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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第四章 魔王編

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63:混乱

 当初の計画ではバーキン連邦を簡単に落とせると思っていた。この長い歴史上ローウェル王国を負かせるほどの実力を誰も持っていなかったからだ。上空から攻めるのが定石で我々の専売特許だと思われていた攻撃方法も無駄に終わる。バーキン連邦は次々と空に浮かぶ戦艦で更に上空から攻撃を仕掛けてきた。ギャバジンが培ってきた技術力を見せられた形だ。これが最後の抵抗とばかりに襲われて部隊は撤退を余儀なくされる。


 途中フルブローグでの通信が入った。通信を切っても強引にこちらの機械を操作できるらしい。発信元はギャバジンのようで諦めて呼びかけに答える。


『久しぶりだな、魔王様』


 その声と顔は何度も見た顔だった。


『ラインか』


 彼は確かローウェル王国に入国したという情報が入っていた。その後も家族水入らずを邪魔する理由がないと思い放置していたが、バーキン連邦に入っていたとは思えない。


『驚いているようだな。あっちに送ったのは俺の偽者だよ。リング・テラードがいただろ? あいつに顔も体型も魔力も似せてローウェル王国で家族を保護して安全な場所へ送ってもらった』


『あのリングが』


 魔力で自分の顔を変えられること話したことはあったが、あくまでも性別を変える程度で別人に変えられるのは魔力で可能だと思わなかった。


『リングは元々ローウェル王国での仕事をこなしていたから怪しまれることもない。俺の仕草も覚えてもらってあっちではすべてを騙して家族を他の場所へ行かせた。何故俺がそんなことをしているのか不思議に思っているだろ。俺も本当はやりたくなかったさ……でもさ、今のお前を見て許せる奴がどこにいる? 今から俺たちはサトウを……いや違うな。魔王を殺す』


『それを伝える為にわざわざ連絡を取ったのか。別に言われなくて死体の山を見れば誰が死んでいるかはわかる。それにしてもラインがそんなことを言うなんて意外だ』


『俺だからやるんだよ。ラフィアも気持ちは一緒だと思いたいが、彼女には伝えていない。あいつは俺よりも甘い。きっとどこかで手を抜く』


『ラインなら俺を殺せるというのか? 一度は俺を好きと言って子どもまで産んで、更には俺は娘のキュロットの姿で愛してくれたのに。冷酷な人間だな』


『冷酷はどっちだ。今のお前は俺の好きなサトウと俺の好きなキュロットを語る魔王だ。顔も似せているだけで中身は残忍なままのアルベール王国の敵でしかない』


『悲しいな、それは』


『嘘をつくな』


『本当だ。俺は好きな人を手にかけないといけないわけか。しかも、二人も』


『……そっちにラフィアはいるのか?』


『いないが』


『そうか。俺もラフィアも簡単には死なない』


『魔王に生かしてもらったのに死ぬつもりか?』


『望んで生きてるわけじゃない! 国も何もかも失って頼るものがない時に唯一の光がキュロットだった。それがなんで死んだサトウとして生きてる? 何故自分の娘が愛した男に変わっているんだ? 理解できるはずもない。すべて魔王が仕組んだことだったんだな』


『それも俺が望んでいたことじゃない』


『……話をしていると決意が鈍りそうだ。次はこんな会話をできると思わないことだな』


 ラインからの通信は切れた。


「先程の人はお知り合いで?」


 俺は首を振る。


「やはり大事な方なの?」


「いや」


 俺はエルニャとサシェの二人を抱きながら言った。


「二人より大事な人はいないよ」


 別にラインが特別大事な人というわけではない。この二人もそうだがラフィア以外は魔王になる前から重要な要素とは思っていなかった。


「俺はローウェル王国に住む人々が好きなんだ」


 今バーキン連邦を動かしているのはラインとは思わなかった。彼はアルベール王国の元王族で貴族だ。そんな彼を平民が素直に従うとは思えない。それでも身分を偽れば可能だろうが、性格的に話してしまうこともある。どちらにしても敵になったというのなら仕方ない。


「イクシルはいるか?」


 兵士たちに聞くと彼が顔を出した。


「どうしました?」


「状況を聞きたい」


「第一部隊と第二部隊以外は前に出ていますが、上を取られた状態では少々厳しいですね」


「指導者が変わったことも影響してる。重要な拠点としてギャバジンがある。そこは古代都市でかつての支配者ドラゴニアたちが住んでいた場所だ。一度見たことはあるが揃わないものはないと思うほどの規模で工場などの建物が地下に作られていた」


「そこを叩けばいいわけですか」


「簡単にはいかない。あそこは魔力が届きにくく。場所も……もしかしたら変わっている可能性もある。なにせ地下だ。逃げる方法はいくらでもあるから厄介だぞ」


 以前のローウェル王国の貴族をほとんど消したせいでバーキン連邦に対する知識が不足していた。ここにいる兵士は若い者が多い。そして孤児ということになっている人間の多くはフリルから産まれたマキシマム部隊所属の兵士だ。優秀な者はいるが経験不足でまだまだ訓練が必要な奴もいる。


「今は第六部隊が前に出ていますが……下がらせたほうがいいでしょうね」


「そうしてくれ。後は俺に任せてほしい」


 一応第一部隊とは言っているがイクシルは全体の指揮をしてもらっている。こんな部隊でどちらが上かなんて大した意味はない。念の為優秀だと思われる兵士を順番に配置したが、結局本人の性格次第だとわかったので番号は飾りにしか過ぎないとわかっただけ満足している。


「ログウェル。いるか?」


「はい。なんでしょうか」


「今から戦場に行く。ここは任せた」


「わかりました」


「プラフティ」


 第六部隊のフォブレイの元に行く。彼は疲れていたようで俺が来て一瞬だけ遅れて挨拶をしてきた。他の兵士たちに命令させて一度部隊を下がらせるとフォブレイが頭を下げる。


「本当にすみません……何を言っても言い訳になるかもしれませんが、俺を……俺たちを許してほしいです」


「謝らなくてもいい。十分やってくれたじゃないか」


「今の状況だけじゃない。俺はボイスのことでも謝る必要があります」


「別に関与していたわけじゃないだろ」


「それはそうですが、気づいていたとしても報告はしなかったかもしれません。それぐらい心酔していましたから、あの人は優秀だと今でも思っています」


「優秀だからといって相性の合わない奴を受け入れても国は良くならない。あいつは元々嫌いだったよ」


「やっぱり……サトウがまだ残っている……」


「今も昔も君の友達のつもりだが、フォブレイは違うのか?」


 フォブレイは涙を見せないように背を向ける。


「友達だ」


「なら、いいさ」


 こうして他人を偽ると心のどこかで自分自身の良心が痛むような気がした。今サトウなのか魔王なのかわからない状態だ。ラフィアを手に入れるという利害が一致していなければ人格は混ざっていない。魔王に関しては彼女を殺す可能性がある。神とサトウは殺すまではしない。それでも奪おうとする気持ちのほうが優先されていた。


 ここまでくるとサトウの人間らしさのほうが強い気がするな。


 俺は自分の気持ちを整理しながら魔力を探る。第六部隊のほとんどは後ろに下がっているが、未だに追撃が激しい為攻めることが困難だ。


「ベリタはいるか?」


「はい!」


 ベリタ・マジェンタという名前だがマジェンタという家はもうない。一度彼女と旅をしたことがあるので名前は知っていたが顔はほとんど忘れてしまった。


「フォブレイと仲良くしてくれているか?」


「え? それはもちろん」


「何かあったら彼の助けになってくれ」


「わかりました! それで魔王様は今からどこに……」


「敵を蹴散らしてくる。今までありがとうな」


「それは我々がやることなのに」


「為には魔王らしいこともしないといけないからね。誰かが死ぬのは見たくないし」


「そうやってナージャやミハイルを口説いたんですか?」


「突然どうした」


「なんでもないです」


「言いたいことがあるなら言ったほうがいいぞ。いつ死ぬかわからないからね」


「今でも十分言いたいことは言っていますよ……まだ言い足りないことがあるとしたらわたしよりも彼女たち二人を選んだことです。あの時のことまだ許してないですから」


「たとえ魔王になっても駄目か」


「駄目です」


 ベリタが抱きついてくる。


「ローウェル王国の為になることなら始めから言ってくれたら良かったのに、それならミハイルだって」


「悪かったよ」


 思っていないことを言ってしまう。


「魔王になるのは偶然だったんだ。責任は今から取るよ、だから許してくれよ」


 俺から離れたベリタはフォブレイの側に行く。


「じゃあ、見せてください。その魔王の力を……あまり横暴ならわたしだって考えがありますからね」


「口には気をつけたほうがいいと思うよ。まあ、どうでもいいけどさ」


 俺は建物から出ると空を見上げる。この第六部隊はマキシギャやエンバイからなる大地を動かしているが、現在は動きやすいように分かれているようだ。少々寒さが残っているから少しマキシギャが近いのだろう。


 上空では大きな戦艦が見える。


 知っている魔力はないが移動する必要はない。遠くの戦艦にも小さい魔力はある。人間を乗せているとは都合がいい。自身の魔力を増大させて「ディアファニス」と言うと全身が透明になる。そうして遠くの魔力を感じながら自分の魔力と繋ぎ合わせる。集中を終えると「デビジア」と言って戦艦にある一人の魔力に自身を分裂させた者を送る。知らない魔力という制限と少し遠いというだけだ。別に移動なら別の方法がある。


 移動した先にいた人間は武装した平民の男性だ。一瞬魔力に気づいた様子だったが「シルディン」と言うと大人しくなった。


「ここはどこだ?」


「戦艦ギャバジンのナンバー九千です」


「随分と多いな」


 そんな数の戦艦を作っていたのか。


 魔力を探しても戦艦にいるのは一人だけだ。他の戦艦にいるのも一人分の魔力しか感じられない。


「何故一人しか乗っていないんだ?」


「誤動作した時の為に人間を配置一人はいてほしいだけで、自動で動く戦艦で消耗品に近い扱いと聞いています」


 ここにいても意味はない。ここからなら他の戦艦に移動するのも難しくはないが、下手に魔力を使うと感づかれてしまう危険性もある。


 この膨大な魔力だけで世界を滅ぼせるが滅ぼした世界で生きたいとは思わない。


「お前に命令する。誤作動が起きたと言って修理を頼んでほしい。後……命令が終わったら君は施設内の情報を俺に直接伝えてほしい」


「はい」


 兵士が出て行ってから戦艦の構造を把握しようと魔力を探る。この戦艦はゴーストブラッドを改良して作られたものだ。エネルギーが魔力だけのゴーストブラッドと違って、魔力や生物に鉱物と効率の悪いものも含まれている。単純に動かすだけなら魔力にこだわる必要がない。


 構造上改良型のゴーストブラッドは壊すのは簡単だ。魔力を注げばあっという間に破壊できる。この戦艦は俺の知るゴーストブラッドより作るのは簡単そうで九千という数字も増えている可能性があった。実際に現場を見てから破壊するか決めると先程の兵士が近づいてくる。


「到着しました」


「ここはどこだ?」


「バーキン連邦のノルチェという都市の地下です」


 そうかゴルアとツキヨはバーキン連邦とローウェル王国の地下を繋げていたな。その途中にあるノルチェを利用したというわけか。


「今君たちを導いているのは誰だ?」


「ラインという方です」


「何故元貴族のラインの味方をするんだ?」


「彼もまたローウェル王国の被害にあった方だからです」


「なるほどね。君は修理が終わるまでの間、施設内を歩いてくれ」


「はい」


 彼の隣を歩きながら外に出ると見上げるほどの大きさの戦艦が見えた。他にも複数の戦艦が修理を待っている。人間の数よりも機械の数のほうが多い。修理とはいっても壊してもいないので直せるところはないが確認の為か何度も点検をしてくれている。


 それにしてもラインが受け入れられたことも驚いたが、ここにいる貴族連中は平気な顔をして戦艦の修理を手伝っているように見える。ローデン連邦が酷いこともあってかバーキン連邦も似たような雰囲気があると思っていたが今は違うのだろうか。


 近くにいる人間はどうやら平民のようだ。彼に洗脳魔法を使用して情報を聞き出すと、どの貴族も友好的で平民と同じ待遇を望む者が多いらしい。そこが不思議で仕方ない。平民のように満足に魔法が使えないことを望むのは他国から逃げて来た者で、その他国を救う為にわざわざ平民になってまで働くのか。


 不意に魔力の反応に気づき振り向く。そこには楽しそうに酒を飲む集団を目にする。六人程度はいるが彼らは平民のようにも見えるが貴族のようにも見える。だが、決定的なのは雑談ばかりして戦艦の修理を行う様子がない。


「あっちに見える彼らはなんだ?」


「多分、元死刑囚? なのか……この国でも少々疎まれているような連中ですかね。この戦いはお金の支払いがないので働くつもりがないようです」


「有名なのか?」


「はい」


 彼らは酒を飲み終わると空き瓶を置き、どこかに行ってしまった。俺は二人に二つの命令をして元死刑囚たちの後を追う。死刑囚たちは騒ぎながら通路を歩き、前から来る機械に気づくと何かを言って手を振る。室内に入る彼らと一緒に入って、床に転がる人間の姿に驚く。どの人間も傷だらけで倒れている。男女問わず倒れているが死んでいる様子はない。


「女を寄越せと機械に言ったが連れてくるかな?」


「あいつら食事だけしか命令聞かないぞ。お前女なんかがいいのか」


「俺はここの男だな。貴族ってのは立場が弱いから命令を聞いてくれて助かるよ」


 この六人は喋ることもあれば寝始める者もいる。


「もうこいつにも飽きたし、誰かいないのか?」


「貴族のほうが面倒がなくていいが……平民とかは?」


「前にも言っただろ! ここの機械たちは元々平民を助けるようできている。下手なことして追い出されたら外に出て生きていけなくなる」


「でも、確かあいつってどっちだっけ?」


「あいつ? ああ……平民のようにも見えるが魔力をよくよく見ると若干違う気がする。あくまでも気がするだけだが」


「あの綺麗な顔の奴か! 確か元々他の王国から来たとか言っていたからいいんじゃないかな。平民と同じだけの力しか出ないということなら魔法は俺たちより使えない」


「さっきからあの女の話か? 胸がでかい奴? でも、女じゃないか?」


「そんなこと気にするのは古い奴だけだ。俺は女も大丈夫になったからな」


「ここの貴族で克服したのか」


 転がる人間の頭を踏みつける。


「そうそう! お前らもそうじゃないのか?」


「俺は元々女もいけたぞ」


「俺は違う」


 彼らは騒ぎながら会話を続けている。彼らは魔力を発見できるほどの力を持つらしい。たとえ透明になっていても魔力で見つかる可能性はある。


 しばらくすると元死刑囚たちがフルブローグで連絡を取り始めた。俺が見つかったと思ったが違ったようで「責任者を呼べ」とか騒いでいる。連絡を終えると笑い合う声が聞こえた。数分もしないうちにドアに入ってくるサテン・ジャカードの姿を見る。彼女は急いできたのか荒い息をしながら彼らに近づくと頭を下げた。


「すみません」


「ここにいる貴族たちが平民様に……神民様にさ。迷惑をかけたんだ? わかる?」


「え? 神……民? 迷惑?」


「そうだ。俺たちは神に選ばれし民だ。前の指導者クライン様も言っていたしな。それで、お前はどう責任を取るんだ?」


「そう言われても……そもそもどんなことをしたのかも言われていないのに」


「言わなくてもわかるだろ!」


 壁を叩く音が響き渡る。


 一般的な兵士よりも魔力も多いようだ。だが、魔力についての勉強は怠っているようで俺を発見できていない。


「すみません!」


「貴族ってのは昔から横暴で俺たちを見下してきた。それなら今からすることも許してくれるよな?」


 その六人は笑いながらサテンを取り囲む。


「ここにいる人たちはあなたがやったんですか?」


「俺? 誰のことだ? 確かそこに転がる男はお前だった気がするが」


「何を言ってんだよ。俺はそっちに転がる女だ」


 笑い声を聞いていたサテンは力を抜く。


「こんなこと長続きしませんよ? 今は立場として弱くても上に立つのはラインです。彼の一言があればあなたたちは」


「あ? 借り物が何を言っても通じねえよ。戦争中だからと張り付けた笑顔の平民の賛同がなければどうにもならなかったのは事実だ。あんな国を捨てた元王族は利用できるから利用しているだけだ」


「ここにいる人は優しくしてくれた!」


「形だけはな? 別にローウェル王国が好きな奴なんていない。だからといって死にたい奴はいない。困った時に現れたのが奴だ。なんと! わざわざバーキン連邦の為に戦ってくれると言ってくれたんだ!」


「先頭に立つ必要があるなら誰だってした。これは世界平和の為だ」


 サテンの言葉を聞き、また笑い声が大きくなる。


「そんな綺麗ごと言う奴のことより、明日の生活のことを大事にしてくれる奴のほうがよっぽど誠実だと思わないか?」


 一人の元死刑囚がサテンを見ると髪の毛を掴む。


「何を」


「性格は別にしても肉体として平民も貴族も変わらねえな。所詮は魔力の違いしかないからか」


 元死刑囚から離れようとしているが力が弱い。やはり魔力が制限されているようで慣れない体を上手に扱えていないように見える。


「あなたたちはどっちなの?」


「平民でも限られた人間で、特に人間として終わっている奴には薬を渡される。その薬は魔力を与える代わりに命を削る。薬を渡された死刑囚は国の為に働く義務がある。でも……バーキン連邦ってもうないんだよね」


 遠くの魔力を探ろうとするも室内は魔力が分かりにくい。ここで何をしても魔力で誰かに見つかるわけではないが、俺が何かをしたと思われると面倒だ。ここでの情報は十分聞き出せたから分裂を解除しても良かったのに足が動かない。


 あのサテンの顔を見ると何故か同じような光景を考える。どうでもいいと思っていた心が佐藤星(さとうせい)としての気持ちが制御できない。


 サテンの周囲にいる人間を見て呟く。


「イグラシア」


 彼らの体が徐々に膨らんでいく。その光景を見てサテンは逃げようとするも逃げ道を塞ぐように手を広げる。膨らんでいく肉体を見ていた別の人間にも水分魔法を使う。使えそうな元死刑囚一人を残して五人は肉体が膨らんでいくのを止められない。


「なんだ? こいつら? お前何かしたか?」


「してないよ!」


 慌てるサテンを掴もうとするもサテンは室内から逃げ出した。追いかけようとするがバランスを崩して床を転げ回っている。


 突然のことに頭が混乱している様子で痛そうな顔をしている。


 これがローウェル王国の王族が使える魔法だと知っている者は少ない。


 他の五人は順番に爆発を起こしていく。体内の水分を使用した爆発だが強力なものだが、あまり魔力を込めなかったこともあって爆発は最小限になった。だが、確実に死んだことは間違いない。


 俺は壁に背を預けて血だらけになった床を見ると、倒れていた何人かの人間が慌てた様子で逃げ始めた。爆発の音や血を浴びたことで倒れていた貴族たちも驚いたのだろう。逃げていく者を見つめていた元死刑囚の生き残りはドアが開くのを見て顔を青くさせる。そこにはサテンと一緒にゴルアがいたからだ。ため息をつくゴルアと睨みつけるサテンに必死の懇願をするも受け入れてくれる様子はない。


「この貴族がやったんだ!」


「そんな魔法ないだろ。大体、君のほうが実力は上だ」


 ゴルアが呆れるように言うと彼はゴルアの腕を掴む。


「貴族なんだから俺より強いのは当たり前だろ!」


「単純な強さは魔力だけで決まらないことはバーキン連邦にいるなら知っているはずだ。しかし、こんな連中がいたのか……」


「そうですよ。いくら平民の国だからって管理はしてください。これだと連携ができません」


「まあ、こういう人間がいるなら必要か。あまり賢くないようだから……機械にも劣るから扱いに困るな。悪いことをしたな、サテン。俺もまだまだ人間について理解してなかったよ」


 元死刑囚を連れて行くゴルアが一瞬こちらを見ていた気がした。それも気のせいか室内は血で染まった空間だけが残った。


 俺は誰もいない室内で待っていると警報が鳴り始めた。その音を聞くとドアを開けて通路を歩く。歩きながら近くにいる人たちの会話を聞く。


「どういうことだ! 警報装置が鳴り止まないぞ!」


「あっちでは人が死んでいるとか聞いたが、何が起こっているんだ!」


「戦艦が爆発したことだろ?」


「違う! 人が破裂したとかで事件が起きているぞ。犯人はよく酒で暴れていた元死刑囚だ」


 通路を歩きながら二人がいるはずの場所に行くと血を流して倒れていた。戦艦がある場所から少し離れたところで手を繋ぎ口から血を吐いている。

 

 俺は分裂を解除して空を見上げる。まだ上空の戦艦は見えるが攻撃は以前ほど激しくないようだ。分裂した状態で同時に体を動かすのは疲れるから気づかれなくて安心する。透明魔法も解除をすると息を整えて空に浮かぶ戦艦を見ながら「ベリウーテ」と言う。そうすると次々と戦艦は方向転換をしていく。ローウェル王国の兵士たちは武器を構えるのを止めて安心した様子になっている。


 ベリタが走って近づいてきた。


「これはあなたが?」


「今頃戦艦は味方の基地を攻撃しているはずだ」


 ベリタの安心するような顔を見て俺は背伸びをした。

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