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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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51:近づく死

 僕の隣にいるフランネルは地面まで伸びる細長い銃を構えている。彼女は汗で体に張り付く服を掴み度々暑さを嘆きながら細長い銃を空に向けていた。


 ナージャがギャバジンでの生活を望んでいたが体力が回復した状態でのんびり暮らせない。ゴルアなどには説明を終えたが他の人物に詳しくは言っていない。それなのにフランネルだけが僕の後を追っていた。装備をしっかり用意していたところを見ると元々準備万端だったが、僕の話を聞き常に機会をうかがっていたようだ。


 フランネルは空気砲のような仕組みをしている細長い銃を手に周囲を警戒している。非常に軽くて扱いやすい武器だ。度々空を仰ぎながら砂漠を歩く彼女は疲れた表情をしていた。まさか歩きでノルチェまで向かうとは思わなかったのだろう。照りつける太陽を睨む彼女の顔からは汗が垂れては砂に落ちていく。


「涼しい顔しちゃって」


「僕も暑いよ。暑いからといって暑いとわざわざ言わないだけだ」


「なんでクローラー使わないのよ」


「クローラーは所詮玩具で戦いに不向きだ。魔法や武器を使いながら逃げることができない」


 軍用車両とかならバーキン連邦にあるもので扱えるが車の運転は上手じゃない。


 何時間も歩いているがゴーストブラッド機は見えない。広大なオーガンザ砂漠を歩く人がいれば発見されてしまうがバーキン連邦の者という扱いで済まされるはずだ。僕は右腕を機械にした。そこには前よりも強力な魔力を制御させる部品がつけられている。これはフェザー連邦から来たモッズの手によりバーキン連邦の部品で作られたものだ。正式な身分証のような役割をしている機械を肉体につければバーキン連邦からは攻撃されることはない。同じくフランネルにも装着したがこちらは前の部品と交換だけで済んだ。


 僕は右腕で太陽を遮ってフランネルを見る。


「腕を交換するのって前はもっと嫌な感じだったがもう慣れた」


「プリミティブ島はすべてを機械に頼る世界じゃなかったから慣れなかった。でも、ここでの生活だと人間はすべて機械の部品の一つだ」


「嫌な話だ」


 砂漠を歩きながらフランネルが端末を見る。


「それよりも流石に遠回りしすぎじゃない? これだとマグノメリアに行きそうだよ。わざわざエシカルド山脈に行く必要ないでしょ」


 フランネルの持つ端末を覗く。地図上にある大きな山と遠くにある山を交互に見る。そして頂上に浮かぶ大地を見るとフランネルに向き直った。


「僕一人なら直接行っていたさ。フランネルが一緒に行くというから危険な道を避けたんだ。ゴルアの話だとノルチェからエドワルドまでの通り道で戦闘が起こってるらしい。僕の目的はラフィアだ。彼女を魔王の手からどうにかして助けることが重要なんだ」


「でも、戦場にいる可能性が高いんじゃないの?」


「魔王がラフィアを必要としている状況だとしても魔力には限りがある。ルーロブやノルチェでラフィアが戦っていても休憩が必要になる。彼女はルーロブかマグノメリアにいる可能性もある。当然だが根拠はない」


 ここまで来て少し遠回りしているのはラフィアが死んでいる可能性を考えたからだ。魔王は以前彼女を殺そうとしていた。


「ルーロブとマグノメリアだと結構距離があると思うけど、そこからノルチェに行くにしても休憩に使えるのかな」


「魔王には特別な魔法がある。距離なんて関係ない」


 あの都市ローウェルが空に浮かんでいるというのがわかっている。エシカルド山脈の頂上に見える物体が空に浮かぶ大地だ。あそこを中継地点にして様々な場所を攻撃している。都市ローウェルいる可能性もあるが一番離れたマグノメリアから順番に行くのが安全だ。フランネルがいなければ戦場を歩きながら探していたが彼女に無理をさせるわけにはいかない。


 フランネルは魔法の扱いや武器の扱いまでギャバジンで教えられたようだが、僕は彼女がどういう訓練をしていたか実際に見たことがない。守りながら戦う自信はなかった。信用していないのは事実だが本人を前にして言うことではない。


 マグノメリアに到着すると焼け焦げた建物を目の前にして死体の上に座る人がいた。数人程度が談笑しているようだがフランネルは機会を見て細長い銃で照準を合わせる。見える範囲だと三人ほどいる。彼女が引き金を引くと大きな音もなく死体の上に座る人の頭を撃ち抜いた。次々と頭だけを撃っていく腕前に驚き、同時に彼女の表情から僅かな怒りも感じた。


「近くにいる魔力は三人だけだな」


「そう」


 僕は先程フランネルが撃った人たちの元に行くと彼女は頭を撃ち抜けれて倒れている死体を踏みつける。


「やめておけ」


「冷静なんだね」


「やってることが子どもなんだよ」


「……キュロットと同じ歳だよ。まだ子どもだ」


「僕はサトウだ。前も言ったが歳は結構上で大人なんだよ」


「それはすごいね」


 本気で信じていないな。


 以降もローウェル王国の兵士に出会うと声を出させないように一撃で仕留めていた。見ないうちに腕を上げたなと嬉しくなるが、同時にここまで怒りを持っているとは思わなかった。彼女からするとノルディックへの復讐もあるのかもしれない。


 道路上に散らばった肉片を二人で調べると布が落ちていた。細かな骨なども残されているが人間に間違いない。建物の間を覗くと大きな怪物が人間を食べているようだ。あれはカモジアで見たものに似ている。フランネルが怪物の頭を撃ち抜く。音の出ない武器を扱える人が一人いるだけで心強いとは思わなかった。僕の銃剣は魔力消費がや攻撃の範囲が大きいこともあって取り扱いが難しい。


 周囲を漂う悪臭の中を小走りで向かう。崩壊した建物にはローウェル王国に殺された痕跡が生々しく残されている。フランネルは自分では自覚していなかったが自国のことが好きのようだ。こういう光景を見て冷静にはなれない彼女にやりすぎないよう制御するのも役割だと思っている。


 空を飛ぶ船やゴーストブラッド機はほとんどが鹵獲したものだ。扱えない武器もあるが魔力さえあれば使えるものもある。平民でもゴーストブラッド機を扱えるが貴族のほうが魔力の量が多い。バーキン連邦で所持しているものをローウェル王国が扱えば戦力の差は縮まる。元々平民が魔法を完璧に使えるようになってから使用する前提だったので現状バーキン連邦に勝ち目はない。


 既に戦場ではなくなったマグノメリアでラフィアを探していたが、彼女がいる様子もないのでフランネルに移動することを提案するも「ここにいる敵を倒したい」と言われてしまう。


「そんなに時間をかけていられない」


 僕の気持ちとフランネルの気持ちを両方優先した結果がこれだ。どちらも大事にしていたら大切なものを失ってしまう。


「今はフランネルの気持ちを優先できない。敵を倒すとなると体力も使う。残された時間で敵をすべて倒してると次の敵にやられるぞ」


 納得していない様子だがフランネルは頷いた。


 僕はマグノメリアを離れるまでの間、途中にいた兵士の居場所を指示してフランネルに倒させた。魔力の存在を向こうは感知できないようで簡単に倒すことができた。非常に弱々しい魔力で動いているので動物か何かだと思われているはずだ。僕の魔力が異質だとしても小さい魔力ならわざわざ探し回ったりしないだろう。


 夜になる前に森に入る。敵に見つかる前にマグノメリアから遠ざかりたかったからだ。これ以上先に兵士がくることはない。周囲には獰猛な生物ばかり生息している。僕は武器を手に地上を見ている偏食鳥を撃ち抜くと地面に落ちてきた。人間一人分程度の大きさで空を飛ぶ鳥だ。ローウェル王国にいるような貴族の魔力が好みらしい。ここでは僕も餌の一人で度々狙われたが銃剣で倒していく。偏食鳥を食べると味はまったくしなかったが魔力は回復する。食料問題で困ることはなかったがフランネルは少し不満のようだ。


 エシカルド山脈を抜けるまでの道をゆっくり進むことはできない。早足で行くもまだルーロブまでの道は遠かった。少し開けた場所に到着すると突然『サトウ。聞こえるか』と声が聞こえてきた。途切れ途切れの声が徐々に大きくなっていく。フランネルの髪の毛が大きくゆらゆらと動いて彼女は必死に自分の髪の毛を押さえている。上空にはドラゴンが見えた。フランネルは驚き武器を構えるも僕に銃を掴まれて何事といった様子で僕を見る。


「敵じゃない」


『まさか、本当にあの時のサトウか。まったく変わらないな』


「色々あったからな」

 

 一人で喋っている僕を奇妙に思っているのでフランネルにドラゴンを紹介する。彼女は緊張しているのか小さく「よろしくお願いします。フランネル・エクイップです」と言ってドラゴンを見つめる。


『あれから我々も色々面倒なことが起きてドラゴンの里から散り散りになった。以後グラードや他の頼れる人間と共存してきたが、ドラゴンの数が急激に十年間で減ってしまった』


「人間が関わっているのは間違いない。すまない」


『謝ることじゃない。滅ぶ運命にあった我々が生き残っていたのも、これで最後になると覚悟を決めている』


「だからって」


『覚悟は決めたからいいんだ。それでここに来たのはいつも世話になっているグラードからの伝言があるからだ。今フェザー連邦とローデン連邦は手を組んでバーキン連邦を倒すことをローウェル王国に約束している。以前のような平民というだけで仲間になっていた者は少なくなった。ここからが重要だ。今バーキン連邦に魔王がいる。しかも都市ローウェルにだ』


「それは本当か?」


『普段は常に移動をしている魔王だが、今回に限っては移動をしていない。バーキン連邦を叩き潰すことを目標にしているようで魔王主導で戦争を仕掛けている。これは相当珍しいことでローウェル王国に所属する貴族ではなく、あの魔王が戦いを望んでいるのは大きなことらしい』


「それで最後か?」


『伝えられた話はこんなところだ。あまりここに長居するつもりはないから、最後にサトウと会えて良かったよ』


「最後なわけない」


『それじゃあな』


「さよなら。ドラゴンさん」とフランネルが言ってドラゴンは笑顔で空に帰っていった。


「このままルーロブに行こうと思っていたが中止だ。このまま山を登る」


 山道を歩きながら気配を察知されないように注意深く進む。到着するまでは極力見つからないよう木や岩に隠れて歩く。浮かぶ大地の下まで来ると僕たちは僅かな基礎魔法で足場を作る。その足場を掴んだり蹴ったりしながら都市ローウェルに到着すると近くには兵士はいない。それどころか怪我をした兵士ばかりでほとんどが命を失いそうになっていた。遠くから大きな音がするようで僕たちは付近まで気配を消して行く。土煙を起こしながら二人の人間が殴り合っている。ラフィアとジュラ・ローウェル第三王子だ。彼の顔はあまり覚えていないが確かそんな名前と顔だった気がする。


 ジュラは戦いを急いでいるみたいでラフィアに突進している。彼女はジュラの拳を簡単に避けては顔や腹に一撃入れていた。


「ふざけるな……あのラフィアが俺より強いなんて」


 倒れかけたジュラを見つめていたラフィアに周囲の兵士が魔法を放とうとする。その様子を見たジュラが兵士たちの魔法を手でかき消した。


「黙って、見てろ!」


 ラフィアはジュラの目を見て「パーペチュアル」と言った。彼の動きが止まりラフィアは基礎魔法で吹き飛ばした。僅かに動き始めたジュラだが一瞬で移動してきたラフィアの蹴りによって頭を吹き飛ばされた。ジュラとラフィアの戦いは一方的なものだった。ラフィアはジュラに手を伸ばすと彼の体を吸収していく。しばらくするとラフィアは遠くに見える城に向かって歩いていった。


 ラフィアは僕たちに気づかなかったようだ。ここまで小さな魔力だと流石に動物か何かだと思ってくれている。これなら魔王にも気づかれる可能性が低くなるだろう。


「あの強さ何?」


 フランネルは戦いを見てから僕の背中に隠れていた。


「ラフィアは強くなったな」


「そんなもんじゃないよ。あれがラフィア? 別人のようだけど」


 僕たちがラフィアの後を追うと城の前には大勢の兵士が倒れていた。どの兵士も魔力がなくなっていてすべて吸い取られたようだ。城内には戦いの痕跡が残っている。血と武器が地面に散らばっていて周囲には人が見えない。度々城内で聞こえる大きな音の方向へ歩いていくと兵士たちが近づいてきた。僕たちは近くの部屋に隠れてやり過ごす。ドアの隙間から兵士たちの顔を見ると戦いに行く表情とは思えなかった。まるで逃げているかのようだ。ドアを開けてフランネルに言った。


「行くぞ」


 記憶を頼りに以前通った道を走るとラフィアの声が聞こえた。


「フェイズ・ローウェル第二王子! 覚悟しろ!」


 突然の叫び声に驚き僕たちは玉座に入ることができなかった。頭だけ少し出して様子を見るとラフィアはフェイズに魔法で攻撃をしている。フェイズも応戦するが避けられてしまう。舌打ちをしてラフィアを睨みつける。


「お前のような者に魔王様が力を分け与えるとは理解できない。魔法はこの俺だけが使えればいいんだ……だから消えろ! ビシャル!」


 フェイズを中心に魔力が集まっていく。何かの魔法としか僕は理解できず基礎魔法で守っていたが体に変化が起きた。呼吸が出来なくなり、次第に目眩までして倒れかけてしまう。自分の肌からは血が出てきて頭も痛くなってきた。


「痛いよ……サ、サトウ……痛い痛い……」


 フランネルは既に倒れていた。目から涙を流しながらよだれを垂らす。動かない手足からは血が溢れて地面を染めていた。ラフィアとフェイズを見ると周囲にいた兵士も苦しみながら倒れている。ラフィアはなんとか立っていたが倒れそうだ。


「……アーゲレナ」


 周囲の空気が一気に変わった。玉座で苦しんでいた兵士たちが次々と立ち上がっていく。フェイズの魔法をラフィアが吸収したのだろう。


 僕がフランネルを見ると彼女はまったく動かなくなっていた。呼びかけるも反応がない。彼女のような平民にとって王族の魔法は強力すぎたのか。魔力は残っているがほとんど死にかけだった。


 僕はフランネルに触り魔力を注ぐが効果があまりない。他の魔法で使えるものはあるが本当に助かるかわからない。確実な方法を使うならフェイズを使うしかない。


 離れたフェイズとフランネルの魔力を僕を通して繋げる。


「ポーミジュルダ」


 フランネルは目を覚ますと自分の手足を確認して安堵している。驚くフランネルを見ていると悲鳴が聞こえてきた。フェイズから大量の血が溢れていた。喉や胸を手で叩きながら地面を転がる姿にラフィアは黙って見ている。フェイズが行った魔法の影響はすべてフランネルからフェイズに移した。


 安心してフランネルを見ると彼女は自分から溢れる魔力に驚いていた。フェイズにあった魔力の大半も彼女に移動させたが、あくまでも一時的なものだ。もしかしたら永久に肉体を交換できるかもしれないが元に戻せるか不安でやることはない。


「体は大丈夫か?」


「うん」


 ラフィアはフェイズに近づき彼の体を吸収する。


 その光景を見ていると玉座には魔王が座っていたことに気づく。彼は今までほとんど気配がしなかった。あのラフィアでさえ存在に気づいていない。荒い息で非常に興奮している様子のラフィアは振り返って僕を見た。僕に気づいて声でもかけてくれるかと思ったが、彼女は「パーペチュアル」と囁きながら両手を前方に突き出す。


 咄嗟に僕は魔力を流し肉体を強引に動かす。


「デビジア」


 僕は素早く分裂魔法を使ってラフィアの魔法を回避する。もう一人の僕を見ながらフランネルを抱えて移動する。後方にいるもう一人の僕は溶け始めていた。何故僕に魔法を使うのかわからずに走っているとラフィアが前方から現れた。


「ディアファニス」


 フランネルと僕を魔力で繋げながら透明魔法で姿を隠すとラフィアは居場所を把握できず、焦った様子で走り出した。


 ラフィアがいなくなったことを確認して魔王の元に行くと魔王は僕を無表情で見つめている。周囲にいた兵士は僕の存在を見ても戦う気力がない。フランネルは僕が見つめる先を見て首を傾げる。


「どこを見ているの?」


「え?」


 当然かラフィアも魔王には気づいていない。


 僕は魔王を指差す。


「あそこに魔王がいる」


 指差す方向を見てもフランネルは「見えない」と言うばかりだ。


「アーゲレナ」


 僕は魔王に向かって手を広げると周囲の空間が歪み始めた。あらゆるものが吸い込まれていく。フランネルの手を掴みながら空間にあるものを吸い込んでいくと彼女は「突然人が……何故魔王が」と言いながら震えていた。


 他の兵士も驚いたのか顔を見合わせている。


 フランネルは恐ろしいものでも見たかのように腰が抜けていた。僕の背後で増殖する僕と戦うラフィアを横目に銃剣を構える。


 フランネルは戦意を失ったのか武器を構えない。


「みんなには見えなかったようだけど。確かに魔王だよ」


 魔王は椅子から立ち上がって拍手をする。


「やはり腕は確かなようだな」


「ラフィアの様子が変だが何をした」


「あいつには一番嫌がることをした。佐藤星(さとうせい)が死んだことにして戦場に送った。理由なんてなんでもいい。ラフィアにも我々と同じ血が流れている。戦いで成長して奴には次世代の魔王になってもらう」


「ラフィアは魔王にはならない」


「なるさ。ラフィアは強く成長した」


「……手のひら返しで今更魔王にしようってのか」


「そうだ。身内同士で戦い見事成長した奴なら、このべフェール・ローウェルより優れた魔王になるだろう」


 今なんて言ったんだ。


「お前……魔王カンターレン・ローウェルじゃないのか?」


「カンターレンはわたしの祖父で今の魔王はべフェール・ローウェル。それがわたしの名前だ」


 確かに顔はカンターレン・ローウェルに似ている。だが、べフェール・ローウェルにしては年老いている気がする。


「サトウ……」


「え」


 僕が振り向くとお腹を貫き倒れるフランネルの姿が見えた。倒れたフランネルの側にはラフィアが自分の血で赤く染まった右腕を見ている無表情な目があった。

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