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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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42/79

42:キスをする理由

 蹴散らされた幾つもの船が空から海に落ちていく。海に落ちても陸に上がる船も頻繁に襲いかかる。心を痛めている暇もなく、次々と都市は壊される。僕には傍観者でいるしかない。争いの原因なんてものを知る時間もない。人が死んでいくのを残酷な所業だと幸福な立場から淡々と語るジャーナリストの気分だ。


 現場での主な指揮は僕ではなくキルティンが行う。些細な会話だけしか僕はしなかった。疲れていないかなどだ。次第に衰弱していく兵士たちを眺めるぐらいしかやることがなくなる。


 積極的に戦う立場ではないからか。全員は僕を王族のルージュ・ローウェルとして見ていることも関係している。血気盛んな戦場の兵士と違って僕は非常に冷静だった。増悪なんてものは僕にはない。多分彼らにもあまり関係ないことだろう。稀に感化される人もいるがミハイルのような例だけだ。彼女と親しかった人は僕と違って戦いに積極的のようだ。


 反響する銃声が聞こえる度に感情が失われていく。彼女たちに武器を渡したのは間違いだったか。それとも生きる為には必要なことだったのか。


 爆風に吹き飛ばされる人は数え切れない。ローウェル王国の兵士、バーキン連邦の兵士。特別な違いなんてあるとは思えない。どちらとも話したことのある僕には争う理由はわからない。僕は両者を憎む気持ちはわかる。それでも他人が怒りで自分を見えなくなっていると意外と冷静になっているようだった。


 バーキン連邦から来る兵士は大抵は機械化された人間だ。ほとんどが自動で製造された人間で、傍目には普通の人間にしか見えない。


 ローウェル王国は彼らのことを同じ人間とは思っていない。多少の顔や体の違いがあるのも製造された時期の違いや区別をつけるだけの処置だ。精巧な機械で構成された部隊は永遠に戦いを続ける。稀に彼らから人間の肉片を見つける。バーキン連邦の指揮官か死刑囚なことが多い。どちらも必死になって戦っているが理由なんて次第に考えなくなってくる。


 夜になっても戦いは続く。


 機械に眠る必要も食事もいらない。昼間元気だったローウェルの兵士も夜まで続くと流石に疲労が顔に出てくる。僕を含めて七人は食事も喉を通らない。草木の生い茂る場所や建物に隠れて休憩していても爆発音で現実に戻される。


 以前は続いていた会話もパンや水を飲む音しか聞こえなくなる。どこからか聞こえる戦闘の音のほうが耳に馴染んでいく。


「もう帰ろう」


 その言葉を聞きミハイルは僕を見る。 


「確かに戦うのが仕事なのは事実だ。だが、もうこれ以上は戦えないだろう。怪我は魔法で治せるが心までは治せない。みんな疲れてる」


「……それは命令ですか?」


 キルティンが言った。


「それならわたしは従います」


「命令だ。それに十分な戦果になっているはずだ。後は勝手な行動をしたことだが、僕が一緒だから関係ないとしても本来は指示があるまで戦うべきじゃなかったよ」


「今更何を」


「ラデリアから勝手に連れてきた兵士を散々連れ回してきた人が言うことじゃないけどさ」


「本当に勝手だね」


「魔王の為にとかローウェル王国の為にとか考えなくてもいいのに」


 ミハイルは僕に掴みかかるほど近くまできていた。


「誰かに言われなくても戦った。魔王様は関係ない。お前は何が言いたい?」


「僕に従う必要なんてなかったのにと思っているだけだよ」


 僕はルージュの姿形から元の佐藤星(さとうせい)に顔だけ戻した。


「え?」


「不思議に思わなかったんだな。カモジアでローウェルの兵士や研究員を殺した時、何故君たちが何も言わなかったのか僕には不思議だった」


「魔力で人を見ているがどう見ても王女様にしか思えなかった」


 キルティンが少し警戒した様子で銃を取り出す。


「そんな顔しなくても敵じゃないよ。僕は想像通り王女様でもあるんだ。魔力の深いところを探れば色々な魔力があるだろ?」


「確かに変な魔力なのは気づいていた。それでも完璧な擬態の魔法があるなんてわたしは知らない」


 また元のルージュの顔に戻す。


「この世界にはない魔法だよ。それこそ王族しか使えないようなものだ」


「王族の魔法を使える王族じゃない人間はいない。それならやっぱりルージュなのは変わらないのでは?」


「少し違うよ。僕は色々な人間と融合した人間だから色々な姿形になれる。融合しなくても複数の魔力を持つこともできるんだ。何故かキスをするだけで誰かの魔力と繋がることも可能だ。この体に残る魔力は離れていても側にいてくれる。たとえ死者だろうと一緒にいてくれるだろう」


「そんな話聞いたことない」


 驚くキルティンを見ていると不意にナージャがキスをしてきた。少しだけ体の熱があったが以前ほど強烈な体験が起こらない。


「何か起こった?」


 その姿に誰もが目を丸くした。


「ナージャ! 男性にキスするなんて……」


 ガーウェルは彼女を見て言った。


「普通女性にするものだろ。俺だって男性としたことないのに!」


「なんでだろ。不思議としたくなった」


 ナージャは首を傾げていたが僕を見て微笑んだ。


「あなたがルージュなのは間違っていないなら一緒でしょ」


「僕は女性でもあるから問題はないが……」


「ならいいでしょ」


 この世界にきて突然キスをされるのは何度もあった。


「君は相変わらず何を考えているかわからないな」


「よく言われる」


 僕とナージャを見てガーウェルが不満そうに舌打ちをする。


「仲が良さそうな人を見ると腹が立つ」


「それなら僕ともキスするか?」


「遠慮する!」


「そうなんだ」


 今何故かそんなことを言ってしまった。


「君は確かマイケルとコーラルの子どもだよね」


「ええ、そうだが」


「彼らとは親しくさせてもらった恩がある。仲良くしたい」


 僕が握手をしようとするとガーウェルは渋々握手をした。


「僕が男性になったら変な感じになったね」


「照れてんだよ!」


「変な人だ」


「マイケルとコーラルとはどんな関係だ? 本当に親しいのか?」


「親しいとは言ったが詳しくは知らない。マイコーとは書いてある変な店をやっていたことしか知らないよ」


「そういえばそんなことをしていたらしいな」


「へえ、お店をやっていたんだ」


 ミハイルが少し興味を持ったのかガーウェルに話しかけてきた。


「色々なものを仕入れて売っていたらしい。アルベール王国の貴族というのは昔の話だから、そういうことでもして生きていたようだな」


「ローウェル王国でもそういうことをするのは珍しいから興味があるな」


「ミハイルはなんでハンバーグ専門店なんてやってたんだよ」


「そんなことわたしが知るわけないでしょ。でも、昔の文献かなんかに女神様がハンバーグが好きとか書いてあって作り方を調べたとか言っていたな」


「そんな神聖なもの作ってたのか」


「そうなの」


「それならローウェル王国の人から人気だったんじゃないのか?」


「……人気とは言えなかったよ。滅多に人がこない店なの。後は魔王様が女神様のことをあまり好きじゃないのか。他の国ほど女神様の話をしないみたいね。稀に他国の人間がローウェル王国に来る時に、女神様の話をすることがあるくらい」


「俺も女神様がハンバーグが好きなんて聞いたことないが」


「じゃあ間違っていたのかな」


「知らないよ」


「お腹が減ったな」


 会話をしていると自然と体調が元に戻ったようで食べ物を口にできるようになってきた。


「聞きたいんだけど、ルージュでいいの?」


 ソーニャが顔を覗き込んできた。


「いきなり名前が変わると混乱するからルージュでいい。本来の姿が佐藤星(さとうせい)というだけで名前なんてなんでも構わない」


「なんでルージュは突然わたしたちに本当の自分を見せたの?」


「僕は人に嘘をつきたくないんだ。嘘ってのは酷い中毒性があって、頻繁に嘘をつくと躊躇がなくなってしまう。どんな些細な嘘だとしても簡単にできるようになるんだ。ほら、こんなに姿形も名前さえも変えられると自分が誰だかわからなくなる。自分自身を偽っていると誰からも信頼なんてされない。誰かに信頼される為に真実を見せるようにしている。それがせめてもの誠意だからだ」


「ルージュはキスされたい?」


「突然どうした?」


「わたしはあなたに自分を貰ってほしい。いつ死ぬかわからない世界で生きていると明日わたしは死んでしまうかもしれない。それならわたしを受け取ってほしい」


「それはちょっと困る」


「ナージャにはしたのに酷い」


「キスだよ? そんな誰とでもやるもんじゃない」


「誰でもいいわけじゃない。ルージュだからだ」


「ソーニャがするならわたしもするよ」


 ベリタが落ち着いた口調で言うとソーニャは眉をひそめる。


「関係ないでしょ」


「わたしも同じ気持ちだからだよ」


「明日死ぬの?」


「死ぬかもしれないからやるの」


「二人共喧嘩しないで落ち着こうね」


 僕の声が届かず会話が続く。


「なあ……それならキスしたほうがいいかな?」


「ガーウェル……」


 何故先程と違って顔を赤らめているのか。


「ここは戦いから離れているけどさ。キスはまだ早いと思うよ」


「今なら誰もいない」


「なんで積極的なんだよ」


 先にキスをしたナージャは何事もなかったかのようにパンを食べている。


「僕はみんなが大事なんだ。簡単にキスはできない」


「大丈夫よ。あなたは男性でわたしは女性。キスをしても問題ない」


 キルティンが肩を掴んできた。


「女性同士なら同意が必要だけど、男性なら特別何か必要なわけじゃない」


「あれ? 女性は女性と恋愛をするんじゃないの?」


「当たり前よ」


「僕にキスするのはおかしくないか?」


「……そうなんだけど。妙な気分なの。ナージャにキスされたルージュを見たら嫌な気分になっちゃった」


「ならルージュ」


 ガーウェルがキルティンの腕を掴む。


「俺のほうが正しい。正式に付き合ってくれ」


「その手はなに?」


「ルージュから離れろ。変態」


「は?」


「男性が女性とキスをするなんておかしい」


「ガーウェルはわかってない。ただ、キスをするだけ。何を勘違いしているの?」


「それでも俺は嫌だ」


「何故そこまで僕とキスしたいんだよ」


 ナージャがパンを口にしながら近寄ってくる。


「わたしは魔力が好みだったの」


 そう呟くナージャに同調するように全員が頷く。それにどこか恋愛的な要素を感じない。これは本能で選んでいる。ある意味恋愛なのかもしれないが好きな会話ではなかった。

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