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ダンテが街にやってくる  作者: ことぶき神楽
現世・謎解篇

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18/52

第18話 なんちゅう高度から謎が解ける

主な登場人物


 ダンテ・アリギエーリ

  48歳 1265年生、イタリア・フィレンチェ出身

 栃辺とちべ 有江ありえ

  24歳 梶沢出版編集者

 任廷戸じんていど 愛永まなえ

  27歳 梶沢出版編集者、有江の先輩

 下根田しもねだ 陽人はると

  26歳 駅前交番に勤務する巡査

 西藤さいとう 隆史たかし

  36歳 職業不詳、ダンテが住む部屋の先の住民、亡くなっている


「その場所には、岩以外の何かがあるのですか」

 正解に近づいていると、有江も感じていた。

「いや、地図ソフトで見ても岩しかないので、岩自体に秘密があるのだと思います」


 ダンテは、とうに冷めてしまったパスタを食べながら、話を続ける。

「いつ月見岩でゲートが開くのかも、予想はついています」

「満月の日ですよね」

 愛永に先を越されて、ダンテは眉をひそめる。

「任廷戸さん、素晴らしい。まあ、今までの話の流れからして、そうなりますが……」

「おっ、ダンテ先生に褒められました」

 愛永は、酔い始めていた。


「ただ、任廷戸さんに指摘されたように、満月は毎月あります。正確には、二十九・五日の周期で満月になるので、その都度、ゲートが開いていては大騒ぎになります」

「毎月でないとすると、中秋の名月といった特別な満月なのでしょうか。それなら、一年に一度の頻度になります」

 以前、愛永が『かぐや姫』の説明をしたときの言葉を思い出した。

「そうも考えたのですが、中秋の名月では理由が弱いのです。場所を示唆していた『かぐや姫』のメモを『時』のヒントとしても使っただけで、それ以外に中秋の名月を示すヒントは見つかりません」

「それだけでは、証拠不十分ということですね」

 陽人の相槌に、ダンテは頷く。


「西藤さんも……」

 ダンテは、マスターが運んできた赤ワインを受け取り、口にした。

「そうは、考えていなかった」

「西藤さんのことが、不思議とわかるアレですか」

「いや、違います。西藤さんは、事前に地図を片付けたりと準備しています。結果的に場所は違っていたのですが、ゲートを開く自信は相当にあったはずです」


「どうして、自信があったとわかるのですか」

「西藤さんは、自分の命をしてまで臨んではいないはずです。肉体ごと時空を超越する世界に移動できると考えていたのでしょう。部屋からいなくなり、行方が分からなくなったと知れたとき、何を調べていたのか、何をしたのか、誰にも気づかれないよう、事前に地図を片付けたのだと思います」


「一理ありますが、西藤さんが『中秋の名月のときではない』と考えていた説明にはなっていませんね」

 愛永が指摘する。酔ってはいるが、まだまだ鋭い。

 対するダンテは、やはり、黙らない。

「自信があったのですから『場所』はともかく『時』は合っていたはずです。二〇二三年六月二日の満月でなければならなかったのです」

「その日は、どんな満月なのですか」

 どうにも、ダンテの話は回りくどい。

「その日は、月出の時刻十六時五十二分、出の方位角百十二度、南中時刻二十二時十四分、南中高度三十三度、月入の時刻二時五十四分、入の方位角二百五十一度でした」

 ダンテが、パソコン上のメモを読むと、陽人は目を丸くした。

「ほとんど呪文のようでしたが『なんちゅう時刻二十二時十四分』は、西藤さんの死亡時刻と一致します」


「南中時刻は、月が真南、うまの方角に昇る時刻です――」

 ダンテが一呼吸置いた隙に、愛永がまとめてしまう。

「月見岩から南に見える富士山の真上に満月が昇る瞬間ですね。ゲートが開く条件は『満月が三十三度の高度で南中する』、ステキじゃないですか」

「仁程度さん、二度もひどいです」

 ダンテは、大見得を切る場面を持っていかれて拗ねる。


「しかし、これだって満月の南中時刻と西藤さんの死亡時刻が一致したという証拠ひとつだけですよ」

 陽人は、警官の顔に戻り指摘する。


「そうですね。これを見てください」

 ダンテは、パソコン上に写真を表示した。

 季節は秋、枯草が覆う斜面に三角形の角を上にしたような大きな岩がある。手前の木々は葉を落としているが、遠くに針葉樹が見える。空は青く高い。記念写真なのだろう、岩の手前に人が立ってカメラの方を向いている。

 岩は、写真に写る人物の背丈からして、三メートルほどの高さはあるようだ。

「これが、月見岩です。写真左側のなだらかな斜面上が北になります。この斜面に立って望む月は、さぞかし奇麗なのでしょうね」

「ただの岩にしか見えませんね」

 岩の周囲はひらけていて、怪しい雰囲気はまったくない。有江は、見たままの感想を言った。


「写真で見る限り、岩に穴や亀裂があって人が入れる隙間とかはなさそうです。岩自体がゲートである可能性は低いですかね」

「岩に秘密はない?」

 岩自体に秘密があると言っていたダンテを、有江は見る。


「満月との関係を調べてみました。斜面にある岩なのでわかりにくいのですが、こうして写真を回転させると、岩の斜面は三十三度であることがわかります」

 ダンテは、写真を十度、二十度と回転させていき、三十三度のときに斜面が水平になることを説明した。他の写真でも確かめましたと、ダンテは同じように回転させた写真を三枚表示する。

「西藤さんが見上げていた月の高度と、月見岩の斜度は同じ三十三度、月見岩の斜面の先に満月が浮かぶのです」


「絵的には素敵だけど、こじつけ感が強いなあ」

 愛永が、つぶやいた。


「ゲートが開く条件が『満月が三十三度の高度で南中する』である証拠は、残念ながらこれだけです。しかし、この『三十三』という数字に私は運命を感じるのです」

 ダンテのグラスは空になっている。

 赤ワインを注文した。


「以前、私は3という数字を大切にしていると言いましたが、これは、キリスト教における神とキリストと聖霊は一体であるという『三位一体さんみいったい』の教えを具現化しようとしたからなのです」

 三人を見回し、ダンテは話を続ける。

「そもそも、世界は3が好きです。世界三大なんとか、三賢人、三点セット、ジャンケンの三すくみなど枚挙にいとまがありません。仏教においても欲界よっかい・色界・無色界の『三界』、苦しみの世界である地獄道・餓鬼道・畜生道の『三途』などが挙げられます。三十三という数字にしても、観音菩薩の三十三変化や蓮華王院三十三間堂など、数多く使われています」

「状況証拠だけですが、説得力はありますね」

 ダンテの説明を聞いて、陽人は信じ切った様子だ。

 そうなのだろうと、有江も思う。


 愛永が口を開く。

「仏教には、過去世・現在世・未来世を指す『三世さんぜ』という言葉がありましたよね。『日本宗教調世会』の『調世』は、世界を調査するという意味かと思っていたのですが、三世を調査する、あるいは調整するという意味なのかもしれませんね」

 これには、ダンテも黙った。


「次に、満月の南中高度が三十三度になる日は、いつなのですか」

 話題を戻す。

 食事は終わっていて、これ以上、話が伸びては全員酔いつぶれてしまいそうだ。

「二〇二四年五月二十二日の二十二時五十分に高度三十三度で南中します」

 有江は、ぜひ行ってみたいと思った。

 たとえ、何も起こらなかったとしても、その眺めは、この上なく素晴らしいものに違いない。


「次は、アウトドアですね。休暇を取れるように調整します」

 陽人は、張り切っている。

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