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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第四章 魔王編

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57:怪しい女性

 フェザー連邦までは穏やかな海の上を歩くことになる。移動用の乗り物があるとも言われたが急ぎの用事でもない。空を飛ぶ鳥たちの鳴き声を聞きながら背伸びをする。室内で考え事をしてばかりだと気持ちも沈んでいく。こうして外に出る機会があるなら動くのも気分転換にはいい。後ろからついてくる二人は殲滅させるつもりのようだが、別にフェザー連邦で行うことなんてローウェル王国に害になる奴を探し出すだけだ。排除するかどうかは俺の一存で決まるものだ。グラードがどういう立場で今動いているのかわからないならわざわざ敵対する必要もなくなる。


 フェザー連邦に近づいてくると何人かの人間が船の上から俺を見てくる。漁にでも行ってきた帰りなのだろう。大量の魚を持ち帰ってきているのを見ていると警戒されてしまった。事前に通達をしたはずなのにフェザー連邦に近づくだけで怪しまれる。


 ローウェル王国とフェザー連邦は良好な関係を築けているが、それは上層部の判断で一般市民はあまり良い印象を持っていないようだ。


 兵士たちに連れられて堂々と入国する。以前も何度か来たことはあるが正規の手続きを経て来るのは気持ちがいい。周囲の目を気にしながらフェザー連邦に来るのは同じだが、今は魔王として入っているのだからようやく世界に馴染んだ気分だ。


 クルタとミュールにも周囲を見てもらっているが期待はしていない。グラードの顔を知らないこと以上に魔力を探すのが下手だからだ。俺はキュロットで十年以上も平民として暮らしてきた。どれほど小さい魔力だとしても近づけば多少は特徴があるものだ。このローウェル王国で生きていると周りは膨大な魔力の持ち主ばかりでわざわざ集中することもない。


 隣にいる二人は必死に辺りを探すもすべて同じ魔力にしか見えない。人間か他の生物かの違いは魔力の大きさ程度で、貴族は基本的には平民を人間として扱わないのは魔力の大きさにも関係する。


 フェザー連邦にあるクロノセンターに入る。魔王としての顔を知らぬ者や既に知っている者など情報の格差はあるが、魔力で貴族というのはわかるようで近づいてこない。受付で話をすると数人が案内役として挨拶をしてきた。事前連絡では技術を見せてもらう程度のことしか言っていない。実質的に他国を支配していたとしてもこれ以上の好き勝手な行動は許してはくれないはずだ。


「こ、こちらで今技術開発を行っている最中です」


 この女性の声からは少し震えが感じられる。俺の目を見るのが怖いようで見られているのがわかるとすぐに目を逸らす。それでも一瞬で笑顔に切り替わるのだから接待というのも大変だ。


 室内を見て回るとドラゴニアが立っていた。以前ローウェル王国で暴れた者を連れてきて更に改造を施したものだ。


「こちらはドラゴマニアで人間より遥かに優秀な人工知能とドラゴンの肉体に、様々な生物の遺伝子を組み合わせた生命体です」


 よく見てみればクワントがドラゴニアになった時に似ている気がする。


「人間も入っているのか?」


「はい。人間も僅かだけですが入っています。それは古代文明の支配者ドラゴニアを再現する為に遺伝子情報が必要だったからです。当然フェザー連邦やローウェル王国からの罪人が入っています」


 このクロノセンターで魔力を探していたがグラードの魔力は感じられない。ここほど重要な施設はないはずだが彼はどこにいるのだろうか。


「このドラゴニアに意識はあるのか?」


「ありません。脳をいじられていたようで言葉などがきっかけとなって行動する生物兵器として、バーキン連邦で作られていた可能性があります。現在自動で動くように調整しているところです」


「なるほど、ありがとう」


 俺はグラードの姿が見えないことからクロノセンターを出ようとする。後ろにいたクルタが立ち止まり、フルブローグから通信が入ったのか真剣な表情になっていた。


 クルタはため息をつく。


「魔王様、ラフィアを発見しましたが……逃がしてしまったようです」


「そうか。急がなくても見つかる」


 クルタにそう言ってから周囲の目を見る。誰も敵対するつもりがない様子で関わるのも面倒と思って目を合わせようとしないが、一人だけこちらを見ている者がいた。年老いた女性で俺と目が合うと笑顔になって廊下に出て行く。


「聞きたいんだが、このクロノセンターに年老いた女性はどの程度働いているか?」


「いると思いますけど」


「顔写真は?」


「はい、こちらに」


 彼女が手元の端末で見せてくれたものは、クロノセンターで働く一定以上の年齢に達した女性の顔写真だった。そこには先程見た顔の女性はいたが今日は出勤していないようだ。技術を見せてもらい、更には他国の人間の情報まで見せてもらっている。深入りして関係が悪くなるとドラゴマニアをローウェル王国に使いかねない。フェザー連邦を疑うつもりはないが、用心の為にクロノセンターにはローウェル王国の人間を配置してある。


 魔力を探るも先程の老いた女性はどこにもいない。もしかしたら先程の女性が顔を変えたグラードなのではと考えたが人違いの可能性もある。


 建物内を隅々まで案内させて昼になってしまった。どの道グラードが見つからないならとテーパード工場に行くことになった。この工場は他の連邦でも活用されている人間製造機の大半を作っている。平民は子どもを自主的には作れない。その為に遺伝子改良までしないとならなくなった。


 工場内では赤や青からなる果物のような膨らみのある植物が土から生えていた。大きなガラスケース内にある果物を管理しているようだ。案内役からはこれが人間になるというのだが植物にしか見えない。ドラゴニアが元々人間で動物なのだと思っていたが、植物に近いのかと考えていると先程の女性の魔力を感じて「プラフティ」と言って移動した。一緒にいた二人を連れて移動したので驚いていたが、一番驚いていたのは年老いた女性のほうだった。


「何故ここが……」


 クロノセンターからテーパード工場までの広範囲で魔力を探すとフェザー連邦の地下深くにいた。


「ちょっと気になってな」


 魔力を確認してみるがやはりグラードの魔力ではない。


「ちなみにここはどこだ?」


「地下だ」


「わかるか? 俺は魔王なんだが」


「わかりますよ。その魔力……その顔……」


「あなたはクロノセンターにもいたが、どういう立場なんだ?」


 年老いた女性は室内を見回すと背後にあった丸いボールのようなものを掴む。隣にいた二人が突然倒れ始める。異常を感じたのは、その時だった。急激に変化する気温に気づく。クルタとミュールの急激な魔力の減少と肉体の変化。呼吸ができず苦しんでいる。一瞬の変化に二人の命が危ないことを予感させた。


 俺はその女性が持つ丸いボールを基礎魔法で破裂させる。室内の気温など違和感はなくなっていた。魔王の肉体でなければ俺も死んでいただろう。隣の二人を見ると息はあるようで結構危ない状況なのは間違いなかったようだ。肌に触れるとクルタは体中を震えさせて俺を見てくる。


「魔王様……逃げ……ています」


 室内には俺を含めて三人しかいない。ミュールは目を覚まさないが生きてはいるようだ。二人を両脇に抱えて立ち上がる。


「何故……魔王様……後を追わないので?」


 言葉が上手に喋れないのかクルタは息をするのがやっとのようだ。


「あまり喋るな。都市ローウェルに戻る」


「え? 待ってください……そんな」


「そんな状態の二人を置いておけない」


 この部屋を見回すが重要なものは置いていない。ここに長くいても無駄のようだ。俺は魔力を集中してテーパード工場にいる案内役の元に移動する。突然移動してきた俺に驚きはしたが深く言及はしなかった。その顔は恐怖に染まっているようで悲しい気持ちになった。案内役の女性にローウェル王国に帰ることを伝える。ある程度の日程変更は許容してくれると思い、また後日フェザー連邦に来ることも伝えてローウェル王国に帰った。


 二人を連れ帰りローウェル王国の部下たちに状況を伝える。怪しい動きをする奴がいることやクルタやミュールが攻撃されたことだけを言ったのだが、何故だか妙な空気になっていた。二人がやられたことに頭にきているようで兵士たちは騒がしくなっている。


 名前も覚えていない若い男性が声を上げている。


「今こそフェザー連邦を叩く時がきた!」


 若い男性を見ていると誰かが隊長やイクシルとか言っているのが聞こえる。そういえばそんな名前だった。彼みたいなかっこいい奴が熱いことを考えてみんなを引っ張るならローウェル王国も安泰だと思い目を閉じる。


「魔王様」


「ん」


 俺は目を開けると目の前には若い女性が立っていた。


「クルタとミュールを助けてくれてありがとうございます」


「人として当然のことをしただけだ」


「やはり今度の魔王様は……お優しい……好き」


 やはり魔力で人を好きになるというのは本当のことなのだろうか。以前よりも周りの人間が尊敬の眼差しで俺を見るように感じる。


「誰だっけ?」


「わ、わたしはログウェル・コスピアンです」


「ナージャと同じコスピアンか」


 その名前を出すと綺麗な顔が嘘のようになり険しい顔になる。


「はい、あの裏切り者と同じ……違うのは魔王様に対する忠誠心だけです」


 結果だけ見れば彼女も魔王を手伝ったようなものなのだが周囲の反応は違うようだ。


「ナージャだけは許せません」


「別に許してもいいだろ」


「命で償ってもらいます」


「まあ、死んでもいいか」


「わたしたちマキシマム部隊は血の掟でローウェル王国と魔王様に忠誠を誓うことが義務付けられています。何故裏切ることができるのか……理解に苦しむのはわたしだけじゃないです」


 他にもマキシマム部隊がいるのか何人かは頷いている。そこまで睨むほどなのかわからないがナージャの居場所を伝えておこう。


「彼女ならバーキン連邦にいると思うが……今はどこにいるかわからないな。どの道平民として他国に紛れて暮らしているだろうな」


 あれから一度も会ったことがないけど、同じギャバジンにいるかもわからない。


「そうですか、わかりました。ラフィアのことと並行して探すことにします」


「やりたいなら好きにしな」


「ありがとうございます」


 別に仲間意識でクルタとミュールを連れ帰ったつもりはない。それなのに何故か俺を見る目が変わったように感じる。本気で怒っていたら俺の手でフェザー連邦を壊すことなんて簡単だ。それもわからないのか部下にやらせるのが一番と勝手に思っているのか。彼らはフェザー連邦を攻めるつもりでいる。


 やはり完全に魔王になったつもりでも佐藤星(さとうせい)としての自我が残っている。割り切れない感情はあるが、それもラフィアという女性を考えれば大したことじゃない。彼女とこれほど離れているのに徐々に女神としての力が溢れているのがわかる。魔王と神が混ざったことで自然と人間を愛することもできた。


 相反する感情を持ちながら人間を殺すのか。


 俺は椅子に深く座り作戦会議を行うイクシルたちの声を聞きながら目を閉じた。疲れからか魔王や神の力のせいか眠ることが多くなってきた。眠っていても耳も目も見える。彼らの声を聞き時には口出してをしながらより深く眠る。

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