61:宣戦布告
フェザー連邦をローウェル王国に組み込んでから活発化した情報の共有と、強引に進めたローウェル王国の兵士の機械化に積極的なビジネスで物的資源の製造を開始した。違法だったフェザー連邦との取引も合法にしたことで高度な技術がローウェル王国に流れた。反発するフェザー連邦を金で有利に進め、異性や同性の力も借りてフェザー連邦を従属国とした。
その後に大軍を動かす余裕などないと思っていたバーキン連邦が宣戦布告したことで、ローウェル王国内は多少の動揺が広がっていた。一度目はプリミティブ島を襲い、二度目はルーロブやマグノメリアを攻めた。その後はノルチェを占領したことで勢力を伸ばして、最終的には首都エドワルドを攻め落とした。他の都市を完全に攻め落としていなかったこともあって一度落とした首都エドワルドを奪還された。本来ならいるはずのない場所から突然現れた軍隊の存在に心当たりがあった。元々アニリンには軍隊はいないはずで一般市民だけしかいない。だが、そこに大量の機械兵団と大勢の人間からなる軍隊が現れたのはギャバジンが関わっていると思われる。
他にローウェル王国を脅かす存在はこの世には存在しない。
バーキン連邦はクライン・カモージュという国の指導者を失ったことで報復攻撃に出た。彼はバーキン連邦では重要な位置にいる人間でバーキン連邦が誕生した時からいるらしい。指導者を失ったバーキン連邦を支える者などいないと思ったが誰がバーキン連邦を動かしているのだろうか。
「きっとヨークド・ギルルだろう。それかピロトグル・グラデイか。いや、サルエル・フレームか……彼はそんなことしないか」
「やはりバーキン連邦については詳しいな」
「バーキン連邦だけじゃないさ」
「それより今更だが俺の味方になる決意はできたんだな?」
「この状況で言うなんて意地悪だな」
サシェは悲しそうにうつむく。
「グラードとして長年生きてきて思ったことがあった。もう生きるのに疲れたんだ。この肉体は長く生きようとすれば簡単だ。パーツを入れ替えればいいだけだからな……以前の魔王もそれに対抗する人間も争いばかりで終わりがない」
「心まで入れ替えることはできない」
「ああ……」
俺がサシェに微笑んでいるとエルニャが咳払いをする。
「どうした?」
「どうしたじゃありません。魔王様は何故そんな平民を側に置いているのですか? わたしでは不満ですか?」
「彼女はこのローウェル王国に必要な人間だよ。そしてエルニャも同じくらい必要だと思っている。そこに違いがあるとは思っていない」
「平民は平民で貴族は貴族です」
「じゃあさ、今の君はどっち?」
「それを言われると困ります」
「仲良くしてくれ」
「俺は別に貴族を嫌っているわけじゃない。それにエルニャは貴族というにはちょっと」
「サシェ? わたしは今でも貴族のつもりです」
「魔力としては平民だなと思っただけだ。悪く言うつもりはなかった。すまない」
「……サシェはやりにくいわ」
「これでもサシェは結構歳を重ねているからな」
サシェは俺を睨みつけるがため息をつく。
「はあ……惚れた弱みか怒る気にもなれん」
「魔王様だからみんなに好かれて当然でしょ」
「エルニャはローウェル王国で産まれたからわからないかもだが、魔王というのは畏怖の存在で本来好きになるようなものじゃない。これは抗えない本能だよ……魔力を持たない機械ならそうでもないが」
「そんなに悪いこと? 生物として当たり前のことじゃないの? わたしだって顔が綺麗な人や肌が綺麗な人とか、優しい性格の人を好きになることもある。魔力で人を好きになれないってのは平民らしい意見だね」
「そう言われると言い返せないな。こっちだと魔力以外の要素のほうが恋愛としては重要だったからさ」
二人の会話を聞いているとログウェルがやってきた。
「魔王様、準備が整いました。すぐにでもバーキン連邦での戦いを再開できます」
「今行く」
「それとラフィアの件はどうしましょうか?」
「それは後で構わん。どうせ大した力はない」
「わかりました。第三部隊だけ向かわせて他はバーキン連邦に行きます。連絡はないですが、もうラフィアと接触しているはずです」
ラフィアは強いが一人ではどうにもならない。面倒なことになるとしたらバーキン連邦の連中だ。長い歴史の中で彼らを倒せなかったのは魔王の怠慢もあるが、魔王自身も何度倒しても立ち向かってくる敵に嫌気が差していた。それほどまでにしぶとい平民たちを有効活用する方法も技術力というローウェル王国でも扱えるものしかない。魔王の肉体と相性のいい貴族たちと違って平民には魔王の遺伝子が宿りにくい傾向がある。
俺はため息をつく。
「魔王様?」
エルニャが俺の顔を覗き込む。
「バーキン連邦を叩き潰す方法が思いつかん。奴らを倒しても簡単に復活してくる」
「思ったんだけど、叩き潰す必要はないんじゃないですか?」
「どういうことだ?」
「魔王様を好きになってもらえばいいんですよ。愛の侵略戦争を行えばいいわけで」
「エルニャは平民が嫌いじゃなかったのか?」
サシェの顔を楽しそうに見えるエルニャが言った。
「サシェを見て気が変わったの」
「具体的には?」
「魔王様が敵とキスをする、それでハッピーエンドです」
「なるほど。君らしい頭の悪い、あまりにも無茶苦茶な方法だね」
隣で見ていたサシェが口を挟む。
「代案もないのによく生意気なことが言えるね」
「悪いことを言ったな。でも、一番血が流れない方法を選んだのはいいことだ。確かにこいつの魔力には抗えない魅力がある。それでもあくまでも本能に従っているだけで意外と抗おうとすれば簡単だ。俺は魔王に従ってはいるが好きな気持ちが強いからだ。そしてどれほど好きでも相手の言うことを素直に聞く奴ばかりじゃない」
「今言ったのは抵抗してくるけど、こちらに害をもたらす危険がない人間にはという意味。魔王の本能に抗える人間なら願い下げよ。死んで構わないわ」
「それなら俺は死ねるかもしれないな」
俺の顔を見てサシェが「冗談だ」と言った。
「どっちにしても攻撃してくるならやることは一つしかない。以前の魔王がやらなかった方法を試してみるというのもやる価値はある。まずは殲滅をしてからだ。そこで生き残った者をこちらが選ぶことにしようか」
まるでこう話をしていると俺が悪者のような気分になってくる。
「なにかおかしなところがありましたか?」
「いや、魔王になってから人を殺すことに躊躇がなくなったと思ってな」
「サトウ……」
「なんだよ、サシェは俺を魔王と呼ばないんだな」
「二人でいる時はな」
「別に二人でいるわけじゃないですけどね」
ログウェルの声を聞き向き直ると彼女は呆れるような顔をしている。
「他の方々もいますからほどほどに」
「魔王様はエルニャという可愛い女性を忘れているようですね」
「みんな可愛いよ。もちろん、ログウェルもね」
「ありがとうございます」
「俺は?」
作戦内容を決めていたイクシルが突然前に出てきた。
「当たり前だ。イクシルも一番好きな人だよ」
こんなことを言っているが別に特別な関係な人は一人もいない。俺が求めているのはラフィアだけで他はどうでも良かった。
「さあ、みんなバーキン連邦を攻め落としてみせようか。ローウェル王国に従うつもりのある者がいれば争いも終わる。この戦争で活躍した者には魔王から……この世のすべてを与えよう」
バーキン連邦が消えれば事実上ローウェル王国一強となる。我々に勝てる国は他にいなくなるので不可能なことなどない。
一度戻した都市ローウェルをまた空に浮かべてバーキン連邦へと向かう。道中他の部隊が合流して作戦会議を行った。重要な作戦はフルブローグで行わないことにしたのは盗聴の危険性があるからだ。ローウェル王国ができることなら他国も扱える。
「魔王様!」
焦った様子のエルニャが近づいてくる。
「先程他の部隊の方と話をしていると数日前にラフィアを逃したとの話を聞きまして……あの第三部隊の連中報告をしなかったんです! どうにもレリーフが魔王様には言わないよう部下に口止めをしていたみたいで」
「ラフィアがどこに行ったかわからないのか?」
「そうみたいです。レリーフの処分はどうしますか? 殺しますか?」
「今のエルニャじゃ無理だ。それにレリーフも悪気があったわけじゃないだろ。二度目はないと言ってから次からはすぐに連絡をするように伝えてね」
「はい。わかりました。すみません」
フェザー連邦を攻めていた時にラフィアと会っていたが報告をしなかったか。彼の性格は多少知っているが部隊を任せられると信じていたが期待外れのようだな。
「後さ……エルニャが謝るようなことじゃないよ。レリーフは直接謝ってほしいからさ」
第三部隊に彼を選んだのは特別ば理由があったわけじゃない。隊長に選んだ人物は能力だけで人格は二の次だ。その能力も他人からの評価が直接の決め手だ。ローウェル王国を守る為に俺が国の為にと考えたものだが、元々素人が国の運営なんてできるはずもない。魔王としての経験があっても俺の人格は佐藤星で彼の影響には抗えないことのほうが多い。その肝心の魔王も国の運営に興味があった様子もないから何度も滅びてきた。
エルニャが去って行くのを見て他の部隊からの報告を聞く。フルブローグでの報告を使わないと一度決めてからは俺の意見を聞きに来た人で溢れていた。
第四部隊はフェザー連邦で残って仕事を任せているが、第三部隊は他の部隊と同じくバーキン連邦に行くことになった。レリーフは非常に青い顔をして俺との会話を早く終わらせたい気持ちが伝わってきた。
「そうか。頑張ったんだな、次からは報告だけは頼む」
「はい! 魔王様!」
ドアを閉めてレリーフが去ると隣にいたサシェが耳元で囁く「あいつ俺を見ていたが何か嫌なところでもあったのかな」と口にした時ログウェルがサシェに近づいた。
「あの男返事だけはいいのよね……多分サシェが平民だからだね。あいつ平民に親を殺されたことがあるから」
「そうなんだ。というか耳いいな」
「魔力があると便利なんだよ」
「俺も魔力があっても扱いが下手だからな」
「よく生き残ってこれたね」
「俺みたいな平民が多いとは思わないが、平民ってのは貴族よりも強い奴はいるんだよ」
「へえ、そう。魔王様もとんでもない奴を捕まえましたね」
「別に平民でも悪い奴ばかりじゃないからさ」
ログウェルは真剣な表情になる。
「それでも殺すというわけですね」
「嫌いだから殺すなんて単純な理由じゃない。ローウェル王国にとって必要じゃない奴だけを殺す。他に必要なら別に理由なく滅ぼす必要なんてないと思うよ。サシェには悪いことをしたと思っているけどさ」
今バーキン連邦に向かっている他の部隊がどれほど戦えるかわからない。ギャバジンにいる機械は元々ローウェル王国を倒す為のものだと以前ゴルアが言っていた。もしも彼がこの戦いに参戦していたのなら戦いは厳しいものになるだろう。俺にとってはその戦いも望むところだ。たとえ一度会った奴でも敵になったのなら容赦はしない。




