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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第三章 戦争編

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35:忘れられた都市マキシギャ

 ラフィアと二人でローウェル王国に行く準備は既に整えてある。フルブローグで連絡を終えてサチグ山脈に入ろうとするとサテンから連絡が入る。


『まさか二人だけでローウェル王国に行くつもり? わたしたちがなんでローウェル王国に行ってきたか言ってなかったね。ギャバジンがローウェル王国とバーキン連邦との戦争に巻き込まれる可能性を考えて、人を集めて戦いに備えたかったの。もちろん、バーキン連邦にいる貴族を探す目的で人を集めていたのもあるけどさ』


『サテン。言いたいことはわかるぞ、俺たちはローウェル王国で危険なことはしてない。フルブローグで常にラフィアと連絡を取り合って洗脳状態の貴族に話しかけるだけだ。戦闘に入ることはなかったが、二人が行くなら戦いになる』


『わたしは反対よ。ギャバジンにいる戦力が減ることになる』


 リングとサテンが反対していることはフルブローグを通じてラフィアにも聞こえている。


『二人共聞いて。サトウとわたし以上の戦力はないの』


『今からでも戻ってわたしたちは戦う』


『行ってどうするの? ローウェル王国と戦い、更には向かってくるバーキン連邦とも戦うことになる。はっきり言うと足手まといになる。これから二つの大国が争う中、あなたたちにはギャバジンに残って今後攻めてくるローウェル王国と戦ってほしい。わたしとサトウが行くのはドラゴニアの情報があったからだ。今後はここで訓練をしながら準備をしてほしい。何かあれば指示はこちらから出す。サテンもリングも十分強い。だが、イニユラの時も普通の兵士相手でも苦戦していた。今はわたしに任せてほしい』


『ラフィア、わたしたちも力になりたかった。だから出向いた。それも難しいんだね』


『色々言ってごめんね』


「謝らないで。全部わたしたちが望んだことだよ』


『なあ、さっきから聞いていれば同じドラゴニアに話しかけないのはおかしいじゃないか?』


 アーバンがフルブローグの通信に割り込んできた。


『アーバン……』


『サトウにラフィア。わたしでは不満か?』


『そういえばバロック王国の戦士だったな。アーバンの強さは未だに見たことないんだよね』


『サトウとは長い付き合いだが一度も見せたことがないが任せてほしい。ドラゴニアの強さは普通の人間とは比較にならんぞ』


『仕方ない。言ったところで聞かないだろうし、三人で行くか。他のことはここにいる人たちでもなんとかなる』


 アーバンに居場所を伝えると彼は準備を済ませて急いでくるみたいだ。


「アーバンが来ることは許可したんだ」


「ドラゴニアの姿になったアーバンが戦ってるのは見たことないが、バーキン連邦にいるよりもローウェル王国にいたほうが戦いやすいだろ。この世界にいる貴族の使う基礎魔法のようなものとは違う気がする。あいつは単純な基礎魔法を使用せずに体を変化させたように見えた。あの体内にある魔力量を見て強さを否定するほうが難しいよ」


「あの人が強いのはわかったけど。予定通りローウェル王国がバーキン連邦との戦いで消耗したところをギャバジンとマキシギャ両方の戦力で叩くでいいんだよね」


「それでいい」


 事前にゴルアと話を通してある。彼から古い地図で古代都市マキシギャがローウェル王国にあることがわかった。エンバイから北に向かった場所にあるが、ラフィアも行ったことのない場所だ。ゴルアも昔を懐かしんでいる様子で行けばわかると言っていた。


 数日間はルーロブで過ごした。アーバンが到着するまでの間は基本的にフルブローグで会話をすることにした。聞かれてはいけない会話をすることが多いからだ。元々ローウェル王国内で行う会話をバーキン連邦でするのだから聞かれるわけにはいかない。とはいえほとんどはギャバジンの内部情報で会話を聞かれても意味不明だろう。


『サトウから言われたギャバジンの食料問題は地下施設にある野菜などを短期栽培できるようになって解決した。養殖の魚なども見たが人間よりも大きい魚だぞ。その一匹を育てるだけでかなりの量を保存できそうだ』


『わかった。ゴルアには世話になる』


『いいさ。好きでやってることだ』


『そっちは変わったことはないか?』


『特にないが、気になることといえばフェルトの姿を見ていない。このギャバジンは俺でも管理できないほど大きいから機械に頼っているほどだ。どこで迷っていないとも限らない』


『それは心配だな。そろそろサテンとリングの二人が到着する頃だから出迎えてくれ。後はローウェル王国の貴族たちを室内に軟禁させてくれ。適切な処理ができない状態で放置することになるから、他国の人間にギャバジンを荒らされたくないのはわかるだろ。そいつらはラフィアじゃないと命令を聞かない』


『随分と厄介な相手を受け入れたな』


『ローウェル王国内に僕とアーバンが移動できたら一度ラフィアをそっちに戻すよ。その後にバーキン連邦にいる貴族たちを探す為に彼らには国内を探してもらう』


 アーバンが来ると知って一度計画を考え直した。元々は僕一人でも行こうと考えたが移動魔法を使うのを慣れていないこともあって、ローウェル王国に行くだけの移動を彼女の力を借りようと思った。ラフィア自身はギャバジンに残るつもりはなく、僕だけに危険な場所に行くのは反対していたがアーバンによって一人帰ることを聞き入れてくれた。


 プリミティブ島のことがあったので船を出すことは簡単じゃない。もう以前のようにローウェル王国へ船を使って行くのは難しくなっていた。フェザー連邦行きの船を探すのも考えたがマキシギャまで行くのに遠回りになってしまう。


 ルーロブでの日々が過ぎていく。ここで貴族はあまり見かけなくなっていた。日々強まるのはクライン・カモージュの言葉だ。誰もが彼を支持してローウェル王国との戦争に突入することを話している。


『自分が戦うわけじゃないのに偉そうな態度ね』


 カフェでコーヒーを飲んでいたラフィアがフルブローグで話す。飲んだり食べたりしながら会話ができるから傍目には奇妙な男女に見えるだろう。


『前線で戦うのは死刑囚だろ。一般市民で兵士ばかり見たのはノルチェくらいだからルーロブは平和でいい場所だ』


『まあね』


 僕たちが会話をしているとカフェのドアを開きアーバンが現れた。彼は約束通り指定した場所にいる僕たちを見て手を振ってきた。僕とラフィアは手を振ろうとしたがアーバンの背後にいるフェルトを見て困惑した。


「よう!」


「おい、アーバン」


「悪い! 彼女がどうしてもって言って」


「まあ、いいや」


 僕は手に持っていたフルブローグを指差す。


『サトウ! フェルトが気づいたらポケットにいたんだ。でも、途中で気づいたが今更ギャバジンに行かせるわけにはいかないだろ』


『フェルトはなんでついてきたんだ?』


『昔リング・テラード第三王子に告白されたことがあって、今更会うのも気まずくてギャバジンにずっといたら顔を合わせることになるかなと思って……勝手なことしてごめん』


『別にいいよ。それよりもゴルアが心配してたから連絡しなよ』


『ありがと』


 ラフィアが僕を見ているのがわかる。


『わたしだけギャバジンに戻るの? アーバンは強いのは聞いた。でも、フェルトはどうなの?』


『ラフィア、大丈夫。フェルトは強いよ』


 そう言ってフェルトは困惑しているが僕はゲーム内での彼女の強さを知っている。


『戦っているところなんて見たことがない』


『僕も今のフェルトが戦っているところはないが彼女の魔法は強かった』


『まるで見てきたかのように言うね。それもゲームの話?』


『そう』


『あの……サトウはわたしのこと色々知ってるんだね』


『表面的なことだけさ』


 そんなフェルトを見てアーバンが彼女に笑いかける。


『大丈夫だ。何かあればわたしが守ろう』


『うん、みんなでお互いを守ろうね!』


 フェルトは元気が出たのか笑顔になった。


 準備が整ったのでサチグ山脈を通ってローウェル王国に行く。ルーロブを出発して遠くに見えるプリミティブ島を横目に険しい道を歩く。北に行くほど寒さが厳しくなる。山道だろうと難なく歩いた。アーバンのポケットにいたフェルトが寒そうにしていたが穏やか会話が続いている。


 寒そうな僕を見ていたフェルトが「なんでサトウはもっといい服を着ないのよ」と言った。


「ピロトグルやヨークドに小遣いをお願いして服を買ってもらうなんて、そんな恥ずかしい真似するわけないだろ。餓死しそうなら頼むが、自分ができることまで他人にやらせることはしない」


「向こうも別にお金を出すことを問題に思ってないようだけど」


「それでも駄目なんだよ。対価もなしに貰っていたら生きているうちに払えなくなる。たとえばほぼ無料でお金が貰えるとして、その対価はなんだと思うか。お金は他人からすると命の次に大切なものだ。命を頂くのに必要な対価を僕は持ち合わせていない。たとえ体で払っても払いきれないものだよ」


「そういうもんかな」


「フェルトはどんな生き方してたんだよ」


「……盗んでいたからさ。こっちだって生きるのに必死だったんだよ。悪い?」


「悪くないよ。そういうのも大事だと思うけど、気持ちの問題を言っているんだ」


「話をしていると十一歳じゃないのがわかるね」


 フェルトも僕が違う世界から来たことを聞いて疑っていたが、何度も会話を繰り返すと不思議と冷静な対応を見て信じてくれた。


「十一歳でいいよ」


「えっと、今はキュロットだっけ?」


「どっちでもいいよ」


「サトウは前の世界に帰りたくないの?」


「帰れないし、帰ろうとも思わない。僕は既にこの世界で死んでいるから帰っても意味がない。あの世界には僕の好きだった人はいないからさ」


「そうなんだ。聞いてごめんね」


「問題ないさ。ここにはみんながいるから」


 雪は降っていなかったが、イニユラに近づくと雪が多くなる。もうイニユラという都市は崩壊しているだろうが近くに行くつもりはない。サチグ山脈を挟んだ向こう側にはローウェル王国がある。雪が降らないうちにアーバンに自身の体を変化させる。あまり北に行き過ぎると雪が降る。そうなる前にローウェル王国に行く必要が出てくる。その大きな背中に乗ると一気に山を越える。強烈な風に吹き飛ばされそうになるが全員背中にしがみついていた。


 休憩を挟んで数日で山を越えることができた。この距離を移動魔法を使いながらラフィアと行こうとしたが、余計な魔力を使わずに済んだのでアーバンがいて良かったかもしれない。


「ここのマキシギャという都市。わたし聞いたことないや」


 ラフィアがわからない都市ということはローウェル王国の地図に書いていない都市だ。もしかしたら知っている人間はいるかもしれないが一般的なものではないはずだ。ここに行けば何かわかるというのはゴルアの話だが何があるのかもっと聞けば良かった。


「なんだか変な匂いだ……」


 アーバンが風に乗って匂いがすると言ってきた。マキシギャのある方向の近くに来て上空から見ると建物らしきものは何も見えなかった。イニユラの時同様に異常なほどの雪や氷が見える。こんな場所に長くいると凍ってしまいそうで寒さに震えていたがアーバンは何かを探すように辺りを見て回っていた。


「いたぞ」


 雪の中に埋もれるように倒れる巨大な物体を発見する。輝く鱗や翼に牙はアーバンと同じだ。僕たちは必死になって倒れている物体を起こそうとする。


「なんだ?」


「わたしはアーバン。ドラゴニアだ」


「ドラゴニア? 俺はクワントだ。ドラゴニアというのはなんだ?」


 クワントは首を傾げている。


「ドラゴニアというのはここにいる人間と似た部分のある種族だ」


「なるほど。通りで変な匂いがするわけだ」


「お前もドラゴニアだろ?」


「そうなのか? そうかもしれない」


「どこから来たのかわかるか?」


「ずっと東の……よくわからない」


 クワントはバーキン連邦の方向を指差していた。


 みんなで立ち尽くしているとフェルトのくしゃみが聞こえる。


「ねえ、それよりも寒いからどこかに行かない?」


 フェルトの提案にみんな賛成して辺り一帯を歩いていた。ゴルアの話によればここはドラゴニアの都市らしいので住める場所はある。古代都市というのはどこも頑丈に作られている。ギャバジンのように地下にでも住む場所があるはずだ。


 歩いていると不意に手が氷に触れたが冷たくなかった。その氷を触っていると突然扉が現れた。地下に続く階段があったが人間しか通れそうにない。アーバンとクワントは魔法で人間サイズになって地下に行く。わたしたちも地下に行くと中は暑くも寒くもない気温だった。


 そこの中央に裸の人形がいた。


 女性のように見える。


 僕が近づくと自然と動き始めた。目を覚ますと全員を一瞥して「ようこそ。マキシギャに」と言って笑顔になった。


「人間に近いが機械にも見える」


 僕がそう言うと「わたしは機械ですよ」と言った。


「ここはドラゴニアが作りしマキシギャ。ここを守るのがわたしの使命です」

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