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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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44:逃亡

 言葉数が少なくなっていたが、僕以外のみんなの結束力は高まったように感じる。以前よりもお互いを助け合う機会が増えてきた。


 アンボラまでの道は休みながらだったが何事もなく進むことができた。バーキン連邦との争いはローウェル王国にとって有利な状況で戦闘を終えたとアンボラに到着した後に聞いた。近くの何人かの兵士に事情を説明してアンボラにいるローウェル王国に敵対する者を探す。事前に集められた者は既に多くの反逆者を捕らえたらしい。ここにいるのは平民や貴族だ。そのどれも他の国から来たもので首輪をつけられている者や傷だらけの者も多い。


「彼らはこの先どうなるんだ?」


 キルティンは僕の言葉に言いにくそうにしていた。


「……死ぬかどうかはわかりません。はっきりしているのは、実験対象としての未来ですかね」


 キルティンは心を痛めているようで他の人たちを見る。ガーウェルとミハイルも目を逸らしているが表情は変わらない。ソーニャとベリタはアンボラで暮らす貴族たちと笑顔で離している。ナージャだけ後ろを向いていたので表情はわからない。


 彼らを助けることが間違っているとは思えない。今の王族としての立場で交渉できれば問題なく物事を進めることができるはずだ。


 僕は捕らえられた人たちに近づき首輪を掴んだ。これも仕組みは同じだった。他の国で一般的に行われる貴族の封じ方で魔力を上手に扱えなくする。以前見たバーキン連邦の首輪のようだ。僕は体の魔力で首輪を強引に外した。


「なんで」


 キルティンは驚いたようで僕を見ているがうつむいてしまう。


 手に持っている首輪を地面に投げ捨てた。前ならもっと複雑な作りをしているからと首輪の鍵が必要だったが今なら魔力で内部を解析できる。元々は平民が貴族に対抗する為に用意したものなんだろうが今では同じ貴族が利用していた。


 僕は首輪のない平民に近づくと体内に魔力を注ぎながら全身の傷に浸透させる。魔力の少ない肉体でも魔力を注げば傷なんて回復可能だ。平凡な基礎魔法だが平民にとってみれば奇跡みたいなもので驚きと共に心地良さそうな表情をしている。


「ルージュ!」


 キルティンが叫んだ。


「ここにいるのはローウェル王国にとって害をなす者なの。何故助ける?」


「待て、キルティン。ルージュにも考えがあるのだろう」


 ガーウェルはキルティンの肩を叩き彼女は表情を変える。


「それもそうか。ローウェル王国は人を積極的に殺す国家じゃない」


 僕は会話に耳を傾けずに次々と首輪を外していく。傷を負った者は魔法で状態を正常に戻していくと誰もが僕に感謝をする。


「ねえ……ルージュに詳しい理由を聞いてもいい?」


 ソーニャが問いかける。


「理由とは?」


「別にわたしたちはあなたの行動にとやかく言う権利はないけど、この反逆者たちの拘束を解くのなら厳重な管理が必要になる。あなたは王族としてそう考えているの?」


「元々僕は王族のつもりはないよ」


 ソーニャは僕の腕を掴む。


「前々から変だとは思っていたのよ。体内から複数の魔力を持つ人間。聞いたことのある佐藤星(さとうせい)という名前」


 ソーニャは手に持っていた薄い布を大きく広げる。更に大きくなった布は次第に辺り一帯を包みこんでいく。昼間だったのが布の中では暗くなっている。捕らえられた人たちとここにいる全員は布の中に包まれて身動きができなくなった。


「あなたを拘束します。ルージュ……違うね。佐藤星(さとうせい)


「何を言い出すんだ。確かに一度そう言ったのは事実だ。魔王様が危険な存在だと感じている者の名前と一緒なのは聞いたが彼女は信頼できる」


 ガーウェルが言うとソーニャはため息をつく。


「何を持って信頼しているのか理解できない。出会ったのはラデリアの時だ。サトウはわたしたちが知ってるルージュとまったく違う性格をしていた」


「それは……本気で疑うのも失礼な気がして」


「王女様が本物ならわたしも疑うことはなかった。ねえ、聞きたいの。魔王様に誓ってよ、あなたはルージュ・ローウェルだと言うの?」


「魔王様に誓ってもいいよ。本物なのは間違いない」


 掴んでいたソーニャの手から逃れると僕は体内に流れる魔力の量を調節させる。戦闘になってもいいように皮膚に薄く基礎魔法をまとわせて落ち着く。


「ソーニャ……一度話し合おうよ。ね?」


 キルティンがソーニャの顔を覗き込む。


「あなただって怪しいと思っていたでしょ」


「ソーニャはルージュのことが好きじゃないの?」


「今は反逆者を捕らえるほうが優先される」


「ルージュが反逆者だと言いたいの?」


「キルティンは前にルージュが佐藤星(さとうせい)だと言っていたことを覚えていないらしいね」


「覚えているけど……別人という可能性もあるし」


「魔王様が危険だと判断する存在をわたしは疑っていた。でも、あの強力な魔法を見た時から確信に変わった。お前はローウェル王国にとって害ある存在だ」


 少しの沈黙の後全員が覚悟を決めたのか武器を構えた。仲間として旅をしてきても彼らはローウェル王国のことを悪だと判断できない。たとえ悪だと思っていても居場所を失った者は悪に頼るしかできずに剣と銃を向ける。

 

 ミハイルが僕に近づきながら銃を構えるとソーニャの横を通り過ぎる。彼女は僕に背中を向けてソーニャに銃を向けた。


「何をしてるの?」


 ソーニャはミハイルを睨む。


「ルージュはルージュだよ。佐藤星(さとうせい)じゃない。たとえ他の誰かになれるとしてもわたしはあなたを信じる」


「今までの彼女をわたしたちは疑ったことが何度かある。それでも王族だからと信用していた。ミハイルは今も彼女をルージュ・ローウェル第二王女様だと疑っていないんだね」


「そうじゃない。でも、答えてほしいの。前に王族と言っていたのは嘘なの?」


 ミハイルの声が震えていた。


「嘘じゃない。僕は確かにルージュだ。だが、彼女とは融合魔法で一つになっただけで君たちが望むルージュ・ローウェルとは言えない」


「そんなんじゃわかんないよ! ローウェル王国の敵なの?」


「敵だよ」


 元々ローウェル王国の王族が国のことなんて考えているとは思えない。魔王は知らないがイブやルージュが国民の為になるようなことをするわけない。ベルベットも平気で国民を踏み台にして実験をしていたんだ。僕に限らずローウェルの王族なんて敵だと考えたほうがいい。


 ミハイルは深呼吸をすると僕に銃を向ける。


「仲間だと思ってたのに」


「短い期間で僕の何がわかるんだよ」


 銃を向けるミハイルからは涙が見えた。


 薄い布で覆われた周囲を取り囲むように魔力が集まる。ローウェル王国の兵士が事態を察知して突入する瞬間、ナージャの手から武器が突然離れていくと瞬時に銃や布を地面に落としていく。空中で自由に移動する棒状の武器からは刃は見えない。驚くベリタの頭にぶつかり彼女は地面に転がると意識を失った。ナージャは周囲を基礎魔法で包み込みながら僕まで近づいた。彼女は袋から小さな箱を取り出すと捕まっていた人たちに向けて投げつける。箱は大きく変化して乗り物へと変わった。


「急いで乗り込んで!」


 ナージャの叫び声を聞き乗り始める。それを見て困惑していたキルティンが武器を取ろうとするもナージャの武器でまた弾かれてしまう。


「ナージャ!」


 僕の袖を掴むナージャはひたすらに武器だけを狙っている。ナージャの武器は殺傷能力があまりない。近距離なら自由自在に武器を操作できる性能をしていた。


 捕まっていた全員が乗り込むのを確認すると自分の武器を手元に戻す。辺り一帯を見て真横を睨みつけると薄い布は破れて横一列になっていたローウェル王国の兵士が倒れていく。


「今だ!」


 ナージャの声を聞き乗り物は瞬時に消え去った。


 先程彼女が使った基礎魔法は範囲を絞って更に兵士を傷つけていない。非常に優秀な魔法を使えることを始めて知った。


 僕が立ち尽くしているとナージャに手を引かれて走り出す。追いかけようとするソーニャにミハイルが地面の銃を拾って発砲した。その姿に僕もナージャも驚いて止まってしまった。


「ナージャ! ルージュのことをお願い!」


「わかった!」


 走り出したナージャを止めようとするも彼女は僕を抱きかかえて建物から建物に移動する。遠くの屋上まで離れると安心したように彼女は立ち止まる。


「自分で走れるから!」


 しばらく追いつかれる心配もないと思ってナージャは僕を地面に置く。


「ナージャは何故僕を助けた?」


 僕は彼女の感情がわからない。あまり口が達者なほうでないと思っていたから余計に僕から会話をすることが多かった。ナージャの言動は度々僕を混乱させてきた。


「そうしないとルージュがみんなを殺す危険性があった」


「僕が?」


 ナージャは頷いた。


「あの時一番穏便に済ませることができるのが、ルージュを逃がすことだったから」


 そんな選択肢を考えることがないとは言えない。彼女は本当にそんな理由で国を裏切るようなことをしたのだろうか。


「でも、ミハイルはどうして僕たちを逃がしたんだろ」


「それはわたしと同じでルージュが好きだからでしょ。それよりも」


 ナージャは僕の腕を掴んだ。

 

「ミハイルが心配だ。きちんと逃げることができたかな」


「無理だろうな」


 あそこに大勢の兵士がいた。今も確認すると残っている兵士は多い。隙間を抜けて脱出することは不可能だろう。


「あれだけでミハイルもナージャも敵対したという扱いになるの?」


「同じ反逆者という扱いは免れない」


「そんなことをしなくても良かったのに」


「ルージュはいざとなったらわたしたちを殺していた可能性がある。それがわかるのはわたしだけだろうけどさ」


「どうしてもそう思いたいらしいな」


 遠くに感じる魔力からミハイルが囲まれているのがわかる。ミハイルの魔力を見つけて「プラフティ」と言うと彼女を一瞬で僕の近くに移した。


 大きな声を上げて驚くミハイルとナージャ。


「君たちが余計なことするから面倒なことになったんだぞ」


「わたしなんていらなかったね」


 ナージャが不機嫌な表情になる。


「そうは言ってない。僕だけじゃあの人たち全員を助けられなかった。ありがとう」


 僕は二人の手を引いて歩き出した。屋上から飛び下りると先程助けた集団が追いかけられている。二人と目を合わせると彼女たちを抱えて僕は全身に魔力を注ぎ、一瞬で移動していた乗り物に掴まると扉を開けて乗り込む。彼らは困惑していたが僕たちの表情を見て扉を閉める。防戦一方で魔法による攻撃で乗り物の内部は常に揺れていた。僕は扉を開けて追いかけてくる兵士たちの足下を見て「ジギバージ」と言うと次々に足が曲がり立てなくなった。


「これでひとまず大丈夫だ」


「君たちは何故わたしたちを助けるの?」


 話しかけてきた男の子に「ローウェル王国で用済みになった者たちは残酷な仕打ちを受ける。そう考えると助けないわけにはいかないと思った」と言い窓の外を見る。


 追ってくる魔力は遠いが彼らは行き先がわかるのか真っ直ぐこちらに来るように感じた。


「ありがとうございます。その勇気に感謝して、わたしはあなたに力を貸しましょう」


 彼に反応して次々と感謝の言葉を言われるが慣れないことに戸惑ってしまう。


「あ、自己紹介がまだでした。わたしはバレル・リムレスです」


 確か「運命の女神様のルール憂国の歴史改変」という三作目で登場する王子だ。そう言われなければ気づかなかった。随分と疲れた表情をしているせいもあるのか本当に男性だと思ってしまった。


「どうしました?」


「……なんでもないです。僕は……サトウ。そう呼ばれています」


 一見すると男性に見えるが彼は女性だ。一作目と二作目と世界観は同じだが三作目は全然違うゲームとなっている。一作目はあまりにも不幸な結末で終わるので、二作目では結構なハッピーエンドで終わってしまい。三作目は元々あったガールズラブやボーイズラブ要素をメインにした戦闘システムや諸々を変更したもので、賛否両論あって以降シリーズの出てない最後の作品だ。


 この姿で誰も女性だと気づかないのはゲームと同じか。ナージャも彼女を見ても何も思っていないみたいだ。どう考えても声が高いのだが体は男性にように見えるらしい。僕自身も名前を聞かなければ一生気づかなかった可能性がある。


「どこまで行けばいいんでしょうか」


「とりあえずバーキン連邦まで行くことにしましょう。わざわざ戦争中の敵地まで追ってくることはないと思います。そこに僕の味方がいるんですよ。こんなこと言っても信じないかもしれませんが」


「信じますよ。あなたは優しい人です」


「そんなことない」


「ねえ、サトウ」


 窓の外を見ていたナージャが僕の名前を呼ぶ。ルージュと呼ばなかったのでミハイルは反応が遅れていたが「あ、そうか。ルージュじゃないんだっけ」と言いながら僕の顔を見る。


「どっちでもいいよ。それよりも何?」


「追手の魔力が一定の距離を保ちながら移動している。確かにわたしたちの魔力を感じれば難しくないけど、あいつらは移動手段がないのにこちらの位置を把握しているわけ。一度魔力を感じられないほどの距離に移動しても気づけば別の兵士が近づく」


 僕はナージャとミハイルの体を見ると驚く彼女たちの服に手を入れてフルブローグを掴む。それらを粉々に砕くと「二人は魔王がバーキン連邦にやったことは知ってる?」と言うと同時に頷く。


「このフルブローグで相手を洗脳したりしてバーキン連邦での戦いを有利にした。きっとフルブローグで位置を把握しているんだよ」


「これで見失ってくれたら止まることができる」


 すぐに魔力が確認できなくなると警戒しながら移動を中止する。


 車内で僕は全員に向かい胸を張る。


「最終目標はバーキン連邦だが、みんな異論はないか?」


 お互い顔を見合わせていたがすぐに頷く。


「多分、バーキン連邦でローウェル王国と戦うことになる。それにバーキン連邦とも僕は敵対するが、それでもついてくるなら一緒に来てほしい」


「今更降りることなんてできないのに、まったく」


 ナージャはそう言い呆れていたがミハイルは心底困ったように頭を抱えていた。


 僕は戦いに彼らを誘うことに決めた。この場で降りる決断をする者もいたがほとんどはローウェル王国にいることを望まなかった。

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