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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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36:流れ星の降る空

 地下空間には左右に何本も柱が立ち並ぶ部屋があり、この広々とした部屋に立つ彼女は僕を見て自己紹介をした。彼女の名前はツキヨという精巧に作られた機械で人間ではない。裸で立っているので思わず目を逸らしそうだが、どこも平べったくて人間には見えない構造をしている。それぞれ僕たちも自己紹介をしてから、ツキヨは室内を案内した。まず目につくのは遠くに見える女性の像。彼女の話では女神様だというがあまり見たことがない。


 フェルトが女神像の姿を何度も確認する。


「こういう像はもう残されていないと思ってた。確かテラード王国にもあったけど、ローウェル王国の手で壊されたというのは聞いたことがある」


 確かにアルベール王国にもなかった。はっきりとは思い出せないがゲーム内で見た女神様はこんな顔だっただろうか。


「わたしはあまり外に出る機会もなかったですから、女神様の像が残されていないことは非常に残念に思います」


 ツキヨは先程から僕ばかり見ている。彼女を見ないようにすると内部からはどこからともなく光が降り注いでいた。足元には綺麗な石畳が敷き詰められて、柱の間の壁にはステンドグラスが見える。周囲に見えるすべてが昨日今日作られたような美しさだった。


「一緒に来てください。あなたたちのことはゴルアから聞きました。長い間会話らしいことをしてこなかった者同士でも、共通の敵の為に動くのは正しい選択だとわたしは思います」


「何故ゴルアは僕たちに君のことを伝えなかったんだ?」


「元々マキシギャとギャバジンはドラゴニアの国の中でも敵対していました。国が滅んでも手を取るつもりはありませんでしたが、あなたたちのことをゴルアから聞き彼に『会ってからわたしが判断します』と伝えて後のことはわたしに任せたのです」


 ツキヨの後ろを歩きながら更に地下へと進む。永遠に続くと思われた階段が終わり、そこからはツキヨが壁にあるボタンを押すとドアが開かれた。狭い室内に入ると彼女は「休憩室に行きます」と言って壁にある液晶パネルを操作をする。少しの振動が終わると機械音声で『休憩室』と言われドアが開くとベッドやテーブルなどが置かれた部屋に到着した。


「直接部屋まで行けるのか」


「はい。今日はわたしも一緒ですから問題ありませんが普段は階段を使ってくれると助かります。定期点検はしていますので大丈夫ですが、古い施設内で事故が起きた場合に責任を持てません」


「わかった」

 

『聞こえるか』


 突然シャギーの声がフルブローグから聞こえた。


『どうした?』


『今どこに』


 音声が切れると全員が持つフルブローグに通信が入る。見てみるとスピーカー機能によって声が周囲に聞こえるようになっていた。


『シルディン』


 その声には聞き覚えがある。


 魔王の声だ。


『そこから動くな』


 一瞬体が動かなくなったが魔力を巡らせて体内にある魔王の魔力を自身の魔力に変換させた。手や足が動くようになりラフィアを見ると彼女の動きが止まっていた。ツキヨとクワントは動いているようだがアーバンやフェルトも動いていない。


「その機械は?」


 ツキヨは僕が持つフルブローグを指差す。


「これは遠くの人とも連絡が取れる機械です」


「その機械の命令で皆さんは止まっているの?」


「いえ、違います」


「今動くなと命令されたと思ったけど、あなたたち機械じゃないから命令に従う必要もないのね」


「従うこともあるよ。ただ……この状況は想定外だ」


 周囲に魔王の魔力は見つからない。


「このマキシギャ付近で誰か近づいているとはわかる?」


 ツキヨは少し悩む仕草をすると上を見上げて「あら? 何かしら」と呟く。


「どうしたんだ?」


「衝撃が……外の状況はわかりませんが、何か起きているようです」


 僕には何もわからないが彼女がドアを開ける。僕とクワントは動かないみんなを置いてドアに入った。ドアが開くと階段を急いで上がると彼女の後を追って外まで走り出した。空からは大量の流れ星が見えた。寒空の下から見える景色は美しく、白い息を吐きながらツキヨの元まで行く。後ろからついてくるクワントも空を見ていた。


「あの魔力に心当たりはありますか?」


 彼女は空を指差す。ここからでは見えない位置にいる膨大な魔力は魔王のものだ。


「忘れるわけもない魔王の魔力だ」


「やはりそうですか」


 なんで空から魔王の魔力を感じるんだ。そしてどうしてフルブローグから魔王の声が聞こえた。その答えはすぐ頭に浮かんだ。今まで考えたことがなかった。このフルブローグはどこから繋がっていたのか。もしかしたら衛星通信でも行っていたのではないのか。これほどまで各地域に遅延なく繋がるものを衛星通信だと考えたことはなかった。技術が進んでいるのなら宇宙にまで進出している可能性も考えなければならなかった。


「……ツキヨはあの流れ星が何に見える?」


 ツキヨの目が細かく動いた。


「何かの残骸?」


「衝撃と言ったけど、あの山の向こう側からだよね」


「そうね」


 綺麗な流れ星だと思っていたのが人工衛星なら落ちている方向はバーキン連邦か。


「どの程度の範囲までわかるの?」


「地形が変化しているのでわからないがギャバジンまで」


「あんな南の地域までわかるのか」


「詳細な地形までわからない。ここマキシギャとギャバジンは離れているがお互いに繋がりがある。ギャバジンで起こったことならこちらでも把握できる」


「ギャバジンで何が起こっているんだ?」


「物凄い音が聞こえるだけ。ここからだとあの残骸が永遠に降り注いでいる音でしょうか」


 外に出て数分経過しているがまだ流れ星が降り注いでいた。


「ギャバジンは無事なのかな」


「それはわかりません。ここと同じで地下施設だと思いますから無事だと思います。ここは元々地上でしたが氷などが覆って、地下で住む必要が出てきただけです。ゴルアとはあなたたちのことで話した程度でよく知りませんが、マキシギャもギャバジンも魔王の手に落ちたことはない」


「ギャバジンが無事ならいい。バーキン連邦については……後にしよう」


 僕はツキヨとクワントを見た。


「なんで二人は無事なんだ?」


 多分魔王がフルブローグを使って洗脳魔法を使ったのだろう。僕が動くなと言われて動けていることも気になるが魔力の使い方や純粋な魔力量か。


「わかりませんが、その動くなというのは魔法ですか?」


「そうだ」


「それなら多分機械には通じないのかもしれない。ドラゴニアが生きていた時代にも魔法がありましたけど、機械は本来魔法の通じない都合の良い道具でしたから」


 ちょっと引っかかる言い方をしたがツキヨはドラゴニアからいい扱いをされていなかったのだろうか。


「今フルブローグから聞こえた声は魔王のもので、特殊な魔法で相手を操るものだ。あの声を聞いた者はどんな命令でも聞いてしまう」


「生きていた者限定ならわたしのような完全な機械には通じないですね。ここにいる者も魔力を使っていないですから」


 それならゴルアも平気だろう。もしもギャバジンにいる他の人も洗脳魔法を使われていたとしてもゴルアがいるなら任せても大丈夫なはずだ。


「俺はドラゴニア? という奴らしいが生き物じゃないのか」


「ドラゴニアは生き物だよ。ただ、君が本来のドラゴニアと同じとは思わない」


 アーバンは動かなかったが彼は動いたことから魔力を持っているのか疑問だ。内部にある魔力も若干アーバンのよりも動物に近い。貴族や平民に限らず人間は魔力を持っているが様々な色が混ざっている者がいるようにも見える。注視しなければ見えないが動物に関していえば色は赤や青だ。他の色もあるが大抵は二色だと思う。クワントは赤だったが若干青も見える。魔法で人間に姿を変えたがドラゴニアにしては魔法の出来は不完全だ。僅かに首筋から見える鱗が人間への理解度を示している。アーバンは一度で人間の姿を模倣したがクワントは慣れない様子だ。単純に魔法が不得意なのかもしれないが彼には注意する必要がある。


「悪いがツキヨに動かないみんなの世話を頼みたい。お願いできるか?」


「いいですよ」


「クワントにもお願いしたい」


「わかった」


 クワントが階段を下りていくとツキヨが僕の耳元で小さく言った。


「あなたは神様ですか?」


「突然なんだ」


「いえ、すごく似てるので」


「前にも同じことを魔王に言われたな。そんなに似てるのか」


「姿形まで似てるわけじゃないです。魂の形というのか魔力の色が似ています。透明というのかあまり複雑な色がないような」 


 そんなこと始めて聞いた。目に魔力を込めないと他人の魔力なんて見えない。そんな色なんて見えたところで意味はないが魔王と同じなのは嫌な気分だ。


「魔王もそうだが会ったことがあるかのような言い方するよな」


「ありますよ」


「ツキヨって古い時代から生きているが神様ってなんだ?」


「神様とは世界の管理者です。ドラゴニアの時代にいた世界の安定の為に存在する星を統べる者。厳密に言えば違うのですが、昔の神様と女神様はドラゴニアというよりは人間の姿で地上にやってきました。だから記録としては人間の姿で書かれることが多いと思います」


「神様や女神様がドラゴニアという存在がいるのにわざわざ人間に姿を変えるわけもないか」


 アーバンやクワントのように周りが人間だけしかいないならわかるけどな。


「情報収集を何度かしても神様の話はあまり聞きませんでした。女神様のほうが結構聞く話でローウェル王国だとそっちのほうが有名なのかもしれませんが」


「神と女神で女神のほうが有名なのは単純に女神のほうが綺麗に見えるだけかな。実在するかどうかもわからないものを広めるなら女神のほうがかっこいいし」


「実在しますよ。わたしたちが崇拝の対象として神様や女神様と言っているだけで、本人から命令されている名前じゃないです。それぞれが運命の女神シュガーココアと宿命の神シュガースターという名前で当時は呼んでいました」


 聞き間違いかと思った。


「シュガーココアとシュガースターが女神と神の名前?」


「そうですね」


 冗談にしか聞こえなかった。


 僕と先輩が当時つけたハンドルネームと同じものだ。


「ふざけた名前に聞こえるけど」


 ツキヨは僕の顔を睨みつける。


「これは本人が言った名前です。決してふざけた名前じゃない」


「すみません。僕は別の世界から来て、向こうの世界の感覚だと変な名前に聞こえてしまったんだ。悪気はない」


「それならいいです。神様に似てるなどと言ったことを後悔しましたよ」


「普通似てても言わないし」


「普通の人間は似てることなんてあり得ません」


 クワントが地上に出て叫んだ。


「何してるんだ! 待ってても来ないから俺が間違ったかと思ったじゃないか!」


「今行く!」


 僕とツキヨは地下に戻るとフルブローグを破壊した。また魔王の声が聞こえて僕まで洗脳されたら困るからだ。


 洗脳を解除しようとするもどんな魔法も効果がない。魔力の流れが乱されている。ここで彼らに僕の魔力を流して強引に解除させることも可能だが自分の体以外に行うのは怖かった。やはり魔王を倒したほうが一番確実かもしれない。それとも別の方法があればいいが難しいだろう。


 クワントもマキシギャで暮らしてもらおうとすると「サトウ、あなたと一緒に行ったほうがいい」とツキヨから言われてしまった。


「俺は何もわからないが、それが正しいなら従う」


 ツキヨの言った通りマキシギャで彼が暴れたら被害が出る。そんなことにはならないがアーバンと同じドラゴニアには思えない。


「まあ、ツキヨと一緒にいてもすることはないか」


 僕はクワントに地図を見せてローウェル王国の都市の名前を覚えさせた。彼は頷き先に行こうとドアを開けて待っている。


「今からエンバイかラデアリに行く。またな」


 ツキヨに手を振って去ろうとすると彼女が耳元で囁いた。


「彼には気をつけてください」


「……あまり耳元で話しかけないでください。驚くじゃないか」


「わたしの話聞いていましたか?」


「聞いてるから。服ぐらい着たらどうなんだよ」


「機械は人間と違って服を着なくても環境に適応できますから」


「機械じゃなかったら犯罪者として捕まっているような全裸の姿だろ。マキシギャから離れるなよ」


「ドラゴニアだって服を着ていなかったのに……そういえば神様と女神様は服を着ていたような」


「それなら着てもいいでしょ」


「それもそうか……」


「またな」


「ええ」


 僕はクワントと一緒にローウェル王国を旅しながら魔王を探すことにした。


 気になったことを彼に聞いてみた。


「クワントってドラゴニアの時の記憶はないんだよな?」


「ない。目が覚めたら雪が降る土地にいた」


「じゃあバロック王国の戦士というわけじゃないんだな」


「戦士?」


「戦うのが仕事みたいな奴のことを言う。さっき見たアーバンがそうだ」


「俺は戦士か?」


「どうだろ。違ってもいいけどな」


 ツキヨの言い方からしてクワントは何か重要な問題があると思う。彼はきっとローウェル王国で暴れているドラゴニアだ。彼にその記憶がないことも不自然だが何故バーキン連邦にいるはずのドラゴニアがローウェル王国にいるのか。問題は山積みだが解決しなければ先に進めないだろう。


 クワントは歩くの止めて自分の体を見ている。


「俺も彼のような戦士なのかな」


 僕は何も言わず雪の中を歩く。同じ記憶のない者同士でもアーバンのほうがはっきり過去の記憶が残されていた。僕の勝手な想像だがアーバンが語るバロック王国の戦士は今では重荷としか思えない。過去を背負って生きるのは未来を生きる者としてつらいものだからだ。

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