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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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52:魔王との融合

 血を流すフランネルと自身の手の血を見るラフィア。僅かな動揺があっても心は常に冷静で両者の動向を見ていた。フランネルの魔力は減っているがすぐに死ぬ状況ではない。ラフィアをフランネルを攻撃した次に僕を見て魔法を放とうと口を動かしている。


 基礎魔法でラフィアを後ろに弾き飛ばすとフランネルに向けて「ルンパーダ」と言った。血が際限なく流れていく状況が一瞬にして元に戻る。苦しそうな表情のフランネルも傷が消えて驚き僕を見ると抱きついた。


「サトウが助けてくれたんだよね?」


「そうだ」


 この魔法はベルベットの再生魔法だが所詮攻撃魔法で傷を治すのは副次的な効果にすぎない。使うのを躊躇できる状況ではなかったができる限り使うつもりはない。


 慣れていると思っていたが誰かが傷つくのは心が痛む。フランネルもミハイルのように死んでほしくはなかった。


「僕から離れないよう気をつけてくれ。魔法攻撃がどこからくるからわからないからな」


「わかった」


 僕はラフィアを見て対処法を考えていた。洗脳と幻覚を解除するのは難しい。こちらの魔力を直接送れば可能かもしれないが、方法を間違えばお互いの魔力が影響を与え合って爆発することもある。更に自分の魔力と他人の魔力を合わせすぎると繋がりが深すぎて自他の認識が曖昧になる。彼女の体に触れれば魔王の魔力をより鮮明に感じることができる。自分の魔力で彼女の内部にある魔力を奪えれば魔法の解除も容易になるはずだ。


「フランネル、僕が目を開けてもいいと言うまで閉じていてくれ」


 頷くフランネルを抱えて彼女の耳元で「ズオーク」と囁き全身の魔力を循環させる。今僕たちは何も聞こえない。大体の魔法は目と耳さえ塞げば通じなくなる。それが魔王が使う魔法の特徴だ。相手の魔力の流れを感じることでフランネルと僕はラフィアの攻撃を防ぐことができると思う。ラフィアも同じ魔法を使っている可能性を考えて、使える魔法は基礎魔法と純粋な肉体同士での殴り合いとなる。


 あの魔王がこちらに干渉してこないと想定するならラフィアに近づき魔力を適量注げばいい。現在の彼女は僕と同等程度の力はある。


 ラフィアは唐突に僕の背後に現れていた。振り向きながら後退して「ディアファニス」と言って透明になり姿を隠す。フランネルを背負って大幅に小さくなった魔力で一気にラフィアの腕に触れようとするも足音で気づかれてしまう。一旦距離を取って僅かな物音にも注意して魔力を抑える。更に集中してラフィアと僕の魔力を感じ「ドーロム」と言って彼女の足元を崩壊。体勢を崩した瞬間に「プラフティ」と口にしてラフィアの背後に現れると、彼女にしがみついて自分の魔力を流し込んでいく。繋がりを感じながら魔王の魔力を発見する。他にも王族の魔力もある。ラフィア以外の王族が使用する魔力を限定して「アーゲレナ」と言う。


 僕を剥がそうと何かを言っているようだが背中にいるフランネルがラフィアの両腕を掴んでいる。徐々に力を失っていくラフィアを地面に置いて自分とフランネルに使った魔法を解除して耳を聞こえるようにした。


「合図なんてしていないのに息ぴったりだったな」


「長年の付き合いだからわかるよ」


 僕とフランネルは笑い合っていると一緒になって魔王を見る。


「ねえ……倒せるかな」


「倒せるよ」


 僕は腰にある銃剣に魔力を注ぎ巨大化させる。銃剣を構えると魔王の上半身を撃ち抜いた。下半身だけとなった魔王だがすぐさま肉体が回復していく。


「背中から降りないようにしてくれ。主な移動は僕に任せて攻撃が当たると思ったら撃ってね」

 

「わかった」


 目の前にいる魔王はこちらを見つめるだけで何もしてこない。


「ジギバージ」


 魔王の首が徐々に横方向に折れていくがすぐ元に戻ってしまう。魔王は自分が着ている服を脱ぐと赤黒い肌を見せた。右腕は大きさを増して玉座にいる人間すべてを巻き込んで払いのけようとする。地面にいるラフィアを掴み天井まで飛び跳ねた。


 天井付近で基礎魔法を足場にして魔王の右腕が小さくなるのを待つ。先程までいた場所は吹き飛ばされて何もなくなっていた。丈夫な城の柱までもが壊されている。


 背中にいたフランネルは注意深く頭部を狙って撃ち抜いていたが頭が弾け飛んでも元に戻る。


「本当に人間なのかあいつ」


「人間とは言えないかもしれないが、勝つ可能性は絶対ある。あいつは貴族よりも平民を恐れている。僕たちが持つ武器はバーキン連邦のものだ。何かしら効果があるはずだ」


 だが、僕の武器は魔力を使う強力なものだが魔王には効果がない。フランネルのものは空気砲で威力は高いが魔王に与えるダメージは低い。


 現在まで魔王に敵対した人間やドラゴニアはいたが勝てなかった。それが意味しているのは僕自身の敗北だ。


 僕は離れた位置の魔王と魔力を繋げて「イグラシア」と口にすると魔王の肉体は膨れ上がる。次々と爆発を起こしながら破裂を繰り返す。水分魔法は水に近いと魔法を使った本人が思えばなんでも爆発を起こせる。血液だろうとジュースだろうと関係ない。


「うわあ……」


 その様子を見てフランネルは目を逸らす。


「あんな程度じゃ魔王は死なない」


 破裂音が終わらない状態で「ウルクガ」と言って次に「ビシャル」で毒素を体内にばら撒く。僕は天井を基礎魔法で貫きながら魔王を見て「ルンパーダ」と言って空高く飛び跳ねた。これで破裂しながら溶けていき体内には毒素が撒かれる。そして体内を再生させた。このルンパーダは傷を治すことが目的ではなく、体内の状態を元に戻す効果がある。過去病気になったのなら同じ病気になり、怪我をしたのなら同じ場所を怪我する。非常に限定的な魔法で使い方を誤ると高い苦痛から死をもたらす。魔王にどれだけ効果があるかわからないがやるだけやってみる。


 分厚い雲の真下まで飛び上がると空中で足場を作る。僕たちは空の上で魔王の魔力が変化しないか見ていたが状況は変わらない。


 再生魔法といっても元の状態になるだけだから普通の傷なら治ってしまう。だが、特殊な魔法なら治ることがなく毒素や水分がある限りはダメージを与え続ける。体が溶けていくのに耐えられる人間がいるとは思えない。魔王が正真正銘の人外なら効果は薄いが確実に損傷を与えられる。


 懸念点は誰かの肉体と入れ替わることだが、強制的に回復できるのなら可能性は低くなる。ポーミジュルダの本来の使い方は肉体の交換だ。魔王がたとえ体の状態だけや肉体そのものを交換してきても、同じ魔法を使えばいたちごっこだが効果はある。


 用心しているのか現在まで積極的な魔法の使用は見られない。


 魔王は何を考えているんだ。


「ちょっとここで待っていてくれないか?」


「一人で行くの? わたしも行ったほがいいと思うけど」


「大丈夫だよ。むしろ一人のほうが楽に動ける」


 僕は地面へと落ちていく。空から見える大地は大きく彼方まで続いていた。この大地を浮かすのも魔王が使っているのかと考えると膨大な魔力を使用しているのだろう。戦いに使う魔力がないだけで準備が整えば魔法を使う可能性があるのかもしれない。


 壊れた城の一部から城内に入り魔王の状態を確認する。既に一時的な魔法の効果は終わって魔王の肉体が小さくなっていた。魔王の体が大きくなると自然と筋肉質に見えてくるが、今の彼は全体的に衰えているようにも見える。


 追撃しようかと考えたがこちらが見ているのに攻撃が一向にない。


 魔王に近づく。


「本当にカンターレン・ローウェルじゃないんだな?」


「違うと言ってる」


「じゃあなんでそんなに老けているんだ」


「カンターレン・ローウェルを取り込んだことが影響してる。表面的なものだけが衰えているように見えるだけで、わたしは常に全盛期だ」


「融合魔法か?」


「貴様と同じで他者を取り込み成長している。他国の武器を奪い、他人の魔法も奪い。血の理を上回る能力で誰かを支配するのは気持ちいいものだ。確か佐藤星(さとうせい)だったな。楽しかっただろ?」


 魔王は先程まで玉座の側を離れなかったが、静かになった玉座で饒舌になり始めた。


 今の魔王からは怖いほど余裕が感じられる。


「そんなことはない」


「普段は神の力のせいか感じることさえできないが、こうして近づくと膨大な魔力を感じる。やはり貴様は変わらんな」


 魔王が一歩踏み出したかと思えば一瞬で僕の前に現れた。即座に僕の口に手を突っ込むと息ができないほど手が膨らみ始める。


「これほどわたしの魔力を取り込んだのなら仲介の神すら取り込める」


 喉を通る液体が胃に流れている。僕は魔王の腕を掴むも離れることはない。僕は全身の力が抜けて口内に手を入れていた魔王の体が縮んでいく。地面に膝をつき血管が浮かび上がり手足が痺れていくのを感じる。魔王の肉体が喉から胃に入っているのにお腹が膨らまない。全身が熱を持つのがわかる。痛みさえ感じずに不思議な感覚で縮む魔王を見つめていると、いつの間にか魔王は僕の肉体に入っていた。


 喉に触れても違和感がない。


 吐き出そうとしても何も変化がなかった。


 立ち上がり歩こうとしていると違和感があった。変化が何かわからず歩き回るとガラス片が落ちていたので見つめると、全身が赤黒い肌の筋肉質に変化して背も高くなっていた。顔などは些細な変化がないようだが魔力の量や肉体は以前よりも大きく変わっている。


 上半身が裸になっているのが気になり、近くに落ちていた魔王が使用していた服を着る。


 以前にも他者を取り込んだことがあった。その時は内部の他人が反発を起こしていたが今は静かなものだ。


 地面にゆっくり落ちてきたフランネルは未だに起きないラフィアを抱えている。重いのか背中から地面に落とすとラフィアは小さくうめき声を出す。彼女は僕の姿を見て何度も目を擦っていたが、よろよろとしながら近づく。


「……サトウでいいの?」


「ああ」


「本当にサトウ……なんだよね?」


「そうだよ。ラフィア」


 ラフィアは僕に抱きつくと涙を流す。


「また一緒に暮らそうね……約束だよ!」


 こうしていると奇妙な爽快感で落ち着いてくる。流れてくる魔力が僕から抜けていく。抱きつくラフィアは離れようとしない。


「サトウ、魔王はどうしたの?」


 フランネルは周囲の瓦礫の山を確認しながら魔王を探している。


 何故か魔王に取り込まれたはずなのに危機感がない。


 それよりもラフィアに触れてから静かだった内部の魔力が動き始めていた。


「もういなくなったよ」


「死んだの?」


「当たり」


「倒したんだ」


「ああ」


 笑いかけるフランネルとラフィアを見ても笑顔にはなれない。何故こんな言葉を言ってしまったのかわからずにいるとラフィアは僕から離れる。


「サトウ、わたしに何をしたの? 今のわたし魔力がほとんどないけど」


「元々あった王族たちの魔力をラフィアから貰ったからかな」


「だから魔力が弱まっているんだ」


 ラフィアはそう言っているが魔力が消えたわけじゃない。


「ラフィアが元々持っていた魔王の魔力を取り出したからだよ。魔王がラフィアを操っていて俺が助ける為にやったんだ」


「そうなのか。迷惑をかけたようですまない」


 内部に広がる魔力はラフィアの持っているものと異なるように見える。


「いいさ。これからどうする? 魔王はもう倒したぞ」


「わたしはバーキン連邦でまた暮らそうかなと、ノルディックと一緒に暮らしていた家が残っているならプリミティブ島でもいいかなと思っているけど。一緒に暮らす?」


「駄目だよ。サトウはわたしと暮らすの」


「落ち着いてよ。二人共、俺にはやらないといけないことがある……このローウェル王国を壊してしまった責任がある」


 表情の変わらないラフィアと違ってフランネルは一瞬僕の顔を見て困惑する。


「責任って魔王がやったことでしょ」


「元々魔王は俺が目的で戦争を仕掛けたんだ。この体にある神の力を求めて」


「知らなかった」


「俺は知らなかったが、この肉体は宿命の神というものの転生体らしい。そいつが別の世界で記憶を失い転生してこっちの世界にきて、更に転生したという感じで複雑だが魂は確かに神のものだった。面白いよな」


 魔王の記憶と神の記憶。それに両者の能力まで手に入れたのに僕は昔と変わらず佐藤星(さとうせい)のままだ。


「へえ、サトウがね」


 ラフィアは僕と見つめ合う。


「本当にローウェル王国に残るの?」


「フランネルはそんなに寂しいんだ」


「いや、別に。そうじゃないから」


「また会いに行くから心配するなよ。これからローウェル王国を再建しないといけない。魔王を倒した俺ならこの国も認めてくれるはずだ。心配しなくても大丈夫だよ」


 何故だか不思議とそう思えてならなかった。


「……わたしはフランネルと一緒に行くよ。ローウェル王国にはいい思い出がないからさ」


 ラフィアはフランネルの声も聞かずに彼女の手を引く。


「え? ちょっとラフィア? わたしはまだ何も決めてないよ!」


「いいから」


 崩れかけた城内を見つめていた僕はラフィアの小さな魔力を見る。内部には僕が本来手にしていた女神の力があった。今になって僕の使命に気づいた。僕は魔王として神と女神の力を手に入れて、自分自身の本能を満たすことが重要だ。相手を屈服させて恐怖を植え付けていく。その過程で生じる溢れ出る欲望で生き物たちに自分の遺伝子を与えて、生涯に渡って僕は魔王として生きていくことを目指している。


 ラフィアは急ぐように歩いている様子で振り返りもしない。フランネルだけが何かを叫んでいたが二人は玉座から消えていた。一人残された僕は誰もいない空間で穴の開いた天井を見つめる。


 追いかけようと手を伸ばすこともできなかった。


 あの当時と違って、ここには自覚のない女神が存在している。そして今この肉体には不完全だった神の力が宿っていた。あの時殺した神の力を僕は手にしているのだ。


 頭を抱えながらうづくまる。


「何を考えているんだ……」


 僅かな痛みを胸に感じながら僕は目を閉じた。

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