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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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47:目覚め

 森を歩いていると怪我をしたナージャが手を振っていた。彼女も僕の後を追っていたようだった。再会を喜ぶ暇もなく他の追手を気にして移動する。

 

 彼女は自身の不甲斐なさに腹を立てていた。僕を守れずに連れてかれたことやミハイルのことなども関連しての葛藤がある様子だ。そんな彼女に古代都市マキシギャのことを伝えて一緒に行きたいという話をする。ラフィアたちの為にも魔王を探す必要があったが、僕は結局何もできずに帰還することになった。ナージャは僕の話を黙って聞き頷くだけだった。


 雪を踏む感覚をお互いに話をしていた。これはカモジアでもあったが当時よりも靴先にくる冷たさが感じやすくなってくる。マキシギャのほうが寒いのではないかという話だ。ここにいる雪熊は異常なほどの寒さ耐性がある。小さな体でありながら力も強い。臆病な性格で食事はあまり取らないので痩せているので食用には向かない。


 大した内容ではなかったが気が紛れたのかナージャはよく僕に対して質問をしてきた。こんな追手がいる最中に話すことではないが世間話でもしないと気が晴れない。


「サトウはどこからきたの?」


「アルベール王国からだけど……正確には地球という星からなんだ。話すのが面倒になるくらいで長くなるからな……」


「ああ、確かに別の惑星からきたというくらいのほうが違和感なくていいかも」


「違和感ってなんだよ」


 ナージャは僕の顔を見て微笑む。


「同じ星で生まれたにしては優しすぎるの。まるで争いのない世界からきたかのように思える」


「僕が生まれた時は既に戦争が終わっていたから余計にそういう性格になったんだろうな」


「自分の性格ってのは変えられないよ。サトウって余裕があるところがいいと思うの」


「余裕なんてない。強がっているだけだ」


「泣かれても困るから安心するよ。多少の配慮もあるのが大人の余裕に繋がるのかも」


「僕が大人なら今頃世界中子どもばかりだよ」


「わたしは年齢も子どもと変わりないし。確か十歳前後かな」


「そうは見えないが」


「わたしは人間じゃないからね。今まで誰も信用したことないんだ」


 笑って話す彼女の表情は悲しそうに見えた。


「深く気にする必要ないだろ。ドラゴニアは人間で機械で動く者も人間だ。僕みたいな別世界から来た人間も怪物みたいな存在だからね」


「やっぱりサトウを好きになって良かった!」


「はあ……」


 普通のことしか言っていないのに僕を好きというのは魔力の影響だろうか。


「ゆっくり歩いているが追手はいないのか?」


「いるとは思うけど、この寒さに苦戦している人もいると思う。カモジアの時も寒さに苦労していた人がいたくらいだし」


「あの時は歩きじゃなくて乗り物だったけど」


 僕のように暑さや寒さにも魔力で体の不調を起こさないように調整できる人ばかりじゃない。


「カモジアにあった乗り物をローウェル王国は一般的な兵士に支給していないの。量産が困難なものでバーキン連邦で手に入れないといけないようなものだと思うよ」


「僕たちが持っている武器もそうだがバーキン連邦の技術力は想像以上だ」


「そうね。こんな兵器ばかり見たらとても勝てないと思うけど、ローウェル王国には強力な魔法を使える王族がいる」


「まあ……うん」


「サトウには関係ないか」


「そうでもないさ。相手が油断してくれないと僕でも勝てない」


 クラバットの時も隙がなければ勝つチャンスはなかった。本気での戦いとなれば一瞬で勝負がついてしまう。僕の全神経を使って相手より上をいかないと一秒後には命を失う。魔法の撃ち合いなんて生易しいことができるほどの簡単な相手じゃない。


「常に魔力を探して隙を見つけたら勝負を仕掛ける。卑怯な手でも使わないと勝てなかったよ」


「戦いなんてそういうものでしょ。今でも決闘という風習は残っているけど、そこでも事前の準備で会場に細工をする程度のことはすることがあるし。何が卑怯かという問題になるけど、わたしは卑怯とか考えないかな」


「確かに同じ立場なら卑怯な手を使っただろうということか」


「そうだね」


 マキシギャに近づいたが追手の気配がない。入口を探しながらツキヨの姿がないかと二人で探していると地面の中から頭だけ出してツキヨが現れた。


「おかえりなさい」


 その姿に悲鳴を上げるナージャだったがすぐにツキヨが挨拶をする。怖がりながらツキヨと会話をするナージャは以前と比べれば柔らかい雰囲気をしていた。始めて会った時はもっと無口で愛想がない感じだったが変わるものだ。


 地下に行きながらツキヨに事情を話すと悲しみもせずに頷き、お互いの情報を交換していく。彼女はここに置いてきた人たちの世話をしていたようだ。洗脳状態で動けない人の世話は介護のようで大変だったが、一番大変なのはアーバンがドラゴニアに変化した時で「あの方が突然巨大になったので地下施設が壊されて迷惑でした」と素直に言うので笑うしかなかった。その後にツキヨはバーキン連邦にいるゴルアと毎日連絡を取っているとも言ってお互いに情報交換をしているようだ。


「ねえ」


 ナージャが僕の耳元で囁く。


「なんでツキヨさんって裸なの?」


「そう見えるだけで裸じゃないの」


 ツキヨの体に服でも着せようとしたが拒否されたことがある。道具を体から取り出す際に服が巻き込まれてしまう恐れがあるらしい。


「なんか喜んでない?」


「機械に欲情するわけないだろ」


「女性が好きなのは知ってたけど見境ないんだね」


「言っておくが好きな人は決まってるからな」


「なんか複雑な気分」


「単純な話だろ」


「わたしの話をしてるの!」


 僕から離れるとナージャはツキヨの近くに行きお互いの話をする。ツキヨはみんなが眠っている部屋に案内すると「あなたが行った後、念の為に彼女たちのフルブローグを破壊しておきました」と言い室内で眠る全員の顔を順番に見ていく。


 バーキン連邦も二度も同じことが起きないよう対策をしているはずだ。魔王もバーキン連邦に対して同じ手法で攻撃を仕掛けないと思う。それはゴルアとも同意見で彼は地上の詳しい状況を自分で調べられる範囲で教えてくれたみたいだ。バーキン連邦にあるほとんどの都市は壊滅状態で住む場所に困る人が多く彷徨っていたようだが、彼はギャバジンに招待することはしなかった。


「ゴルアなら魔王と戦うバーキン連邦の人たちの避難先へと使っても不思議じゃないのに」


「わたしたちは戦力として扱えるならという前提で動いています。我々は上位権限の命令通りに動くように作られていますが、そこに弱者を助ける理由はありません。ゴルアもわたしもサトウを助けたのは上位権限があったからです」


「そんなの僕にはないぞ」


「あなたに神様の気配を感じたからでしょうね」


「またその話か。僕は地球という別の世界からきたんだよ。元々が普通の人間なのは間違いない。更に言えばこの世界で転生して生まれ変わったら流石に神様とは別人になるだろ」


「でも、姿形は似てます」


「似ているだけの奴なら探せば大勢いる。そもそもここにいるアーバンはドラゴニアだ。君たちはドラゴニアから生み出されたわけだ。その古代に生きていた種族と僕を同等として扱う神様ってなんだ?」


「ドラゴニアたちが神様と一緒に世界の危機と戦っていたからです。戦友というべきなのかわかりませんが上位権限が自然とあるのも、あなたが神様という証拠だと思いますよ」


「僕の記憶にないものが証拠だと言われてもね」


 ツキヨの話に呆れて彼女を放置してみんなを見て回る。誰も異常はないようで眠っている。あの洗脳魔法を使っても動けないだけで生きていることは確かのようだ。


 ラフィアとフェルトはお互い並んで寝ている。アーバンは少し離れた別室にいるみたいだ。彼はドラゴニアということで特別扱いのようで広い部屋で寝ている。


「他のドラゴニアは本当にいないのか?」


「いないみたいです。それに……彼も本来のドラゴニアというわけじゃない」


「アーバンは自分を戦士だと言ってたが……ホードボアにいたのは彼だけで他のドラゴニアはいないと思うけど」


「わたしが知っているドラゴニアと微妙に違うんです。言葉にするのが難しいので他にどう言えば正しいかわかりませんが」


「同じドラゴニアじゃないのか? 前にクワントというドラゴニアを見たがあれとは違うんだな」


「あれは明らかに機械生命体です。以前のギャバジンで大量に作られていたものと構造は似ています。あの都市は軍事技術の宝庫でしたから、その類の技術ならお手の物だと思います」


 ドラゴニアの国はバロックとギャバジンとマキシギャが存在していた。魔王が支配する前に残った国が三カ国しかなかっただけで他にも国はあったようだ。


「たとえ魔王がいなくてもドラゴニアが滅びるのは必然でした。わたしたちが言うのもどうかとは思いますがドラゴニアは他種族を蹂躙していましたから」


「怖いくらい冷静だな」


「機械ですから」


「たまに本当の人間じゃないかと思う時があるよ」


 ツキヨは微笑みながら肘で小突く。


「嬉しいこと言いますね」


「嬉しかったんだ」


 笑い合っているとツキヨはゴルアから報告があったようで真剣な表情になる。


「都市ローウェルが移動を開始したようです。今はルーロブにいるみたいで、ギャバジン到着まで時間はありますが油断できないとゴルアが言っています」


「……ちょっと待て。そういえばなんでフルブローグ使えるんだ? 破壊しているなら通信は使えないはずじゃないのか?」


「ゴルアとわたしでは直接通信が繋がっているんです。それにフェザー連邦にはグラードがいます。彼からの通信でローウェル王国の情報は筒抜けとなっているわけです。フェザー連邦にいる者には魔王の洗脳魔法は使っていないらしいので安心しました」


 そりゃ味方に同じことをするわけない。


「以前まではローウェル王国が不利だったようですが、今はローウェル王国のほうが有利なようで勢いを取り戻しています。グラードの情報ではフェザー連邦の技術力も使われているみたいであの大地を動かすのは魔力だけじゃなくて他のエネルギーも使用されているようです。都市ローウェルはこの数ヶ月でロボットの製造も成功しています」


「あのゴーストブラッド機か」


「知っているんですか? あれは元々マキシギャの技術力で作られた兵器で生き物の魔力を使用して動く危険なものとなっています」


「前に倒したのは大きな尻尾の四足歩行で動く奴だ」


「多分……失敗作ですね。バロック王国の技術から作られたものをギャバジンが使用したもので、マキシギャの技術を真似て製造した不完全なものだと思います。とても大きくなかったですか?」


「大きかったよ」


「自慢じゃないですがマキシギャのほうがバロック王国よりも技術力では上ですからね」


 胸を張るツキヨにナージャが咳払いをする。


「それはいいからツキヨはわたしたちにしてほしいことない?」


「ここでの仕事はわたしのものでナージャができることはないですね。ローウェル王国と戦うことくらいしかないと思います」


 休憩も済んでいない状況で旅立つ気分になれない。ここに眠る全員を起こす手段はあるが自分の魔力を流しても治らなかったらどうしよう。


『シルディン……ラフィア……ルーロブに行け』


 悩む僕の耳に突然ツキヨから魔王の声が聞こえてきた。ラフィアはベッドから起き上がると天井を見上げる。足に魔力を注ぎ込み全身に魔法をまとわせて天井を突き抜けた。


「どういうことだ。なんでツキヨから魔王の声が……」


「そうか……フェザー連邦にいるグラードを通してわたしに繋げた……他にわたしへと音声を届ける方法はないです。まさかグラードの存在まで気づいている? それならわたしやゴルアの居場所もわかるはずなのに手を出してこない。今までそんな方法使わなかったのに何故今になって?」


「そんなのは考えてる暇はない! ラフィアが魔王に操られているんだ。僕は行くぞ」


「待ってください」


 フェルトが目を覚ましているのに気づきツキヨが声をかける。


「もう解除されたのか?」


「わかりません」


 魔法は直前に使用された魔力の量によって限界が決まる。解除される直前になって意図的にラフィアに魔法を使ったのだろうか。


「なんかすごい寝ていたような気分……体がまったく動かない……」


 フェルトは欠伸をしている。


「数ヶ月以上も寝ていたからな」


「わたし病気だったの? 覚えてないな」


「魔法のせいだ。ツキヨはアーバンを見てくれ」


「見に行きます」


「フェルト、僕はバーキン連邦に行く用事ができた。それまで待てるか?」


「え? 今着いたばかりで戻るの?」


「そうなるよな……実はフェルトたちは数ヶ月も寝ていたんだ。その間に色々あったんだよ。ローウェル王国とバーキン連邦の戦争が起こって……それで色々あってラフィアがバーキン連邦に行ったから僕が行かなくちゃならないというわけだ」


「え? え? 待って!」


 無理に体を動かして少しだけ起き上がるとフェルトは頭を抱える。


「もっと詳しく話して!」


「詳しいことはツキヨから聞いてくれ」


 僕が廊下に出るとツキヨがいた。


「アーバンも起きていました。話をしてきますか?」


「いや、別に大丈夫だ。それよりもなんでフルブローグを使用できるようにしていたんだ?」


「それはだって……元々この通信技術はマキシギャが栄えていた頃からありましたが、ギャバジンとマキシギャを繋げるだけのものだった。国が滅んで悪用されるとは思いませんでした。これはわたしの失態です。本当になんて言ったらいいか……」


「それは別にいいが通信は切れないのか?」


「一度わたしを停止させるか。傍受されないよう作り変えるかしないといけません。時間はかかります」


「うん、無理なことを言った。悪いな」


 本当は今ここで破壊したほうがいいとは思うが未だにツキヨを人として見ている。こんなにもよくできた機械を僕は人間としか思えない。

 

 外に出ると急いでエンバイまで行くことにした。悠長に進む必要はなく、魔力で肉体を強化して基礎魔法で全身を守ると雪が降る中を周囲の木々をなぎ倒しながら進んでいく。冷たい風も気にせず走ると後ろからついてくるナージャの魔力も感じた。彼女には何も伝えていなかったが必死に追いついてきている。後ろを振り向くとナージャは手を振っていた。


「ここまで来たら戻れなんて言えないだろ! ちゃんと離れないよう追いついてきなよ!」


 休憩を挟みながら戦闘があったエンバイ付近に到着する頃には数日が経過していた。都市に入らず海へと歩いていく。太陽の光が照りつける海沿いを二人で見ながら美しい景色にナージャは僕に手を差し伸べる。心細げな彼女の姿は既に消えて歓喜に満ち溢れた笑顔を浮かべて僕の手を引き進み始めた。

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