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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第二章 転生編

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19/79

19:ラデリア

 気軽に誘うだけでサテンは喜んでくれた。ローウェル王国にも善良な人間がいることを実感する。彼女は元々外部の人間で認識を改める必要はないのかもしれない。それでも魔法を使わずに仲良くなれたのは何故だろうか。わたしが以前サトウにしていた感情を彼女に向けたからかもしれない。


 最近は家で話すことも多くなった。実際はわたしの家ではなく、元々はボイスの家だったが彼にはフォブレイと一緒の家に住んでもらっている。サテンと話すのに彼らがいると言い訳できなくなるので仕方ない。


「サテンは仕事はどうなの?」


「順調だよ。ただ、問題があって」


「問題?」


「前も言ったけど、リングがいるの。あいつと話すのが苦痛というか不快? どっちでもいいけど。それが嫌かな」


「そんなに?」


「わたしのことが嫌いなのに話しかけてくるんだよ」


「仕事のことでしょ」


「それが嫌なんだよ」


「わたしが間に立ってあげようか?」


「そこまではいいかな。仲良くなりたいわけじゃないし」


「でも、仕事で顔を合わすなら仲良くなったほうがいいと思うよ」


 彼女が普段どんな人と話をしているのか興味があった。


 翌日腹を割って話そうと強引にリングとサテンを呼んだが両者は無言のまま話さない。


「わたしはラフィア・セイ。ここモカシンで暮らしているの」


 ローウェルと名乗ってしまうわけにはいかないが、サトウやラインと同じセイを名乗るのは変な気分だった。


「俺はリング。君は何がしたいんだ?」


「サテンとリングを仲良くさせようと思って」


「迷惑だ」


「険悪なままだとお互い気まずいと思うんだけど」


「それもそうだが」


「なんで婚約破棄になったの?」


「それは男だと偽ったサテンが悪い」


 サテンは言った。


「それで勝手に話を進めるなんてどうかと思うわ」


「こいつは自分は悪くない親が悪いと言って逃げたんだ」


「親が勝手に決めたことで、出会うまで顔すら見たことなかったじゃないの」


「出会ってからも自分は男だとか言って俺を騙していた。そんな奴と仲良くできるか」


「それは親がいるから男だと思わせようとしていただけで、普通わたしの顔や体の形を見れば女だってわかるでしょ!」


 サテンがリングに掴みかかるが、リングはサテンを突き飛ばして胸を指差す。


「そんなに大きな胸があったらわかったさ!」


「隠さないと意味ないでしょ!」


「女は胸を収納できるのか?」


「頑張ればね」


「顔だって男にしか見えなかった!」


「どう見ても女の顔でしょうが!」


「サテンもリングもお互いのことよく知っているのなら仲良くできそうだね」


「ねえ、ラフィア。わたしはリングのことが嫌いなんだよ。なんで話させようとするの?」


「毎日顔を合わすのに仲が悪いと仕事に支障をきたすかもしれないでしょ。それに他国に来てまで過去のことで嫌い合うなんてお互いの為にならない。サテンは嫌?」


「今更過去のことを蒸し返したくないのはリングだって同じだよ。でもさ……感情は別なんだ。ねえ、ラフィアはわたしをどうしたいのよ」


「サテンと仲良くなりたい。そんなサテンと話をしているリングのことも知りたかった。それだけ」


 リングはため息をつく。


「ラフィア・セイは俺のことを知りたいらしいが、そんなのサテンのついでだろ?」


「そうね」


「なら」


「ついでだったけど……久しぶりに誰かが話すのを見て楽しくなった。本気で嫌ってたら会話すらしないのにお互い子どもみたいに喧嘩するなんて本当は仲が良いんじゃないのかと思ったけどな」


 二人は呆れたようにわたしを見る。


 最近は魔法で強制的に話をさせてばかりで喧嘩など見たことがない。ローウェル王国で魔法を使わずに仲良くなれるならこの二人にしたい。


「サテンとリング。わたしと友達になってよ」


「いきなり何を言ってるの?」


「サテンは元から友達か」


「そうでしょ! でもリングは駄目」


「何故?」


「わたしが嫌なの」


「サテンだってわたし以外友達いないから丁度いいと思うよ」


「あなただってわたし以外いないでしょ」


「わたしはいるよ」


「見たことない! 嘘つかないで」


「まあ、死んだけどね」


「……そうか」


「リングは駄目?」


「たまに話すくらいなら構わない。ただサテンがいるのがな」


「サテンとわたしで話そうという話なんだよ。わたしリングと一緒に話すことないもの」


「これだから女は嫌なんだ。だが……俺も暇な時は相手をする。飯を奢ってくれたらな」


「リング! ラフィアに奢らせるつもり?」


「俺に払わせるのか?」


「ラフィアの分はわたしが払うけど、リングは嫌だからね」


「仕方ない。昔より金がないからと期待していたが、よく考えればサテンの前で奢ってもらうのも格が下がる気がして恥かもな」


「あなたは昔から恥しかないけどね」


「この女……」


「二人って仲良いよね」


 サテンとリングはわたしを見てため息をつく。そうしてお互い喧嘩をしながらわたしの家から去っていった。きっかけなんて些細なことだったけど、人と話すのは嫌な気がしない。


『報告です。カモジアで貴族や庶民を集めている情報があります』


 急に四番からの念話で現実に戻される。


『わかった。一旦ラデリアを経由してカモジアに向かう』


 カモジアには知っている魔力はない。ローウェル王国全体と戦うつもりはない。戦力削げればそれでいい。それには魔力のある貴族たちを順番に消していくしかなかった。このモカシンには他国の元貴族はいるが元々ローウェル王国に所属している貴族は少ない。ボイスは例外的にフォブレイの為に残しているが本来なら既に処理している。


 ラデリアはこの国の中で一番古くて巨大だ。あまり操る人を増やすのは避けたいが、内部の構造を把握する人員が不足していた。


「プラフティ」


 四番の元に行くと道具はただわたしを見つめるばかりで何も言わない。


 こんな人間とばかり話をしていると心が冷たくなる。ローウェル王国の人間なら何をしてもいいと思っていたが彼は洗脳を解くと友達になってくれるのだろうか。


「シルディン」


 彼に近づき「解除だ」と言って彼の反応を見るが様子がおかしい。突然わたしから逃げ出してしまった。敵だとか言って走り去ってしまった。


 洗脳魔法を使っておいて一瞬でも仲良くなろうと考えるのは頭がどうかしていた。


 わたしがした命令なども記憶しているかもしれない。そうでないとあれほど怯える必要はない。ほとんど顔は知られてないとはいえ、わたしが元は王族だということも知っている兵士もいる。四番は他国出身の兵士ではない。ローウェル王国に生きている者なら何をしてもいいかもしれない。


 あの四番の声で誰か出てきたのか兵士らしき人物と話をしている。わたしは四番の元に一瞬で移動すると首を掴んで潰してしまった。


「ベゼルの言う通りだ。人を殺しても何も感じない。わたしもやはり魔王の血を引いているのかな」


 自分の汚れた血を見て心が痛むのを感じる。


 見知らぬ兵士を洗脳して新たな四番として使い、魔法で倒れている死体ごと吸収する。同じく念話を使えるように頭をいじって四番の他に使える兵士を探すことを命令する。白い建物に囲まれた細い路地の間を歩いていると、至る所から声が聞こえてきた。きっと先程の騒ぎを耳にした誰かが兵士に連絡をしたのだろう。四番に酒で暴れていた人が騒ぎを起こしたことを伝えて、わたしは一目散に逃げた。騒ぎが静まるまで落ち着こうと屋根の上で座ることにした。


 夜が明けるまでに四番が連れてきた兵士に、六番と七番を新たに加えてわたしの住むところを決めてもらう。室内に入るとベッドやテーブルなどが置いてある質素な部屋に入る。ここに住む兵士たちが眠るだけの部屋のようだ。椅子に座って窓の外を眺める。建物と建物の間隔が狭い。隣の建物には赤色の花が飾ってあったり黄色の花が飾ってあったりして、白い建物と花が並んで綺麗で思わず見入ってしまう。


 四番と六番と七番を待機させていつもの兵士の仕事に戻るよう命令する。


 部屋で一人今後のことを考える。


 もしもローウェル王国がバーキン連邦と戦争になったら、この綺麗な景色も見えなくなるのか。


 朝の光を浴びながら部屋を出る。路地を歩くと朝だからか人通りが少ない。時折見知らぬ人から挨拶をされるが、ここの住民のような顔をしながらさり気なく挨拶をする。


 太陽が真上まで昇る頃になると周囲は買い物をする人や食事をする人で賑わっていく。彼らに声をかけられる度に困ってしまう。本気でローウェル王国の住民を殺すつもりだったが、彼らに罪はないのに何故魔王と同じような怒りを覚えていたのか。そうした罪悪感に苛まれながら遠くに見える建物に近づいていく。ローウェルの都市よりも小さい城が見えてきた。

 

 狭い路地を歩きながら城に近づき、徐々に魔力を探っていく。あそこには何人もの兵士と王族がいると思われる。今のわたしなら昔ほど恐れるものはない。

 

 近くに人がいないことを確認にして「プラフティ」と言うと彼女は目の前に立つわたしに驚き椅子から転げ落ちた。長い髪が綺麗なイブ・ローウェル第五王女だ。突然のことに困惑していたがすぐに目に涙をためて言った。


「生きてたのね」


「死んでないよ」


 彼女はわたしに抱きつくと泣き始めた。


「泣き虫だな」


「だって、いなくなって一番悲しかったのはわたしなんだもの」


「つらかったんだね」


「ええ」


 イブは城内での生活を語り始めた。穏やかな日々を過ごしているようで何も起きていないようだ。ここ最近は忙しいようで城内の誰も自分の相手をしていないらしい。


「すごく退屈なの」


「そうなんだね」


 わたしは彼女ことを何も知らない。唯一知っていることは人間に興味がないことや、他の生物に対して残酷なところだけだ。手元には昆虫の死骸がある。そこには人間の爪も混ざっていた。歳を取って小さい生物以外にも興味が出てきたのかもしれない。昔から彼女は生き物をいじるのが好きだった。


「ねえ、イブに聞きたいんだけど。わたしがローウェル王国と敵対したらどう思う?」


「どうも思わないよ。魔王様に殺されるだけだもの。それよりも見て!」


 握られている死骸をわたしに渡す。


「これは?」


「あげる」


「いらないよ」


「そんな……折角大きな虫を捕まえたのに」


「死んでいるよ、これ」


「うまく捕まえられないんだ。力が強いんだと思う」


「ねえ、イブはわたしのこと好き?」


「好きだよ!」


「困ったな」


「だって前はよく話し相手になってくれたじゃん!」


「結構昔の話なのによく覚えているね。十年前か」


「あれから随分と経ったね。死んでいないってことは魔王様は認めてくれたの?」


「うん」


「良かった」


 彼女の目を見ながら言った。


「パーペチュアル」


 イブの時間が停止される。ベゼルの永久魔法が使えるようなったことで彼女を殺す必要がなくなった。彼女に何かされたわけでもない。王族だからといって全員に恨みがあるわけでもなかった。この国を破壊するつもりでいたのにサテンやリングと会って考えが変わった。


 イブをベッドで寝かせて魔力を探すとルージュ・ローウェル第二王女が見つかった。この段階で行動を起こすのは問題がある。わたしが探せたということは彼女も発見している可能性があった。ここでもしもイブを殺していたらルージュが察知していたことだろう。

 

 時間が経てばイブは動き出す。そうしたらわたしの行動に疑問を持つはずだ。その前にルージュと接触しなければならない。


 サトウの復讐で動いているのにまた迷っている。罪のない人間を何度も殺してきたのに今更イブをどうするか考えていた。


 そんな余裕ないはずなのに力を持ったせいか。


 悩んだがルージュと会ってからイブのことを考えよう。

 

 頭を抱えながら日が沈むのを待つことにした。

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