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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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45:悲しみの涙

 ラデリアに近い場所にあるモカシンまで到着後、周囲にある魔力の確認をしながら森の中を進む。追手はいないがモカシンに入るつもりはない。食料などを手に入れる必要はあるがアンボラから近いモカシンでゆっくりしている時間はなかった。


 強引に決めた計画だが誰も反対しない。バーキン連邦に行くのを怖がる貴族はいるが平民は問題ないと言っている。誰もがローウェル王国で死ぬ運命にあった仲間ということもあって、貴族と平民の仲は良好で信頼があるように思える。


 ナージャとミハイルにとって僕は信頼できる存在なのか不明だ。はっきりとした理由はわからないが僕を思って一緒にいるらしい。


 大勢での行動が続き、責任感から不安な気持ちになってきた。度々気分が落ち込むことがあっても大抵はなんとかなると思って生きてきたが流石に疲れている。


 乗り物から降りて木を背に座ると情熱的な目で見てくるナージャとミハイルから目を背ける。


 この女性の体で長く過ごしても慣れることがない。魔法を使い名前や体を何度変化させてきたかわからない。


 僕は立ち上がり服を脱いだ。驚く彼女たちの側にあったものから兵士が使う着替えを手にする。簡単に着替えることのできる男女兼用の服装が乗り物にあって助かった。男性の佐藤星(さとうせい)に戻ると服を着替え始める。どんなサイズにも合うのはフェザー連邦の技術なのかもしれない。


「急にどうしたの?」


 ナージャが僕を不安そうに見つめる。


「これが本来の姿だ。もう女性にはなりたくないな」


「なんで? 可愛いよ」


「男性のほうが戦いやすいんだよ」


 二人は不思議に思っていたが僕は彼女たちの胸を凝視する。


「ルージュは僕と融合した女性だ。普段は彼女の姿でいたが本当はルージュの姿ってのは疲れるんだ。別の王族のベルベットと融合したからだ。ベルベットはどうにも本来の僕が好きらしい。そしてルージュ本人は結構従順なようでベルベットには逆らわない。それはイブも同じみたいだ」


 彼女たちも僕の両側に座る。


「あまり離れないほうがいいよ」


 手を繋ぐミハイルの顔を見る。


「なあ、聞いてもいいか? 何故僕と一緒についてきたんだ?」


 ミハイルは僕に寄りかかり顔を近づける。


「好きだから」


「大胆な告白だな」


「こっちは真剣なの」


「ナージャは?」


「同じ」


「国を裏切ってもいいのか? 僕はローウェル王国を破壊するぞ。魔王というのは脅威だ。世界にとって害にしかならない存在だと考えている。そしてバーキン連邦も同じ程度には危険な国だと思う」


 ナージャは苦笑して立ち上がる。


「わたしにも国のことで不満がないわけじゃない。でもね、無謀なことを止める権利はあると思うの。あなたの力は見たからわかる。きっと上手にいけばローウェル王国もバーキン連邦も破壊できるよ。けどね、壊すのは簡単だけど作るのは難しい」


「悪いかよ」


「悪くない発想だよ。国を統一するとか壮大なことをできるならね」


「誰がそんな面倒なことをするか」


「最終的にはやりたくないことをやらないと実現は不可能だよ」


「魔王を倒して終わりじゃないか」


「そんなことわたしはしてほしくないの。代わりの魔王にでもなるならいいけどさ」


「一度魔王に殺されているから嫌だな」


「殺されたことあるの?」


「あるよ。生まれ変わったら女性になってた」


「今男性なんでしょ」


「きっと魂の形が男性なんだろ。それか別に男性や女性という形に意味なんてないから曖昧なだけなのかもしれないが」


「ナージャも……サトウのことなら結構簡単に受け入れるよね」


「悪い人じゃないからね」


「別にいい人でいるつもりはないぞ」


「そこだよ」


 ミハイルは微笑んだ。


「サトウは自分を悪く見すぎなの。他人から見ると全然悪いことでもないのに勝手に気にして悪いと思っているところ」


「そんなに僕のこと見てたか? 僕と一緒にいた時間は少ないように思えたけど」


「わたしは結構あなたのこと見ているの」


 ナージャとミハイルは顔を見合わせて笑っている。


 お喋りをしていると急速に接近してくる魔力に気づき僕たちは急いで乗り物に入り移動を開始する。覚えのある魔力も混じっているようで急ぐよう全員に伝えた。位置を把握されていなくても移動先を特定して事前に兵士を配置していたようで魔力の反応がある。先程まで明るかった空は暗くなっていた。雲が空を覆い尽くすと雨粒がぽつりと落ち始める。


 僕が扉を開けるとバレルたちは乗り物から降りて戦う準備をしようとしていた。


「わたしたちも一緒に戦う」


「わかった。囲まれているが大丈夫か?」


「死なないように努力する」


「二人共、会話をしてる場合じゃない。もっと気を引き締めて」


 雨が腕や背中を濡らして服が体にまとわりつく。時折雷が聞こえてくるが足音はまだ耳に届かないが魔力の存在を感じている。雨が激しくなり前が見えなくなって雷の音も大きくなってきた。


 いっそのこと全員倒してしまったほうがいいとは思ったが、ここで彼らを倒すのは元ローウェル王国の兵士である二人に見せる内容ではない。手加減できるといいが僕は以前よりも強くなっている。少し魔力を込めるだけでも簡単な魔法だけで殺すことが可能だ。殺傷力のない魔法で対処できるなら問題はないがローウェル王国の兵士は想像以上に強い。近づいてくる魔力の大きさだけで把握できてしまう。


 武器を構える僕たちの後方が移動したのを堺に、雨音と共に強い衝撃を感じた。全身の僅かな痛みで立ちすくむと全員が血を流して倒れている。目や耳などから血を流しているが貴族たちは平民に肩を貸して立ち上がらせると乗り物に乗せた。戦うとはいっても強力な武器を持っていない平民や魔力を消費している貴族たちではローウェル王国の兵士と戦っても勝てない。やはりバーキン連邦に行って休んでからじゃないと難しい問題だろう。


 ミハイルとナージャは立ち上がっていたが体をふらふらさせて武器を構えている。僕がナージャの体を支えると体から流れる血が止まっていく。隣にいたミハイルも自身の体を治しているのか魔力を集中させていた。


 血を止めて落ち着きを取り戻していたらミハイルが僕の目の前に立っていた。突然彼女が移動したことを奇妙に思うとミハイルは武器を地面に落として顔から倒れてしまった。


「ミハイル!」


 僕とナージャが近づき体に触れると大量の血が流れていた。魔力が小さくなるのを感じるが僅かに口だけは動いている。血は一向に止まる気配がなかった。貴族というのは膨大な魔力もあって丈夫だが限度がある。近頃は食事もあまり取っていなかったことや睡眠時間も足りない。体力のない状態だと自然治癒が遅れていく。震える手で僕の顔に触れたミハイルは自身の唇を僕に近づけてキスをした。雨音の中離れていくミハイルの顔を見ていると瞬きをしなくなっていた。残っていた魔力も消えているようだった。


 雨雲で覆われている空は暗くて周囲はあまり見えなかったが、何人かの魔力で以前離れた彼女たちの仲間がいるのを把握できた。先程の衝撃はベリタの音波攻撃の武器で銃はキルティンか、それとも別の誰かが撃ったか。


 近づいてくる兵士の顔はよく見えなかった。近くにいる複数人の兵士の顔はフードで隠れている。周辺から知っている魔力がある。


「今ミハイルを撃ったのは誰だ!」


 僕の声を聞いてキルティンが顔を見せる。わかっていたことだが彼女の顔を見れなかった。


「わたしよ」


「何故、撃ったんだ」


「ローウェル王国の命令だから。そして魔王様からの命令でもある。あの方は近くには行けないがサトウというものやそれを助ける者を許していない」


「魔王の命令ならなんでもするのか?」


「それがわたしたち兵士の宿命だからよ」


 キルティンの銃が僕たちに向けられる。他の兵士は剣を構えて魔力を放とうとしていた。力なく倒れるナージャを見て今にも戦いが始まりそうだった。それを見てバレルたちを乗り物に乗せると足に集中させた魔力で乗り物を蹴り飛ばした。彼らは木をなぎ倒しながら遥か彼方まで見えなくなる。安心した僕は地面にいたナージャの腕を掴むも囲まれていた。薄い布のようなものが僕たちを捕まえて木に縛られるとソーニャが腕を組む。


「手間取らせないで」


「よく僕たちを発見できたな」


「ええ、意外とすぐに見つけたわ」


 彼女は僕に近づくと首元にナイフを突き立てた。


「これでもう逃げられない」


 ソーニャは僕を横目にナージャを見つめる。


「あなたはなんで裏切ったの? わたしたちと同じと思っていたのに」


「そうだけど。あのまま彼を一人にはできなかった」


「彼ってルージュのこと? 今は醜い姿になっているけど、こんなのが好きなの?」


「サトウはどんな姿になっても変わらない。少し変わったぐらいで恋は終わらないよ。切り替え早いね」


「わたしは女性のルージュが好きだったの。男性のサトウじゃない」


「一緒よ。心まで変わるわけじゃない」


 二人の言い争いの中一人残されたミハイルを僕は見ていた。そこにはベリタが手を握っているのが確認できた。近くにはガーウェルがいる。彼は地面をただ眺めているだけで武器を構えている様子がない。


 ナージャは全身に魔力を込めると僕たちを捕らえていた布を強引に引き千切った。武器を手にすると空中を回転しながら刃のついた棒がソーニャに突き刺さった。痛みに悲鳴を上げるも彼女はすぐにナージャの首を掴んだ。


「あまり舐めないでよ。これでもマキシマム部隊所属だったんだから」


 ナージャは掴まれた首を気にせずソーニャの顎を蹴り上げた。


 頭をふらふらとさせながら睨むソーニャを見ながら不敵にナージャは笑う。


「わたしも同じ部隊だったよ。だって、わたしたち人間じゃないもの」


 僕は意味がわからず二人を見る。


「なら何故裏切ったんだ!」


「……わたしはカモジアの研究施設で以前暮らしていた。あそこでサトウが画面を見ていた時に昔研究員が言っていた話を思い出した。それは『あなたは実験動物から産まれた』というものだ。そこに映された女性がわたしの生みの親というのも半信半疑だった。サトウがいなくなってから研究施設で騒ぎが大きくなった時、わたし研究施設を一人で見て回ったの。なんだか懐かしくてね。そこで見た資料にはわたしたちのことが書かれてあった。コスピアンという異形の生物のことが詳しく書かれていて絶望したよ」


 ナージャは言った。


「コスピアンはドラゴンと冬熊と偏食鳥から作られた生物で膨らんだ手足と強固な鱗に小さな翼の生物で、わたしがこんなのが元というのが嫌だった。せめてもの救いは人間から産まれたことだったけどね」


「……話は聞いたことはある。それも受け入れてここにいる」


「全部は知らないでしょ。ランシノという異形の生物も書いてあったよ。そいつはドラゴニアと博愛兎と偏食鳥から作られた生物で細長い体に強固な鱗の隙間から毛が生えた飛べない鳥。二つの生物は空を飛べないの」


「それがなんなの? 人間以外だから国を裏切るとかいう話?」


「別に出生の秘密とかで誰かを恨んだりしない。問題は実験動物には未来がないということ。マキシマム部隊は何人もいるけど、そこを所属している人はいつか魔王様の苗床になる運命にある。書かれていることを見て生きていても意味なんてないと思った。そんな時にサトウが現れた。彼はわたしに希望をもたらしてくれた救世主なの。だから彼についていこうと思ったんだ」


 彼女は僕を勘違いしている。国を救うこともナージャを救うこともできるわけないだろ。不甲斐ない僕はミハイルを殺してしまった。


 ソーニャに刺さっていた武器を手元に戻すとナージャは周囲の兵士に目を向ける。手から離れた棒状の武器から巨大な刃が出現した。周囲の兵士を切り刻んでいくが、ソーニャは首に触れそうな距離を避ける。ベリタに近づく刃をガーウェルが受け止めるが両腕が切り離されて地面に倒れてしまう。急いでベリタが両腕をくっつけているとキルティンが銃を構えていた。


「動かないで」


「撃てばいいでしょ」


「ナージャって意外にも饒舌なのね」


「そう見えるんだ」


「あまりわたしと喋らなかったからさ」


「これから死ぬ人と話しても意味なんてない」


 僕はナージャの手を掴む。


「もういいだろ」


「何を」


 足に魔力を流すと地面がえぐれるほどの力で上空に跳躍する。ナージャを抱きかかえると基礎魔法を真横に設置して魔法を足場にして蹴る。雨の中横方向に移動するとナージャが暴れる。


「あいつらミハイルを殺したんだよ! なんで逃げるんだ!」


「仲良く過ごした人たちを殺すなんてしないほうがいい」


「勝手なこと言わないで!」


「自暴自棄になって誰でも良かっただけだ」


「嘘なんてついてない」


「嘘とは言っていない。ミハイルも含めての怒りだったんだろ? それは正しいさ。でも、落ち着いて考えれば元凶が魔王というだけだ」


「サトウは怒らないの?」


「悲しいだけさ」


 いつだって怒りより悲しみが勝つ。


 強く降る雨が全身を襲う。目の前も見えないほどの雨を移動するのは非常に痛い。途中木や地面を蹴って更に跳躍するも先程とは違ってナージャは静かだった。人の死を悲しむ余裕よりもナージャを逃がすことが先決だ。彼女の顔は怒りで満ちていたが途中で穏やかになっていた。透き通るほどの白い肌からは涙か雨が流れていた。

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