60:元王女の努力
これが軽率な行動の結果かと深く反省して出口を目指す。逃げようとするもガルメアの鞭のような剣が瓦礫の山から襲いかかる。魔力を込めた右腕で剣を弾き飛ばすと、ガルメアは弾かれた剣により真っ二つになってしまった。蛇のようにいつまでも動き続ける剣は周囲にいた女性たちをも巻き込み切り刻んでいく。建物の外には何人かがわたしが出てくるのを待っているようだ。
「あ……」
不意に声が聞こえた。地面に転がる一人の女性に目がいく。ガルメアから少し離れた位置にいた女性のようだが、先程弾き飛ばした剣の餌食になったようで両足がなかった。彼女を支えようとするも大量の血が手につく。死が近づいているのを知り彼女は微笑む。
「やっと……これで」
彼女はわたしの腕の中で死んでしまった。ここにいるのはガルメアが侍らせていた女性たちのようだ。ロアマルも同じことをしていたが報われない。
ここでは埋葬してやることも無理だった。
わたしは目を伏せると兵士の足音を聞き立ち上がる。武器を手にした兵士の集団からキャリバーの姿が見えた。あまり話をしたことはなかったが、しばらく見ないうちに少し老けたようにも感じる。
大勢の兵士は持っていた剣を地面に投げ捨てた。剣は方向を変えて一直線に向かってくる。避けようとするも何本かは避けられずに刺さってしまった。そう思っていたが痛みはない。剣の行方を探すと浮かび上がりながら持ち主の元へと帰っていく。兵士たちは剣を腰に戻すとまたわたしに向き直る。刺されたはずが血も出ない。
自分のお腹を確認していると前に出てくる人物が笑っているのが見えた。
「よう、ラフィア」
彼は確かレリーフ・オリエンタルで以前会ったことがあった。
後ろに下がろうとするも足が動かせない。
「動けないだろ?」
違和感を探ろうと魔力を感じていると、この場にいるすべての兵士と魔力で繋がっている。誰かと魔力で繋がるには脳をいじるぐらい強引にしなければならない。細かな魔力操作となると僅かな気の緩みも許されないが、ここにいる兵士は全員できるというのだろうか。
「剣か」
「これも本来バーキン連邦のものみたいで、今は我々が利用させてもらっている」
頭は働くが自分の体を動かそうとすると拒絶反応がある。手が勝手に右腕を外そうと動くも集中して魔力を込めて肉体の主導権を維持している。
「魔王様もどういう理由かは知らないが、貴様を生きて捕らえろというので仕方ない。本来なら俺がこの手で殺してやりたいぐらいだ。あの時はよくもやってくれたな」
「あれはすまなかった。当時は……色々とあったんだ」
「そう言えば何をしても許されるわけじゃないだろ」
口は動くが他はまったく動かせない状態で右腕を外そうという行為。これは事前に決められた行動しか取れないよう設定されている。バーキン連邦で作られたものということは魔力操作が得意ではない兵士目的の武器だ。人を殺す目的で作られたものではない。相手に害となる行動をさせないことが条件で他のことなら体は動かせる。
「ここには魔王はいるのか?」
「魔王様も忙しい。貴様に構っている暇はない」
「何故わたしを狙うんだ?」
「そんなこと知らん」
「確かレリーフだったな。本当はわたしを殺したいんじゃないのか?」
「殺したいさ。でも、魔王様には逆らえない」
「なら殺す以外ならできるってことだろ」
「確かに」
レリーフは全体に命令を出そうとしていたがキャリバーがレリーフに近づく。
「待て、ラフィアを捕らえることが目的だ。重要なのは魔王様の命令で我々は黙って従うしかない」
「お前俺に命令する立場か?」
「何度も言うが魔王様の命令で俺の命令じゃない。レリーフは慎重に行動するべきだ」
レリーフはキャリバーを殴り飛ばす。
「だから俺に命令できる立場になってから言え。全員ラフィアの拘束を解除しろ。俺はこういう女が気に入らないんだ」
「待て、レリーフ!」
「今と昔で魔力の量が違うことは誰にでもわかることだ。キャリバーはやはり無能だ。魔王様は一度お前に第三部隊を任せようとしたが、俺が先陣を切るに相応しい実力を持っていると説明すると俺を指名したんだよ。わかったらいい加減口を閉じろ!」
キャリバーを踏みつけるレリーフは兵士たちに命令して拘束を解除させる。
「かかってこい。死なない程度なら何をしても問題ない」
彼らはわたしが丸腰に見えるらしい。それでいて魔力が非常に少ない平民程度にしか思っていない。キャリバーが警戒している理由はわからないが都合のいい状況だ。
腰にある大きな銃を手に持つと撃ち始めた。魔力が込められた弾丸のようで残弾を気にしている様子もない。わたしの背後にいる兵士にも当たりそうなものだが、上手に狙いを外しているようで腕は確かだ。
「何故当たらない?」
周囲を囲む兵士たちはわたしに攻撃を仕掛けてくる様子がない。レリーフが放つ弾丸を避けながら全身に魔力を均一に流していく。普段ならやらない筋肉や皮膚に毛など、肉体の細部にまで魔力を込める。何度も魔力を制限させられてきたことで、小さな魔力を持つ者でも全身に魔力を行き渡らせる訓練はできた。昔からサトウやフランネルを見て努力してきた。今までのギャバジンやプリミティブでの生活は無駄じゃなかった。
「当たれ! なんで当たらないんだ! 俺は攻撃を外したことがないんだ!」
「子どものように騒ぐな」
「ラフィア……俺はお前を許したことはない」
「それは聞いた」
「お前のような恥ずべき存在は生きていちゃいけないんだ。貴族でありながら平民と同じだけの魔力しか持たない弱い人間は……死なないといけない」
彼は大きな銃を地面に落とすと両手に魔力を込める。両手の中心に集めた魔力を平らに伸ばしていくと巨大な剣となり振り下ろした。横に避けると巨大な剣を薙ぎ払うもわたしは巨大な剣に触れながら飛び跳ねる。周囲にいた兵士ごと斬ったようで腹部から血を流して倒れている者が多い。わたしの背後にいた兵士を気にすることもなく何度も斬ろうと試みるが、まったく斬れないことに苛立つレリーフは踏みつけていたキャリバーを蹴り飛ばした。
「お前みたいな奴に何故……何故親は殺されなければならなかったんだ」
「親をわたしが殺した?」
「お前じゃない。平民にだ! 平民はすべて貴族以下の存在で魔力がまったくない。それなのに貴族よりも強い……」
「平民は貴族より弱い。ただ、努力次第では強くなるというだけだ。それに今のも八つ当たりみたいだしな。レリーフは本当にローウェル王国に相応しい人間だよ」
後ろを向くと兵士たちの死体で溢れている。退路は確保できたがレリーフの攻撃を止めない限りは追われるだけだ。
「レリーフは国を売ってローウェル王国に来た醜い人間だ。そんなのよりは平民のほうが生きている価値はあると思うよ」
「ラフィア!」
彼は腰に持っている剣を投げ飛ばすと一瞬でわたしの体を貫通していった。
「へえ、口だけは達者だがもう動けないだろ」
レリーフが近づき銃をわたしの額に当てる。
「レリーフ! 目的は捕らえることだ!」
「黙ってろ! キャリバー!」
躊躇うことなく引き金を引いた彼から笑顔が消えた。
「弾丸が……消えた?」
「体に魔力を流せば少しは頑丈になる」
「魔力を体に流してできるのは僅かな身体強化だ。目が良く見えたり足を速く動かせたりで根本的な強化は基礎魔法で行う。お前もその程度できるのは知っているぞ」
「基礎魔法ならもっと目に見えるはずだ。これはただ魔力を流しているだけだ」
キャリバーの言葉を聞きレリーフはわたしの体を見る。
「魔力と魔法の違いもわからないとはね。どう? 何かわたしを見てわかった?」
「魔力は生物に宿る普遍的な特徴だ。それそのものに意味なんてない! 魔法は攻撃や防御にも臨機応変な武器というのは俺だってわかるさ」
基礎魔法という名前でしか覚えられていないほど一般的な魔法は、他の魔法が必要なくなるほど便利なものだ。魔力を扱える者なら覚えれば簡単に扱える。それ故にローウェルの王族からは嫌われてきたほど面白みのない魔法だ。
ただ、魔法ばかり重視するのも考えものだ。魔力は血液、魔法は筋肉。その程度の認識くらいは考えてもいいが誰もが魔法ばかりにこだわる。魔力の上に魔法が成り立つが結局は魔法なんて使うのは人間しかいない。
魔法は最終手段にはならない。
「わかってないから言っているんだよ」
わたしは銃を掴むと握り潰した。
「え?」
レリーフの腹を殴ると彼は嘔吐を繰り返しながらわたしを見る。
「う、動けるはずがない!」
他人の魔力を自分で繋げたことがあればわかる。他人の魔力を切断するのも繋げるのも楽な作業じゃない。自分の体のことがわからないと魔力も上手には扱えない。機械で強引に繋げた魔力で他人を動かしても自分の魔力なら切るのは簡単だ。
「ラフィア・ローウェルって何にも才能がない王族だって聞いたのに」
「そうだよ。王族が使える魔法を使えない無能で、魔力も他の貴族よりなくて弱い存在だ」
皮膚や筋肉に流せば下手な魔法より効率よく防御に使える。魔法なんて所詮体外に魔力を注ぐ程度のことで、魔力とはやり方の違いでしかない。集中力が必要な作業だが自分が劣った存在だと言われて生きてきたのだから努力するのは当たり前のことだ。
人間の魔力はあまり感じられないのはレリーフの攻撃に巻き込まれたからだろう。
わたしは急いで後ろを向き全速力で走り出した。
「逃げるのか!」
レリーフが立ち上がり大きな剣を上空に複数作り上げた。
「あ、あいつ! まだ仲間がいるのに!」
辺り一帯を吹き飛ばすほどの大きさの剣を見て、わたしはレリーフに向き直り右腕に魔力を流す。そうして巨大な腕に変形させて複数あった大きな剣を掴んだ。消え去った剣を確認すると一気に追いつかれないように逃げ始めた。




