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空から落ちる悪役令嬢の願いは叶いますか?  作者: 福与詩檻
第二章 転生編

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14:フェザー連邦へ

 寝起きでテーブルに置いてあるパンを口に入れる。窓から眩しいほどの光を浴びながらあくびをしているとドアが開く。


「キュロット! 遊ぼう!」


 フランネルが息を切らして顔を近づかせて言った。


「今日はどこ行こうか?」


「近い」


 パンを飲み込むと窓を開ける。


「今日は早いな」


「だってノルディックが夜遅く帰ると怒るから、前に遊ぶなら朝早くから行ってもう少し早めに帰ってきなさいと注意された」


「早めに遊ぶと疲れて夜も早く眠れるからね」


「そうそう」


「じゃあ、行くか」


 僕は隣の家の屋根に飛び乗る。フランネルも僕の後を追う。


「キュロットっていつも窓から出るよね」


「そのほうがかっこいいじゃん」


「なにそれ」


 特別な意味はないので聞かれても困る。


「キュロットって変わっているよね」


「そうでもないさ」


 歳が違うのと中身の性別が違うのに遊べているのが不思議だ。僕自身が子どもとして慣れていることも関係しているのだろう。


 軽快な足取りで僕に近づいてくる。


「今日はどこに行く? また海底調査?」


「魔法で海まで潜るのは楽しかったが、ちょっと魔力が足りないと危ないからやめよう」


 基礎魔法は便利だ。頭や体の周りに空間を作れるので光の届かない深海まで行ける。本来なら潰れるはずの体も何事もないように泳げる。


「どう魔法は?」


「わたし平民なのに魔法使えるなんて思わなかったよ」


「貴族に比べると適性がないだけだよ。魔力の流れが悪いだけ、訓練すれば誰でも魔法は使える」


「海に行ったら空かな?」


「最近は海ばかりだから、それもいいかもしれないね」


 僕たちは高い建物まで行くと空まで飛ぶ。足に魔力を込めただけでもプリミティブ島を一望できる。勢いよく飛ぶと地上の建物が小さく見えるのだが、奇妙なことに気づき空の上で基礎魔法で足場を作る。


「ねえ、わたしたち空高くまで飛んだのになんで建物が近いの?」


 僕とフランネルは首を傾げる。前方に別の大きな建物が見えていた。空に浮かぶ大地なんてローウェル王国しかない。


「もう少し高いところまで行ってみよう」


「うん」


 誰かに見つかる危険があったのでローウェル王国を見渡せる位置まで来た。遥か彼方まで大地が続いていて一部しか見えない。

 以前ボイスと一緒に来た時の記憶をあまり思い出せない。当時は流されるまま動いていた。今と昔で僕に違いがあるとすれば体と経験だ。


「フランネル、急いで下まで移動してプリミティブ島にいる人を避難させよう」


 魔法を解除して地面まで落下する。

 ここからでは見えないが兵士たちが大勢いると思われる。


 僕はフランネルの手を握り地上の建物に着地すると住民へ呼びかけた。


「空を見ろ! ローウェル王国が来たぞ!」


 どの住民も僕の声を聞いても逃げようとせず見上げるだけだ。唐突に出現して人々を蹂躙していく王国の存在なんて実際に経験しないとわかるはずもない。あっという間に空を覆い尽くすと合図もなしに、光線のようなものが建物を貫通する。至る所で爆発音がしてようやく周囲が逃げ始めた。しかし、誰もがどこに逃げればいいのかわからないでいる。海に囲まれた島から逃げようとするなら船を使うしかない。それも見ているのか船すら攻撃される。


「とりあえず、みんなのところに行こう」


 僕はフランネルの手を握って走り始める。途中建物が崩れ始めたところにいた女性を助けるとフェルトだった。僕を見ると若干顔がこわばったが「あの時はごめん! さあ逃げよう!」と言うと躊躇をしていたが手を取ってくれた。


 流石に背の高さが違うので空に浮かせて運ぶとフェルトは「君って魔法使えるんだ」と言ってきた。


「その機械の体って魔法使えないと思っていた」


「使えるから使ってみたら?」


 そう言ってからしばらくするとフェルトの体が縮み始めた。考えてみればこの人って体を変化させる魔法をよく使っていた気がする。


「使えた……あれ? 戻れない」


 二作目の主人公は平民で不安定な魔法ながら、小人や巨人にすらなれる力で色々な場面で役に立つ能力をしていた。彼女が僕の知る主人公と同じなら同じ魔法も使えるはずだ。


「フェルトは魔法使い始めて日が浅いんだろ」


「恥ずかしいことに……十年以上経っています」


 魔力を制限する機械を取り入ることは大きなデメリットだ。彼女のような人は大勢いるが好き好んで魔力を制限させる人はいない。デメリットがメリットになる前に大抵の貴族は死ぬからだ。


「大丈夫だって、魔法は続けないと慣れないものだ。一緒に頑張ろう」


「子どもに励まされても……え?」


 小さなフェルトを掴むと僕のポケットに入れる。


「あまり見つかりたくないんだろ? 小さい体でいるほうが便利だ」


「わたし小さくなれたと思ったら大きくなって、魔法を使うといつも失敗するんだ」


 考え方次第で魔法は変化するが教える意味なんてあるのだろうか。


「大きな失敗じゃなければ問題ないさ。この中で休んでな」


 光線が飛び交う中を避けながら進むとシャギーとシフォンがいた。手を振って近づくと彼らも他の住民と同じように避難できずにいるようだった。一緒に待っているとラフィアがやってきて、フランネルと話始めた。


 僕は小さな声でフェルトに言った。


「そういえば自己紹介をしてなかったね。キュロット・セイと呼ばれている。君って今までどうやって暮らしてきたの?」


「食べ物を盗んだりお金を盗んだりと人に言えないことばかりしてきました。すみません」


「別に謝ることじゃないよ。仕方ない事情があるんでしょ?」


「そうじゃないと生きていけなかったからだけど、悪いのはわたしのせいだし」


「王子に求婚されて嬉しかったんじゃないの?」


「そんなわけないでしょ。女性ならまだしも男性だよ? 気持ち悪かったよ」


 最終的に幸せになっていたと思ったが突然知らない人に告白されるとそうなるのか。


「キュロットってわたしのことなんでも知っているのね。少し怖いな」


「同じローウェル王国にいたという共通点がある。僕は仲間だよ」


「余計に怖いんだけど」


 僕たちが会話をしているといつの間にかフェザー連邦にいた。夢でも見ているのかと思ったが現実だった。ラフィアは僕に怪我がないのを確かめると「ちょっとシャギーと話をしてくる」と言われてどこかに行ってしまう。


 フランネルをあまり見ている余裕はなかったが先程から元気がない。


「どうした?」


「キュロット。ノルディック、死んじゃった。悲しいのに、こんなに悲しくてつらいのに一度涙が出ただけでもう出てこないや」


「元気なんて出せないよな。わたしも誰かが死ぬのは悲しいからわかる。いつだって頼まれたらここにいるから大丈夫だよ」


 僕はフランネルに言った。


「ここはフェザー連邦だ。もうローウェル王国はいない」


「そうだよね」

 

 僕は一人残されたシフォンを見る。


「君シフォンだよね」


「え?」


「わたしはキュロット・セイ。名前は知っている?」


「ええ」


「どうしてプリミティブに行こうとしたの?」


「……どこにも居場所がなくて、記憶も失って、仲間も死んだ。静かに暮らそうと昔の仲間を頼りにきたらこれだよ。記憶は戻ったけどさ」


 僕はシフォンの手を握る。


「何かあったらわたしに頼ってよ。意外となんとかなるかもしれないから」


「こんな子どもに励まされるとはね」


「子どもじゃないよ」


「わたしから見れば、そう見えるってだけ。ごめんね」


 その夜はシャギーが手配した宿屋に泊まった。


 

 翌日ラフィアが消えていた。


 シャギーに言ったが彼も知らないらしい。


 僕は魔力を探したが見つからなかった。


「ラフィア……」


 落ち込む僕を見てシフォンが頭を撫でてくる。


「どこに行ったんだろうね」


「わかんないよ。フルブローグも置いていった。ラフィアは何を考えているのかな」


 プリミティブのことはフェザー連邦で話題になっていた。フェザー連邦の真上を通過してプリミティブに行ったというのだから、ローウェル王国の勝手な行動に誰もが憤りを隠せない。


「これからどうしようか」


「ここで暮らす?」


 シフォンの言葉に頷いてしまいそうになる。だが、僕はラフィアを探さないといけない。それにローウェル王国のことがある。


「いや、フェザー連邦で準備をしてからバーキン連邦に行こう。プリミティブを侵略して、それで終わりとは思えない。ラフィアもきっとローウェル王国の近くにいるか、それともバーキン連邦のような遠い場所まで逃げたのかもしれない」


 彼女が僕たちを置いて逃げたとは考えられない。ローウェル王国のことを気にしていたラフィアが単純に自分が逃げる為だけに行動していたとは思えなかった。


「シフォン。それでいいか?」


「いいよ。前から思っていたけど、呼び捨て?」


「嫌だった?」

 

 昔そう呼んでいた癖が出てしまった。


「そんなことないよ。なんだかキュロットが側にいるとサトウと話している気分になるから安心する」


「そんなにサトウって人に似てる?」


「どうだろ。なんとなく彼が近くにいるような感じがするだけ。彼ってすごく頼りになったの。森の中で目の見えなかったわたしを連れて食事を用意したり狩りのやり方を教えたりしてくれた。あの時の経験がなければ今生きていなかったよ」


「かっこよかったってこと?」


「まあね。でも、あれで男性だったから恋愛対象じゃなかっただけで女性なら惚れてた」


 そんな話をしていると後ろからやり取りを見ていたのか「キュロット、勝手に話を進めないで!」とフランネルが言ってきた。


「わたしだって行くからね!」


「もう大丈夫なのか?」


「いつまでも悩んでばかりいられない。わたしもキュロットみたいになりたいし。悲しかったけど……ここで何もせずに生きていたら、ずっとノルディックとの悲しい気持ちを思い出すことになる。この気持ちを忘れたくないけど、悩んでばかりいて行動できない人にはなりたくない」


「フランネルは強いな……だけど、シャギーにどう話そうか……」


「大丈夫。わたしはこれでも大人だから」


 シフォンは胸を張っている。


「そんなに大人なの?」


「あなたよりはね」


 ポケットの中でフェルトが顔を覗かせる。


「いつまでここにいればいいのよ」


「戻れないのが悪い。それに小さいほうが食べる量が少なくて食費がかからない」


「確かに歩かなくていいけどさ」


「誰と話しているの?」


 フランネルが僕のポケットを見る。


「すごく小さい! もっと見せて!」


「ちょっと、強く握りすぎ!」


 ポケットから出されてフェルトは慌てる。


「フランネル、その人はフェルトだ」


 僕がフェルトをポケットに戻すと「わたしフランネルと一緒にいたくない」と言われてしまう。


「キュロット、わたしこの子がほしい! 飼ってもいい?」


「わたしペットじゃないから!」


 フランネルとフェルトは仲良くできそうだな。


「シフォン。シャギーに言ったとしてバーキン連邦に行けるのか?」


「多分、問題ないと思う」


「ここにいる全員魔法使えるけど大丈夫かな」


「みんな貴族なの?」


「そういうわけじゃないかな」


「見た感じ全員平民のような魔力をしているから大丈夫そうね。後はそもそもプリミティブ経由でしか行けないという問題が残っているけど」


「このフェザー連邦は下には移動要塞のような都市ローウェルの大きな島がある。上にもローウェル王国の大陸がある。僕たちがローデン連邦に行けばどうなるかわからないし」


 島というには大きすぎるかもしれない。


「考えたんだけど、ドラゴンさんに運んでもらうのはどうかな? 見たことないかもしれないけど」


「知っているよ」


「会ったことあるの?」


「まあ、アーバンもいるし」


「アーバンとは少し違うけど……アーバンもいたか」


「未だにドラゴンさんなんだな」


「え?」


「いや、今日のうちに次の日の予定を決めておくか」


 僕は横になって手足を伸ばすと目を閉じた。目標は決まった。ラフィアを探すことだ。そのついでにローウェル王国の情報を集めてみよう。

 後のことは明日の僕がなんとかしてくれる。


「もう寝たの?」

 

 フランネルの声が聞こえる。


 何か唇に柔らかい感触がある。目を開くとフランネルが僕の唇にキスをしていた。


「は?」


「寝顔が可愛くて」


「僕はラフィアにキスしたくても我慢してたのに!」


 不意に体が熱くなる。


「またか」


 自分の両手を見ると魔力の勢いがよくなっている。


 あれはサトウの時だったから体が熱くなっただけじゃないのか。


「ねえ、シフォン。キスすると体が熱くなるのって病気?」


「わからない。少なくともフランネルは平気みたい。ねえ、キュロット?」


「なんだよ」


「あなた本当にサトウみたいね。彼もキスをされたらそうなっていた」


「ま、サトウの子どもだからな。似ていて当然だろ」


「本当にね……喋り方も一緒」


 彼女の顔は懐かしさや悲しさが含まれているように見えた。


「しばらく寝かせてくれ」


 これで余計に元の世界に帰れなくなった。僕の中身は男性で外見だけが女の子だ。それを理由に女の子からのキスを正当化していいのかわからない。

 

 それにしても、またラフィアに許可を取れなかった。

 サトウの時と違って、女性と女性が恋愛しても合法な世界だと今のは浮気だろ。駄目だ。今考えても眠れなくなるだけだ。


 僕はみんなの声を聞きながら太陽の下眠りについた。

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