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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第二章 転生編

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16:貴族の扱い

 シャギーに別れを告げて海を眺めるアーバンに声をかける。彼は色々と世界を渡ってみたいと考えていたが決心がつかないようだった。


「わたしたちと一緒に行かないの?」


「キュロットにはわからないだろうが、好奇心と恐怖が合わさっているんだ。帰るべき場所もなく、仲間もいない。ここで旅に出て、また仲間が死んでいたらと思うと嫌になる」


「怖いんだね」


「フェザー連邦での生活が気楽なのもある。それに過去に死んだ仲間は戻ってこない」


 今見つめるアーバンの目に僕は映っているのだろうか。


「そこにサトウも含まれている?」


「……まあな」


「じゃあ、一緒に旅をしよう。あの頃と同じように」


「それは」


「僕は楽しかったよ。アーバン」


「なんだか本当にサトウと話をしているようだ」


 結局アーバンを説得させたことで一緒に行くことになった。カメリア村に行きボルドに話をすると「また挨拶に来なさい」と言われた。一度バロック王国に行き過去に思い馳せるアーバンの大きな背中に触れて、彼の寂しさに少しでも触れることができるならと考える。何も残っていない世界で一人孤独に生きる彼は目標がないように思えた。


「アーバンは好きな人っていないの?」


「いないよ」


「アーバンだって生きてるんだよ。好きな人がいれば寂しさはなくなるはず」


「押し付けるなよ。好きな人ができれば幸せになれるほど単純な人生じゃない」


「考えたことなかった」


「いや、いいさ。恋ってのもいいかもな。どうせ死ぬならね」


 ドラゴンの里に行き挨拶を終えると休憩をしながらアルベール王国に行くことになった。移動はアーバンの背中に乗る。心地よい風を進むと長い髪が邪魔に思えてくる。それをシフォンに伝えるも彼女は切ることに賛成しなかった。


「別に切ってもいいと思うけど」


「その髪型のほうが可愛いと思うな」


 アルベール王国に到着後も帰ってきたことを伝えてもいいか悩む。魔王はどんな力で僕を見ているわからない。安易に親しい人物と会っても何かあった時守れない。


 誰にも挨拶をせずにアルベール王国の近くのルーロブに行く。アーバンも大きな姿のままだと目立つと思い、少し離れた場所で降りる。

 

 不意に気になったことをアーバンに話す。


「アーバンって貴族と平民どっち?」


「そういう決まりは我々の時はなかったな」


 貴族と言われた時は急いで空を飛んで逃げてもらうしかない。


 ルーロブは人々というよりも未知の機械で賑わっていた。町中を建物より大きい二足歩行の機械が歩いている。頭と胴体が丸い機械だ。上空を走る透明な箱に乗せられた人たちが次々とどこかに運ばれていく。あれは移動手段なのかとフランネルに聞くと頷いたが「ノルディックからは詳しく聞かされていないが多分そうだと思う」と言われた。


 道を歩くのは人で空を走るのはきっと車のような役割だろう。稀に二足歩行の機械が歩いているが人間を踏み潰すことはなく、人間を避けながら進んで何かを届けている。大量の荷物を配達するのが二足歩行の機械の役割なのかもしれない。


 歩いていると目の前に首輪をつけた中年ぐらいの男性が小さな男の子に四足歩行で歩かされていた。目を疑う光景に頭が理解できないでいた。この光景を知っていると思っていたフランネルも「何をやっているんだろ」と呟く。


 彼らが去ってからシフォンが言った。


「あれ、貴族の男性だ。以前プロート王国にいた貴族が何故……」


「知り合い?」


「知らないけど、顔はどこかで見たことがある。城に出入りしていたと思う」


 また別のところを見ると若い女性が首輪をつけられて、小さい女の子に先程と同じように散歩のように四足歩行で歩かされている。どれも平民用と書かれた袋を持ち、時々袋を開けて地面に向けて袋の中身をばら撒くと首輪をつけた人間は手や口を使って食事をしていた。


「キュロット。これって普通なのかな」


 フェルトは不安そうにしている。


「多分、こうして歩かされているのは貴族なんでしょ?」


「わからない。フランネルはどう思う?」


「これについてはノルディックから聞かされたことがない。プリミティブでは貴族を見たことないし、こういう姿で歩いているとも聞かされたことがない。確かなことはバーキン連邦は貴族を酷く嫌っているということ」


 アーバンはため息をつく。


「まるでペットに対する扱いと同じだ。バロック王国では動物の飼育が盛んだったが人間に対しても適用されるんだな」


 僕は貴族と平民がどれほど対立しているのか知らない。肉体は貴族側だが価値観では平民と変わらない。


 ラフィアの情報も知りたかった僕は聞き込みを行った。ローウェル王国とラフィアを調べるも、あまり彼女の情報については出てこない。ローウェル王国の話は過去の歴史などで聞くことができた。どの話も過去の因縁ばかりで感情的になっているようだった。聞いていると面白い人物の情報を聞けた。ピロトグル・グラデイという人間改造の専門家で様々な生物の研究をしている人間で、子どもを作れない平民の為に人間製造機を作った人物らしい。ルーロブに住んでいてたまに酒場に顔を出す。僕たちにはバーキン連邦に全然詳しくない。彼に会う為に数日間、付近にある酒場に何度か訪れることにした。


 僕からするとアーバンやシフォンが僕とフランネルを連れているようにように見えるが、ここでは僕やフランネルがアーバンを連れているようにも見られている。彼は首輪をつけていないが貴族のような魔力を持っているので自由な行動はできそうにない。シフォンとアーバンの二人が酒場で騒ぐと変に思われることが多かったが、二人は酒を飲む時は陽気になるのか楽しそうにしていた。アーバンはシャギーに色々と人間がやる仕事を教えてもらって使わなかったお金がたくさんあると、高い酒だろうとシフォンに振る舞った。僕やフランネルにポケットにいるフェルトは水を飲んで時間が過ぎるのを待っていた。


 しばらく周辺にある酒場を転々とすると酔った男性を目撃する。首から下げているものにピロトグル・グラデイと書かれていた。職場から直接きたみたいだが随分と酔っている。僕たちは彼に近づくと酒を奢ること約束して席に座った。シフォンが僕とフランネルの親で付き添いのアーバンと、よく酒場に顔を出しているという嘘の話を僕がする。


「なるほど。そういう人もいるか」


「あなたってピロトグル・グラデイというのね。偉い人?」


「ああ、この格好で来たからわかるか。結構偉いぞ。俺がいなきゃ平民は生きていないからな」


「そうなんだ」


「当たり前だろ。貴族は子どもを作れるが、平民は子どもを作れない。そんな平民の為に機械を使って自動で人間を製造する装置を何千年も前に作った。当時は画期的で人口問題も解決したが、根本的な解決方法にはならなかった。同じような形の人間ばかり増えることになって、名前や顔を変更したり体の部位も変更しないと判別できなかった。同じ遺伝子ばかり増えても意味がないから、強制的に違う遺伝子を増やすことにした。そこはうまくいったが、結局平民は機械の力に頼らないと人口を増やせないことに変わりはない」


「ピロトグルさんは頑張ったんだね」


「相当頑張ったんだが、まだまだ足りないと言われた。こんなの毎日酒を飲むことでしか嫌な気持ちをなくすことはできんよ」


 酒が運ばれてくるとピロトグルは一気に酒を飲み干した。


「ま、こんなのここで言っても仕方ないが……すべて魔王が悪い。魔王が魔法適性のない人間を平民と定義したことで、余計に貴族との対立が深まって修正できない段階まできている。魔王が魔法適性のある人間ばかり集めてローウェル王国を作って、それで損をしたバーキン連邦も魔王の行いに怒ったが現状の貴族みたいに今更なる奴はいない。昔からの教育で貴族に悪いところばかり教えているからな」


「それであの首輪をつけた貴族がいるのか」


「お前のところはそういうのないみたいだな。正しいよ、子どもの教育に悪いからな」


「ピロトグルさんって貴族にも優しいんだね」


「そうじゃない。自分がやられたら嫌だろ? もしもローウェル王国に負けて同じことされたら俺は笑えないね」


「バーキン連邦ってローウェル王国に負けたことないの?」


「魔王は強いのか弱いのかわからん。勝手に国が滅んだかと思ったら、急速に国が発展して戦争を仕掛けてきたこともあった。ただ、こちらの古代技術を狙っているのは確かだ。フェザー連邦やローデン連邦に渡した技術は、古代技術の中でも元の技術に多少細工した程度の模造品ばかりだ。あの二つの国と争っても意外と負けを認めることが多い、ローウェル王国としてはバーキン連邦ほどの旨みがないのだろう」


 職場と酒場を移動するだけの人にラフィアを知っているはずもない。やはりバーキン連邦に来たのは無駄足だったかもしれない。


「最近は俺も魔法を使えるようにならないと、この国の将来が心配になって冗談で提案したことが通ってしまって色々と準備をしているんだ。貴族と平民で子どもを作れるようにするにはどうするか。貴族側でなんとかするしかないが、あいつらは受け入れるはずもない。それなら貴族を改造して機械に繋ぐしかないと思って、今も試行錯誤中なのさ」


「なるほど。大変なんだね」


 酒を飲ますとピロトグルは色々喋ってくれるが僕の仲間が怒らないか心配だ。シフォンやアーバンなどは冷静に見えて内面は感情的になっていることがある。


「そうなんだよ。聞いてくれるか?」


 どこかで切り上げようとしながらタイミングを逃す。


「もちろん」


「バーキン連邦もローウェル王国がプリミティブ島を占領したことに怒っていてさ……油断していたこともあって今この国は大慌てさ」


「そうは見えないけど」


「普通に生活している人たちには他人事にしか思っていない。それでローウェル王国を直接叩くことはしなかったが、魔王が占領している貴族たちの国を攻めた。そこに住む貴族連中をこの国で改造してバーキン連邦の為に役に立てようという算段だ」


「え? それってどういう」


「今言ったままだが? アルベール王国とプロート王国とテラード王国とリムレス王国の貴族を改造して平民の為に役立つようにする計画だ」


「だって、どれもローウェル王国と関係ないじゃないか」


「関係ないか? その四カ国は元々貴族が作った国だ。古い時代にあったバロック王国から派生した一番古い国が、その四カ国で次に古いのがローウェル王国だ。他の国は後から作られた国で、今では力もつけてきたが昔は結構虐げられてきたからな。歴史の授業眠っていたんだな」


 一旦冷静になろう。


「……ローウェル王国って後からできたんだな」


「俺が知る限りバロック王国が滅びてからだな。ドラゴニアとかいう生物が俺たちの元になったことまではわかったが、すべてを解明できたわけじゃないから滅びた原因までは知らん。あそこの土地は研究対象が多すぎるから困りものだ」


 アーバンもシフォンもすっかり酔いがさめてしまった。黙って話を聞いているが気分が良さそうな人は誰もいなかった。


「以前現地の人がホードボアと言っていた場所に行って何体かドラゴニアらしき生物を発見して、調査をしているからバロック王国の滅びやドラゴニアについてわかる日がくるかもしれんな」


 アーバンが叫んだ。


「ドラゴニアがいるだと!」


「急になんだ」


「そのドラゴニアはどこにいるんだ?」


 ピロトグルに掴みかかりそうなアーバンを見て僕は言った。


「アーバンはドラゴニアについて興味があるんです。教えてくれますか?」


「ええ……もう随分と喋ったからな」


「お酒ならまだまだ注文しますから」


「それなら、多少は」


 運ばれてくる酒を飲みつつピロトグルは言った。


「多分だが、ここから南にあるマグノメリアという都市にいるんじゃないかな。よくバーキン連邦が利用するルーロブは戦争時に使うことが多いが、マグノメリアは主にローデン連邦との取引に使用される。バーキン連邦とローデン連邦は海を挟んだ国で、どちらも平民の国だ。それでローデン連邦の先には貴族の四カ国がある大きな大陸と古代技術の詰まったバロック王国やホードボアがある。いわばマグノメリアはローデン連邦との中継点だ。貴族や物質など他の情報を含めて受け渡しに使う」


「なんでそんなことを」


「ローデン連邦とはそういう取り決めがあるからな。フェザー連邦は中立であまり積極的になることはないのは、比較的バーキン連邦よりも兵士の数が多いのや地理的影響も関係しているのかもな。あのローデン連邦はバーキン連邦に守られているから、バーキン連邦の言うことは守らないといけないし。ローウェル王国がやることに口出しもできないから板挟みになることが多いから大変だ」


 僕は立ち上がる。


「あれ? もう行くのか?」


「用事ができましたから。ピロトグルさん、今日はありがとうございました」


 お礼を言って立ち去ろうとすると連絡先を聞いてきた。フルブローグで連絡先を交換すると「今どき古い球体を持ち歩いているのはフェザー連邦出身ぐらいなものだが合ってるか?」と言われた。


「合ってますよ」


「ここにいる連中は全身機械化していて、人間らしさがないからつまらん」


「ピロトグルさんも人間らしい体をしてないじゃないですか」


「俺はいいんだよ。人間と呼べないからさ」


 酒場を後にしてアーバンに「マグノメリアに行くぞ。元々の目的はラフィアだが行くのは問題ないか?」と言った。


「問題ない。アルベール王国の人がいる可能性があるなら他人事じゃない。それにラフィアもいる可能性だってあるんだろ?」


 可能性は低いが他に行くところもない。


「シフォンは大丈夫?」


「知り合いがいるなら助けたい。でも、わたしたちにそんな力はない」


「バーキン連邦と争いたいわけじゃないんだ。連れ戻す程度ならできるかもしれない。本当はここにいる貴族の人もどうにかしたいけど。どうやっても連れて帰る方法がない」


「ドラゴンに頼もう」


「アーバンは自分で空を飛べるでしょ」


「キュロット。わたしも他人事だとは思えない」


「フェルトは平民だから平民の気持ちがわかると思ったけど」


「わたしはバーキン連邦の人ほど貴族を恨んでない。わたしの家族は元々貴族でわたしだけ平民という形だからかもだけど」


 フェルトは貴族の家族に捨てられた平民で、別の貴族に拾われて家族となった経緯がある。彼女は貴族そのものを恨んではいない。


 フランネルは喋ろうとしなかったが、僕の目を見つめていた。彼女は僕が元々アルベール王国に住んでいることを知っている。そこまで詳しく話をしたことはないが僕の事情も察していた。手を握る彼女の手を僕も強く握り返して先に進むことを決めた。

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