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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第二章 転生編

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28:死に際の魔法

 遠くの町並みを振り返る。昼間なのに背の高さより大きな木々に囲まれている。向かっているデシン山脈は普通の人は抜けることさえできない。開発が進んでいない地域の一つだ。このフルブローグも既に繋がりにくい。山奥まで深く進めば誰も僕を咎める人はいない。たとえフルブローグから連絡が来ても気づくことはできない。


 ラフィアはサトウが死んでからは僕の前で一度も涙を見せたことがない。今でもサトウを愛しているのなら、この魂に刺激を与えてくれる彼女を何度でも守ろう。彼女への思いは誰にも譲ることができない大切なものだ。僕がキュロットだとしても、心はサトウなのだという自覚が足りなかった。彼女の時折見せる悲しげな顔はキュロットからサトウの面影が見えるからだった。


 バーキン連邦にラフィアの味方はいない。身勝手な行為だとしても動ける時に動くのが間違っているとは思わない。人を好きになるのは身勝手な人だからできることだ。僕は好きな人が死ぬ姿は見たくなかった。


 デシン山脈に入って数時間、軽い足取りは徐々に重くなっていく。険しい道のりを歩き始めて数時間も経てば黒い雲が見えてくる。山の天気は変わりやすいと聞いていたが突然雨が降ってきた。整備されていない道を登るのは想像以上に疲れる。全速力で登っていることも関係している。魔力を使って山を登っていくとアニリンが遠くなっていた。この速度でもイニユラまでの道のりは遠い。出し惜しみをしている場合ではない。クローラーを使用して空を飛んでいく。


 耳に装着してからしばらくクローラーで移動するも雨で先が見えない。一度地図で見たのでイニユラの位置は頭に入っている。服を乾かしながら移動を続けていると雷が鳴り始めた。正確な位置を知っていたので雲の上まで突き抜ける。


 想像通り雲の上までいくと先まで見通せた。雲一つない空に出るとクローラーの動きが遅くなっていることに気づく。警告音のようなものが室内で鳴り響く。子ども用の玩具が限界にきていたのか雲を抜けた時点でゆっくりと速度が落ちていく。それからしばらくすると「燃料が足りません」と耳に機械音声が聞こえてきた。考えてみれば今まで燃料の補給はしていなかったがエネルギーの心配をすれば良かった。


 突然クローラーが動きを止めて落ち始める。回転をしながら雨雲の中に入っていく。雷の音と機械音声の「燃料が足りません」がひたすら聞こえてくる。画面を見るとエラー表示がされていて機械の故障にも思えた。単純に不良品でも買ってしまったのかわからないが地面に叩きつけられる。そう思い視線を上に向けると地面ぎりぎりで空まで飛び上がったが途中の木にぶつかる。空中を舞いながら地面に落ちたが室内に衝撃が伝わっただけで怪我はない。


 室内にあった説明書を読んだが自然と燃料が増える仕組みになっているようだ。それでも密閉空間など特殊な環境では動かないことや山などの環境も推奨されていない。


 クローラーをポケットに入れて山の中で全身に魔力を巡らせて基礎魔法で体中をまとえばどんな障害物だろうと突破できる。魔力の消耗を最小限に抑えて木々を突っ切るも未だに雨が振り続いて止む気配がない。飲まず食わずで夜になるまで山を登ると、また別の山を登り始める。一日が過ぎて残っていた食料が終わってしまった。山に食べられる動物や植物は少ない。幸いにも水が流れていたので体は動いたがお腹が空いてきた。


 数日間は水だけで動いていたが、次々と山を越していくと雪が降り始めた。寒さと空腹で流石に体が持たなくなる。近くの壁に穴を作り体を休める。魔力で動物の気配を探すが見当たらない。


 今自分はラフィアに会う為だけに仲間から離れている。昔も同じことをしたが当時と変わらず僕は勝手なことばかりしている。


 体と一緒に心まで十一歳になったのだろうか。それとも昔から子どもなだけで僕は何も変わっていないのかもしれない。


 ラインのことを完全には認めないでラフィアだけを見ていた。ラインに子どもができたことも僕は知らなかった。その子どもに転生したこともラインには言えずにいる。ラフィアにだって言えない。サトウという人物がキュロットという自分の娘に転生したことなんて誰に告白すればいいのかわからない。誰に責められるわけでもない事実を墓まで持っていく必要がある。


 ラインたちが見せたキュロットが産まれて喜んでいる顔を悲しませるのは嫌だった。


 感情は抜きにしても本気で伝えれば信じてもらえたかもしれない。


 今の僕はラインが死んでいるかのように考えている。バーキン連邦で貴族が生きているとはあまり考えていなかったが僕は自然とそんなことばかりが頭に浮かんでいた。


 目を閉じて雪が止むのを待っていると遠くに魔力を見つけた。体を動かそうとするも立ち上げる力がなかった。魔力はまだあるのに体が動かない。雪の先に生き物がいることはわかるが見えない。


 何日も水だけで生きてきたが時間の感覚がわからないせいか想像より疲れている。手も足も動かそうと思えば動くが十一歳の体で山を越すのは無茶だったか。肉体を無理に二十歳過ぎの体に変えたが体力も何もかも追いついていない。


 何故何日も全速力で走っていたのか。


 ラフィアに会いたいからと思っていたからだ。


 彼女とは待っていれば会えたのに仲間を置いてまで行く必要なんてないのに。


 十年間も一緒にいたのに少し離れただけで寂しいと思ってしまった。


 ラフィアはサトウが死んでから寂しいと思ってくれていたのだろうか。心のどこかに僕が残ってくれたらいいと考えていたが忘れられたら耐えられない。


 ラフィアの居場所がわかったのに一人で待っているなんて無理だ。側にいないと彼女が遠い存在になってしまうようで怖い。


 また腹が減った。


 魔力の痕跡を辿っていくとそれは非常に小さい生き物だとわかる。この腹を満たすことはできないとわかり悔しくなった。


 一瞬の緩みと体力の低下に雪崩の影響で諦めて魔法で作っていた穴に雪が流れ込んだ。魔法で防ぐことができずに雪の中に全身が埋まる。強引に体を動かすが、全身が冷えてきたようで本格的に手足が動かなくなる。次第に手足の感覚がなくなっていた。無理に魔力で体温調節してきたが魔力が減ってきたことで今は難しくなっている。ローデン連邦に行った時から装着している体にあった一部の機械が余計に体を冷やしていた。


 意識がなくなる寸前に懐かしい声が聞こえた。その声に覚えがあったが思い出せずに懐かしい声に耳を傾ける。


「始めて人を殺した時のことを思い出して」


 ラフィアと一緒に魔王のいる玉座に飛ばされた当時のことを思い出す。


 ムートンを殺した時に自分の手は血だらけだった。


 あんなの嫌な感覚でしかなかった。人というものは、これほどまでに残酷になれるのだと自覚できた始めての相手だ。そいつを掴んだ時のことは記憶から離れることはなかった。他人の魔力が血から伝わって、酷く鬱陶しい嫌悪さえある魔力の匂いがした。


 冷たい体内を巡る魔力の残滓から記憶されている様々な魔力を見ていく。糸のように複雑に絡まる魔力が僕の全身を包んでいる。心臓の鼓動が伝わる度に刻まれた魔力が腕に流れていた。冷えた体に熱いほどの魔力が溢れていく。


 僕はそれを掴むと基礎魔法で口元の空間を少し広げた。


「ポーミジュルダ」


 そう言葉にすると魔力を辿った先にある小さな生き物と僕が繋がった。魔力はあまり戻らなかったが僅かな魔力で全身を基礎魔法でまとって地上に出る。


 言葉にしないと実行できない魔法は一度見たことがあった。あれは魔王が使用していたものだが他の人間が使っているのは見たことがない。


 こんな魔法はアルベール王国やプリミティブ島にいた時にも本には書かれていなかった。


 小さな生き物のところまで行くと非常に痩せ細った生物がいた。どんな生き物かわからないが既に死んでいるようだった。先程まで生きていたものが僕の魔法で死んでいた。雪が降り止まない中でも寒さをほとんど感じないで体が動けた。腹はあまり空いていないが急いでイニユラまで向かう必要がある。体の調子がいい時に移動しておかないとまた動けなくなる。


 これはラフィアの魔法ではない。魔王かムートンの魔法だろう。他人が使える魔法の表面的な部分だけしかわからない。キスをしたことで感じる魔力共有とも似ていたがムートンとは何もしていない。

 

 白い息を吐きながら歩いていると次第に吹雪となって全身を襲ってきた。先程までの雪の降り方と違って前が見えない。


 魔力で全方向を見ると遥か遠くに大きな魔力を確認できた。複数の魔力がバーキン連邦に集結しているようだ。


 そこには貴族やドラゴニアがいるのだろう。


 体は冷えていない。


 降り積もる雪の壁を突き破りながら進む。


 もう悩みは頭から消えていた。

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