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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第二章 転生編

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29:機械の中の人間

 昼間と違い夜は頻繁に出入りする人間は少なくなる。町中を歩き回る二足歩行の機械も城に入っていくようだ。サテンとリングを連れて城に来たが入る方法がない。幸いにも人がいる気配がないのでわたしは壁に近づき触れてみる。


「どうやって入るの?」


 サテンが周囲を警戒している。


「どうしようか」


「ラフィアの魔法で入れないの?」


「わたしは知っている魔力ならどこにでも移動できるんだ。あまり遠くじゃなければだけどさ。魔王はもっと上手に扱うことができる。かなり遠くても魔力の繋がりさえあれば移動させることが可能だった」


「知っている魔力がないってことならラフィアの知り合いはいないってことになるね」


「そうじゃないんだ。知っている魔力があるのに入れない」


 魔力が多すぎて誰が誰なのかわからない。


 それにこの二人を連れて危険な場所に移動したら大変なことになる。


「だから他の魔法を使うことにする」


 城の壁に触れながら「ウルクガ」と言うと壁が溶け始めた。


「通れるようになったから行くぞ」


 壁を抜けると近くに人はいない。この城全体に魔力が巡っていることで小さい魔力は探しにくい。貴族と思われる魔力は感じるが妙な感じだ。


 外を歩いていると近づいてくる魔力に気づき急いで離れる。兵士らしき人が先程の空いた穴を見に来ていた。彼らは何かを喋りながら周囲を確認している。


「ラフィア、倒すか?」


「慌てるな。この国はローウェル王国と違って魔力の大きさが強さではない。リングは何か気づいたことがあれば言ってくれ」


「なあ、さっきから気になっていたんだが……あれは?」


 付近の壁に設置されている球体のようなものが動いている。わたしたちが球体を見つめていると兵士の声が大きくなった。走ってこちらまで近づいているも、ここは溶かした壁から死角になっている。遠く離れていて声まで聞こえないはずだ。


「ウルクガ」


 わたしは壁に穴を作り二人と一緒に兵士たちから離れた。室内もかなり寒かったが外よりは過ごしやすかった。


 近くの部屋に入るが足音が大きくなってドアを開けられた。二人いた兵士はお腹から棒状のものを取り出すと正面に突き出した。部屋中に棒状のものが伸びて壁に当たりながらわたしたちに近づいてくる。それを避けながら基礎魔法で兵士たちを突き飛ばすと、部屋を飛び出して誰も見ていないことを確認して別の部屋に入る。


「変だぞ。俺たち見られていなかったよな?」


「リングの声でも聞こえたんじゃないかな」


「ねえ、サテン。今日ぐらいはリングに優しくてもいいと思うよ」


 部屋に入ってからしばらくするとまた魔力が近づいてくる。何故一直線にこの部屋に入ろうとするのだろうか。


 部屋のドアを開ける寸前に兵士たちを殴り倒すと廊下を走る。今まで魔力が分散されていたのにわたしたちに向かって魔力が集まっていた。この小さい魔力はバーキン連邦の兵士だ。一人ひとりは大したことないがどんな武器を持っているかわからない。


 逃げながら隠れる場所を探していたがどこにいても追いついてくる。


「いい加減戦っていいか?」


「いいけど、慎重にね」


 リングは追いかけてくる兵士に向かって突撃する。自身の頭で相手の懐にぶつかると周囲にいる兵士は次々に倒れていく。立ち上がった兵士がリングの腕を掴むも彼は力任せに兵士の腕を引きちぎる。サテンも加勢しようと走るもわたしは彼女の腕を掴む。


「なんで」


「いいから」


 この状況はローウェル王国と戦った二人なら問題はないと思われる。それでも慎重でいたほうがいいのは底が知れないからだ。ローウェル王国はバーキン連邦と戦って完全な勝利を掴んだことがない。両国は互角だということ。それは魔法を使った勝負でも勝てる時と勝てない時がある。こんな末端の兵士相手に攻撃が通じないとは思わないが何が起こるかわからない。


 兵士たちが一斉に声を上げて一歩下がる。複数の人間が何かを喋っている。違和感に気づいたリングが基礎魔法で全身を守ると何か細い光のようなものが壁から動いていた。その光の動きに目が追いついたのはわたしだけで誰も光が見えていない。あまりにも速く動く光は一瞬でリングまできていた。


「プラフティ」


 わたしがリングを自分の側まで移動させると、先程までリングがいた場所には小さな穴が空いていた。以前プリミティブで見た光線に近い兵器かもしれないと考えリングの腕を掴み走り出した。


「ラフィア! 手を離せ!」


 わたしは彼から手を離すと言った。


「あのままだと死んでいたかもしれない」


「まだわからないだろ。なんでそんなに慎重なんだよ」


「ローウェル王国はバーキン連邦と何度も戦争をしているが、ローウェル王国は勝ったことがない。互角なのは間違いない。それがどんな意味を持っているか考えたことあるのか?」


「……平民が貴族と互角だと思えるわけないだろ」


「ローウェル王国だってバーキン連邦が弱ければ叩き潰すのは簡単だ。魔力がなくても数の差や武器の差で相手を上回ることもある。今は黙って走れ」


 走っている途中にも光線が見えた。だが、二人はまったく避けようとしない。サテンの腕とリングの腕を掴み全速力で走る。途中で光線は横に曲がったが当たることはなかった。このバーキン連邦の兵器はわたしたちの使う基礎魔法から派生したものではない。純粋な魔力からなる武器は剣などに魔力を込めたものだが、この光線は古代文明で発明された銃などに近い。


「これはバーキン連邦の技術だ。彼らは魔法を使わずに魔法よりも強力なものを使っている」


 走りながらそう言うと不安そうな二人の顔を見て「今から移動する。移動した瞬間誰かに見つかる可能性もある。何が起こるかわからないけどいい?」と掴んだ腕を強く握る。


 頷く二人を見て「プラフティ」と言った。


 移動した先には兵士は誰もいなかった。移動魔法を使うと場所が把握できない欠点はある。それともしも貴族が相手に寝返っていた場合仲間を呼ばれるリスクもあった。だが、移動した暗い室内で目に魔力を込めて周囲を見てみると機械に繋がれた複数の人間がいるだけだった。付近には他の人間の姿が見えないようで安心して二人から手を離す。室内を全員で確認していると透明な箱のようなものが見える。そこには機械に繋がれた人間と肉塊のようなものが透明な箱に入っていた。動物か人間の手足だけのものや目のような物体にも番号が振ってある。

 

 わたしたちは膝から崩れ落ちた。


「確かに魔力を感じるが死んでいたんじゃ意味ないよ。生きている貴族なんていないじゃん」


 リングは泣き始めて、そんな彼の側で一緒にサテンも泣いている。わたしは目から落ちる涙の先にあった紙を目にする。涙を拭きながら床に散らばる紙を一通り確認すると、それらはここで使用されていた資料などだった。


「ここにいるのは使えなくなった魔力の高い貴族の細胞を使用して、平民に魔法を使わせようとする実験のようだね。ここは最近廃棄された施設のようだ」


 本当に最近まで使われていたのかどこか懐かしいアルベール王国の貴族の魔力まで感じる。ほとんど形は残っていないが頭だけになっているが見覚えがあった。そこには最近まで生きていたが、度重なる怪我で体が使い物にならなくなったこと。他にも残った魔力を頭に集めて存命中だとも書かれてある。


「……マイケル」


 十年も経って体つきも変わってしまって気づかないかもしれない。彼にはお世話になっていた。アルベール王国で居場所がない時も助けてもらった。亡くなった子どもというのもローウェル王国との戦いで死んだのにわたしに優しくしてくれた。


 手に持っていた資料を思わず落としてしまう。


「ここにいる全員が他の王国かれ連れてこられた貴族か。わたしたちは罪深いから平民に何をされても仕方ないと思ってた。これが報いなのかな」


 広い部屋にある装置を眺めるとまだまだ魔力がある。ここにいるのはどれも昔人間だった者の魔力を感じている。これらはすべて生きているという認識がここでの考えのようだ。


「これでも生きているらしい」


 わたしの声を聞いたリングが笑った。


「生かされているが正しい。ここから出せば彼らは死ぬ。ああ、それも間違いだったな。生も死ない魔力というエネルギーで動く道具だ」


 この大量の人間を助けることは不可能だ。ここでわたしたちが彼らを殺すこともできる。それを実行できるほどわたしたちは決断力があるわけでもない。


 わたしはピロトグルに連絡を取った。


『今イニユラにいる。ここに貴族はいるが……全員機械に繋がれて何かをされていて……されていて』


 話をしていて急に立てなくなった。


『ラフィア? 大丈夫か?』


『大丈夫』


『機械に繋がれた人間がいた話か。それらは貴族から魔力を抽出する施設だな。多分、そこはサルエルが研究していた施設を再利用したものだ』


『あなたは関わっていないの?』


『関わっていないと断言はできない。だが、俺が行ったのは主に平民の改造だ。魔力だけを抽出するのはサルエルが平民を使って実験していた記録が残ってる。あいつもドラゴニアと貴族を研究対象として平民を貴族に近づかせる方法を探していた一人だ。俺も人体の実験を行う過程で起きる非人道的行為を今まで黙認してきたが、少なくとも俺はイニユラでの実験に関わっていない』


『責任を感じてるなら、彼らを助ける方法を教えてほしい』


『そこに欠けている部分がない人間がいるなら生きてるはずだ。人間は虫じゃないから頭だけで生きてる者はいない』


 見回したが見当たらない。


『いないと思う……』


『それなら助ける方法はない。すまない』


『ねえ、わたしたちに隠していることってないよね?』


『それはない』


『ここでの実験以外にも貴族に対する実験はあったの?』


『主にローデン連邦で死んだ貴族を中心に平民へ細胞移植などしてきた。魔力が使える平民もいたが使えない平民もいて、結果的に割に合わないものだと結論づけたがサルエルは魔力があれば生きていても死んでいても構わないと言っていた』


『じゃサルエルって人が悪いんだ』


『あいつは悪くない。俺も同罪だ。他の都市でも以前はやっていたが頻繁に場所を移すから正確な場所までは誰も把握できない。このバーキン連邦では人間は簡単に作れる。それは俺が開発した人間製造機のせいもあるが、遺伝子改良した優秀な人間が大勢出てくれば仕事の奪い合いが起きるんだ。今はローウェル王国がいるから大きな争いに発展しないが戦争が終わってバーキン連邦だけになったら何が起きるか』


 ピロトグルがバーキン連邦だけの為に動く人間ならわたしたちに協力しないはずだ。罪の意識があったからと信じるしかない。


『この貴族たちを救う方法がないのはわかった。ここでの彼らはどういう扱いなのか教えてほしい』


『機械に繋がれた貴族か……魔力というエネルギーだけを使って行うなら兵器としての利用だ。どんな機械があるかわかるか?』


『わからないけど、この建物全体に魔力を感じる』


『イニユラに重要な拠点の一つがあるとは聞いていたが、その建物全体が魔力を使った実験場なのかもしれない』


『どうすればいいの?』


『その兵器を破壊するしかない』


『この人たちを殺すってこと? そんなことできないよ』


『単純なエネルギーとしての役割だけの貴族なら……嫌なことを言うが彼らは人間としての命はもうない。もう俺から他に言うことはない……』


『わかった。また何かあったら連絡する』


 通信が切れるとリングが立ち上がる。


「今ピロトグルと話をしていたんだろ? なんで作った本人が生きていて、ここにいる人間たちは死んでいるんだよ!」


「それは彼も反省している。それに実際にこの装置を作ったわけじゃない」


「なるほどね、随分と冷静だな」


「冷静なつもりはない」


「どうだか」

 

「言いたいことがあれば言えばいいでしょ」


「……反省していれば過去のことを許してもいいと言えるのか? お前だってローウェル王国のことは許せないって思っているだろ」


「許してるわけじゃない。そんなの態度次第でしょ」


「聞いたぞ。キュロットの知り合いだからだろ。会ったことはないがお前の子どもだってな」


「子どもじゃない。血は繋がっていないよ」


「それは贔屓だ。俺たちの目的は貴族やドラゴニアという奴らを助けること。それに変わりはないがこんなことをした奴らを許せるほど平和主義でいられない」


 サテンが手を握ってくる。


 彼女の目からは涙が流れていた。


「悲しいね」


「……うん」


 他人が死んだことに慣れていたのか涙はもう出てこない。サテンの手から伝わる温かさはわたしを人間に戻してくれる。リングの怒りは正しいものでわたしが忘れていたものだ。こんなものを見てバーキン連邦に敵対しないほうがおかしい。


 ローウェル王国とバーキン連邦のどちらも正しい行いなどしていなかった。

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