表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

初夜を迎えず戦地に行って亡くなった夫の子供が送られてきた

作者: 瀬崎遊

すいません!!大幅改稿いたしました。5月17日2:57


 まさか自分が白い結婚生活を送ることになるとは思ってもみなかった。

 決して『お前を愛することはない』とか言われたわけではない。

 結婚式が終わると同時に夫の部下が式場に飛びこんできて「隣国、シュルスが攻め入ってきました」と言って部下の人が力尽きて気を失った。


 夫は私に「すまない」と言ってその足で領地へ向かった。

 それから夫は一度も私のもとには帰って来ることができない。

「私が辺境伯領地に行く」と伝えたのだけれど「危険だから」と断られること数十度。


 夫の無事を神に祈りながら白い結婚が認められる三年を超えてしまった。

 そんな時、風の噂で夫の子供が生まれたと耳にした。

 私はそんな噂を私は信じなかった。

 夫が私を裏切るなんて考えられなかったから。

 けれどその噂は真実だと領地から手紙を運んできた伝令に聞かされた。

 急いで渡された手紙を開いてもそこには私が元気か尋ねる内容で、子どものことは何も書かれていなかった。


 夫に子供が生まれたのなら「私たちは白い結婚なので婚姻無効ができるから別れましょう」と手紙を送った。

 今はその返事を待っている。

 いつもなら返事が届いてもいい頃なのに返事は届かない。


 返事がないまま白い結婚の手続きに必要なことを調べて検査も済ませた。

 後は白い結婚の書類を提出するだけとなっていた。

 ひと月待っても夫からの返事は来ないまま夫が死んだと知らせる手紙と赤ん坊が届いた。


 赤ん坊と一緒に届いた手紙は夫の直属の部下の人からで、夫が手を出した女性との間に生まれた子で間違いないこと。その女性も夫と一緒に死んだことが書かれていた。

 この子を育てられるのは私だけだと。

 夫の子供なら私に育てることなどできはしない。受け入れることなんてできない。

 ここに来るまでに入れ替えられていても確かめようのない子を育てることなんかできない。

 けれど腹を空かせてなく赤子は夫によく似ていて血の繋がりがあることを否定できなかった。


 夫の部下の人になぜ義父母の元に連れて行かなかったのか聞くと、夫が義父母には知られたくないと生前に言っていたからだと言った。 

 夫が生前知られたくなかったとしても亡くなってしまえば話は変わる。

 領地にいる義父母に育ててもらうことが一番だと私は判断した。

 赤ん坊と送られてきた直属の部下の人からの手紙も一緒に義父母の元に連れていくように伝えた。

「私と夫は白い結婚なので婚姻無効を届けます」と義父母への手紙に書き添えた。


 巻き込まれるのが嫌で赤ん坊を義父母の元に送った後直ぐに白い結婚を申し立てて受理された。

 私は両親がいる家へと荷物をまとめて帰った。

 そして元夫の両親に白い結婚が認められたと手紙を送った。

 それで縁は切れるはずだった。


 一年後、元夫の父親も戦争で亡くなった。

 それとほぼ同時期に戦争が終結した。

 元夫の母は一人で赤ん坊を育てていたが、夫を失ったことで気落ちしたのか夫に呼ばれるように亡くなってしまった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「アルバ辺境伯夫人も死んだのか?!」

「はい。使用人からの連絡で確認しに行ってまいりました」

「その子がセイゲルの子か?」

「はい。浮気相手はセルベス男爵の末娘で名は・・・ミレットだったと思います。ミレットもセイゲル様と同じ日、同じ場所で亡くなったそうです」


「そのミレットとやらはなぜ戦場にいたんだ?」

「看護師としていたらしいです。詳しいことを知っている人間はもう亡くなってしまっているのでこれ以上の情報は集められませんでした」

「うむ。まあよい。セイゲルの子に間違いはないのだな?」

「はい。セイゲル様によく似たお子様ではあると思います」


「そうか。母親が貴族ならその子が育てば辺境伯を継ぐことができるな」

「はい。可能かと」

「アルバ辺境伯地はいつまでも空のままにはしておけん。またいつ戦争が起きるか解らんからな」

「そうでございますね。ですがこの子供が育つにはかなりの時間がかかります。それにこの子を誰が育てるのかという問題もあります」


「母親の実家に育てさればいいだろう?」

「ご両親は亡くなられていて長兄が跡を継いでいますが、妹の子供まで面倒見れないというのと男爵家に辺境伯の子の養育はできないと言われました」

「うーん・・・確かに男爵では辺境伯の子は育てられんか・・・」

「辺境伯のご親族の方がこの子を育ててもいいと言っておられるのですが、条件に辺境伯家に移り住みたいと希望を言っておられます」


「そんな親族に預けたら資産全部使い込まれてその子が殺されてしまうのではないか?」

「可能性は高いと思われます」

「なら王家で預かって育てるしかないな」

「あなた」

 王の横で今まで黙って話を聞いていた王妃が口を開いた。

「なんだ?」


「これから先、両親が死んだ子供を王家で預かって育てるつもりですか?その覚悟がおありならわたくしは口を挟みませんが」

「そ、それは・・・」

「不可能でしょう?辺境伯の子供だけ特別扱いしたなら他の貴族たちはどう思うでしょうね?その子が大きくなった時。辺境伯に誰も手を貸さないということも起こり得ると思いますよ」

「ならどうしろというのだ?!この子を安全に預けられる場所はないんだぞ!!」

「一人だけいます」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 元夫の母が亡くなった頃、私には再婚の話が出ていて嫁ぐところまで話は進んでいた。

 相手は離婚歴があるけれどそれ程悪い人ではなく、年の差も釣り合いがよい人で、少しずついい関係を築くことができていた。

 

 そろそろ婚姻の届出を出そうかという話が出た頃、ヴィーデルと私が王家からの呼び出しを受けた。

 呼ばれる心当たりはなく不安に思いながらヴィーデルと一緒に陛下との謁見に赴いた。

 その場には不釣り合いな小さな子がいて何が起こっているのか理解できなかった。

「この子はセイゲルの子、フェイトだ」

 ヴィーデルが首を傾げる。

 私は小さな声で「元夫の子供です」と伝えると同じく小さな声で「ああ」と頷いた。


 もうじき二歳になるフェイトは、私が引き取らないと孤児院に入ることになると王家から言われた。

 この子供を育てて元夫のアルバ辺境伯家の家督を継がせるまで育てるようにと王命が下された。


「陛下、なぜ私なのでしょう?アルバ家に関わる親族の方がおられるでしょう?私はもうすぐ結婚するのです!!」

「アルバの親族は戦争が起こった辺境の地を嫌がって全員に断られた(・・・・)

「断ってよいのなら私もお断りさせていただきます。アルバとはもう何の関係もありません」


「そう言うな。三年もセイゲルを待ったのだろう?」

「待った挙げ句に浮気をされたのです」

「厳しい戦いの中、安らぎを求めるのは仕方ないだろう?」

「私の気持ちはどうなるのですか?」


「これは王命である。再婚相手のヴィーデルと一緒に辺境伯家へ行ってその子、フェイトを育てよ。そしてフェイトが二十歳になったらアルバの家督を継がせよ」

「あんまりです!!」


「ヴィーデル、アルバ辺境伯家の中継ぎとする。アルバの家督を譲り渡した後、先の戦争で亡くなったトライデン辺境伯の地を辺境伯として其方に任せることにする。トライデン辺境地はそれまで王家預かりとなる」


 再婚予定のヴィーデル様はその王命を恭しく受け入れた。


「ヴィーデル様!どうして受け入れたのですか?!」

「王命を断ることはできない」

「元夫の浮気相手との子供を育てるなんて私にはできません」

「なら侍女と家庭教師を付けて関わらずにいなさい」

 私がどれほど嫌がっても断ることができない。受け入れるしかなかった。

「・・・解りました」


 ヴィーデル様はガイス伯爵家を継いでいたが、まだ結婚していない弟のデルヴァ様に家督を譲ることに決まった。

 デルヴァ様も突然のことで困り果てていたがご両親がデルヴァ様を支えると決まり、デルヴァ様も覚悟を決めた。

 覚悟が決まらないのは私だけだった。


 急いで私とヴィーデル様の結婚が結ばれ、アルバ辺境伯の領地へと移ることになった。

 戦争でボロボロになった辺境伯地を立て直すのにヴィーデル様は苦労されている。

 領民の数が減りすぎている。

 王家からの支援があるので、なんとかなっている状況だった。



 辺境伯の屋敷にはそこかしこに夫の気配が残っていた。

 先祖の姿絵が廊下に飾られ、元夫の絵も飾られている。

 フェイトに引き継ぐため、それらを片付けてしまうことができない。

 元夫の部屋もそのまま残されていて、私はこの仮住まいが嫌でならなかった。


 私はフェイトに関わらないよう気をつけながら生活していた。

 ヴィーデル様との間の子供が生まれた。我が子は可愛い。

 我が子、レイチェルを可愛がっているとフェイトがじっと私たちの方を見ていることが度々あった。

 嫌な気持ちになりつつも、フェイトは何も悪くないことも理解はしていた。

 それでも受け入れることはできなかった。


 二人目に男の子が生まれセイデンと名付けられ、三人目も男の子、ユリウスが生まれた。

 フェイトも含めてすくすくと育っていく。

 この屋敷の使用人たちはアルバ辺境伯に仕えていた人たちばかりで子供たちはほんの少しだけ区別されていた。

 使用人にとってはフェイトは何ものにも代えられないほど大切な子供だったのだろう。

 いい気はしなかったが子供たちが粗雑に扱われるわけでもなかったので止めさせることもできなかった。




 フェイトとは関わらないままフェイトが十六歳になり、婚約者を選ばなければならない年齢になった。

 フェイトの婚約者をどうするかヴィーデル様が王家に伺いを立てると、レイチェルとの婚約を勧められた。

 当然私は大反対をしたけれど、また王命が下された。


「なぜ私たちばかりがアルバ家に関する王命を受けなければならないのですか?!」

「戦争で功績を上げたアルバ家に王家は重きを置いているんだ」

「私たちには関係ないではないですか」

「アルバに嫁いでいたのだから関係ないとは言い切れないだろう?」

「どうしてっ?!どうして・・・」



 私の気持ちは置いていかれたままフェイトとレイチェルが婚約することになった。

 レイチェルはフェイトのことを想っているらしく婚約を嬉しそうに受け入れている。

 レイチェルが嬉しいのなら受け入れなければならない。

 フェイトはいい子だ。それは知っている。

 

 今まで関わらずに来たのに、フェイトと関わらずにはいられなくなった。

 初めて言葉をかわしたときフェイトに聞かれた。

「どうして私はここまであなたに疎まれるのですか?」

「おおよそのことは聞いているのではないですか?」

「貴方の口から聞きたい」


「貴方のお父様と結婚しました。結婚したその日に戦争が起こって私一人が王都に残され、貴方のお父様は戦場に向かいました。長い戦争で何度も私は戦場に行くと伝えたのです。答えはいつも危ないからと断られました。そして私の知らないところでフェイトが生まれました。裏切られた私の気持ちがわかりますか?どんなに危なくても夫の側にいて愛されて死んだほうが良かった。私は本当に貴方のお父様を愛していた。だから許せないのです。貴方に罪はないと解っています。でも受け入れられないのです。今も私のどこかで貴方のお父様を愛しているのだと思います」


「そう、ですか・・・私にはまだ愛がよく解りませんが、レイチェルを大切にすると約束します。この婚約を受け入れてもらえませんか?」

「今直ぐ受け入れることはできませんが、努力します」

「ありがとうございます」



 フェイトが二十歳になった日、レイチェルと結婚した。

 少し落ち着いた領民に祝われて。


 私たちはトライデン辺境伯地へと移動することになった。

 レイチェルと別れるときレイチェルを強く抱きしめた。

 そして娘婿となったフェイトも抱きしめた。

「娘をよろしくお願いしますね」

「はい。子供の頃から貴方に抱きしめてもらいたいと夢見ていました。やっと夢が叶いました」


 そう言ってフェイトが嬉しそうに笑った。

「たくさん子供を作りなさい。そして抱きしめてもらいなさい」

「そう、そうですね。そうします」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
元夫の子供フェイトの最後の言葉が泣けました‥‥ 君は何も悪くないのにね。 でも、元妻が関わりたくない気持ちも分かるよね。 元夫は戦地で何を考えて子供を作ってしまったのか気になりますね。 子供も妻も不幸…
この王家と国は滅ばないかなぁ
何がしたかったんだこの話…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ