あいつは昔から俺たちが嫌いだった」
「そんなことない!」
「ベルベットが実験していたのは不老不死と言われているが、実態はローウェル王国を脅かす軍隊を作ることだ。あの時一つになったことでお前もわかったことだろ」
ルージュは何も言わずに涙を流している。
「僕が佐藤星だと知っていて、何故僕とラフィアを殺さないんだ?」
「力のある者を昔から俺たちは好んで使ってきた。それにお前たち好きなんだろ? 世界平和とやらが」
べフェールは言った。
「作ってやるよ。すべての人間が幸福で暮らせる世界を……俺たち魔王の力で!」
室内から風が吹き荒れて僕は目を疑うような光景に驚く。壁が崩れ落ちて室内から大男が顔を見せるとべフェールを含めて僕とラフィア以外の人間が片膝をついた。
そこには確かにカンターレン・ローウェルが現れていた。顔はべフェールと似ているが今の彼より老けている。
「こうして佐藤星と直接話すのは久しぶりだな。もう十年も前になるか、始めて出会った頃から長い年月が過ぎたな」




