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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第四章 魔王編

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67:命の終わり

 肉体が一つになったことで感じたことのない感情に襲われた。濁っていた心の内側が透明に透き通って呪縛から解き放たれたようだ。


 召喚者は「貴様の魂は穢れている」と言いながら封印した。


 ドラゴニアは魔王として俺を恐れていたが結局は支配されてしまった。


 始めての感情は誰かの否定による怒りからくる深い悲しみだった。


 存在理由を求めて世界を渡り歩いてきたが自分を殺そうとする人ほど相性が良かった。肯定してくる相手よりも否定される相手のほうが自身の穢れを受け止める器になる。


 満たされない肉体は他者を穢すほど満たされる。


「魔王様……」


 心配そうな表情で見つめるベリタに笑いかける。


「もう、大丈夫だよ」


 幾人もの魔王としての器を現在まで作り出してきた。すべてが魔王の子孫だと思われていたが実際は俺の別人格のようなものだ。分散された能力が細胞の一つひとつまで全身に魔力が行き渡る。この肉体も隣にいるベリタもすべての人間は魔王の別人格とも言える。


「第六部隊はギャバジンに行ってほしい。場所は砂漠地帯だ。後で俺も行くがあまり近づくなよ」


 部下たちにノルチェへと向かうよう言って集中する。この世界にいるすべての人間は魔力を持っていれば場所を把握することなど容易い。昔は神もサトウもいなかったから細かな魔力のコントロールもできなかったが今なら可能だ。


「プラフティ」


 目の前には一匹のドラゴンが見える。


『何か用か』


「いや、ちょっとね」


 ドラゴンという生物をローウェル王国が捕まえていたのは知っていたが既に生き残りは少なくなっている。


「もうドラゴンは少なくなっているんだね」


『お前たちの努力が実ったのだろう』


「部下たちのおかげだ」


『もうあの頃のように話すことはできそうにないな』


 ドラゴンは口を大きく開けて火を放った。服を燃やす程度で威力はない。更に続けて口から水を放ち辺り一帯を水で満たした。ただの森だがまるでプールにいるような感覚で水から出れそうにない。ドラゴンは翼を広げて空から氷を放った。


『逃げても無駄なのはわかってる。抵抗ぐらいさせてもらうぞ』


 俺は氷の中で「ドーロム」と言った。


 氷が砕け散る。


「ドラゴンという存在を今まで理解できずにいたのは誤算だった。ローウェル王国ではドラゴンはただの実験対象で生物としての価値はない。だが神を通して理解したことがある。それらは今の攻撃で完全に古代魔法を使用しているという確信に変わった」


 ドラゴンがもう一度火を放った。


「サクシェン」


 砕け散った氷をドラゴンに向けて集めさせる。向かっていく氷の大多数は火によってなくなっていくが地上になければいいだけだ。


「イグラシア」


 水になった氷が空中で爆発していく。ドラゴンが何度も爆発を浴びながら空を飛び回る。水だと俺が思えば爆発できるがこの状態でドラゴンを殺したいわけじゃない。


「ジギバージ」


 ドラゴンは翼が折れ曲がり地上に落とされた。


「人間と分かれたドラゴンは正確にはドラゴニアではないが、彼らが使用していた魔法を使えるというのはローウェル王国の研究者にも知らない事実だ。元々魔法というものは言葉にしなくても使えるものだと理解していたはずなのにね」


『こんなことをしてわたしをどうしたいんだ?』


「保護の為に動いているだけだよ。自国がドラゴンの数を減らしてしまったから、その責任を取るぐらいのことはしないといけない」


 俺はドラゴンの頭に触れる。


「古代魔法か……神との戦いで一度見たが俺は使えなかった。今使っている魔法も所詮は偽物だ」


 動こうとするドラゴンの頭を地面に押さえつける。


「その魔力貰うぞ……アーゲレナ」


 ドラゴンが弱っていくのと同時に魔力が体に流れる感覚が伝わる。生きているドラゴンの肉体と魔力を吸収していくと彼らの魔力と神の魔力が繋がる。共有された魔力は神からなるもので無限とも思えるものだが魔王となっても使用できた。以前殺した神の肉体を使ったことで不完全ながらも古代魔法の使用ができたが、彼の死体では偽物の魔法でしかなかった。このドラゴンを使ったことで魔法は完全なものとなる。神と繋がっていたサトウがいなければできなかったことだ。そのサトウも一度殺してしまったことを後悔していたが結果的には成功した。


 浮遊魔法アイビー。


 空に浮かび上がる。


 唱えることもなく使えた。


 ドラゴンも翼はあったがこの魔法を使用していたようだ。


 周囲を見ると遠くにノルチェの町並みが見える。これだけ遠いはずなのに鮮明にラフィアが見えていた。もう既に太陽は上がっている。遥か彼方にいるゴーストブラッド機を見つけた。

 

 吸引魔法サクシェン。


 ものを引き寄せるだけの魔法だが自身の肉体を遠くの指定された場所に移動させることもできる。


 ゴーストブラッド機に衝突する前に解除すると基礎魔法で足場を作った。彼女は既に臨戦態勢でいるが別に殺し合いを二人でするつもりはない。


「こんにちは。お嬢さん」


 ラフィアは何も言わずに地下空間に飛び降りる。


 以前ノルチェの地下で戦艦を爆発させたところだ。


 もうフルブローグでの盗聴を気にする必要もない。これですべて終わると思っていい。だが、念の為に偽の情報も伝えておこう。


 俺は近くにいる全体に向けて呼びかけた。


『今第六部隊がノルチェを包囲している。他の部隊も後に続け。今後は俺の指示だけフルブローグを使う。他の者は使うな』


 本当にゴルアが盗聴を考えているのなら多少騙すことは必要かもしれない。


 ゴーストブラッド機が空を飛び、地上に向かって空から飛び降りる者もいる。地上と地下にいる魔力はどこかローウェル王国にいる兵士とも似ている気がする。何人か部下が捕まったという前提で情報が漏れていることも考える。これならノルチェに集中していることにしたほうがいい。こんな程度のこと誰でも考えつくことだがどんな作戦もラフィアが手に入れれば問題ないことだ。


 地下空間に降り立つと一斉に巨大なロボットが立ち塞がってきた。ここにいるロボットは自動操縦で生きている人間は存在しない。


 電波魔法ベリウーテ。


 ロボットの動きを変えて施設内を攻撃させると隅に隠れていた人間たちが現れた。隙間なく光線をぶつけるロボットに当てられた人間たちは一瞬にして消え去る。


 ラフィアの姿は遠くまで行ったようだが追いつける距離にいる。


 吸引魔法サクシェン。


 彼女を引き寄せようとするも抵抗される。気づくと魔力の繋がりを切られてしまった。どうやら純粋な魔法としての力は彼女のほうが上らしい。神は魔力の総量では上だが、魔法は女神のほうが能力としては優秀だ。


 廊下に配置されている機械が瞬時にこちらを向き柔らかな糸のような太いものが体を貫いた。柔らかく頑丈な糸は魔力を制限させる物質が使われている。一時的な拘束で動きを止めている間に小さく丸い物体が手足を動かしながら向かっていく。それらが体に貼り付くと全身を覆うように基礎魔法で包まれた。


『聞こえるか。魔王』


 俺の耳に届く声はラインだった。


「聞こえるよ」


 設置されている機械から音声が聞こえる。


『今すぐバーキン連邦への攻撃を中止しろ』


「確かに意味はないな。だが、条件はラフィアだ」


『それはできない』


「交渉にならないな」


 俺は拘束を強引に引き千切る。


「こんなのでは俺は止まらない……気になることがある。何故ラフィアを渡さない?」


『魔王にこれ以上大切な人たちを奪わせない為だ』


「それが答えか」


 幻覚魔法バラーマ。


『ががが……ぎぎぎが……くく苦ししいい……もう……やめ……やめ……あ』


『おい! ライン!』


「キャリバーもいるのか」


『貴様! ラインに何をした!』


「ちょっと首を絞められる気分を味わってもらっているだけだよ」


『狂ってる……』


 声は聞こえなくなってしまったが少しは時間稼ぎはできたはずだ。今バーキン連邦を動かしているのは実質的にはゴルアだが、表向きはラインということになっている。彼が動けなくなれば他のローウェル王国の部隊も動きやすくなるはずだ。


 移動魔法プラフティ。


 目の前に現れた俺の姿を見てラフィアはすぐに隠れてしまう。先程もそうだが魔力を感じても耳から足音だけしか聞こえない。


 機械を破壊しながら進むとクロッグ・アルベールが汗を流しながら立っていた。彼女は息を整えると瞬時に基礎魔法を放ったが大した効果はない。少し驚きながら何度目かの攻撃をした時、インソール・アルベールが彼女の肩を掴み「今すぐ逃げろ!」と叫んだ。


「でも、あいつは!」


「ラインは生きている!」


 移動魔法プラフティを使いクロッグの背後に移動する。洗脳魔法シルディンを使い「インソールはお前の敵だ」と囁きラフィアの元に向かう。


 ドアを開けると倒れたラインとサテンにリングがいて、後ろにいるラフィアを守るように武器を構えていた。俺を囲むようにバレルやマリンもいたが目の前にいたラフィアに近づこうと歩き始める。


 音が聞こえた瞬間、四方八方から放たれる弾丸を目にする。バレルやマリンが持つ銃のようだが魔力が込められていない。それらを受け止めると弾丸は地面に弾き飛ばされる。気づくとまたラフィアが逃げていて他の人も消えていた。魔力ではまだ近くにいるが見える範囲内には誰もいない。両手を広げて吸引魔法サクシェンを使用してバレルとマリンの二人を両手に引き寄せた。


「いいのか? ラフィア? 二人を置いて逃げるつもりか?」


 そう言い放つと自分が見ていた世界が二つに分かれていた。地面に落ちる瞬間まで考える時間があった。激痛で叫ぶこともなく、意識を失う瞬間に悲しそうな表情で透明な剣を持つラフィアが見えた。

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