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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第四章 魔王編

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56:ローデン連邦に流れ着く

 内部に漂う僅かな悪臭はカビのようで一部の部屋などには土や木が侵入して、随分と経過しているようで手入れの行き届かない場所が多い。わたしが知る限りはローウェル王国に地下施設はなかった。ここまで下だと一部は海に浸かっていたのではないかとすら考えられる。窓枠を確認すると若干の隙間があるので海水も入ってきているのかもしれない。天井を見ると水が溢れているのが見える。配管が老朽化しているのかわからないが、この地下施設は相当古いものだ。

 

 もう一度割れたガラス窓から外を覗く。この大地に設置された機械も古いものを使用していた。手に少し触れるだけでガラスは崩れてしまう。どの時代に作られたものか不明だが外部と内部も脆さに変わりはないが、現在空を飛ぶ為の推進力をもたらす機械は頑丈そうだった。


 フェザー連邦やバーキン連邦で見てきたものからして、これも古代文明の遺産なんだろうか。


 考えることは山積みで廊下を歩きながら魔王の行動についても考える。もしもわたしが目的ならバーキン連邦を離れれば国に被害が出ることはない。ギャバジンにいる者を安心させることができる。このローウェル王国にいることが知られれば撤退してくれるかもしれない。


 誰かに知らせる方法はないかと思うも近くに魔力は感じられない。果てしなく遠くの地下施設まで来たみたいで人間の魔力はない。


 階段を上がり幾つかの部屋を見て回る。古さは変わらないが人がいたと思われる形跡がある。カップを持ち上げると紙が床に落ちる。このカップや紙だけは新しいものに見える。紙に書かれていた内容を見るにアンボラの話のようだ。ローウェル王国の歴史について聞かされる機会は少なかったが、この地下施設を作ったのはドラゴニアで彼らに感謝している様子が書かれている。古い資料など見たことがなかったので貴重な話を知ることができた。現在はローウェル暦で四千五百年は経過しているが、以前はどうやらパール暦を使っていて年代は五千百年程度だと書かれている。ドラゴニアの歴史を語る人間らしく、様々な知識と経験を教えてもらっているようだ。


 日記のような形で書かれている古いものだが周囲のものより、紙のほうが新しく感じるのはドラゴニアの技術によるものだろう。


 幾つかの部屋に入り物色してわかったことだが、どれも魔王についての恐怖と次世代の人間への希望が書かれていた。貴族や平民のような対立関係よりも人間同士で団結して魔王に立ち向かっていた。この施設内は元々魔王に反抗する為の人間が隠れる場所を今はローウェル王国が利用している。だが、この施設全体を詳しく調べている様子がない。


 何段も階段を上ると人の声が聞こえてきた。この壁や天井を見るに昔の施設を何度も改良して現代の技術で空に浮かんでいる。廃棄された階層とそうではない階層に分かれているようだ。あの古い部屋と違い明らかに頑丈そうな作りになっている。室内にいる声を聞く。


「今度の魔王様は優しそうな感じで自然と話しやすかったな」


 男性の兵士の声に反応して女性の兵士が酒を飲むのを中断する。


「そうだね。前よりは冷たい感じはなくなったかも」


「昔はひたすら平民を殺せって感じでわかりやすかったけど、こっちとしては命を軽く思われているようで不満だったが……今はこんな楽な仕事を任されてるからいいよな」


 男女の兵士の中央には大きな機械があった。


「酒が少なくなってきたな」


 女性の兵士がこちらに近づいてくる。慌てて移動すると女性の兵士は別の部屋に入り、酒を探している様子だ。


「酒ばかり飲まないで仕事しろよ」


「他にすることあるのか?」


「……ないけどさ」


「この機械を見るだけって寝て飲んで食うだけでしょ。誰も見に来ないし……ねえねえ、トイレ行きたくなってきた」


「行って来いよ」


 女性の兵士が去ったことを確認してから男性の兵士がいる部屋をもう一度覗く。大きな機械以外は見当たらない。この何もない比較的広い部屋に男女の二人が機械を見るだけ。間違っているかもしれないがあの機械が動力なら壊せば地上に落ちるはずだ。危険な方法だが手段を選んでいる場合じゃない。こんな時に洗脳魔法でも使えたら良かったが、今のわたしは昔の自分以上の弱い力しか出せない姿になってしまっている。悔しい気持ちで拳を握りしめると右腕を見て思いつくことがあった。


 右腕を取り外し魔力を僅かに込めると形が銃に変わる。この右腕は今のバーキン連邦やローウェル王国の技術力よりも更に発展していた。頭で考えればどんな形にもなれる。魔力を込めれば姿形は人間にすらなれるはずだ。

 

 部屋にいる男性の兵士を覗く。こちらに気づく様子がないのは現在のわたしには小さな生き物程度の魔力しかないからだ。人間の魔力だと思うはずもない。たとえ小さな魔力が近づいても普通の人間は気づかないと思う。


 左手で銃を持ち狙いを定める。銃の訓練はしてこなかったので震えが止まらない。何故だが以前よりも人を殺すのを躊躇してしまっていた。他者の魔力を使っていた時はサトウの復讐という目的の為か余裕がなかったのも関係している。引き金を引いたが少しだけ男性の兵士の横を通り過ぎる。弾を当てることができずにわたしの姿を目にした彼と目が合ってしまう。


「誰だ?」


 目の色を変え魔法を放とうと腰にある剣を構える。力を込めて全力で突き出した剣は突風を巻き起こしわたしを壁に叩きつけた。息ができないほどの風を体に浴びて身動きが取れなくなっていたところを彼はゆっくりと剣を構えながら近づく。


「何故平民がここに」


 左手にあった銃に魔力を込めると周囲を切り裂く刃に変わる。小さな刃は風や壁を切り裂きながら兵士を巻き込もうとする。彼は後退しながら小さな刃を受け止めて機械を守っていた。あれを破壊するとどうなるのか。彼の表情からして重要なものに違いない。小さな刃を手元に戻して更に刃を小さくさせて部屋に拡散させると、わたしは少し離れた位置で様子を見る。そうすると男性の兵士は剣を地面に落として喉やお腹を押さえて倒れた。目に見えないほどの刃を部屋中に拡散したのだからしばらくは動けない。元の右腕に戻すと機械に近づき触れると先程の攻撃で表面だけは若干傷ついているようだ。内部は未だに動いているが、何かの動力源か他の用途に使う機械かわからない。


 倒れている男性は小さな刃を飲み込んだ影響で体には様々な傷を浴びている。彼にこの機械について聞くことができそうにない。機械を見ながら不意に彼を見ると遠くを見て首を振っている。後ろを振り向くと女性の兵士がわたしを見ていた。彼女は剣を構えていたが攻撃をしてこない。真剣な表情でこちらを見ていた彼女は剣を腰に戻すと「命令する! 第三部隊! 応援を!」と言って走り去って行く。苦しそうな表情の男性の兵士を置いて行ったが、ここにいる意味はないので誰かが来る前に立ち去る。部屋を出てから一分も経たない間に先程の女性が元の部屋に戻ったのがわかる。他にも別の魔力が彼女と一緒に行動しているようだ。


 わたしは少し離れた部屋で待機している。この階層にいるのは危険なので離れたかったが階段を上ろうとするも他の魔力がいるせいで上に行けない。下に行こうとしても廊下には大勢の兵士がいる。今のわたしでは他の小さな生き物の魔力と違いがわからないとしても隅々まで探されたら見つかってしまう。


 下の階層にある部屋よりも新しいが古い部屋なのは変わりない。この機械が置いてある部屋以外は重要ではないのか昔の面影が残されている。壁に触れると木の感触がする。全身に細かな魔力を巡らせて天井を見ると壁と同じく木で作られていた。少し飛び跳ねて天井に左手の指をめり込ませるようにして、掴んで右腕を刃に変形させる。刃で天井を切り抜き天井に穴を開ける。右腕を元に戻すと上の階層にある周囲を見て兵士たちの動向を確認した。どうにもあまり焦っている様子はない。彼らはわたしを平民だと思って侮っている。強力な武器を持つことは知っているが一度バーキン連邦と戦った彼らなら油断することは間違いない。わたしは制限させられたとしても魔力の使い方を知っている。普通の平民よりは上手に体を動かせるのは当然だ。バーキン連邦にも戦闘に長けた兵士はいるが魔力や魔法での戦い方は元々貴族出身の者じゃないと扱いが難しい。


 わたしはこの十数年間無駄に生きてきたわけじゃない。家族からの仕打ちを黙って見ていたが努力は続けてきたのだ。


 この魔力を制限する腕はマイナスの面よりも大きなプラス面をもたらす。人間には限られた魔力しか使えない。使える魔力を使い切ると休憩しない限り倒れて終わりだ。非常に細い魔力の線で繋がる肉体を操る方法は普通の貴族や平民にはできない。


 兵士の隙をついて階段を上って行く。


 もう既にみんなはマグノメリアに着いた頃だろうか。


 廊下の隅で兵士が過ぎ去るのを待っていると急に兵士たちの行動が変わった。それぞれが急げと言いながらどこかに向かって行く。


 チャンスと思い廊下を走っていると大きく全体が揺れて尻餅をつく。痛みに苦しみながらお尻に触れていると更に揺れ始める。地面を這いながら窓枠を見ると周囲には幾つもの大地が浮かんでは、遠くに離れていくのが見えた。背後からする音で振り向くと天井から薄い板のようなものが、地面までゆっくりと移動をして大きな音を鳴らして地面の隙間にぴったりと入る。遠くから順番に入るものを見るに仕切り板のような役割をしているようだ。急いで近づくも周囲は壁に囲まれて出ることができなくなっていた。


 窓枠でもう一度外を見ると離れていくのがアンボラのような都市に見える。そして次第にアンボラが急上昇しているのか、それともわたしが急下降しているのかわからなくなってきた。魔力を込めて窓ガラスを割って下を見ると海が見えた。体が浮き始めて天井に頭をぶつけながらも外に出ようとする。大きな衝撃と共に割った窓ガラスから海水が入り込む。急いで全身を基礎魔法で包むと一瞬で辺りは海水でいっぱいになった。外に出ると海の中にいる大きな魚が見える。海の流れに逆らえずに泳ぎながら大きな魚に触れてその場から離れて行く。海の上にも魔力が感じられることからわたしがいることがわかったと思われる。大きな魚としばらく泳いでいると目から見えるほどの距離に陸が見えてきた。この魚に隠れて移動していたが浅瀬まで来てしまったのかと思い見ていると、不意に方向転換して去ってしまう。一瞬だが鳴き声が聞こえたが気がしたが、こちらの意図がわかるほど知能の高い魚なのかもしれない。


 浅瀬には誰もいない。ここはマグノメリアなのかと思い陸に上がり建物のある付近に行く。服を乾かしながら歩くと看板が見えてきた。


「ローデン連邦……」


 冷えた体が少しだけ震えた。


 ローウェル王国にいた頃、もう十年も前になるが魔王の手によってローデン連邦に連れてかれた。当時は今ほど力もなかった。サトウが死んだと思っていたこともあって生きる力をなくしていた。その時に見た貴族への恨みの言葉を何度も浴びたのがローデン連邦だ。ギャバジンやプリミティブにいた時にも教えてもらったが、ここはフェザー連邦ともバーキン連邦とも違う。ローデン連邦には行くなとシャギーからも言われていたことを思い出した。

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