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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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41:明確な敵

 壊れかけの研究施設は崩壊寸前のようで簡単に崩れた。研究員や兵士は僕が話す侵入者という情報を素直に信じていたのは他の研究員が細かな隠蔽をしていたせいもある。王族という立場から信頼されているのか恐れられているのかわからないが無事目的は果たせた。復讐なんて柄じゃないから冷静になれて良かったと思える。それにベルベットの力を手に入れたことで前よりも魔力が上がったように感じた。


 研究施設を後にした僕はラデリアに戻ることにした。帰りは暗い表情で怯えている兵士しかいない。突然カモジアに行き研究施設を破壊して帰るのなんて客観的に見れば異常だ。たとえ誰であっても一緒にいたいとは思えないだろう。


 帰り道兵士の一人が持っているフルブローグに反応があった。現在バーキン連邦はプリミティブやモカシンを攻めているようだ。勝手に争えばいいとは思ったが兵士たちからすると、本来の仕事を抜け出してきたので戦う必要があるみたいだ。ラデリアまで戻っても行ってもいいと兵士たちから言われたが、表情から察するにモカシンまで行く命令が出ているようだ。


「わかったよ。モカシンに行こう」


「ありがとうございます」


 優先順位はルージュより魔王のほうが上なのは当たり前の話だ。 


「そういえば名前を聞いていなかったな」


「え? 名前ですか?」


「変なことを言ったか?」


「いえ、わたしたちに興味を持つとは思いませんでしたから」


「興味を持ったわけじゃないが」


「そうですよね」


「僕が言いたいのは親しくなりたいだけで興味があるわけじゃないんだ」


「……はあ」


「僕の言葉わかるかな」


 自然とローウェル王国の人たちと話したいと思うのは融合魔法と使った影響か。そもそもイブもルージュもベルベットも彼女たちに特別興味があるとは思えなかった。


「それで誰の名前を?」


「順番に教えてくれないかな」


 それぞれ順番に自己紹介をしてもらっていると驚くことが幾つもあった。僕の隣に座る画面を操作する位置にいるのがキルティン・カミルで綺麗な女性だ。僕とは隣だったのでよく会話する機会があったおかげで多少は打ち解けている。それでもまだ緊張しているのかおろおろとしている時もあって楽しく話せる人だ。他にもガーウェル・モンブランという男性がいたのだがアルベール王国の貴族で、彼はマイケルとコーラルの息子らしいが僕は死んだとばかり思っていたのだが生きていたようだ。


「ガーウェルはいつ頃ローウェル王国に?」


「もう随分昔です。結局マイケルとは会えずにいたが、今はコーラルと幸せに暮らしています。あ、二人は俺の親なんだ」


「ローウェル王国に怒りとかないの?」


「……えっと」


「正直に話してもいいよ。僕は魔王じゃない」


「怒りはある。それでも今の暮らしに満足をしていますから問題はないです。すべて弱かった自分が悪いので」


 ミュールも簡単に受け入れていたな。


「それはローウェル王国が怖いからだろ。恐怖で支配された国で生きるのはつらいでしょ」


「昔はそう思っていました。でも、今はそうでもない。魔王様は俺のような人を無闇に殺すことはしませんでした。むしろ、恐ろしいのはバーキン連邦のような奴らです。彼らは人間とは言えない。コーラルの話ではマイケルはバーキン連邦にいるみたいです。あの国での貴族の扱いは知っています。何も俺は望むことはしませんが、せめて生きていたらと思うしかありません」


「ローウェル王国も大概だと思うけど」


「そんなことないです。この国は素晴らしいと思いますよ」


 それに同調するのかみんな頷いている。これはストックホルム症候群みたいなものかもな。ここにいる全員が他国の人間なわけじゃないだろうがあまり目立つ発言は控えるようにするか。


 僕から少しだけ遠くの席に座る彼女に声をかけると名前をベリタ・マジェンタと言った。ボイス・マジェンタとは親戚のようで世界の狭さを感じた。


「ボイスはどんな人?」


「最近はよくプレゼントをくれるようになりました。以前は会うことが難しかったですが、今では頻繁に会ってくれます。優しい人です」


 僕からすると印象は違っていたが彼女はそう思っているようだ。


「わたしはミハイル・エカテリードです。マジェンタ家とは親戚で付き合いがあります」


 ローウェル王国では有名なのかボイスと親戚のようだ。ベリタとも仲が良いように感じたのは理由があったのか。


 他にもソーニャ・ランシノという女性がいた。彼女も兵士で僕の前では緊張をしているようだが、誰もいないとわかると背伸びをしたり剣の手入れをしたりしている。普段は落ち着いているが誰かの前だと緊張するタイプのようにも見えるが経験不足なだけだろう。


 モカシンまでの道は自己紹介と世間話をして過ごす。一人ひとり会話をしていくと時間はかかるが退屈な旅も楽しくなる。


「そっちの人は?」


 窓を見ていた彼女はナージャ・コスピアンとだけ言って自己紹介が終わった。あまり会話が好きなタイプではないのか仏頂面だ。他の兵士から僕に対して失礼だという声があって無理な笑顔を作った。そんな表情も愛おしく思えるほど可愛い女性だった。


「戦闘になったらここにある武器を使う。使い方覚えておきなよ」


 あの研究施設から貰ったものを兵士たちは手にしていたが不安そうだ。ローウェル王国で一般的なのは剣に宝石が埋め込まれた武器で、事前に魔力を注いで攻撃時に振るだけでいいものだ。ここにあるものはフェザー連邦で作られたものやバーキン連邦との戦いで奪ったものが多い。どれも改良されてあるが魔法というよりは純粋な機械だ。説明書のないものもあって兵士たちは苦労している。


 キルティンとミハイルに渡したのは引き金を引くだけの簡単な銃だ。弾を装填して撃つだけだが発射した弾が敵に当たって、その弾が自分の元に戻り自動で装填する。弾の補充がないもので火薬とか使うわけではないのがわからない。仕組みを理解せずに渡したが彼女は新しい武器を見て目が輝いていた。


 ガーウェルとソーニャが持つ武器は紙のように薄い布で広げるだけで数メートルの範囲を覆うことができる。鞭のように使うことのできる形状記憶する素材に近い。


「そろそろモカシンです」


 キルティンの声で全員が緊張した表情で武器を持つ。


 ベリタは耳に装着するタイプの武器で緊張しながら手で耳に触れている。クローラーと違い移動用ではなく、戦闘用の武器だ。音に反応して音波攻撃を行うらしいが彼女も使ってみなければわからないと緊張していた。


 モカシンに到着すると既に戦闘は激化していた。激しい爆発音が遠くから何度も聞こえてくる。僕は別に兵士を指揮する為にきたわけじゃないがみんなを死なせるつもりはない。バーキン連邦の兵器は使い方が複雑で、それ故に異常な強さを持つものばかりだ。それでいてほとんどが無敵に近い機械化した体となっているわけだ。単純な魔法では太刀打ちできないのか叫び声ばかり聞こえてくる。


 車輪のない大きな箱は全員降りると勝手に小さくなった。地面に落ちた小さな箱を僕が拾うとみんなが命令を待っているようだった。


「みんなここが初陣みたいだから僕から離れないように行動してね」


 その一言だけで終わると兵士たちは顔を見合わせている。


「わかった?」


 兵士たちは元気に声を上げたが僕に何を期待されているのかわからない。あまり戦うつもりがないのだから下手にやる気にさせても意味がないのだ。


 僕は一人少し離れたところにいるナージャに近づいた。彼女には棒状の武器を渡してある。一見するとバーキン連邦で何度も見た武器に見えるが、指輪をつけると投げても自分の元に戻ってくるものだ。触れてみると非常に柔らかいが攻撃時にだけで強力な刃が出てくる。イニユラで見たものは古い武器のようで多少改良された武器みたいだ。


「なんですか?」


「一人で何しているのかなって」


「別に……」


 彼女は柔らかい棒を指で触りながら僕を見る。


「進まないの?」


「あんまり怪我をしてほしくないからね」


「わたしたち兵士だよ」


「仲良くなった人を駒にはできないよ。僕はよく知らない相手なら命令できるが仲間を駒にして動かすことは無理だ」


「前に見た時と違うね」


「前はどんな人だった?」


「もっと怖かった」


 彼女は僕の顔を見つめると「今は可愛くて話すのが楽しい」と言いながら微笑む。


「君こそ可愛いよ」


「口説いてます?」


「どっちが」


「あの……ルージュ・ローウェル第二王女様」


 キルティンが僕に話しかけてきた。


「またそれかルージュでいいよ」


「でも」


「今は僕と君たちの関係は特別なものじゃない。ただの友人のようなものさ。仲良くなりたいから名前を聞いたんだ。僕は対等な関係を望んでいる」


「それは流石に」


「じゃあ友人でも愛人でもなんでもいいから名前で呼んでよ。命令でいいからさ」


「わかりました。ルージュ」


 キルティンは言った。


「誰かが近くで戦っているようです。加勢したほうがいいかと思います」


「それか……焦る必要はない。僕は君たちを勝手に連れてきただけで本気で戦わせるつもりはないよ。ここで死んだら困るでしょ」


「死んだらローウェル王国の兵士として無能です。そして戦わない兵士に存在意義なんてあるでしょうか?」


 少し悩んで僕は進むことを決めた。ようやく戦うと聞いて兵士たちはやる気になった。モカシンに住んでいたらしいミハイルは「逃げているかな」と不安そうなに呟いている。


 なるべく戦闘を避けて進むも度々バーキン連邦の兵士と出会うことがある。バーキン連邦は魔法を想定していたが、僕たちの武器は想定していないこともあって簡単に撤退をしていく。銃は大した攻撃力はないが攻撃を中断させることができる。薄い布は叩きつけるだけで機械の体を押し潰すことができて非常に強力な武器だった。想像以上に広がって伸びる鞭で足を絡め取ったりもできる。そこをベリタの音波攻撃で何度も衝撃を伝えると体から血が溢れて死亡する。完全な機械の体の人は案外あっさり撤退するが少しでも生身の体を持つ人は撤退が遅れていた。


 キルティンが言った。


「バーキン連邦には脳まで機械な人と脳や他の臓器だけ機械の人がいます。多分完全に機械の人は情報速度が違うのか、わたしたちの武器の危険性を即座に理解できるのでしょうね」


「詳しいな」


「これくらい兵士なら知っていることです。誰と戦うのかを知らないと行動できませんから」


「無闇に突っ込むことはしないんだ」


「わたしたちはルージュのように強いわけじゃないです。集団で行動しないと強さを発揮できない。個人だけで強い人はいますけど、そういうのは危ない人だと思ったほうがいい。作戦を無視して突っ込んで死ぬのは無謀なだけです」


 話をしながら町中を歩いているとあまりローウェル王国の兵士を見ない。戦闘中なのに会話ができるのは余裕があるせいか。それとも油断なのかわからない。


 現状は海から攻めている船を攻撃したり空から攻めている船を攻撃したりしている。空中で浮く船はキルティンの話では陸海空兼用でバーキン連邦と戦う時は毎回現れるという。実際に目撃したのは始めてのようで緊張していたが僕と一緒という安心感からか次第に緊張が薄れていく。


「あの船は四角い変な形をしていますが、海に潜れるので海に入られると厄介です。空に浮かんだ時に叩くのが正しい戦い方で陸まで攻め込まれると面倒なことになります」


「さっきバーキン連邦の兵士がいたのは既に攻め込まれていたからなんだね」


「そうですね」


 僕とキルティンの話を聞いていたナージャがため息をつく。


「ルージュって何も知らないんだ。王女様って楽な仕事だよね」


「こら!」


「キルティンだってそう思うでしょ」


「思わない!」


「別にいいよ。本当のことだし」


「ナージャにはきつく言っておきますから」


「キルティンは悪くないし、ナージャも悪くないからね。僕が何も知らないのは当然だ。それで怒るようなことじゃない」


 長い間アルベール王国の城とプリミティブ島で暮らしていたこともあって、結構世間話程度の話でもついていけないことが多い。


「ルージュ……」


 キルティンは安心したような表情で僕を見ている。


「王女様とか思わなくてもいいよ」


 海が近づくとミハイルが駆け出す。その後を追って僕たちも走り出した。急にどうしたのだろうと思っていたが彼女は突然建物の前で立ち止まる。


「ミハイル! 勝手な行動はするな」


 キルティンが言うとミハイルは泣き崩れた。そこにはエカテリードと書かれた看板があるだけで何もない。全員で周囲を確認するも既に何も残されていなかった。


 ベリタが言った。


「ここはミハイルが商売をしている店なんだ。彼女の家はハンバーグ専門店とかやっていて、結構評判良かったみたいなんだ。一度も食べたことないけど……」


「そうなのか。知らなかった」


「当然よ。趣味でやっているようなもので貴族らしくないもの。ローウェル王国でも珍しい人たちでエカテリード家は変な人が多いよ」


「今そんなこと言う空気じゃないだろ。ミハイルの両親はここにいたのか?」


「普段ならいるよ。でも……」


 ミハイルが涙を流しながら言った。


「瓦礫の山の中に」


 魔力はないが手が見える。あれがそうなのかと思えばそうだが両親の手だけでわかるのか。


「あれが本当に両親か? 手しか見えないが」


「見たらわかるでしょ。小さいけど手は見える。そして近くには……」


 彼女が指差すところには死体がいた。それを自分の親だということを言いたいらしい。


「絶対に許せない」


 ミハイル以外は何も言わなかった。


 それでも決意はみんなに伝わったようだ。

 

 僕のような部外者が言うべき言葉はない。黙って流れに任せているだけでいい。それ以外にすることなんて存在しないだろう。敵を倒せなんて口にしたら本気で挑もうとする。僕が戦うべきは魔王だけだと思っていたがミハイルの顔を見たらやはりどちらも倒す必要がある。誰も争わないほうがいいのは確かな事実だが理想を口にするほど愚かにはなれない。


 どうすればいいのかな。

 誰を倒しても禍根を残しそうで心底嫌になる。

 その嫌な気分は誰にも伝わっていないようだった。

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