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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第二章 転生編

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30:自滅覚悟の攻撃

 熱を保った状態で吹雪を突き進むと大きな城が見えてきた。買ったばかりの服は既に破れている。極寒の地なのに薄着でイニユラまで到着したようだ。


 体に異常は見られないが自分で気づいていないだけの可能性もある。あまり目立たないように城に入れないかと近づこうとするも遠くの壁に何個か球体のようなものが見える。前の世界と形が似ていることから監視カメラだと思ったが判断材料にはならない。


 町中を二足歩行の機械が歩いている。一瞬の隙に作業中の建物に入る。ここにあるのは城で使う物資のようだ。待っていると建物内にいる人の声が聞こえる。


「また今日は一段と寒いな」


「いいから積み込みしろ」


 手元にあるタッチ画面のようなもので物資を見ている。


「全部揃ったな。」


 二人が後ろを向いた隙に二足歩行の機械に入り込む。内部では音があまり聞こえないが動いていることだけはわかった。数分で動きは停止した。物資を積み込む作業の為ドアが開かれると足を中心に魔力を込めてドアの隙間を抜けて天井まで移動する。天井に手を突き刺して固定すると二足歩行の機械を開けていた人たちが顔を見合わせていた。


「すごい風が吹かなかったか?」


「なんだろ」


 この室内にも監視カメラと思われるものがある。天井付近に複数ある監視カメラが動いていたが、逃げ場がなかったので基礎魔法で壊した。以後は見られる前に監視カメラを壊す。そして人目を避けて行動するようにする。気をつけていると見つかることはないが、流石に監視カメラが壊されていることはわかっているようだ。小さな魔力が集まってくるのがわかる。侵入者の情報までは知られてはいないが騒ぎになっていた。内部の混乱した様子が手に取るようにわかる。


 僕は廊下を歩きながら奇妙な感覚に襲われた。この城は普通の生き物と同じく、全体的に魔力が流れている。触れてみても生き物のような温かさはない。


 複数の部屋に入って捕まっている人間の情報を調べてみるが、膨大な資料を一つひとつ見ても知り合いの情報は見つからない。そのどれもが数十年前のものや何百年も前のもが多い。こんな綺麗な紙だが内容としては相当古い。この部屋のものは今はほとんど使っていない。液晶画面みたいなものも埃まみれで指で触れるだけで汚れてしまう。


 魔力の源に行きたいが中心は人が多い。これらが貴族なのか平民なのかわからない。死刑囚は平民だが薬を使用して貴族同様に魔法を使えるらしい。その影響や壁や地面に天井など建物全体に流れる魔力で人の正しい位置が把握できなかった。


 動き続けていたので人のいない室内で一晩過ごすことにした。先程の物資の中から奪った食料を食べながら床で眠ることにする。どのくらい時間が経過したかわからないが騒ぎは激しくなっている。僕が見つかったのかと思ったが三人組という情報をドアの外にいる兵士から聞いた。もしかたらラフィアかもしれない。兵士が通り過ぎるのを待ってから部屋を出ると付近から小さな魔力を感じる。天井を見ると誰かが僕を見つめていた。かなり高い天井だと思っていたが彼は人間とは思えないほどの大男だ。


「この部屋に入れる権限のある人間の格好じゃねえな」


 彼は突然右手に持っていたナイフを投げてきた。避けながら視線は彼に固定させて「いつからいた?」と言った。


「昨日からだ。ボロボロの服を着た奴が使われてない部屋に入ったから出るのを待っていた。それと避けて正解だったな」


 僕は彼が指差す先を見るとナイフは地面深くまで刺さって見えなくなっている。


 彼は地面に下りると笑い出した。


「楽しいな! お前侵入者だろ? 人を殺せるというのはさ!」


「突然、どうした」


「俺はラングラー・スピンドル。この国で死刑囚として生きている。本来なら死んでいたが実験の為生かされている幸運の持ち主だ。今さっき侵入者に攻撃命令が出て、ようやく俺は自由に楽しんでいいことが約束された。さあ、どの程度俺を楽しませてくれるんだ!」


 ラングラーの腕が少し伸びたかと思えば、腕から穴が空いて小さな生き物が出てきた。鋭利な牙を持つ生き物は素早い動きをしながら口を大きく開けている。突っ込んでくる生き物から基礎魔法で自分の体を守るも大したダメージはない。小さな生き物が地面に転がってくるので、近づいて踏み潰してみると中身は機械だった。


 動きは単調で避けるのは簡単だ。


「お前魔法を使えるのか。それは貴族ってことか」


「この世界だとそうなってるね」


 彼は小さな生き物と一緒に僕の元まで走ってきた。牙で食い殺そうとする小さな生き物を掴んで破壊しながら彼の拳を受け止める。手を潰そうとしたが壊れない腕をラングラーは掴まれた腕ごと外す。そのまま外れた手が光りだしたので小さな生き物に向かって投げつける。そうすると彼は一気に僕から離れて逃げ始めた。一瞬で手が爆発して僅かな針のようなものが辺り一帯に突き刺さる。事前に基礎魔法で守っていなければ全身に針が刺さっていた。


 ラングラーが舌打ちをする。


「また魔法かよ! これならどうだ!」


 彼は大きく口を開けると光線を放った。基礎魔法から派生していないバーキン連邦特有のエネルギーを持っている。壁や天井を沿って移動する光が脇腹付近に当たる寸前に避けると、光は方向を変えて顔面に向かってきたが魔力を込めた手と基礎魔法で守った体で弾いた。


「なんで逃げられるんだよ。おかしいだろ!」


 ラングラーが左足を地面に突き刺すと左手が変形した。刃のように鋭いものが無数に飛び出して壁や地面に天井を切り刻みながら向かってくる。彼は制御しきれないのか更に右足を地面に突き刺した。その刃を避けながら基礎魔法で彼の足を攻撃すると体のバランスを崩す。直後に無数の刃が彼の胸を突き刺したが頭がなくなっている。


 頭だけが転がっていたが後方にある兵士が彼の頭を掴むと自分の頭と付け替えた。


 気づけば複数人が囲まれていた。


 先程のラングラーと似た格好の兵士たちに紛れて見えなくなった。兵士たちはお腹から棒状のものを取り出す。壁に当たりながら向かってくる棒は魔法をまとっている僕には当たらない。


 僕は兵士たちの攻撃を受けながら不思議に思っていた。死刑囚というのは薬の効果で魔法が使えるらしいが僕に対して使ったことがない。


 前に進みながら兵士に魔法をぶつけて気絶させると頭だけ違う兵士がいた。周囲にいる兵士たちの武器を奪っている様子だ。ラングラーは銃を見せつけ引き金を引くと何発もの弾丸が円を描きながら周囲の兵士たちを磁石のようにくっついていく。回転しながら突撃してくる兵士たちを魔法で守っていると次々と兵士たちが爆発を始める。辺り一帯には機械の残骸が転がっていて、ところどころに血が混じっていた。


「ここにいるのは全員死刑囚なのか?」


 僕の言葉にラングラーは叫んだ。


「そんなわけないだろ! 俺がよく知っている顔ばかりだ。どれも評価に値しない人間で俺が何もしなくても使い潰されて終わっていただろうな!」


 自分たちの仲間を殺したのか。


「死刑囚というのは自国の人間を殺せないはずでは?」


「普段はな。今は偶然敵に向かって攻撃したら当たっただけだ」


「随分と偶然が多いな」


「非常事態の場合は一時的に民間人以外なら攻撃を許される。このバーキン連邦には戦略的兵器が俺たちみたいな兵士にも扱えるから多少は許されているんだ」


「酷い国だ」


「人間なんて簡単に作れるからよ。ただ、一人や二人ならいいが今ので俺は今日死ぬことが決定になりそうだ」


 ラングラーは地面に転がっている薬を掴むと口に入れた。機械の体から赤く濁った気体のようなふわふわしたものが全身から出てきた。真っ赤になった目や口から血が出ている。血で溢れた地面をえぐりながら赤くて巨大な腕が形成されていた。片方の腕が大きくなると、また別の手足が大きくなる。そのうち全身が大きくなって壁を突き抜けてしまった。天井まで突き破る頭が僕の頭上に近づき、その大きな目玉が静かに見つめている。


「魔法というのはいいな。機械よりも自由だ!」


 僕の足元から大きな手が出てきたので横方向逃げようとするも、横方向から大きな手が出てきた。大きな手で平手打ちされるようだった。壁に叩きつけられて強い痛みと共に城の外まで飛ばされる。


 雪に覆われた地面に倒れると体から血が出ていたが致命傷ではない。


 城を破壊しながらラングラーが僕の元まできた。


 見上げるほどの大きさの彼が僕を踏み潰そうとするも避けることは簡単だった。狭い廊下と違って外のほうが動きやすい。


 大きな手足で攻撃をするが当たることはない。


「逃げるな! もっと魔法を使え!」


 彼の目からはとめどなく血が流れている。息も絶え絶えに叫びながら見当違いの方向に攻撃をして血を流していた。


「俺がお前を服従させてやる。小さな虫め」


 白い息を吐きつつ赤く大きな体は勢いを弱めていく。次第に攻撃をすることもなく、地面に倒れると雪に覆われた地面が赤く染まっていった。


「殺す……」


 彼は徐々に小さくなると元の体に戻っていく。口から溢れる血が止まることなく流れている。こんな状態でもまだ動いている。


 立ち上がることはなかったが目は僕を見つめていた。


「ふざけるな! 一度もお前は俺に殺意を向けなかった。本気で殺し合え!」


 もう体を動かすこともできないようだ。


「戦うのは好きだが殺すことまで望んでいない」


「俺は戦って楽しかった。それなのにお前は!」


 ここで体力を使うつもりはない。どの道薬を使った時点で命は長くないことはわかった。最小限の魔力で戦えるのなら今後ラフィアに会う確率が高まる。


 もう彼の目に輝きはない。


「俺を殺せ……」


「介錯を僕にさせるな。すべて自分が望んだことだろ」


「これだから貴族は嫌いなんだ。偉そうな態度で世界で一番自分が優れていると思っているかのような話し方をする」


「僕は別に貴族じゃない。平民のつもりもない。僕は別世界からきた人間だ」


「冗談まで聞こえてきやがった。耳がおかしくなったか」


「ラングラー。お前との戦い楽しかったよ」


 そう言うと少しだけ笑って動かなくなった。


 城からは大きな衝撃が絶え間なく聞こえてくる。僕の他にも侵入者がいるのなら考える限りラフィアしかいない。

 

 ラングラーに背を向けて城に向かった。

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