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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第二章 転生編

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25/79

25:眠れない夜

 ピロトグル・グラデイの名前を出すと船員は彼と連絡を取って確認を終えると疑うこともなく、船に乗せてくれたので一安心する。他国にいる人間にまで知られている重要人物ではない彼はあくまでも末端の人間だ。それでもバーキン連邦にとってみれば過去の英雄的存在で、彼がいなければ平民は今頃絶滅していたはずなのだが扱いに困る人物のようだった。実力はあるが所詮過去の実績で教科書に載ることのない影の権力者だ。


 バーキン連邦が建国した日から生きる平民は少ない。大抵はピロトグル・グラデイが作った人間製造機を元にしたクローンや生きている貴族とドラゴニアの骨などで形成された平民と、脳を含めて機械化した純粋な機械の平民の三種類いる。建国当時の数千年前からいる権力に固執しない彼を懐柔できない国は研究者として軟禁させた。脳以外は全身機械化した特殊な彼は生きるのに疲れ果てている。死んだところで別の脳と機械化した体が起動を開始するようで死ぬことはない。


『選んだのは俺だが普通に死ぬことは生き物として正しかった』


 彼が隠居しようと決意するのを手伝う形で何度か話を聞き彼が住むルーロブに到着した。


 大きな二足歩行の機械に興奮するリングと興味深そうに空を駆け回る透明な箱を見つめるサテン。ピロトグルからの連絡で一晩宿屋に泊まっていたが、わたしたちは毎日休まず動き続けていたので先送りしていた疲れで起きたら夕方になっていた。夜なのに明るい建物が並んでいる。寝起きで歩いていたがお金がなかったので一度ピロトグルに連絡をするとフルブローグにはお金を受け取る機能があるらしい。


『それなら今からお金をやるよ』


『いいの?』


『ああ』


 しばらくして送られてきたのは送り主はヨークドだった。


『あの名前が』


『俺の知り合いだ。お金ならたくさんあるから出してやれと言ったんだよ。何かあればあいつか俺に言ってくれよな。他の連中でもいいが、この国のことなら知っているからさ』


『ありがとうございます』


 二人に飲食店で美味しいものを食べさせてあげると喜んでいた。このフルブローグのどこにお金が入ったいるのか不思議に思っていたがわたしも知らない。


 ピロトグルに一度会いギャバジンまでの方向を教えられるも「まったく……出迎えもないから歩いて行くしかない。俺は先に行くがお前たちも気をつけろよ。ノルチェだと俺の名前を出すだけで入れる場所も少なくなる。あくまでもルーロブに俺がいるから知り合いという形で船に乗れただけだ。ここから離れるということはバーキン連邦と関わり合いがなくなることになる」と言い彼はギャバジンに向かっていった。


 彼と別れるとわたしたちはノルチェまで移動する。サテンとリングも貴族たちの救出で気合は十分だ。入念な準備をしている暇はなかったが、何度目かの作戦会議でノルチェとイニユラまでの移動手段は確保できた。ピロトグルから渡されたチケットやヨークドのお金で当面の間生活に問題はない。しかし、ノルチェやイニユラには他と比較できないほどの兵士がいるのを聞いた。ヨークドの話では正規ではない兵士が多いので問題が発生する可能性があるらしい。危険な場所にキュロットを行かせることがなくなってわたしとしては彼らに感謝している。

 

 地下の階段を下っていくと人々が並ぶ先にドアがある。その上には文字が横に流れていて、このバーキン連邦の都市の名前が書いてあった。ギャバジンの名前は当然ない。どうにも砂漠や過去の争いから若干禁足地のような扱いを受けているようで、この国の人間は誰も行こうとしないと聞く。


 混み合う中でノルチェ行きの場所で立ち止まる。ここで並んでいれば徐々にドアまで勝手に進む。この地面がゆっくりと動くようだ。


「今から楽しみだね」


「サテン……これから戦いに行くんだぞ」


「リングだって楽しそうにしていたのに、あんまり楽しくないの?」


「楽しいに決まっているだろ。こんな不思議なものに囲まれて、俺は人生で一番愉快な気分だ」


 リングはノルチェと書かれた文字を見ている。


「でも、ここはこんなにも優しい世界なのに俺たちにとっては優しくない」


「そうだね」


「頑張ろうな」


「うん」


 ノルチェ行きのドアが開くと内部は相当広かった。わたしたちが席に座るとドアが閉まった。まだ空いている席もあるが移動を始めたらしい。説明を見ると地下空間に広がる道路というもので、都市間を行き来する通常利用から軍事的な輸送手段という側面まで持つ。細かい説明を見ていると隣で四角い形のものを口に入れるサテンがいたが「野菜スープだ!」と驚いている。リングも水を噛むとチーズと肉が出てきたと変なことを言っていたのでわたしもボタンを押す。


「何故水を飲んでいたら焼いた肉を食べているんだろうか……美味しいな」


 わたしたちは一日の食事を取りながらノルチェまでの時間を潰していた。リングが窓枠の下にあるボタンを押すと知らない人間が真面目な表情でこちらに語りかけている。どういう原理かわからないが人間が映っている。内容を聞いているとバーキン連邦では偉い人物のようでクライン・カモージュという人だ。彼は積極的にローウェル王国との戦争を進めているようだ。


「彼がいるならローウェル王国も安心できないな」


「そうかな、ローウェル王国は強いよ。リングだってわかるでしょ」


「戦っているがバーキン連邦の技術は素晴らしい。この国が負けるとは思えないね」


「わたしはそこまで楽観的になることはできないかな。それにバーキン連邦も別に好きなわけじゃない。勝っても負けても結果は変わらない気がするよ」


「どっちが支配しても片方にとっては地獄だな」


「兵士としては喜ばしいのかな」


「残念ながら傍観していられるほど楽な世界とはいかないな。ローウェルとバーキンのどちらにも所属していない俺たちは両方から攻められる」


「地獄の道を歩いている気がするな」


 リングと話をしていたのにサテンが会話に入ってこない。彼女の顔を見ると無言でわたしの顔を見ていた。


「どうしたの?」


「こうして長く旅をしてきて飾らない気持ちでリングとラフィアと話をしていると、この有意義な時間を永遠に続けたいなと思いたくなったよ」


「わたしと仲良くなれて嬉しい?」


 サテンはわたしの手を握る。


「嬉しいよ……ずっと一緒にいようね。約束だよ」


「わかった。約束する」


「サテン、俺は?」


「リングは駄目」


「ラフィアと手を繋ぐのもキスをするのもわたしだけ」


「キスはしないが、仲良くなるぐらいいいだろ」


「お前……昔から変な奴だと思っていたがラフィアのこと好きなの?」


「どうしてそうなる。好きになる要素ないだろ」


「こんなにラフィアが可愛いのに好きにならないなんて……」


「俺をお前はどうしたいんだよ。で、ラフィアはサテンのことどう思っているんだ?」


「好きだけど」


「やった!」


「なんで体近づけてくるの?」


「なんとなくね」


 こうしているとキュロットがわたしのベッドに入っていた頃を思い出す。それほど時間は経過していないはずなのに昔のように思える。キュロットと違いサテンは本気でわたしを愛している気持ちはない。何故なら彼女の愛は表面的でリングと話す時のような笑顔は見えなかった。可能性として低いがサテンはリングと話をしているほうが好きなのかもしれない。


 ノルチェに到着する頃には太陽が登る時間帯のようで人が少なかった。ルーロブよりも少ないと感じていたのも朝だけで、昼になる頃には人混みの中を一緒に手を繋いで全員で迷わないようするので精一杯だった。


 神経質になって周囲を見ていると鋭い眼光の兵士が多数見つかった。どれも兵士らしい格好をしていないがローウェル王国で何度も見てきた人を殺したことのある目だ。彼らの会話に耳を澄ませると下世話な話題ばかりで重要な話はない。サテンとリングはわたしの指示で兵士たちの近くで会話に耳を傾けることに集中する。あまり顔などを見られるわけにはいかないので、兵士からは見られないように背中を向けることにした。何度かサテンとリングを集めて話を聞くが兵士たちの内容は支離滅裂で仕事の内容はほとんど聞けなかった。


「あいつら男がどうとか女がどうとかばっかりだぜ。後は金の話や薬の話だ」


「わたしと同じね」


 二人の話を聞きわたしも頷く。


「わたしも同じで女の兵士は女の話。男の兵士は男の話。後は男が女の話をしたり女が男の話をしたりすることかな」


「それはわたしも思った。あまり異性の話を同性で話したりしないのに、彼らはたまにそういう話をして楽しんでいる」


 カフェで座っているとピロトグルから連絡が入った。


『もうノルチェに着いたか?』


『着いたけど、貴族は見かけない。後は兵士たちが変なの、顔つきというのか。性格なのか』


『あ……それ薬だな。本来ならしない異性への興味も薬で増幅させている兵士がノルチェにもいるというのは聞いたことがある。魔力暴走のような形を意図的に引き出すが副作用が幾つもあって、普通の平民は使うのを禁じられているものだ。その薬を作った奴とは話したことがある……俺は人間など生き物の研究でヨークドは古代技術のさらなる成長を……奴は色々と危険な研究をしていた。サルエル・フレーム……懐かしい名前だ。あいつは俺の仲間だった奴だが非常に危険な人間だ。人が住むような場所にはいないと思うが、念の為に気をつけてくれ』


『その薬って大丈夫なの?』


『問題ない。そこにいるのは死刑囚だ』


『死刑囚に扱うってどうなのよ』


『承認したのはクライン・カモージュでバーキン連邦の代表だ。多分、あいつも本気なわけじゃないと思うが他の奴から賛同を得る為に仕方なかったんだろ。死刑囚にあれを使えば大抵は死ぬ。あの薬は理性を失う可能性がある代わりに魔法が使える。兵士たちは相当危ない橋を渡っているが、国の体裁として国民には死刑囚を効率的に扱う必要性が戦争のせいで起きているだけだ。リスクに見合った仕事をさせているのはバーキン連邦の主張だな』


『ちなみにどう死ぬの?』


『一定以上の興奮を続けていると理性を失う。そして肉体が爆発を起こして死んでしまう。大抵は何か行動を起こそうと思った時点で、既に興奮している場合があるから死ぬ確率は高まるかな。それは相手を殺そうとすることも含まれる。他にも金や他のものを盜もうとする時にも同様だ』


『問題にならないんだ』


『初期段階で中止したよ。奴を追放してから奴の技術を追放したクラインが使うのをどこかでサルエルは笑っているかもな』


『仲良かったんだ』


『そう聞こえたか』


『ピロトグル、笑ってたよ』


 通信を終えて夜になると兵士たちの後を追う。どの兵士も周囲を警戒しながら歩いていた。ここにいる兵士はさほど重要ではないが他の地域で貴族の話をする兵士を目撃した。重要人物の警護などをしている者もいて彼らの会話からわたしたちは貴族のいる室内に侵入する。窓はあまり頑丈ではないようで少し魔力を込めれば開けることができた。室内を物色していると隣の部屋から物音がした。ドアを少し開けると首輪をつけた女性が血を流して倒れている。普段魔力で人を探すことが多いので平民の小さな魔力は大抵気づくことがない。荒い息をしながら女性を見下ろす彼は全身血だらけだった。彼も平民なのか魔力で見つけることができなかった。隙間から覗いていたのにもかかわらずドアを開けられた。


「お前誰だ?」


 捕まえようとするので避けると素早い動きで後ろに回る。血走った目でわたしを見るとお腹を開き棒状の物体を取り出す。長く伸びると棒は一瞬でわたしの頬をかすめた。すぐに棒は首元まで近づいたので掴むと強く握るだけで砕けてしまった。


「俺に用か?」


 興奮している様子で彼からは僅かな魔力が溢れ出ている。彼は傷なんてないのに血を流して疲れた様子でわたしを見つめていた。


「お前じゃない」


「それなら、そこにいる貴族か。残念だったな、もう死んでるぞ」


 そう笑う彼を見ながら近くにいるサテンやリングにフルブローグを使って連絡を取る。


『敵に見つかった。他の兵士がいる確認して』


 彼は壊れた棒を持ちながら腕を振り上げると棒が破裂して白く光った。目が開けられないでいると首に痛みが走る。首を掴まれていたようだ。魔力を込めて首を掴む腕を壊すと彼は慌てて声を上げる。


 その隙に「パーペチュアル」と言うと彼は動きを止めた。


『物音や声で何人かの人が騒ぎに気づいている』


 サテンの言葉に焦りながら室内に倒れている女性の顔を見る。既に死んでいる彼女に申し訳ない気持ちで謝るとフルブローグを使って机にある端末から情報を抜き取っていく。机には薬が置かれていたが重要なものには思えず情報を見ていくと兵士たちは警護や警備などが主のようだ。度々起こるローウェル王国との戦いには死刑囚の存在が重要になってきて、彼らの機嫌を損なわない為にも扱いやすい貴族を何度も渡してストレス発散に使っていたらしい。


 ノルチェやイニユラに配置された兵士の数をゴルアの元に念の為送っておく。不意に汚れたタンスを目にして開けてみると腐った匂いがして思わず後ずさる。今死んだ者ではない何か別の動物が死んだようだ。情報を知ることができたので一旦離れようとして彼の顔を見る。この人間は犯罪行為をしているが人間なのは間違いない。


 わたしはノルチェを離れてイニユラに行こうと思ったが転がる女性の体を見て立ち止まる。


 ここには他に貴族いる情報はない。もっと時間をかければ見つかるかもしれないがリスクがある。彼のような兵士なら魔力のない貴族を好き勝手遊びに使うだろう。ノルチェにいる兵士は死刑囚で、イニユラにいるのもほとんどが死刑囚だ。ローウェル王国では何人も人を殺してきたが、それは必要な悪だからだった。これも必要な悪で人間というのは間違いかもしれない。


「……シルディン」


 彼は薬を使用している。この魔法で相手を洗脳させて程度興奮しているか試してみることにした。


「わたしをどう思う?」


「すごく魅力的だ」


 やはり一般的な女性が感じるような興奮を男性が感じている。


「襲ってみたいか?」


「ああ」


 わたしは彼の腕を掴んで自分の胸を掴ませる。


「どう?」


 ゆっくりだが魔力が頭に集まっているように見える。わたしは基礎魔法で全身を覆い隠すと、彼の片腕だけが千切れてしまう。機械の腕で痛みはないのか悲鳴も上げない。しばらくすると彼の頭が大きな音と共に破裂した。大きな爆発で周囲は破壊されたが基礎魔法使うまでもなかった。


 わたしは室内から抜け出すと「殺したんだ」とサテンが言った。


 音だけで内容までは知らないがわたしの性格を彼女は知っている。


 わたしが頷くとサテンは怪我の心配をしてきた。怪我がないことを確認すると宿屋まで魔力を使用して急いで戻る。怪我をしていたら戦うつもりだったが、わたしが一人で動けることを知ると誰も見られないように注意を払って宿屋の窓を開けて室内に入る。


「今日のうちにノルチェを出てイニユラに行く。そうしないと死んだ兵士の情報が出回ってしまうかもしれない」


 証拠を隠滅する時間はなかったから仕方ない。


 わたしたちは室内の荷物をまとめて窓から出て屋上に行くと夜空を眺める。遠くには先程までいた兵士の住むところがある。そこに集まる兵士の小さな魔力を感じる。息を整えながら体内の魔力を徐々に巡らせていく。イニユラまでの出発時間をフルブローグで確認すると今日最後の出発が迫っていた。


「二人共! 急げ! 今日イニユラまで行くぞ!」


「今日って」


 慌てるリングの手を掴みサテンが屋上に連れ出した。


 遠くにいる兵士たちにまで殺意を向ける必要性はない。


 わたしたちは騒ぎの中、静かにイニユラ行きの地下鉄に乗った。

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