50:指輪
ギャバジンはゴルアの長年の努力により地上にいる生物から発見されにくい場所だ。非常に閉ざされた空間となっていることや魔力を阻害する技術がある。人間などの動物は魔力が備わっていて、それらすべては魔力を探すことができる。ローウェル王国の快進撃でバーキン連邦が攻められても一度もギャバジンが見つかったことはない。ここに僕たちがいたら一気に危険性は増すがゴルアからしたら誤差のようだ。
「バーキン連邦はどの程度攻められているんだ?」
ナージャは地下生活を謳歌しているようで毎日ベッドで寝ながらお菓子を食べている。
「ルーロブが壊滅状態だったから……次はノルチェじゃないかな……美味いな」
お菓子を口に入れながら喋っているようで僕を見ようとしない。ここで暮らす人が増えたことで食料を作る必要が出てきた時に提案をしたがお菓子まで作られていたとは思わなかった。
「ナージャは地上がどうなっているか気にならないのかよ」
「気になるがローウェル王国が本気でバーキン連邦を攻めたことはないから、いつものようにすぐ撤退するだろうね」
「なんで根絶やしにしないんだろ」
「魔王の考えがあるんだろ」
ナージャのベッドで座っているとバレルが飛び込んできた。
「サトウ! ゴルアが地上を見に行ったらゴーストブラッド機が大量に出撃していたぞ。今はノルチェに向かっているようで彼の話だと以前より緊迫した雰囲気になっているみたいだが大丈夫か?」
「僕に聞くな。とにかくゴルアの元に行くか」
「ナージャも来いよ」
バレルがナージャのお菓子を取り上げる。
「もう、わかったから」
地下に戻っていたゴルアからは表情の変化がない。国家間の戦争になっているので状況の把握はできないがかなり大規模なものになっているようだ。
「長いことギャバジンで過ごしてきたがエドワルドから戦闘機が出撃したのは見たことがない。というよりも近頃のバーキン連邦は技術競争でフェザー連邦と争っていたこともあって、随分と古代技術を改良しているみたいで以前のように停戦なんてことがあるのか不安だ」
「前にもローウェル王国とバーキン連邦が争ったことがあったと言っていたけど、結構あっさりと終わったんだよね?」
「数年程度か数ヶ月で終わる戦いはルーロブやプリミティブ付近で行われることが多かった。ローデン連邦が巻き込まれる形で行われることもあったが、今回のように両国の土地を積極的に攻撃するのはあまり例がない」
バレルもゴルアの話に参加しているようで彼の言葉に耳を傾ける。ナージャはローウェル王国の内情について度々バレルと相談をしているようだ。その度にピロトグルやヨークドなどバーキン連邦に詳しい連中と話し合いを設けている。戦いは長くても三年程度だと予想しているのが大多数の意見だが、ヨークドは違っているようで早ければ数日で終わる可能性があるという。それも圧倒的不利な状況でバーキン連邦が負ける。ここにはどちらの味方もしない人が多いが比較的バーキン連邦に敵対する意図がないはずのヨークドがローウェル王国が勝つ話をするのは意外だった。
大勢との話が終わってから僕はヨークドと二人で話すことにする。
「で、何故ギャバジンに入れたんだ?」
「ゴルアの許可は取ってある。それにお前もいいと言ったじゃないか」
「流石に戦闘機が飛び回っている下にいる奴を放置できないだろ」
「都市の場所は知っていたが入口はわからなかったから助かったよ。あのまま戦闘が起きればどうなっていたことか」
「よくゴルアも許したよな」
飲み物を取ってきたゴルアが椅子に座るのを見て話しかけると彼は一口だけコーヒーを飲む。
「施設について不満がないわけじゃないからな。ヨークドの力を借りれば更にギャバジンを強化できる。後は話してみると悪い奴じゃないと思えたからね」
ゴルアのような機械でも飲めるよう肉体を改良してあるようだ。
地下施設で要望を聞けば大抵のものは手に入る。機械に打ち込むだけで目的のものを作るよう設計図も書いてくれるが、材料や技術者がいなければ意味がない。ギャバジンの設計図を改良する者もバーキン連邦やフェザー連邦から連れてきている。地上にあった材料を地下で製造する拠点も作っていることから地上で暮らす必要性がなくなってきていた。
ヨークドはコーヒーを飲み干して「嬉しい限りだ」と言った。
「サトウの知り合いで腕もいい。元々平民なら入れても良かったんだ。今までがちょっと気分になれなかっただけだ」
心境の変化というやつなのかゴルアは清々しい気分で話している。
「誰とも関わらずに過ごしてきたが、案外人と話すのは楽しいもんだと気づいた」
嬉しそうなゴルアと少し険しい表情になっていたヨークドは小さな端末を見ている。
「それでヨークドはさっきの話、どう考えているんだ? ローウェル王国が勝つという話だ」
ヨークドは持っていた端末を見ながら僕を見る。
「ルーロブが壊滅状態でノルチェに侵攻中というのを話して、今ここにいる連中へ戦う準備を伝えたが俺は昔からバーキン連邦から離れたかった」
「ヨークドは元々政府側の人間だろ」
「どうにも俺を逃がしたくないようで金を積んできたことで大幅に来るのが遅れたが、そのおかげでバーキン連邦内部でローデン連邦やフェザー連邦との繋がりを発見できた。面倒なことにバーキン連邦を裏切る奴のせいで俺は危うくローウェル王国に交渉材料として渡されるところだった。あんな奴らだと知っていたら協力なんてしなかった」
「長いことバーキン連邦で過ごしているようだけど、始めてのことなんだね」
「クラインは昔から過激だったが、今では手に負えない奴になった」
「ここではただの技術者として扱うから安心しな」
「そのほうがいい。目立つのは俺の仕事じゃない」
「ヨークド、バーキン連邦が負けると思う根拠はなんだよ」
端末を僕に見せる。
「なんとなく」
世界地図には赤色のローウェル王国と青色のバーキン連邦の軍隊が書かれていた。そこには奇妙なことに黄色の軍隊もあったが他国が介入することでも考えているのだろうか。
ヨークドはゴルアと去っていく。
遠くで座っていたナージャとバレルがヨークドとゴルアを見ながら近づいてくる。
「話は終わった?」
「ああ」
「バレルはシフォンと一緒にいなくていいのか?」
「わたしにできることなんてない」
「一緒にいるだけでもいいだろ。誰かの為にならなくても、自分の為にはなる」
バレルは僕の言葉を聞き頷いた。
「マリンとシフォンの側にいよう」
去っていくバレルを見ているとナージャが「今日はどんなことして遊ぶ?」と言ってくる。
「地上の様子が気になる。ラフィアのことだってあるんだ。ここでゆっくりなんてしてる暇はない」
ナージャが僕の手を引く。
「ゴルアや他のカメリア出身の人たちから施設の説明は受けたから色々歩こうよ」
「そんな暇ないんだけど」
ここに来てからナージャは僕の話を聞かなくなった。前も聞いていたわけじゃないがより自分の話ばかりするようになっている。それも不自然なほどに地上の話をしないようにしていた。
「もしかして外に出て欲しくないのか?」
ナージャは少し悩んで頷いた。
「ここで一緒に暮らそうよ。安全で食べ物もあって……なんでも揃ってる」
「揃ってないところもある」
真剣な表情になるナージャは少しだけうつむく。
「ラフィアって人はそんなに大事なの?」
「大事な人だよ」
僕の手を離したナージャは持っていた指輪を渡した。
「確か武器を扱う為のものだったよな」
ナージャは黙って頷くと僕は指輪をはめる。
「ちょっと違う武器だよ」
ナージャが自分の指輪を見せると僕のつけた指輪と似ているのがわかる。カモジアで渡した武器が他にもあったのか。それともギャバジンで同じものを作っただろうか。
「身につけるだけであなたを守ってくれる」
「効果は?」
僕の手を握りナージャは指輪に触れると、自然と僕の左手の薬指に彼女が指輪をはめた。
「守ってくれるって言ったでしょ」
笑顔の彼女は多くは語らずに指輪を見せ合う。気づけばお互いの薬指には指輪が見えた。彼女の好意と思っていいのかわからないが強引な気がする。ラフィアの話は一度しているはずだが魔力の影響か僕を好きだとナージャは言っていた。
僕は女性ではないのだが。




