27.日本の作家
女将は優しい声で「さて皆さん、次は日本の古墳を観に行きます、グレイさんどのように見学されますか?」「はい、出来ればルーシーと同じように、空からお願いします」「下に降りなくて良いのですか?」「はい」グレイは知っている,日本の古墳は国から大事に保護されていて、ごく限られた日時と、限られた人しか、入らせてもらえない事を,またベイに頼めば、コッソリと入れてもらえる事もちゃんと知っている、しかし「あの…古墳はかなり大きなお墓ですので、上から見させてもらった方がいいかなと思いまして」「…かしこまりました、では上空からの見学にします」と女将が言い終わると、スカイシップは一気に日本の上空1万メートルの高さに登り、今度は匠から簡単な説明があった「古墳と呼ばれるモノは、岩手県から鹿児島県の広い範囲に有りますが、巨大な古墳は、近畿地方と言う所に集中しています、せっかくですから全て観て見ましょうか?」グレイは嬉しそうな顔で「よろしくお願いします」と言ってルーシーの顔を見つめた。匠はほとんど、瞬間移動に近いんじゃないか…と言うくらいのスピードで日本の上空、200mから500mの高さを飛び回った…。そして最後の古墳は奈良の箸墓古墳で…日本でもっとも古いとされる、王様のお墓である、グレイは満面の笑みで「匠さん女将さん、ありがとうございました。そして僕のワガママに付き合ってくれた皆んな…ありがとう。興味がない人には苦痛だよね、ゴメンね」と言って頭を下げると、ボブが笑いながら「気にする事はないよグレイ、俺がリクエストしたギリシャ神殿だって、好きな人はキャーって言うけど、そうじゃない人は辛かったと思うよ」と言って親指を立てた…ルーシーが「ありがとう…お兄ちゃん…」と言うとメリーが「ルーシー、私達は皆んなベイから勉強を教えてもらってきたでしょ…ベイは化学は当然大好きだけど、歴史も大好きなのか?かなり熱く語ってくれたじゃない、私達ってその影響を知らず知らずのうちに受けているのかも知れないわね、だから、古墳もギリシャ神殿も、ヨーロッパの城も、ピラミッドもマチュピチュも、全部楽しかったし、勉強になったし、更に大好きになったわ」と言って微笑んだ。12名が見つめ合って、ホッコリとした気持ちになっていると…「皆さん、次はベイ博士が希望された、枚方市と言う所に住む小説家の方の家…と言うか店に、行きますね」と女将が告げて来た。11名は内心(…今回の遠足で一番どうでもいいところだぁ〜)と思っていたが、ベイがどうしても行きたいと言っているのに…首を傾げる訳にはいかない…11名は満面の、作り笑顔を見せ…親指を立てた。実はベイも皆んなが全然興味が無い事くらい百も承知である…それでも笑顔を見せてくれる11名に(ゴメンね…直ぐに切上げるからね…)と思いながら、自分も親指を立てた。スカイシップは透明シールドを張ってその家の上空100メートルの位置に待機し…その家の映像を皆んなが座って居るソファーの下に映し出した。すると、1人の壮年が屋根の上でブツブツと独り言を言いなが何かをしている、女将が「ベイ博士、音声を拾いますね」と言うと、壮年の声がブリッジの中に入って来た…「あ〜ぁ、不動産屋に雨漏りはしませんか?って聞いたら、築45年経ってますが、雨漏りはしてません、って言うから買ったのに、嘘ばっかりじゃん…雨漏りだらけじゃん…この家に75歳までローンを払って行くんだよね…やれやれ…」と言いながら雨漏りの修繕ををしている。ジョニーはその様子を見て(マジか〜気の毒になぁ…)と思いながら「悪い不動産屋にあたってしまったんでしょうね〜」と言ってベイの顔を見つめた。博士は頷きながら「皆んな、あの壮年が僕が会いたい人なんだよ…美容院を1人でしてるんだけど…お客がゼンゼン入らなくて、だから夜の8時から明け方5時まで工場で働いてるんだ。…帰って来たら、お風呂に入って4時ほど寝たら12時から美容院を開けるんだ…」と言った後に、ベイは深いため息を…そのまま黙り込んでしまった。メリーはベイを後ろから抱きしめながら「どうしたのベイ…」と優しく声をかけた、するとベイは「うっふふふふ…」と含み笑いをし出し…とうとう一人で大笑いをし出した。10名はキョトンとした顔でベイを見ている、メリーは思わず「どうしたのベイ大丈夫?…」と尋ねてしまった「メリー、大丈夫だよ、頭がオカシクなった訳じゃないよ…ただあの作家先生…僕が想像していた通りの人だったんだよ、経済的に余裕がある人じゃない、友達が沢山いる人気者じゃない、家族よりも自分を優先する人じゃない、周りの人達に偉そうな態度を取れる人じゃない、むしろ、人の顔色ばっかり気にして、頭を下げながら生きて来た人…彼の作品トップシークレットを読んで、僕が想像した作家の人柄…おもいっきり当たってるじゃん、って思ったら可笑しくなっちゃって…ちょっと下に降りて来るよ、直接話を聞いてみたい」そう言うとベイは「フリー・ベー下の美容室に、電話で予約を入れて」「了解しました…」しばらくすると「博士、予約が取れました、直ぐにでも出来るそうです」とフリーが言ったが…壮年はいまだ屋根の上である、12名が首を傾げながら画面を見ていると…壮年の妻だろうか?「お父さん、予約が入ったよー、早く降りて来てー」「あっ、ゴメンね、直ぐに降りるからね…」12名は壮年の返事の声を聞いて(…絶対に、奥さんの尻に惹かれている人だな…)と思った。…壮年の美容師は、ベイを見て、一歩後ろに下がってしまった(どうしよう英語が話せない…)しかし日本語を上手に話すベイを見た壮年は、満面の笑みを浮かべながら「すみません、実は私…英語が話せ無くて…お客様とどうやってコミニケーションを取れば良いのかと、胸がドキドキしていました」と言って微笑んだ、そのセリフを聴いたベイは(正直な人だなぁ…)と思いながら小さく笑ってしまった。ヘアーカットをしながら世間話で盛り上がった二人…シャンプーが終わりドライヤーで毛髪を乾かし終わった時…ベイは突然、壮年の顔をジッと見つめて「トップシークレットの本を読んで…とても感動しました」と伝えた、壮年の表情は動揺を隠せない「私の本を…読んで頂けたんですか?」「はい」「嬉しいです…本当にありがとうございます。100冊、自費出版したんですけど、誰にも相手にして貰えなくて、余りにも悔しもんで…色々な図書館に勝手に置いて来ちゃって…何日かして見に行ったら…本が無くて、きっと捨てられたんだなぁって…そりゃそうですよね…勝手に置いちゃダメですよね。でも、何冊かの本は世間に流れて行ったんですね〜。私の本を読んで下った方が居たなんて…本当にありがとうございます」と言って頭を深々と下げた。ベイは壮年の手を取ると「すみません、正直なところ、私もはじめ、少し幼稚な本だなぁ…と思って読み始めたんです…しかしページが進むにつれて、この本は世界中でただ一人、私の為に書いて頂いた本なんだ、私だけの心に届く、私だけの本なんだと…とても感動して…そして今は、感謝しています」と言ってベイは涙ぐんでいる。壮年は少し首を傾げながら「あの…えっ?…貴方様の…為だけに?」ベイは咳払いを一回した後に「今から私が言う事は、貴方の書いた本と同じで、トップシークレットなんですよ…私の名前はベイ、仲間はベイ博士と呼んでくれています…貴方が望んでいた…人間です…」と言って、ベイは自分の生い立ちから今現在、この店に来ている事までを、約23分ほどかけて壮年美容師に語った…そして最後に「フリー・ベー、田澤さんに挨拶をして」と言った、自分の話しを信じてもらう為である。15センチほどのフリーは壮年の前に飛んで来ると、小さく会釈をした後に等身大のベイ博士に変身した「初めまして先生、フリー・ベーと申します」と言って手を差し出した、壮年は満面の笑みを浮かべながらフリーの手を握り「田澤と申します、ペンネームはトシミと名乗っています…あの…誰も私のペンネームなんて興味ありませんけどね」と言って頭を下げながら(本当に天才科学者って…居てくれたんだ〜)と思った、その時…店の天井から女将さんの声が「ベイ博士、作家の田澤先生をスカイシップに招待します、宜しいですか?」ベイは「はい、ぜひ見てもらいましょう、世界最高峰のスカイシップを」と言って微笑んだ。…田澤は、光のエレベーターに乗り船内に…とっても驚いているのか、声が出ない…ベイの後ろを歩き、船内をくまなく見学させてもらい…そして最後に皆んなが居るブリッジに…11名はつとめて明るく…会釈をしながら微笑んでくれたが…美容師と言う接客業を40年以上している壮年の目には、(あぁ、申し訳ないなぁ、皆さん気を遣って下さってる…こんなブサイクなオヤジが急に来たら、嫌ですよね…)と皆んなの表情から、そう読み取った。自分が場違いな所に居る事くらい分かっている…「すみません、あの…田澤と申します、急に来てしまってスミマセンあの、皆さんに挨拶だけ、させて頂きたいと思いまして…すみません、直ぐに帰りますので…」と言って何度も頭を下げた。その時メリーはベイの顔を見つめ…そしてリンダ、ボブ、ジョニー、アンジー、グレイ、ルーシーの顔を見つめた、六人も同じ事を思っていたのか…頷きながら微笑んだ。実は前から気になっている事が一つだけ有った…。ベイがあの世に皆んなを迎えに来てくれ、この世に戻って来た時から、ほんの少しだけベイに違和感を感じて居たのだ…決して嫌な違和感ではなく…優しい違和感である。たった今、その答えが分かった。ベイ自身が「私は本の影響を強く受けている」と前から言っている、ベイは本の中から、内容と同時に謙虚さも学んでいたのだ…(間違いない…博士はこの作家の影響を、かなりの確率で受けている…なんだか前と違って、言葉のはしばしが優しいのは…なるほどねぇ)と思いながら七人は納得した。ベイは作家に「何か次の作品を書いているんですか?」と尋ねた、作家は頭をさすりながら「はい、ブラザービーチ、と言う題材の本を今書いてます…」「ぜひ読みたいです、完成はいつ頃になりそうですか?」「はい、あの…なるべく早く仕上げようと…頑張っています」と言って頭を下げた。ベイは微笑みながら「これから毎月3000ドルずつ貴方に支援させて頂きます、ですから夜の仕事をお辞めになって…その分執筆活動に時間を回して下さい、一日も早く貴方の次の作品が読みたいんです、どうでしょうか?」「あっ、ありございます、でも幼稚な内容ですよ…」「はい構いません、田澤先生の作品は…そこが魅力なんです、世界中の人達が読まなくても、私は読みたいです、なんなら私だけの為に書いて下さい、ブラザービーチの次の作品の構想は?」「はい、あの…山国…と言う作品です…まだ本当に構想だけですけど…」「絶対に読みます、読みたいです」作家はすでに涙ぐんでいる、59歳にもなって泣いているのだ…その時トムが、作家の手を握りながら「僕も読ませて頂きます」と言った、するとニーナもブラウンもレイチェルも、気がつけば全員が作家を囲み「読みますから」「楽しみにしていますね」と言う言葉をかけてくれた、当然フリー達が作家の耳元で通訳してくれた事は言うまでもない。皆んなからの優しいエールに送られながら、壮年作家は自分の店に戻った。急いで外に出て、空を見上げたが、スカイシップの姿などは何処にも見えない、透明なシールドを張っているので見える訳が無い。壮年作家は頭をさすりながら「俺…やっぱり夢を見てたのかなぁ〜」と呟いたその時である、スカイシップは透明シールドを解除した…中から12名が手を振っている…壮年作家も手を振り返した…3秒後、スカイシップは空の彼方に消えて行った。壮年作家は店の中に入ると鏡に映った自分に声を掛けた「よし、書くぞ、12名の読者の方達が待ってくれているんだ…それだけで十分じゃないか」と言った。…スカイシップの中では…ベイがご満悦である、日頃から笑顔を絶やす事はないが…歯茎を見せて笑っている、と言うか、喜んでいると言うか…とにかく嬉しそうですあった。。。




