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トップシークレット  作者: toshimi1215
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1.悪魔の使い

12月30日、窓の外には雪が降っている。目を真っ赤に充血させた1人の男性が、コーヒーを飲みながら…外をぼんやりと見つめていた。男性は溜息をつきながら「よく降るな…去年は大雨で、雷が鳴ってたんだよな…」と呟いた。男性はカップをテーブルの上に置くと、イキナリ両手で自分の頬を2回「パンッパンッ」と叩いた、そして「大丈夫…絶対に成功する…大丈夫…」そう自分自身に言聞かせているのか、拳を強く握りしめながらワナワナと肩を震わせていた。雑然としたテーブルの上には男女8人で写っている写真が置かれている…男性は写真に向って「今から迎えに行くからね、ゴメンね…1年間も待たせて…」と言った。部屋の隅にマシンガンが設置されている。男性はマシンガンと向き合うような形で、5メートルほど離れた壁ぎわに立つと「…女将さん、僕の声を録音して」「ハイ、カシコマリマシタ」男性は…窓の外の雪を見ながら「…もしかすると、これが僕の最後の言葉になるかもしれないので…このメッセージを残して置きたい。僕の名前はベイ…生まれてすぐに施設に預けられたので親の顔は知らない…ベイという名前も施設の先生がつけてくれた名前だ…施設での生活は楽しい時もあったし…辛い時もあった…施設には18歳まで居る事が出来たんだけど、僕は、僕達は…その時を待たずに施設を出る事になった…理由は僕が12歳の時、3人の男の子と4人の女の子が常に僕の周りに居たんだ…それまでの僕は、出来るだけ人を寄 せ付けないようにしていた…別れが怖かったんだ…始めから1人なら……そう思っていたんだ、でも7人は違った…そう感じたんだ。体格の大きなボブは10歳で、目の大きな妹のルーシーは7歳。機転の働くアンジーは8歳で、指先の器用な弟のグレイは7歳。みんなを楽しい思いにさせてくれるジョニーは9歳。母性本能が強いリンダは8歳。そして常に俺の隣に居るメリーは9歳だった。ある日…本当なら喜ばなくてはいけない話しが入って来た。メリーとリンダとアンジーとルーシー…4人の里親になりたいと言う4組の夫婦が施設にやって来たんだ。俺たちが知らないだけで、半年も前から話しが進められていたそうだ。しかし4人の女の子達は「嫌だ〜」って泣き出して…4組のご夫婦はオロオロするし、施設の先生は怒り出すし…結局、引き渡しは次の日になって。夜…リンダはボブにしがみ付いて離さないし、アンジーはジョニーに、ルーシーはグレイに、そしてメリーは俺に抱きついて「ベイと離れるのは絶対に嫌だ〜」って泣き出したんだ。ボブとジョニーとグレイは、俺の顔をジッと見つめている……俺は何とか成るだろう、イヤ絶対に何とかするんだ、って自分に言い聞かせながらメリーの手を握り「よし、8人で暮らそう」そう言って、みんなを連れて施設を出たんだ。まず空き家を探して…寝る場所の確保から、売り家の看板が立てられている所に忍び込んだ。次に食料の確保…お金なんて持ってないので、レストランのゴミ箱をあさったよ、なかなかハードな経験だった。2年間ほど空き家を転々としている内に、ある事に気が付いたんだ、お金持の人達は…季節に応じて数週間ほど別荘に行って、家が空き家状態になるんだ、しかも電気もガスも水道も使える状態になっている…悪い事だと分かっている上で…俺たちは忍び込んだ。お金持の冷蔵庫の中は食料で満ち溢れていたよ、4人の女の子達が賞味期限の切れている物から料理をしてくれたんだけど、…料理なんてした事がないので美味しくなかった。しかし救世主が現われたんだ…グレイ、まさか料理の才能があるなんて…誰も知らなかった、みんなからの「美味しい」と言う絶賛の声にグレイは照れくさそうにルーシーを見つめて微笑んでいた。夜…ねむたく成って寝室に行くと、見た事もないようなフカフカのベッドが、でも俺たちはベッドには寝なかった…なんて言えばいいのか、その家の人達に悪いなと思ったからだ。クローゼットの中にある毛布を4枚借りてフカフカの絨毯の上で、俺はメリーを、ボブはリンダを、ジョニーはアンジーを、グレイはルーシーを抱きかかえるようにして寝かせてもらった、でも考えてみると、他人の家に入り込んでいる段階で十分悪い事だと、今でも反省している。留守宅に入り込んで一番ありがたく思ったのは、本が沢山ある事だ…学校に行けない分どこかで知識を吸収しないと、世の中で生きて行けないと思ったからだ、本当なら図書館に行きたいのだが、なにせ施設を逃げ出してしまった身なので…見つかると全員バラバラにされてしまうと思ったんだ。さてと…自分で言うのはオカシイけど、俺はとにかく記憶力がすごくいいんだ、一度見た文書や形や出来事はすべて記憶している、だから15歳の時には世界中の言葉が話せたし、書く事も出来た、ただし記憶は出来るけど、自ら何かを発想すると言うか、生み出すと言う事は出来なかったんだ。ところが17歳の時に1冊の本に出会い、俺の頭の中が変わったんだ…日本人男性の書いた「トップシークレット」と言う題名の作り話で、作者は田澤利巳と書いてあった。始めは幼稚でくだらない話だと思っていたのに…読み進めていく内に俺の胸の中に…何か熱いモノが生まれ、その熱いモノが頭に登り…なんて言えばいいのか、俺は覚醒したんだ、自分自身で物事を生み出すことが…出来るようになったんだ。まっ、俺のくだらない自慢話しは置いといて…俺が17歳の時に、これまでの放浪生活に別れを告げる事が出来たんだ。当時15歳のボブは、身長が180センチになっていた…顔も若干老け顔だったので…まぁその〜、8人で競馬場に行ったんだ。1年前からの資料を集め、全て計算尽くめで答えを出し…1レースにつき2万ドル勝ったんだ。周りに怪しまれないように競馬場の中を移動しながら、勝っても声を出さずにポーカーフェースで、1日で20万ドル稼いだ。ボブはかわいそうなくらい緊張して換金に行ってたなぁ…そのお金で中古の家を購入して…8人で…新生活が始まったんだ。始めて自分達の部屋を持ったボブとリンダ、ジョニーとアンジー、グレイとルーシー、そして俺とメリー…。さて、ここで自己弁護をしておきたいんだけど、俺たちは朝から晩まで、本能のままにセックスをしていた訳ではない、むしろ皆んなの自由時間を俺が奪い取った、と言う風に7人は思っていたかもしれない。朝の9時から12時までと、1時から6時まで、俺は7人に徹底的に勉強を強要した、テストなんかも当たり前のようにした。小学校から大学までの勉強を4年間で叩き込んだ…皆んなは「ベイは、私達の為に勉強を教えてくれているんだ」と口では言ってくれていたが、たぶん嫌われていたんだと思う。生活費は皆んなにテストをさせている間に俺が株で稼いだ。また少し自慢話になるが、株の、売買、って言うシステム、これを作ってくれた方々に、心から感謝するよ、だって家の中に居ながら、パソコンの画面を見て…カチャカチャってキーボードを触るだけで、利益を得る事が出来るだぜ、それには頭を使うけれど、俺にとっては簡単な事だったよ…かなり嫌味な表現になっちゃったな。でもその生活費の稼ぎ方は4年間だけの話なんだ、なんて言うか…人間ってさ…苦労なんてした事も無い、なんて言う生き方をしてるとさ…なんか、バカに成るような気がしてさ、なんて言うか…人の痛みや、悲しみが分からない…そんな人間には7人にはなってもらいたく無かったんだ、だから4年間の勉強を終えて、俺が21歳の時、皆んなで仕事をしようって…就職活動をしたんだ。18歳になったジョニーはラジオのDJの仕事を勝ちとリ、彼女のアンジーはジョニーの助手で、バイトと言うかたちではあるが、就職する事が出来た。16歳のグレイは街で一番美味しいと評判の高いレストランの厨房で皿洗いとして雇ってもらい、彼女のルーシーも同じレストランでホール係のバイトとして雇ってもらえた。19歳のボブはヘビー級ボクサーの道を進み、彼女のリンダはボブのマネージャーとして、栄養士とマッサージの資格をとって常に一緒に行動していた。…そして6年後、24歳のジョニーは一週間に10本の番組を担当するようなDJに成長し、23歳のアンジーも常にジョニーの前に座るアシスタントDJのポジションを勝ちとっていた。22歳のグレイは周りのスタッフが驚くような場所に立っていた…そう、料理長の隣りだ。レストランに入って2年が過ぎたある日、手にケガを負ってしまった先輩の代わりに、スタッフのマカナイ料理を作った…それが料理長をはじめ、スタッフ全員から絶賛を浴びたんだ、それから先はグレイ自身も信じられないと言うくらいの高評価を受け、御客様からのクチコミで雑誌なんかにも取り上げられて、気が付けば「天才シェフ」なんて言われるようになっていた。彼女であるルーシーも、持ち前の明るさと、丁寧で親切な接客が認められ、ホールの責任者代理、と言うポジションを勝ちとっていた。そして25歳になったボブ、デビューから今日まで負け知らずで勝ち上がって来た…、そんな彼に、世界チャンピオンに挑戦させてもらえると言う話が舞い込んで来た。もう…とにかく俺たちは嬉しかった、嬉しい以外の言葉が見つからなかった。試合の数日前に記者会見が行われれた。俺たちは皆んなで応援に行ったさ…記者会見の席上、チャンピオンのギンバレーはボブを威嚇するつもりでなのか?さんざんな暴言を吐いてきた「お前のようなチキン野郎は俺の靴でも突いていればいいんだ」と言った、するとボブは「偉大なチャンピオンに挑戦させて頂ける事に対して今、幸せを噛み締めております」と言って頭を下げた。チャンピオンは、(エッ…?)と言うような顔をしながら「お前の母親はコールガールかなんかで、ダラシない女なんじゃないか」と言うと、ボブは少し考えてから「私と妹は小さい時に捨てられましたので…顔も覚えていません…チャンピオンのおっしゃる通り…大した母親ではないと、私自身もそう思います」と言ってまた頭を下げた。ギンバレーは小さな声でボブに耳打ちをした「バカ野郎さっきから何を言ってるんだ、集まって来てくれている記者達は、俺たちの言葉のバトルを新聞に書きたいんだ、もっと俺に暴言を吐かないとダメだろ」と言ってボブの目を睨んだ。ボブは小さい声で「すみませんチャンピオン」と言った、ギンバレーは小さく微笑むと気をとり直して、ボブの隣に座っているリンダを挑発した「ヘイ、あんたはコイツの彼女かい?コイツより俺の方が、あんたを満足させられるぜ」と言ってボブを睨んだ。ボブは震えながら目の前にあるマイクを両手で握った、記者達は(ボブ選手はなんて言い返すんだろ、気の効いた暴言を頼みますよ)と言った感じで…ボブの顔を見ている、会場の隅に座っている俺たちもドキドキしながら耳を傾けた、しかしボブは緊張のあまり声が裏返り、やっと言えたセリフが「チンコ、ウンコ」だったんだ、チャンピオンのギンバレーは慌てて「ボブ、やめろ、何を言ってるんだ」と言ったが緊張しているボブには聞こえ無いのか、更に「オッパイ、おしり」とまで言い出した、ギンバレーが思わず「子供の喧嘩じゃねえよ!」と言ったので会場中が大爆笑になってしまった、「バカ野郎、こんな会見じゃ客が集まらないだろう」とギンバレーが怒鳴ると、今度はリンダが立ち上がり、「すみませんチャンピオン、ボブも、私も、なれてないものですから」と言って丁寧に深々と頭を下げた。その光景が全国のテレビニュースに取り上げられ…良くも悪くも話題になった。試合当日、チャンピオンの「客が集まらないだろう」と言う心配は見事に外れ…試合会場内は5万人の観客が…なおかつチケットを持っていない人達が、会場周辺に5000人程集まってしまって、試合主催者側は嬉しい悲鳴を上げながら、会場の白い壁に、試合を映し出すと言う特別な措置で対応する事になったんだ、ギンバレーとボブの闘いは一進一退でどちらも引かず…互角の戦いが最終ラウンドまで続き、勝敗は判定に持ち込まれた…わずかな差で、チャンピオンがタイトルを防衛した。ギンバレーはボブに抱きつき「お前って…本当に強いなぁ」と言って背中をさすった、するとボブはすかさず「今日はありがとうございました。」と言って頭を下げた…ギンバレーは両手でボブの顔を包みながら「お前は謙虚だなぁ…ボブ、この間は暴言を吐いてすまなかったな…実は俺も親から捨てられているんだ…すまない、本当にすまなかった」と言うギンバレーの顔をボブは目に涙をいっぱい溜めて見つめていた。チャンピオンは更に「俺はボクサーとして沢山稼がせてもらったから…チャンプのままで引退させてもらうよ…妻子とのんびり、田舎で暮らすんだ…次はお前がしっかり稼いで幸せになれ」と言って、チャンピオンはボブの左手を取リ、高々と上に上げた…あたかも次のチャンピオンはこの男だ、と言わんばかりにね…ボブはとうとう泣き出してしまったよ、ボブは涙もろいんだ。その後みんなで家に帰って、ボブとリンダに(よく頑張りました、お疲れ様)と言う趣旨のパーティーを開いた。と、その前に俺とメリーの話も少しはさんで置きたい。実は俺…13回も職場を解雇されたんだ、その時はハッキリ言ってかなり落ち込んだよ、だってそうだろ…俺以外のメンバーは、社会の中に上手く溶け込み、周りの人達から評価されているのに…先生役を演じていた俺だけが…って本当に参ったよ。俺が働いていた所は…全て研究室あるいは研究所だった。俺にとっては全て未知なる世界の研究だったので、毎日が夢のように楽しかった…しかし研究所の博士達は、国、あるいは大手企業からの出資を受けていたので…まぁ俺のように呑気に楽しい何て言ってられない状況だったんだ。何事にも行き詰まる時ってあるよね、博士達は何回も会議を開いて答えを見つけ出そうと必死だった。実は俺には答えが分かっていたんだ…それどころか、ちゃんとした形に作り上げて、実験も成功している…でも偉い先生方はプライドが高いから…言えないじゃない、私はすでにゴールに立ってます…何て、で俺は少しでも役に立てばと思い、遠回しに助言をしたんだ、当然、イヤミの無いように気を使って…でも3日もすると「ベイ君…急な事で悪いが、明日から来なくていいから、解雇だ」って…分かりましたって受け入れるしかないよね、メリーは解雇なんて言われて無いんだけど「ベイがクビなら私も辞めます」って、ずーっと俺について来てくれた…ある時「メリー、君は研究所に残ってもいいんだよ」って言ったら、メリーは少し怒った様な顔で「私はベイと四六時中一緒に居たいの、研究所なんてどうでもいいの」と言って俺の胸の中に顔を埋めた…俺の身体は、嬉しいと言うオーラにスッポリと包まれていた。さて話を元に戻そう、ボブとリンダの為にパーティーを開いた夜、つまりボブの試合が終わった日の夜の事だ、グレイがこれでもかって言うくらいに料理を作ってくれた。ボブとリンダは嬉しそうに何回も「ありがとう、皆んな本当にありがとう」って言いながらテーブルに座った…俺たち8人は満面の笑みで、お互いの顔を見回した。なんだろう…熱いものが込み上げて来た…今まで色々な事があったけど、何とか今日まで生きてこられたよな、って思ったら…なんだか涙が出ちゃって…。とにかく俺たち8人は最高にイケてる8人だと思う…本当に素敵な8人だったんだよ…皆んな優しくて、涙もろくて…よく笑って……」ベイはここまで言うと「女将さん…以上です」と言って話しを止めた。ベイの遺言的な録音は此処までである。この先に起こるであろう惨劇はあえて言わなかった…。この後8人は本当に幸せな時間を過ごした…22時30分、いきなり雷が鳴って、大雨が降りだした…幸せな8人にはカミナリさえも楽しく聞こえたのか「キャ〜怖い〜」何て言う冗談まじり悲鳴を上げながら、4人の女性陣は自分の彼に抱きついた。鼻の下をのばした男性陣は、何とも締まりのない顔で「大丈夫だよ、僕がついているからね」と言うようなセリフを彼女の耳元で囁いた。ボブがうっかりテーブルの隅に置いてあったスープ皿を床に落としてしまった、ベイは笑顔で「大丈夫だよボブ」と言ってモップを取りに行った…少し酔っていたのかベイはモップを持ったままで転んでしまった、メリーは心配そうな顔で「ベイ大丈夫…」と言って手を差し出した…7人はこの後……この世の中から消える事になる。暗い夜空がイナビカリによって昼間のような明るさに成った…次の瞬間ドッーンガラガラガラガラーと言う雷の音と同時に、壁や窓から機関銃の弾の雨が、8人の身体に降り注いだ。床に転んでいるベイには当たらないが、7人の身体は蜂の巣のように撃たれ、バラバラになって吹き飛んでしまった…5秒間の出来事である。数人の男が機関銃を片手に部屋の中を覗き込んだ、血の海である。リーダー格の男が「任務完了」と言うと、男達は黙って家の外に出て行った。ベイは嗚咽を抑えながら起き上がり、部屋の中を見回した…7人の身体はバラバラである、7人の血肉がベイの身体にしがみ付いている…「ベイ助けて…」と言っているように感じられた。その時である、鼻をつくようなガソリンの臭い…と同時に、家は火に包まれた。ベイは血の海を這いながら、ボブとルーシーとグレイの腕、リンダとアンジーとジョニーの足を両脇に抱え、そしてメリーのオデコから頭…髪の毛を口にくわえて地下室に逃げ込んだ。7人の身体の一部分をそれぞれビニール袋に分けて、大きな冷蔵庫の中にしまうと…そこで初めてベイの目に涙が溢れてきた「いったい何なんだ…俺達がなんか悪い事をしたか?…昔…人様の家に忍び込んだ事か?…競馬で勝った事か?株か?…いったい何なんだ…」そう呟きながら地下室の天井を見上げた「上にいる男達は誰なんだ…人を殺しても何とも思わないのか?…」と言っている時である、ベイは頭を抱え…「どうしたのかな?頭が痛い…痛い…メリー助けて…」と言いながら気を失ってしまった。次の日の昼過ぎ、ベイは目を覚ました…全身に7人の血がしがみ付いている。ベイはシャワーを浴びた後、地下道を通って外に出ると直ぐに新聞を買った。自分達8人の事がどう載っているのか……[…寝タバコによる火災、8人の若者が焼死…]だと載っていた。ベイは無表情のままで公園に行き…ベンチにソッと腰を下ろした。12月31日の公園には誰もいない…ベイは空を見上げながら頭の中を整理した、まず自分達を襲った男が「任務完了」と言った事だ、大きな組織が絡んでいると思った…いったい何の為に?…社会の片隅でひっそりと8人で暮らして来たのだ…ふとベイの頭の中に一人の博士の言葉が浮かんだ、「ベイ君…君は頭が良すぎる、私は少し…恐怖すら感じている…」ベイは目を大きく見開き「あっ…」と言いながら立ち上がると、自分の地下室に急いで帰った。パソコンの前に座り「えっ〜と…あっ思い出した…本当なら犯罪なんだよね〜」と独り言を言いながら、国のごく限られた人達しかアクセス出来ない、スーパーコンピュータに入り込んだ、ほぼ世界中の事が手に取るように分かる。「あった…」ベイは内容を読んで愕然とした…「俺のせいで、皆んなが殺されたんだ…」しかし、その余りにも不条理な理由に腹が立ち、思わず地団駄を踏んでしまった。13の研究機関の所長達全員が、国に対して「ベイ青年は、世の中にとって、一番の危険分子です、早々に排除するべきです」と言う報告を国に送っていたのだ。ベイは怒りで身体が震えた…「…よく分かったよ、今まで7人には、「間違った生き方をしてはいけない」って教えて来たけど…違うな、俺が間違っていたな、もういいい…うん、もういいや…ふざけんじゃねぇぞこの野郎、よく分かったよ国のやり方が、それならそれで結構だ、俺には俺の考えがある…覚えてろよこの野郎……復讐してやる…」そう言って、ベイはその日から行動を開始した。まず自分の預金と7人から預かっている預金の全てを下ろして、中古のサルベージ船を手に入れた。そこに自分が今まで作り上げてきた3台のマシンを積み込むと、何のためらいもなく出航し…何のためらいもなく財宝を引き上げ、何のためらいもなく、世界中の金持ちに、競売形式で売りとばした。ベイはちゃんと知っている、引き上げた財宝を勝手に売り飛ばしてはいけない事ぐらい、しかし、わざと悪い事をしたかったのだ、「法律など、クソ喰らえだ」と言いたかったのだ。わずか3カ月の間に812点の金銀財宝を海底から引き上げ、何と550億ドルの利益を上げたのである。ベイはニンマリと微笑みながら次の行動に入った…船の製作である、それもかなり非常識な船である。ベイの頭脳をフル稼動させて設計した物である。時には500名からの人を雇って船の骨組みを作り…時には日本の町工場に精密機械を発注し、エンジンの大事な部分は自分で組み上げた。しかし普通の船ではない、頭脳と、心臓部と、増殖部があるのだ、この部分だけは細心の注意をはらって作り上げて行った。そして最後の仕上げは…亡くなった人を蘇らせるマシンである、ベイにとっての最高傑作である。悪魔的な物であると言う事は、本人が一番自覚している。死んだ人を蘇らせるのだ…自然の摂理に反する事ぐらい百も承知で作り上げたのである。…そして話しは始めに戻り…今日、12月30日、いよいよ決行の時が来たのである。「皆んなは、俺の為に殺されたんだ、痛かっただろう…怖かっただろう…皆んな本当にゴメン…俺も皆んなと同じ苦しみを…今から味わうから、それで…少しでも皆んなの怒りが…おさまってくれると…嬉しいな…女将さん、お願いします!」「カシコマリマシタ」…ダッダダダダ…と言う音に合わせて、ベイの身体は左右に振られ、蜂の巣状態の身体は、床に叩き付けられた…しかし魂の方はと言えば、ものすごい勢いで、上に引き上げられ…長い雲のトンネルの中に引き込まれて行った、ベイは(このトンネルはどこまで続いているんだろう、皆んなが居る所につながっていてくれよ…)と思っている時に、前方が明るくなり始めた…そして雲の大地とも言いたくなるような場所に降り立つ事が出来た。…見渡す限り白の世界と言った感じである、人も動物も木も水も丘も…ベイは周りを見回した。蘇らせるマシンは、30分後に作動するようにセットをして来た、急いで7人を探さなければいけない…思わず大声で「メリー、ボブ、リンダ、ジョニー、アンジー、グレイ、ルーシー…」と叫んだ…。その時である、後ろから「ベイ…」と言う声が、ベイが振り返ると…目に涙をいっぱい溜めたメリーが、両手を広げて立っている、ベイは一瞬にして泣き崩れ…つまずきながら必死で駆け寄り、そしてメリーを力強く抱きしめた「メリー、メリー、僕のメリー。会いたかったよ、メリー愛してるよ、メリー…」と言いながら何度もキスをした。「ベイ…私も…会い…たかった…」メリーも言いたい事があるのだが、ベイのキスが激しくて、しゃべれない…その時、ベイの肩を、申し訳なさそうに叩く一人の男性がいた、ベイは我に返り、メリーを抱きしめたままで振り返った、ニッコリと微笑むボブが立っていた…リンダもジョニーもアンジーもグレイもルーシーも、皆んなが優しく微笑んでくれていた。ベイは上を向いて絶叫した、全てが上手くいったと確信したからである。ジョニーが「ベイ、ゴメンね、メリーとのキスを邪魔しよう…なんて思ってなかったんだけどさ…なんて言えばいいのか、このキスって終わんないんじゃねぇ、って思ったもんだから…その〜、俺達も居ますよ〜みたいな…」そこまで言うと、皆んなは笑い出してしまった。ベイはメリーの手を握ったままで「皆んなに会えて良かった…そしてゴメン…皆んなが殺されたのは僕のせいなんだ。奴等は僕を殺しに来たんだ…なのに皆んなが殺されちゃって…」するとグレイが「殺されたのが俺達で良かったよ、だってベイが生きてくれていたから…今こうして僕達を迎えに来てくれたんだろ」「えっ?何で知ってるの…」するとリンダが「私達…死んだあと7日間ベイの側に居る事が出来たのよ。ベイは毎日怖い顔で、絶対に復讐してやるって言った後に…私達の身体の一部に向かって、待ってて…絶対に蘇らせるから、迎えに行くからって言ってくれていたでしょう…」するとアンジーが「私達とっても嬉しくてね…泣いちゃって…ベイなら絶対に私達を、生き返らせてくれるって…」するとボブが「ベイ、謝らなくていいんだよ」と言った「でも皆んなの人生を終わらせてしまったんだよ、皆んなの戸籍…もう国から…消されちゃってるんだよ」と言うと、ルーシーが頰笑みながら「先生…ベイ先生、私達はベイ先生にずっと育ててもらって…ベイ先生が居なかったら私達は…寒さに凍え…飢えに苦しんで…きっと、もっと早くに死んでいたと思う…勉強を教えて下さった事に感謝しています、住む家を与えて下さった事に感謝しています…私達ったらまだ何の恩返しもしていないの…だからお兄ちゃんが言った通り、謝らないでください、皆んなでまた一緒に暮らせるだけで、私達は幸せですから」と言ってくれた。皆んなも笑顔で頷いている、ベイは申し訳なさそうな顔で「皆んな、ありがとう、本当にありがとう…」と言って頭を下げた。その時である、ベイ達の周りに30名の人が集まって来ていた…生き返るという言葉に反応したようである。50歳位の女性が「あの、すみません、私も生き返らせてもらう訳には行きませんか?寂しがり屋の主人を、置いて来てしまったんです…」と言うと、後ろに居た40代の男性も「私の妻は、他の男と何処かに行ってしまい、2人の子供達はまだ学生で…私が居ないと路頭に迷うんです…お願いします、私も生き返らせてください…」と言って来た、すると横に居た30代の男性も「産まれたばかりの子供と、妻を、置いてはいけないんです…」と嘆いた…ベイが(どうしたものかなぁ…)と思案していると、ボブを見上げるようなかっこうで、小さな女の子が「パパとママがずっーと泣いてるの…私が死んじゃったから…」と言って、隣に居るリンダの手を握った。ベイは周りを見回しながら(30名以外の人達は、俺達の事を気にしていない、自分の死を受け入れているんだろうか…それにしても困ったなぁ…もう直ぐマシンが作動する頃だろうし…)と思っていると、メリーがギュッと手を握って来た…見れば唇を噛み締めて、涙をこぼしている。ボブもリンダもジョニーもアンジーもグレイもルーシーも…(何とかして上げて、)と目が語っている。ベイはふと思った(1年前…俺は復讐を誓った、誰に対して?…皆んなを殺した奴らか?其れとも殺すように、指示を出した奴らか…いったい何に対して俺は…復讐しようと思ったのか…)その時であるベイ達の身体が光り出した…周りにいる30名は、この人達は本当に生き返るんだと思った、自分達は連れて行ってもらえないな…とも思った…でも「お願いします、お願いします…」と言う言葉が、自然と口から出てしまうのだ、それだけ置いて来てしまった家族の事が気に成るのである。その時ベイが大きな声で叫んだ「時間がないんだ、皆んな僕に顔を見せて、覚えて、後で必ず迎えに来るから」すると機転を働かせたボブが…ベイを自分の肩の上にヒョイと乗せ「ベイ、皆んなの顔が見えるかい」と言ってくれた「ありがとうボブ、よく見えるよ…」ボブはベイの視線の先を見ながら、ゆっくりと身体を回して行った。周りにいる人達もベイに向かって必死で顔を突き出した…「…よし全員の顔を覚えた、ボブありがとう…」ボブがソッとベイを下に降ろすと同時に8人の身体は光りに包まれた…ベイは慌てたような口調で「大丈夫だから、必ず迎えに………」そこで8人の姿がパッと消えた。30名の人達はお互いの顔を見合わせた…小さな女の子が「…パパとママにもう一度会いたいなぁ〜」と言って涙をこぼした。すると50代の女性が「あの方達はきっと私達を助けてくれるわ…約束して下さったもの…ねっ、信じて待ってましょうよ」と言って少女の頭を撫ぜた。ベイの研究室に生還した8人は、お互いの身体を触りながら、確かに生き返ったんだ、と言う事を確認すると…全員が奇声を発しながら、手を取り合って喜んだ。ジョニーが「すごいなぁ…亡くなった時の服を着ている…肉体だけではなくて洋服までも復活させられるんだね〜」と言うセリフに7人も声をそろえて「やっぱりベイは天才だー」と連呼した。しばらくするとベイが「皆んな、喜びのパーティーを直ぐにでも開きたいんだけど…あの世で待っている人達を、先に家族の元に帰して上げたいんだけど、いいかな…」と言って皆んなの顔を見回した、するとボブが「いいに決まっているじゃないか、皆んながベイを待っているよ」と言って微笑むと、他のメンバーは笑顔で親指を立てている…子供の頃からの(了解しました)と言う8人のサインである。ベイが突然「スクリーンをお願い」と言った、すると壁一面に、大きなスクリーンが下りて来た、皆んなは(おっ、スクリーンが現れた…)と思った次の瞬間…ベイの肩の辺りに半透明な15センチ程の球体が浮いている…7人は(えっ?…)と思った、ジョニーが「あの…ベイ…なんか浮いてるよ…」と声をかけると「あっゴメン驚いた、自由自在に形を変えられる…通称フリーって言うんだ」「フリーと言う名前がついてる事に、新鮮な驚きを覚えたよ」とジョニーが戯けて見せると、皆んなは思わず笑いだしてしまった。フリーはベイの頭の上に移動すると球体からヘルメットのような形に変化してベイの頭にかぶさった、そして「ベイ博士ご用件をどうぞ」と声を出したのである…7人はまた「おぉ〜」と声を出した。「フリー、いま僕の頭の中に、30名の人達の顔が記憶されているんだけど…その人達の顔と、生前の住所をスクリーンに映し出してくれるかな」「了解しました博士、5秒ほどお待ちください……お待たせしました」スクリーンには30名の顔写真と住所が映し出された。7人は満面の笑みで「すご〜い、すごい〜」と何回も連呼しながらベイに向かって拍手を送った。ベイは少し照れながら「皆さん、静粛に…さて、皆さんが今立っている場所は一見何処かの古い建物だと思っているでしょ…」皆んなは顔を見合わせながら頷いた、ベイは独り言でも言っているような感じで「フリー、船を本来の姿に戻して」「了解しましたベイ博士」皆んなが(船…⁇…)と思っていると部屋の壁が下に下がり、それと同時に机や椅子やパソコン類まで全部が床の下に消えて行った…そして目の前に現れてきたのは…「えっ〜〜、まるで映画に出てくる宇宙船のデッキみたいだ〜」と最初に奇声を発したのはグレイだった、左右の壁には色々な計器類や色とりどりに光る機械類が備わっている、ボブもジョニーも目を輝かせて周りを見回している、男の子はSF的な物が大好きである、女性陣は全員が口をポカンと開けて言葉を失っている。グレイが満面の笑みで「ベイ博士、すごい船ですね、もしかしたら…空なんて飛んだりするんですか?」「どうしたのグレイ、博士なんて呼ばないで、何だかくすぐったいよ」と言うと横からボブが「あの…ベイ博士…」「おーい・ボブまでどうしたんだい」と言って笑い出すと…ボブは真剣な表情で「いや、あの…実は1年間…あの世でさ…皆んなで話し合っていたんだけど…昔からベイ、って言いにくいんだよ…だってさ、俺達に色々な事を教えてくれる先生で、その上に俺達の生活を守ってくれる父親的な存在で…本人を目の前にして言うのは照れくさいんだけど…皆んなベイ博士の事を…尊敬しているんだよ、俺達と横一列…同じゃないんだ、目上の人なんだよ…だから、出来れば今からベイ博士、って呼ばせて貰えると…気持ち的にすごく嬉しいんだけど…ダメかなぁ…」と言ってボブはリンダの顔を見つめて(俺、ちゃんと皆んなの想いを伝えたから…)と言うような顔で小さくガッツポーズをとった。ベイは7人の顔を順番に見た、誰もが(お願い、博士って呼ばせて…)と言うような顔でベイを見つめている…。ベイは1回深呼吸をすると「…分かった、いいよ、皆んなが呼びやすい呼び方で…ただしメリーだけは駄目…メリーは…」と口ごもってしまうとリンダが笑いながら「そうよね、メリーは駄目よ〜」メリーが小さく首をかしげると「だって私が、ボブ選手って言ったら変じゃない。アンジーが、DJジョニーとか、ルーシーがグレイ料理長なんて言わないからねっ…メリーもそう思うでしょう」メリーはハニカミながら頷いた。ベイはニッコリしながら「まさか皆んなが…僕の事をそんな風に思っているなんて知らなかったよ…ありがと…アッさっきのグレイの質問だけど、グレイ…この船は飛ぶよ」と言うとグレイはルーシーを抱きしめながら「ルーシー、やっぱりベイ博士は天才だね〜」と言って子供のように喜んだ。ジョニーはそんなグレイを見ながら…「でわ皆さん、今日からベイ博士と呼ばせて貰える事になりました。…さてベイ博士、この後私達は何をすればいいでしょうか…?」「…今から30名の人達をこの場所に呼ぶので、その方達の亡くなった日付と死因を聴いて欲しいんだ、スクリーンにはまだその辺の事が載ってないんだ…多分、家族の方がまだ役所に届けを出して無いと思うんだ…」と言った、7人は親指を立てて「了解しました博士」と言ってくれたので、ベイは微笑みながら足で床を1回トンと鳴らした、すると下から高さが1メートルで、3メートル四方の白い台が上がって来た、7人は(なんか上がって来た…)と思っていると、ベイが何やら両手を動かして操作しているように見える…7人には何の事だかわからない、するとベイの手元に7つの球体が現れた、7人は(おぉっー)と思っているとベイが「皆んなのフリーだよ…」と言うと7つの球体はファ〜と浮いて、グレイとルーシーの肩に、ジョニーとアンジーの肩に、ボブとリンダの肩に、そしてメリーの肩に着いた。ベイが「フリーは皆んなを護ってくれるんだよ」と言って微笑むと、7体の球体がいきなり…「ボブ様、よろしくお願いします」「リンダ様、よろしくお願いします」…と挨拶をしてくれた。7人が「可愛い〜〜」と絶賛している顔を見ながら、ベイは次の操作に入っている、皆んなが立っている後ろの薄暗い場所に、1メートル間隔で下から椅子が次々と上がって来た、7人は振り返りながら(おお〜っ…)と思った次の瞬間、部屋の中の灯りが一斉についた「えっ〜〜広いー」と声を上げたのはアンジーである、アンジーはジョニーと何時も狭いスタジオの中で仕事をしていたので、広い空間には慣れていなかったようである。デッキの中の広さは縦6メートル、横60メートル、奥行きは35メートルある、驚いても無理はない。グレイがボブに「凄すぎない…この船」と言うと「あぁ…でも俺は好きだなぁ〜…ジョニーはどうだい」「もう、さっきからテンションが上がり放題だよ…」と言って笑っている時に…椅子の所がフアッーと明るくなった…7人が「エッ…⁈』と思った次の瞬間、30名が立っていた。30名の幽霊達は、ベイ博士達の顔を見ると…一斉に歓声を上げて喜んだ。女の子がベイの足元に走りよって来て「おじさん、ありがとう、パパとママの所に帰れるの」「はい、帰れますよ」と言うと、女の子は「嬉しい、本当に嬉しい〜〜」と言って地団駄を踏んだ。他の人達も嬉しそうである、隣の人と抱き合ったり、握手をしたり、デッキの天井に向かって叫び声をあげたりと、思い思いの喜び方をしていた、ただ肉体が今現在この場所に無いので、誰の姿も若干透けて見えた…。ボブはリンダに「さぁ、ベイ博士から頂いた仕事を始めようか」と言うとジョニーやグレイ達もリンダと一緒に「はーい」と返事をしながら30名の人達の中に入って行った…。ベイは床の下から2つのマシンを浮き上げて来た、1メートル四方のオレンジ色のかたまりである…37人は(…何だろう?…)と思った、対話をしながら、その物が気になってしょうがないのである。そして7人の聞き取り調査が終わると、全員がベイの顔を静かに見つめた…。ベイは皆んなの視線を受け止めると静かな口調で「皆さん、どうぞ椅子にお座り下さい」30人がいっせいに腰を下ろすと…ボブ達7人は前に進み、ベイの横に並んだ。「さあ、家族の元に帰りましょう…」と言う言葉が出ると拍手と歓声でベイの話が中断されてしまった。ベイは微笑みながら「皆さん、お静かに…今、前のスクリーンに、皆さんの顔と住所が映し出されています…右上の方から順番に自分の肉体に帰ってもらいます。ただ、此処に居られる30名の方達は、病気、あるいは事故で亡くなられています…ですから先ず最初に私達8人が、皆さんの肉体を治します…家族の方達は驚くでしょうね…と言うか、いま皆さん自身も驚いているでしょう?…なぜ生き返れるのって」皆んなは静かに頷いた、するとベイは「…実はトップシークレットなので説明する事が出来ないんです…御理解して頂けますか…」全員が小刻みに頷いている。ベイはニッコリしながら「ありがとうございます。…フリー、スクリーンを横に移動させて」「はい、ベイ博士」と言うが早いかスクリーンは一瞬にして横に動いた。「…えっ〜〜?」と言う驚きの声は…ベイ以外の人達の声である。スクリーンの後ろは縦6メートル、横60メートルの壁だったはずなのに…今は窓になっていて…そして、そこにある景色が…窓の下半分は空で、上半分が宇宙空間なのである。ボブが思わず「あの…ベイ博士、あの…この船って、あの…宇宙にも行けたりするんですか⁈…」「そうだよ、銀河系の外にだって行けるよ。驚いたかいボブ」「…はい、とっても…」と言っているボブの顔は満面の笑みである。ベイは、スクリーン右上の女の子の顔を見つめ「さあ、こっちに来て」と言って自分の右側を指差した。女の子は嬉しそうに走って来て、ベイを見上げた。「…下を見てごらん…パパとママが見えるだろ…」女の子が下を見ると、今まで白い床だったのが、5メートル四方のスクリーンになっていて、女の子の両親が目を真っ赤に腫らして泣いている姿が見えた…。最愛の一人娘が棺の中で花に埋もれている現実を、どうしても受け入れる事が出来ないのである、女の子が「パパ、ママ…」と言って大粒の涙をこぼした時、ベイの隣に居たメリーが女の子を後ろからソッと抱きしめた。「素敵なパパとママね…しっかり甘えてね…大事にしてね…」と言って優しく頬にキスをした。「はい、大事にします、お姉さん、ありがとう」と言って、女の子はメリーの首に手を回した。ベイが微笑みながら「じゃあ…スイッチを入れるよ…」と言って白い台の上で手を横に滑らせると、床の下の景色が見る見るうちに地上に向かって急降下しだした、37人は一瞬息を飲んだ…まるでジェットコースターのようではないか…しかし?身体には何の重力も感じない、エレベーターに乗っている感じすらしないのだ…やがて船は閑静な住宅街の上空で止まった。アンジーがルーシーに「ねぇ、この船を下から見上げている人達は…さぞ驚いているでしょうね」「そうね、中には腰を抜かしてしまう人もいるのかもしれないわね〜」と言った、リンダも同じ事を考えていたので「ねぇメリー、ベイ博士はこの船が見えちゃってもいいのかしら…」メリーは首を傾げ「どうなのかしら?」と言いながらベイの顔を見つめた。するとベイ博士はサラリと「大丈夫だよ、この船には透明シールドが張ってあるから、外からは見えないんだよ」その言葉に反応したのはボブとグレイとジョニーである(スゲ〜無敵の船だぁ〜、でへへへ…)と思いながら、3人で顔を見合わせてニヤけてしまった。ベイが手を動かすと床のスクリーンがまた女の子の両親を映し出した。「フリー白衣になって」とベイが声をかけると8つの球体が一瞬光りを放ち、あっという間にベイ達8人の身体に、白衣となって着込まれた。ベイは29名の人達に向かい「スクリーンを見ていて下さいね、次は皆さんの番が回って来ますからね、」と言って微笑んだ後に「ボブとジョニーで2つのマシンを持ってくれるかい」と頼んだ。ジョニーは「ボブは持てると思うけど…僕は、お喋り専門で力が無いんだよなぁ…」とつぶやいてしまった、するとアンジーが「大丈夫よジョニー私も手伝うから」と言って手を握ってくれた。その事を見たベイは…ジョニーの耳元で「…あのマシンは、盗まれないようにわざと1トンの重さに作り上げたんだ…でも大丈夫フリーが助けてくれるから、試しに持ってみて」と言ってジョニーの背中を優しく押し出した。何となく足取りの重いジョニーの手を引いたのはグレイだった「ジョニー、僕もあんまり力が強くないから、2人で一緒にフリーのサポートを試して見ようよ」と言って歩き出した、その2人の間にガバッと肩を組むように割り込んで来たのはボブである、2人の首を引き寄せ…小さな声で「ベイ博士が、出来るからねって言われた事は、どんな事でも絶対に出来ると…俺はそう信じているんだけど…2人は違うのかい…」と言った、2人は(ハッとした表情で)「あっ…ゴメン、ボブの言う通りだよね」2人は偶然にも同じ言葉をつぶやいた。3人は仲良くオレンジ色のマシンの前に立った。先ず最初にボブが両手を軽く回しながらマシンに手をかけた。(…あれ?…)と思ったのかベイ博士に視線を送った、ベイは微笑みながら「ボブ、ソッと持ち上げた方がいいと思うよ」と言った、ボブは段ボールの箱でも持ち上げるような感じで力を入れてみた…(マジか〜〜、これがフリーのサポート力なのか〜、マジでスゴすぎるよ〜)と思いながら「ジョニー、グレイ…。ベイ博士の天才ぶりが改めて解るから、とりあえずマシンを持ち上げてみろよ…」と言ってウィンクを送った。2人は言われるがままにマシンを持ち上げた(えっ〜〜、えっ?何で⁇…)2人の素直な感想である。周りで見ている人達には分からないので首をかしげている。ジョニーはアンジーに向かって「アンジー、見て…」と言いながら1トンのマシンを片手で持ち上げ、まるで日本の紙ふうせんで遊んでいるような感じで何度も頭上で弾ませて見せた。30名の人達が驚くのは当然だが、リンダもアンジーもルーシーも、そしてメリーまでもが、まさかフリーのサポート力がここまで凄いとは、思ってもみなかった。ベイは微笑みながら「でわ皆さん、ちょっと行って来ます、すぐに戻って来ますから」と言って台の上で、また両手を動かした、すると床が開き、女の子は下に…姿を消して行った。次にベイ博士達の身体もデッキの中から消えた。船に残った29名は急いで床のスクリーンを覗き込んだ…。女の子の両親が何度も娘にキスをしながら「お願い…目を開けて…ママって呼んで…」と言っているところにベイ博士一行が部屋の中に入って来た「悲しんで居られるところ…誠に申し訳ありません、失礼します…」両親も親戚の人達も白衣を着た8人を病院の人達だと思ったらしく、8人に対して軽く会釈をしながら、女の子が眠る棺の前までの道を開けてくれた。ベイは両親の前に一直線に進むといきなり本題に入った「トップシークレットなので詳しい説明が出来ませんが、実は…お嬢さんから…パパとママの所に帰りたいと言う要望がありまして…お嬢さんを…お二人の元に…えっ〜と、ですね…」ベイの頭の中には、それ以上両親に対してのセリフが浮かばなかったのか、いきなり振り返って「グレイとルーシーとリンダは棺の周りの花を片付けてくれるかな…ボブとジョニーは棺の前にマシンの設置を頼むよ、…メリーとアンジーは誰も近づかないようにしてもらいたいんだけど…」と言って説明もそこそこに次の行動に入ってしまった。両親も親戚の人達も何の事だか分からない…不安で胸がいっぱいである。ベイは心の中で(ゴメンなさい…僕は口下手で、上手な説明が頭に浮かびませんでした…)と思いながらマシンのスイッチを押した「女の子の病気は、…あ〜〜なるほどね〜」と言いながらマシンの上で両手を動かしている、するとマシンから直径2メートル程の水の玉が出て来た、その場にいる人達は(えっ〜〜?なに⁇、何が始まるの…)と思った。その水玉は棺にかぶさると急に真っ白になり、中が見えなくなった、両親も親戚も(えっ〜何なの?)と思いながら、目を見開いたままで固まっている…そして5秒後、水玉が、けむりの玉になり…パンッと玉が破れた次の瞬間…けむりの中から「パパ、ママ…」と言って女の子が飛び出して来た、ママは絶叫、パパは狂喜乱舞…そして一呼吸おいた後の…親戚達の大歓声。両親は何度も娘を抱きしめ、何度も名前を呼び…何度もキスをした。船の中でスクリーンを覗き込む29名の人達も満面の笑みで、涙をこぼしながら「良かった〜〜、良かった〜」と口々につぶやいた。ベイ達は、両親と親戚の人達に抱きしめられている女の子に、小さく手を振りながら家の外に出た、ゆっくりしていられない…あと29名を少しでも早く家族の元に帰して上げなければならないからである。女の子はベイ達にもう一度お礼を言いたくて、慌てて庭に駆け出して来た、両親もその後に続いて走り出して来た。ベイ達の身体は既に3メートルほど空中に上がっていた、「ありがとう〜」「ありがとうございました」と言いながら手を振る女の子と両親に気づいたベイ達は、満面の笑みで手を振りかえし…船の中に消えて行った。ただ下から見上げている人達には、空中で8人が消えた…と言う風に見えたので…。女の子のパパがボソッと呟いた「…ママ、神様って本当に居たんだね〜」「…パパ、私も同じことを考えてたの…神様って男女合わせて8人なのね〜」すると娘が満面の笑みで「神様なんかじゃないよ、ベイ博士だよ、皆んながそう言ってたわ…」「皆んな⁇」「そうよ.ベイ博士達はあと29人のオジちゃんやオバちゃん達を家に送って行くんだよ」「えっ⁇…」「あのね〜トップ…シークレットって言うんだよ」と言って微笑む娘を…母親は、サッと抱き上げ、ギューっと抱きしめながら「ベイ博士に感謝します…トップシークレットに選んで下さって…本当にありがとうございます…」と言って泣き出した…父親は2人を包み込むような形で「この御恩は一生涯忘れません…本当にありがとうございます…」と言って泣き出してしまった…。いったん空高く飛び上がった船の中で、ベイは次の人をデッキの前に呼んだ。…父子家庭…気の弱そうな壮年は、男手一つで頑張って来たのだが…過労死…疲れが蓄積されてしまったようである。ベイは微笑みながら「さて、お父さん…子供さん達の元に帰る時間です。先程、女の子が生き返るところを見てもらったと思いますが、あの手順で生き返ります、心の準備は出来ていますか?」「はい、どうか宜しくお願いします」と言って頭を下げる壮年の足元には、2人でたたずむ子供たちの姿が、床のスクリーンに映し出されていた…。17歳の息子と14歳の娘、2人以外誰もいない…父親の遺体を前に息子は「俺…お父さんに…何で優しい言葉をかけて上げなかったんだろう…お父さんがカッコ悪いから、お母さんが他の男に取られたんだって…でも本当は、お母さんが男にだらしなくて…俺達を捨てたんだよね、俺…自分が捨てられたって…思いたくなくて…お父さんのせいにしてたんだ…お父さん俺達の為にメチャクチャ頑張って働いてくれたのに…お父さん、本当にゴメン…」と言って父親の顔をなぜた…すると今度は、妹が泣きながら「お兄ちゃん、私だって…おんなじだよ…友達に、お前のお父さんカッコ悪いなって言われて…恥ずかしくて…でも本当にカッコ悪かったのは…わたし自身だよ…お父さんの優しさも分からない…私って…本当に馬鹿だよ…」と言いながら父親の手を自分の胸の中に抱きしめた。ベイは微笑みながら「お父さん、子供さん達が深く反省しているみたいですね…さあ帰りましょうか」「はい、宜しくお願いします…」と言う言葉を残して9人はデッキの中から消えた、28名はすぐさま床のスクリーンを覗き込んだ。玄関のチャイムが鳴り、2人の子供たちが顔を見合わせながら玄関に、白衣に包まれた8人…疑心暗鬼の子供たち…水玉、けむり玉、父親の帰還、大泣きする子供たち。挙動不審者のように部屋の中を見回すベイ博士(かなり経済的に困っているな)と思ったのか…壮年に向って「お身体をご自愛ください、これは邪魔に成るものではありませんので、何時までもお元気で…」「えっ、こんな事までしてもらうなんて…」と言いながら泣き崩れる壮年…28名は…泣きながら3人で抱きしめ合っている家族を見て「良かった〜、お父さんは偉い、頑張れ、頑張って…」と口々に壮年に対してエールを送った。床のスクリーンの映像はここで終わった。28名は、船に戻って来た8人を満面の笑顔で見つめた…(この方達と出会えて本当に良かった〜)とつくづく思ったからである。ベイはスクリーンに映っている3番目の御婦人を前に呼んだ。「宜しくお願いします…」と言って頭を下げる女性…手を差し出すメリーとリンダ…床のスクリーンには既に御婦人の家の中が映っている。ベッドに横たわる婦人の遺体、周りで観ている27名は(…⁇…何で遺体が棺に入ってないの…)と思っているところに…御主人が部屋の中に入って来た。ベッドに横たわる遺体をギューっと抱きしめ、キスをした後に「…直ぐに君の側に行くからね…兄貴夫妻には遠回しに…さよならを伝えたよ…」と言ってズボンのポケットから睡眠薬を取り出した「あっ…水を持って来るのを忘れた…俺って馬鹿だなぁ…ちょっとだけ待っててね…」と言って部屋を出て行った。ジョニーが「マズイじゃん、自殺する気まんまんじゃない」と言うと、ベイも少し慌てた口調で「パターンを変えよう、玄関から行ってたんじゃ間に合わない、直接部屋に入っておこう…ジョニー御主人を納得させられるような言葉の対応を頼むよ」と言って両手を動かした…ジョニーは「えっ?俺が…」と言ったが次の瞬間、8人と御婦人の姿は、デッキの中から消えていなくなった…27名はすぐさま床のスクリーンに目を向けた。ベッドの周りにはすでに8人が立っていた…そこにコップを持った御主人が入って来た…「えっ?」と御主人が言うのが早いか、満面の笑みのジョニーが「おめでとうございます、貴方の奥様がトップシークレットに選ばれました…奥様は今から生き返りますよ、手にお持ちのコップと睡眠薬を持ったままで結構ですので、少し…その場所でお待ちください…あっ、動かないでくださいね。ベイ博士宜しくお願いします…」と言ってベイの顔を見た。ベイは(さすがだよジョニー、完璧だよ)と目でうったえながら「今から奥様の身体を治します、その後に魂を戻し…御主人の元に帰って頂きます」と言ってマシンを作動させた。コップを持ったままたたずむ壮年は(…トップシークレットって、なんだよ⁇…なんで女房の身体が…水の玉でおおわれているんだよ?…エッ…白くなったし…けむり?…えっ破れた)と思っていた時である…「あなた…1人にしてゴメンなさいね…」と言ってベッドから婦人が起き上がった…壮年は睡眠薬とコップを床に落とし「えっ?…えっ?…キャッシー、帰って来てくれたのかい…」と言いながらフラフラと近づいて来た…「そうよ、だって貴方って、私が…」「お前がいないと、俺は生きて行けないって…ずっと、ずっと前から俺、そう言ってたじゃないか、なんで俺を置いて…俺は…」「本当にゴメンね」と婦人が言った時…壮年はとうとう妻の胸の中に顔を埋め、子供のように泣き出してしまった。妻は夫の背中を撫ぜながら「ゴメンね、もう二度と離れないわ…ケイン、ゴメンね…」と言って夫の頭に頬ずりをした…その姿を見た8人は(お二人の気持ちは…痛い程よく分かりますよ、愛する人には…ずっーと一緒に居て欲しいですよね)と思った…。するとベイは急にマシンの上で両手を動かし出した…皆んなは(…何をしてるんだろう?私達の博士は…?)と思いながら其の光景を見守っていた…10秒後、操作が終ったのかベイは御夫婦のベッドに近づき「愛し合っておられるお二人に…ささやかなプレゼントがあります…」と言った、夫妻は泣きながらベイの顔を見た…ベイは微笑みながら「…亡くなる時に、2人が一緒に死ねるように、運命の最終点を同時刻に…今セットしておきました、まだズッーと先の話ですけどね…末長くお幸せに」と言って2人に小さくウィンクを送った。満面の笑みで抱きしめ合う2人を見ながら、8人は船に戻って来た。「お待たせしました、次の方…」と言いながら27名に目を向けると「すみません、私なんですけど…よろしくお願いします」と言って走って前に出て来たのは…30代の男性だった。床のスクリーンはいつの間にか病院の霊安室の映像に変わっている…男性の遺体の横で、生後5カ月の赤ちゃんを抱き抱えた一人女性が、虚ろな目をして…小さな声で独り言をつぶやいていた…小さな声なのでフリーをまとって居る8人には聴こえるが…27名には聴こえて無いので…赤ちゃんを抱きしめ、震えて居る女性にしか見えなかった。「…学生のころからずっーと…貴方の事が大好きなの…私は美人でも何でもないから…絶対に相手にもして貰えないって…思っていたの…なのに、社会人になった貴方ったら…昔から君の事を好きなんです、結婚して下さいって…私あの時、座り込んじゃったでしょ…実は、ちょっとだけオシッコ漏らしちゃったのよ…だって本当に嬉しくて、嬉しくて…身体中の力が抜けちゃったんだもん。その日から毎日が幸せで…幸せで…ずっと浮かれてヘラヘラ笑っていたから…罰が当たったのかしら…」と言う妻の言葉は…夫には届いていない、ただ泣きながら震えて居る妻を見て「ごめんね…」と呟いた。ベイは男性に「愛する奥様と子供さんの元に帰りましょう」と言って男性の肩に手を掛けた…その時、奥さんが独り言の続きを言い出した「…ねぇ、この子と私で…貴方の所へ行ってもいい……」8人は顔を見合わせて(ヤベェ〜)と思った。ベイは少し声が裏返りながら「まずい、皆んな行くよ、アンジー、今度は君が奥さんに説明してね」「えっ、私が…」「頼むよ〜」と言いながらベイは両手を動かし出した…すると30代の男性が26人に向って「お先に行かせて頂きます。皆さんお元気で…」そう言った男性の顔は、涙をこぼしながらの、満面の笑みだった。誰もが口々に「また何処かで会いましょう…」あの世ではない…どこかの事である。ベイがさっきまでとは違う手の動かし方をしている…ボブとリンダは(ウチの博士また何かしてるし…何かマシンから出て来た、メリーに渡した〜、何だろう…)と思った次の瞬間、デッキの中から9人の姿が消えた。26人は床のスクリーンを覗き込んだ。霊安室の扉が「コンコン」とノックされた…振り返る妻子…何も言わずにアンジーはドアを開け…サッと妻子を抱きしめた。そして妻の耳元で「もう泣かなくていいんですよ、トップシークレットに貴方の御主人が選ばれたんです…こちらに居られるベイ博士が、今から御主人の身体を治して下さり、そして生き返らせて下さいますよ」と言って微笑んだ。婦人は大きな目を見開き「本当ですか?」「はい、ベイ博士は、あらゆる研究機関のトップに立って居られる方です…ですから御主人は奥さんの元に、直ぐに帰ってこられますよ」とアンジーが説明している間にも、周りでは作業がサクサクと進んでいた。婦人が赤ちゃんに向って「パパが帰って来るのよ…」と言ってギューっと抱きしめた…その時、後ろから「…ただいま、悲しい思いをさせてゴメンね」と言って妻を背中から抱きしめた「えっ?…貴方なの…」と言って振り返る妻…満面の笑みで抱きしめ…キスを繰り返す夫…。船の中のスクリーンの映像はここで消えた。26人は自分の事のように歓声を上げて喜んだ。しかし、霊安室の中ではまだ続きがあった…座り込んでしまった妻…黙って赤ちゃんを預かるリンダ…優しく妻を抱き上げる夫…メリーはさりげなく、下着とフンワリとしたデザインのワンピースを奥さんに渡した。アンジーとルーシーは夫婦の周りにシーツで壁を作り…ベイ達四人の男性は、黙って霊安室の壁を見つめた。ボブとリンダは(…誰だって嬉しい時には身体中の力が抜けてしまうよね…憧れの映画スターや、憧れのミュージシャンの前で気絶する人だっているじゃないか…可愛い奥様だね、ベイ博士がメリーに渡した物は、着替えの下着とワンピースだったんだなぁ〜…)と思った。着替え終わった妻に寄り添う夫…2人は満面の笑みで見つめ合っている…「末長くお幸せに」とベイが言えば「この御恩は一生涯忘れません」と言った後に…夫婦でベイに抱きついた…。。この後…26名の人達も喜んで家族の元に帰って行った…。別れ際には必ず「ありがとうございます…この御恩は一生涯忘れません…感謝以外の言葉が見つかりません」と言って頭を下げる人、握手を求めてくる人、抱き着いてくる人達ばかりであった。ベイは心の中でふと思った(本当に30名の人達は死ぬのが早過ぎたんだよね…死ぬ事に納得出来なかったんだよね、よく分かるよ、俺達だって「冗談じゃない、このまま黙って死んでたまるか」って思ったもんな、でも…あの時、30名以外の周りに居た人達は…自分の死を受け入れていたのかなぁ…楽しい一生だった、って言う感じの老人も沢山居たけど、まだ若い人達も沢山居たよなぁ…もしかしたら、辛い事がイッパイあって、もういいや…生きていてもちっとも楽しく無いから…って思ってたのかなぁ…俺も子供の時に7人に出会っていなかったら…自分の死を受け入れていたかも知れないなぁ…。皆んなは俺の事を、尊敬している先生とか、親だとか、博士なんて言ってるけど、違うからね…俺の方が皆んなの事を先生だと思っているからね。俺に人の温もりを教えてくれて、俺に生きる事の価値を教えてくれて…俺に愛する人の守り方を教えてくれて…俺の方が皆んなに感謝しているからね…)と思った。…30名を送り届けた船は…大西洋の上空500メートルの位置を漂って居た。窓の外には綺麗な夕陽が見えて居る…ベイは7人の顔を順番に見ながら「みんな、ご苦労様でした、そしてゴメンね…生き返った瞬間から働かせて…怒ってる」と尋ねた、するとリンダが「怒っている訳ないじゃないですか、むしろ何だか…心も身体も喜んでるって言う感じですよ、ん〜、なんか私の表現の仕方が変ね〜」と言うとルーシーが「変じゃないわよ、私もリンダと同じような気持ちなのよ、なんだか心がワクワクしている感じ…」と言った、そんな2人に「私も2人と同じ意見よ…ベイ博士から急に、説明宜しく、って言われた時はビックリしたけど、でもドキドキしながら楽しかったわ」と言ってアンジーが笑った。するとジョニーが「まあ僕とアンジーは、言葉を如何に相手に優しく伝えるか、って言う仕事だったからね〜」と言って微笑むと、横に居たボブがボクシングのファイティングポーズをとって「俺は人を殴る仕事だから…役に立ててないなぁ〜」と言った。そのセリフを聞いたグレイが笑いながら「なに言ってるの、30名中26人の人達が、あっ〜ボブ選手だ〜、握手して下さいって言われてたじゃない、メチャクチャ役に立ってるよ〜」「えっ、あんな感じでいいの?」と言うと、7人は笑顔で親指を立てて見せてくれた。皆んなの笑顔を見ながらメリーが「ねぇベイ…」「なぁにメリー」「あのね、私…座りたいんだけど、駄目かしら?」「あっ〜ゴメン、皆んなも座りたかったよね、フリー…ゆったりとしたソファーを出してくれる」「かしこまりましたベイ博士」と言い終わった時、ソファーが床から上がって来ていた、2人掛けの白いソファーが4つ、8人は「ふっ〜〜」と言いながら腰を下ろした…ベイ以外の6人がメリーに向って(ありがとうメリー)と言うような感じで小さなウィンクをおくった。昔からベイは、此の手の気配りが苦手である。悪気などは一切ない、だから少し困った事になる。少し昔の話であるが、皆んなに勉強を教えていた時の事である。真剣に教えるあまり、食事も取らずに進めて行った事がある、誰もお腹が空いたとは言えなかった、自分達の為に勉強を教えてくれている…そう思っているからである。その時メリーが周りを見回しながら(私の大好きな人は、細かい気配りが出来ないんだ〜、困ったなぁ〜皆んな…お腹が空いて倒れそうだよ〜、どうしよう)と思っていると「えっ〜と、今までのところで何か質問は無いかなぁ」とベイが聞いてくれた、メリーは今がチャンスだとばかりにサッと手を上げ「ベイ先生、お腹が空きました。…ベイお願い、ランチタイムにしましょう」と甘えるように言ってくれた。するとベイは初めて皆んなの顔色を見て「わっ〜、皆んなゴメンゴメン、気が付かなくて、直ぐに食事にしよう」と言うような感じだった…その日を境に、ベイが色々な事に夢中になって周りが見えなくなると、必ずメリーが皆んなの気持ちを察してベイに助言をしてくれるように成った。ソファーに座ったメリーは「ねぇベイ、喉が渇いたんだけど、何か飲み物が欲しいんだけど…」「ゴメンねメリー。皆んなも本当にゴメンね。相も変わらず僕は気配りが出来なくて…皆んな、自分のフリーに、メニューって言ってみてくれる」7人は言われれた通りに「フリー、メニューをお願い…」と言ってみた、すると今まで白衣だったフリーがメニューになって目の前に浮かんだのだ(スゲ〜)と皆んなが思っているとベイがニッコリしながら「一応、水から始まって、コーヒー紅茶ジュース類アルコール類、カクテル類なんて言う感じで、200種類の飲み物が用意出来るように成っているんだよ」と言った。するとボブが嬉しそうに「フリー…冷たいビールを、メーカーは君に任せるよ」「かしこまりました」と言い終わった時には、ボブの足元から60センチ四方のテーブルが現れ…その上によく冷えたビール、そして更にボブが大好きなポテトチップスとチーズが…白いお皿に盛られた状態で目の前に…。7人が感動のあまり「おぉっ〜〜スゲ〜」と言う声を出すと、ベイは首を横に振りながら、「こんな感じで…出て来るのは飲み物とおつまみ…後は軽食ぐらいだけだよ、料理はグレイと言う一流のシェフが居るから必要が無いと思ってね、何も用意もしてないんだ…グレイ、皆んなの専属料理長…頼んでもいいかな?」「いいに決まってるじゃないですか。って言うかメチャクチャ嬉しいんですけど」と言ってルーシーの手を握った。…それぞれ8人の前に飲み物&ちょっとした食べ物が上がって来た、ルーシーがグラスを持ち上げると「ねぇ、皆んなで乾杯をしない、私達8人の、新しい生活に…ってどうかしら?」と言った。全員の賛同…笑顔の乾杯…。ビールを一気に飲み干したボブが「ふっ〜美味い。ところでベイ博士…」「何だいボブ」「僕達の家は…あの後どうなったんですか?」「焼け落ちて跡形もないよ…土地も、市の管理下にあって…」「なるほど…だとすると…また皆んなで競馬場に行って、ガッツリ稼いで…家を買うって言う感じですか?」「違うよ…地上は危ないからさ、この船の中に住むんだよ」その言葉に7人の目の色が変わった。ジョニーが少し興奮気味に「えっ〜〜、この船の中に住んでいいの…なんかスっごく嬉しいんだけど」と言うと他のメンバーも、満面の笑みで頷いている。ベイは微笑みながら「気に入ってくれると嬉しいな…フリー…皆んなの部屋の入り口を出して」「了解致しました」と言い終わった時、奥行き35メートルのデッキの後ろの壁がパッと無くなり、縦6メートル、横幅10メートル、奥行き100メートルの廊下が現れた。皆んなは驚きのあまり「マジか〜」…7人のセリフが偶然にも重なった。長い廊下の間には左側に4部屋、右側に4部屋と計8部屋の扉がある。ベイは微笑みながら「扉に…皆んなの名前が刻まれているからね、2人で一部屋だよ、残った4部屋は今のところは空き部屋、予備の部屋っていう事だよ」「見に行ってもいいですか?」とリンダが立ち上がった、「もちろん、ボブとリンダが今夜から生活をする部屋なんだから、どうぞ」と言うと他のメンバーも嬉しそうに立ち上がり廊下の方に走って行った。「ジョニー、私達の部屋が有ったわ」「なんだか広そうだねアンジー、隣りの扉までが遠いい事」と言うと、グレイが「ルーシー、廊下の高さから見ると中は一階と二階に分かれてたりして」「えっ〜グレイそんなに広いの〜」と言うルーシーの声は裏返っていた。リンダは扉の前でボブに抱き着くと「まだ夢を見ているような感じなの、ボブ私の目が覚めるくらいにギュッ〜と抱きしめてみて」と言った、素直なボブはリンダを力強く抱きしめ…「大丈夫かいリンダ…苦しくないかい」と何度も繰り返し尋ねた。メリーはベイに手を引かれ扉の前に立った「メリー、君と僕の2人の部屋だよ…気に入ってくれると良いんだけど」するとメリーは「私はベイと一緒なら何処だっていいのよ…」と言ってベイの首に手を回した。ベイはメリーを抱きしめたままで皆んなに向って「部屋に入るための鍵は、その人自身なんだよ、部屋がその人を認識しているんだ…自分達の部屋には他の人達が黙って入れないようしてあるんだ。もしもボブとリンダの部屋にルーシーが入りたい時には扉の前で「ルーシーだけど、話があるの」って言うと一枚目の扉が開いて、中に居るフリーが「どうぞ、お入り下さい」って言うか、「申し訳ありません、ただいま御取り込み中ですので、メッセージを私にお聞かせください」って言うんだよ、そしたらメッセージを言うか、「また後で来るわ」って言うか、ルーシーがいい方を選べばいいんだよ」と言った。すると隣りからアンジーが「ベイ博士…あの〜、同じ船の中に住む私達がチョット他人行儀過ぎないですか?」と尋ねて来た、ルーシーもリンダも小さく頷いている。ベイの表情は笑顔ではあるが内心は…(困ったなぁ…御取り込み中の意味が…まさかエッチの最中を表しています、なんて…言いづらいなぁ…)と思った、するとベイの思いを察したジョニーが笑いながら「もっ〜、皆んな何言ってるの、僕達は家族だろ…」皆んなが頷いている、「だからこそベイ博士はプライバシーを守る為に…扉に、一工夫してくれたんじゃないか。ルーシー、いきなりボブとリンダの部屋に入って、お兄ちゃん達のSEXを見ちゃったら気まずいでしょ…」と言うセリフに女性陣は「あっ…」と言う声をもらし、大いに納得したのか顔を赤くしながら「ベイ博士…ゴメンなさい」と口々に謝った。ベイは微笑み、(良かった〜ジョニーありがとう)と思いながら「皆んな、自分達の部屋に入ってみてよ、そして今から、そうだなぁ〜1時間後にデッキに集合と言う事にしよう…解らない事はフリーに聞いてね」と言って、ベイはメリーの手を引き部屋の中に消えて行った。ボブはリンダに、ジョニーはアンジーに、グレイはルーシーに「さあ、行くよ、僕から離れちゃいけないよ…なんてね、洞窟の探検じゃあるまいし、驚くことなんて何も無いよね〜」と言いながら、それぞれが部屋の中に入って行った…誰もが驚かない予定だった…。1時間後…デッキに集まって来た6人の顔は、明らかに動揺を隠せない位に…変な感じの表情になっていた。すでに部屋から出て来てデッキのソファーに座っているベイとメリー。…ベイは皆んながソファーに座るのを待ってから声をかけた。「皆んな部屋の中は気に入ってもらえたかな?」誰も何も言わない…ベイは微笑みながら「ボブ…部屋は気に入らなかったのかい?」と尋ねると、ボブは首を大きく横に振りながら「いや、余りにも凄すぎて、嬉しさのあまり、腰が抜けそうで…感動して、泣きそうで…思わず大声を出しちゃって、リンダを抱きしめちゃって…今ちょっと目まいがしていて…身体中の力が抜けちゃって…ベイ博士、俺…いま変な顔をしてるでしょ…」と言った。ベイは首を傾げながら「大丈夫だよ変じゃないよ。…部屋の事なんだけど、皆んな自分達の好みってあるでしょ、だから、皆んなの要望に応えられるようにね、それぞれの物を各10種類ほど買って置いたんだよ、後は2人の好みに合わせてフリーに言って貰えれば、色々なパターンに部屋を模様替えをしてくれるから…楽しんでよ」と言って微笑んだ。するとジョニーが皆んなの顔を見回しながら立ち上がり「ベイ博士…誤解しないで聞いて欲しいんですけど…皆んなの表情がチョット変なのは…この6時間くらいの間に起こった出来事が、余りにも凄すぎて…。だって今日生き返って、マジでスゲ〜って思っていたら…フリーが出てくるわ、30人の人達を生き返らせて感謝されるわ、ソファーは出てくるわ、飲み物は出てくるわ、船は空を飛ぶわ、宇宙に行くわ…もう驚きの連続で…それでも、何とか平静を装っていたんですよ…俺達…。でもさっき部屋の中に入って…フリーに「部屋の中には何もないんだねー」って言ったら「どのような御部屋がお望みですか?」って言ってもらって…アンジーと2人で調子こいて、好き勝手に、夢のような部屋の理想を言ったらさ…ベッド、ソファー、クローゼット、テーブル、絨毯、照明って色々な物が床や壁や天井から次々と現れて来てさ…気が付けば雑誌に載っているようなオシャレな部屋が目の前に…もう嬉しくて…泣くしかないじゃないですか…子供の頃、食べ物を探しに男4人でゴミ箱をあさっている時…ボブが「やった、これは食えるぜ」って言ったらグレイが「うん、チョット火を入れたら食べれるよ」って…そしたらベイ博士が「ゴメンね、待っててね、必ず皆んなに良い生活をさせるからね…」って言ってくれて…調子のいい俺は「ベイについて行くよ、皆んなで絶対に幸せに成ろうね」って言いながら…俺…本当は…心の中で(俺達8人は、ずっとゴミ箱をあさって生きて行くんじゃないだろうか?学校にも行けなくなっているのに…)って思っていたんですよ。でもベイ博士の頭の良さで…競馬場で大儲けして、家を買って、さらに大学までの学力と教養を与えてもらって…就職も出来て、おっ〜幸せな感じに成って来た〜って思っていたら…死んじゃって、自分の遺体を上から見ながら「あぁ、やっぱりなぁ〜、やっと幸せになって来たのに…最後はこんな死に方なんだなぁ、俺達らしいじゃないか…悔しいなぁ…でも皆んなと一緒だからいいや」って思っていたら今日、…ベイ博士が迎えに来てくれて、ビックリする事の連続で…でも…これ以上驚く事なんて…もう無いと思っていたのに…」ジョニーの目から涙が溢れ…とうとう言葉のプロが、言葉を詰まらせてしまった。アンジーはジョニーを抱きしめながら「ベイ博士…素敵な御部屋をありがとうございます、本当に嬉しくて…皆んなベイ博士の事が大好きです……今日からまた…あらためて宜しくお願いします…私達はズッ〜とベイ博士について行きます。言いたい事は…以上です」と言ってアンジーは更に強くジョニーを抱きしめた。ベイはメリーの手をギュッと握り、そして皆んなの顔を見回した後に、スッと立ち上がると…頭を下げ「…今アンジーから、ついて来てくれると言う言葉をもらいました…本当に嬉しいです。…しかし一年前から僕は…かなり自分勝手な悪い事をしています、社会の法律を守らず、自然の摂理にも逆らった悪い事です。今まで皆んなには…社会に貢献できる正しい大人に成って下さい、って言って来たのに…先生である僕が間違った道に…もうすでに歩き出しています…悪人の道ですよ。いいんですか?こんな僕で…僕は以前の正しい僕ではありませんよ、悪い男ですよ」すると間髪入れずに「ベイ博士が悪人に成るなら俺も悪人に成ります、死ぬまで着いて行きますから」と泣きながら叫んだのはボブである、「僕も今まで、牛や豚や魚しか殺した事がないけれど…ベイ博士が望むなら何だって殺ってやる」とグレイも叫けんだ。「私だって銀行や警察を襲えって言われたら何時だってやるわよ」と言ったのはリンダである「私だって拳銃の扱い方くらい知っているわよ」とルーシーが言えば、メリーはベイに向って「ボス、何でも言って下さい」と言った、ベイは「ぶっ…」と噴き出しながら「ありがとう皆んな、一緒に地獄に連れて行く事になるけど…いいの?」7人はギラギラとした目で親指を立てて見せた…嬉しかったのだ、ずっと頼ってきた人から…今また必要とされている事が…だからベイと一緒なら…地獄の底までついて行ってもいいと、心の底から…そう思ったのである。ベイは笑顔で何回も頷きながら、ゆっくりと腰を下ろした、その時ジョニーが静かな口調で「ベイ博士…具体的にどんな事をすればいいのか、聴かせて貰えると嬉しいんですけど…」「あぁ、そうだね…」ベイの答えに、7人の胸はドキドキと高鳴っている…「簡単に言えば………今日30人の人達を生き返らせたでしょ…あんな事です」と言った。7人は顔を見合わせ「んっ…⁇」と声を出した。リンダがボブの耳元で「あれって…悪い事なの⁇」「えっ〜と、どうなんだろ〜、まず生き返らせたでしょ、次に経済的に大変な人達には…お金もあげていたけどね〜」「えっ〜と、たしか23人の人達にあげてたわね、ベイ博士の言う、悪い事の基準が分からないんだけど」と言ってリンダが笑うと「んっ?リンダどうしたの、僕の表現の仕方が可笑しかったかな?」「はい、かなり、だってそうでしょ…私達には悪い事と言うよりも、人助けに見えましたけど」するとベイが「あっ〜〜見た感じがね〜、でもね、実は23名の方達に差し上げたお金は、僕が海底から引き上げた、昔の船や、その中に入っていた財宝なんかを…国に届けずに…勝手に世界中の金持ちに売り飛ばして…それで得たお金なんだよ、いわゆる、汚いお金ってヤツだね」7人は顔を見合わせて(いいんじゃねぇ…)と思った、ベイは更に「其れに、死んでしまった人を生き返らせてしまうなんて、因果の法則から外れた事だと思うんだ…。でもさ、どうしても納得が出来なかったんだ…僕達8人で頑張って生きて来たのに、何で暗殺されなきゃいけないのか?…次の日にね、街を歩いていたら全然知らない人達がさ、俺達の記事を新聞で読みながら、「気の毒に、でもきっと神様が与えられた試練なんだよ」だってさ…、俺さ…神様なんて、いないと思ったね、全然助けてくれないじゃん…ふざけるなよって…だから僕が出した答えは、神様の邪魔をしてやろうって思ったんだ。むかし読んだ、日本の小説で、田澤と言う人が書いた、トップシークレットって言う作品の中にさ[…神様が絶対に正しいなんて思うなよ、あいつは何にもしてくれない、そのくせ後になって、其れは貴方が成長する為の試練です、何て言うんだぜ…後付けの理屈を言ってドヤ顔してんじゃねえよ」って言う一行があってさ。妙にその言葉が心の中に残ってさ、思わず納得しちゃったんだよ。前はね、世界中の難しい本を沢山読んで、自分の人生の糧にするんだ、世の中に貢献できる人材になるんだって思ってたんだ…でも大事な人を殺された時…いつの間にか悪魔に魂を奪われてさ…僕は心が弱いんだね…。…そんな考え方の僕について来てくれるのかい?」7人は満面の笑みでもう一度…親指を立ててくれた。しかし内心は(良かった〜、人殺しや銀行強盗や、世界征服なんかじゃ無くて、ベイ博士の価値観ってチョット変わっているよなぁ〜)と思った。自分の想いを受け止めてもらったベイは満面の笑みでメリーの手を握った、するとメリーはその手を自分の胸に包み込むと「もう皆んなと、ズッ〜〜と一緒だから、安心してね。ねぇベイ…安心したら私…お腹が空いちゃったんだけど…」「わっーゴメン、皆んなもゴメンね、またやっちゃった、何で僕は機転が働かないのかなぁ〜、グレイお願い出来るかい」と言うと、グレイはとびっきりの笑顔で「了解しました。ルーシー、僕らの出番だよ」と言って立ち上がると、自分のフリーに「僕達をキッチンに案内してくれるかい」と言った、するとフリーは「かしこまりましたグレイ様。あの…フリーは私を含めて8体おります、間違いを防ぐ為に、今から私の事をフリー・グーと呼んで下さい。キッチンにご案内します」と言ってグレイの肩からフワリと浮いた。ルーシーの肩にいるフリーもルーシーの耳元で「ルーシー様、私の事はフリー・ルーとお呼び下さい」と言ってニッコリと微笑んだ。ルーシーは大きな目を更に見開き「ルー、って顔が有ったの?」「はい、ベイ博士からそのように作って頂きました」「じゃあ…ルーは、私の姿にもなれる」「はいルーシー様がお望みなら」と言って15センチのルーシーの姿に成った。全員が驚いた…ベイは「ルーシー、何でフリーを自分の姿に変えたの?」「あっ駄目でしたか…」「いや駄目じゃ無いんだけど…何で自分のミニチュアにしたのかなぁって思ってね」するとルーシーは微笑みながら「だって…私とグレイがキスをしている時に、ルーとグーが丸くて、浮いているだけより…ルーとグーもキスをしていた方が幸せかなぁ〜って思って」ベイは思わず「ルーシーは優しいね」と言った後に、自分のフリーに向い「ベー、僕の姿に成って…」「かしこまりましたベイ博士」すると隣りに座っているメリーも「メー、私の姿に成ってくれる」と言ったのでリンダもボブもジョニーもアンジーも、自分のフリーに向って…「私の姿に成って…」と言った。本来なら8人の肩に、球体のフリーが居るはずだった、でも今は、まるで昔話に出て来る…妖精のようである。メリーが自分のフリーに「フリー・メー、私がベイにキスをしたら、貴女もフリー・ベーにキスをするのよ、分かった…」するとメーが「かしこまりましたメリー様」と言った。メリーはワザと大げさに「ベイ愛してるわ」と言ってキスをした…その様子をフリー・メーとベーはジッと見ている…5秒後、メーはベーに抱きつき「愛してるわ、ベー」と言ってキスをした、8人は奇声を発して喜んだ。リンダもアンジーもルーシーもキスをしたのは言うまでもない。さて、グレイとルーシーはフリー・グーの案内で、1つ下の階にエスカレーターで下りてきた「グレイ此処はデッキの下の辺りかしら?」と言うルーシーの問いかけに「うん、僕もそう思ってたんだ…フリー・グー当たっているかい」「その通りです、この船は5階建ての建物だと思って頂ければ良いかと思います」と言った。フリー・ルーが1つの部屋の前でこちらを見ている、ルーシーとグレイが微笑みかけると「扉を開けますね」と言って2人フリー達が扉を押した…すると20メートル四方の何もない白い部屋が現れた、しかし2人は驚かない(きっと床とか天井から何かが出て来るんだろうなぁ)と思ったからである。部屋の中に入ると、フリー・グーとフリー・ルーの身体が急の光り出し(あっ、何かが出る…)と思った次の瞬間…何もなかった部屋は素敵なキッチン…と言うか、一流レストランの厨房と言った感じの部屋に成っていた、わずか2秒間のあいだの出来事である、「グレイ、私…驚かないつもりだったのよ、でも」と言ってルーシーはグレイの手を自分の胸に当てた…「大丈夫かいルーシー、胸がドキドキしているよ」「私達これからも…しばらくの間、きっとベイ博士に驚かされるわね〜」と言って小さく笑った。フリー・グーがグレイに向って「グレイ様、調理の準備が整いました。私に言葉で指示を出して下さい、サポートさせていただきます」と言った。グレイはニッコリと微笑みながら次々と指示を出した…グレイが味付けを終え「フリー・グー、弱火で2分30秒」と言うとフライパンが勝手に赤くなっていく。「大きな皿を出して」と言うと天井から皿がスッーと降りてくる。グレイは思わず「ルーシー、まるで10人くらいの助手が居るようだよ」と言った。するとルーシーは「じゃあ私はデザートを作り始めてもいいかしら」「頼むよ、皆んなはルーシーが内緒でパティシエに成っている事を知らないから…きっと驚くよ」ルーシーは微笑みながら「頑張るわね、フリー・ルー手伝ってね…」。そして40分後、ベイの肩に居るフリー・ベーが「ベイ博士、フリー・グーとルーから料理が出来上がったと言う報告が入りました」「早かったね〜さすがだねぇ…フリー・べー、上にあげてくれる」「かしこまりました」と言うやり取りを聞いていたメリーが「ベイ、皆んなで運ぶのを手伝うわよ」と言った、ボブ達も既に全員が立ち上がり、嬉しそうな顔でベイからの指示を待っている、「ありがとう、でもね、ほら後ろを見て…」5人が振り返ると…デッキとソファーの間の床がポッカリと大きな穴が開いている、5人が(ん〜?)と思いながら見ていると…下からルーシーとグレイがテーブルに美味しそうな料理を沢山並べた状態でゆっくりと上がって来た「みなさん…お待たせ致しました、1年ぶりの僕達のディナーをお楽しみください、それと…もう1つ、僕の大事なルーシーがパティシエとしてデビューしました…」と言うグレイのセリフに6人は「えっ〜〜」と言う絶叫にも近い歓声を上げた。前々からクッキーなどを上手に作るルーシーに対して「パティシエに成ればいいのになぁ、そしたら大好きなケーキが嫌っていうほど食べられるのになぁ〜…」と言う、皆んなの勝手な希望があった…。ベイもケーキは大好きである、しかし店で売っているケーキ類のカロリーが高いので、一週間に2回だけ…そうしないと…皆んなが(太るんじゃないかなぁ〜)と思ったのでワザと制限させていたのである。ルーシーは微笑みながら「ベイ博士、皆んなの体調管理を第一に考えた…スィーツを作りましたので、毎日食べても絶対に太りません、私がちゃんとカロリー計算をして作りましたから大丈夫ですよ」と言ってくれた、ベイは思わず「ありがとうルーシー」と言いながら力一杯拍手をおくった…他のメンバーも拍手に参加したのは…言うまでもない。各々が好きな飲み物をフリーに出してもらい、ディナーの前に2度目の乾杯をする事になった、ベイから指名され乾杯の音頭を取るのはジョニーである「でわ皆さん…グラスをお持ち下さい。才能あるパティシエ、ルーシーの誕生と、天才シェフ・グレイの料理に…感謝を込めて、乾杯」…常に美味しいグレイの料理…一口ごとに生きている喜びと、幸せを感じる。そして、ルーシーが作ってくれたスイーツ…一口食べるごとに笑顔になる、言葉では言い表せない程の美味しさである。皆んなで囲むテーブル、楽しい会話、優しい笑顔、暖かい人の温もり…ベイはそんな皆んなの顔を見ながら(この笑顔を守る為に、二度と油断はしないぞ、あらゆる世界中の情報を集め、常に先手を打って行くんだ…喜びの涙はこぼしても、悲しみの涙は二度と流さないからな…)と自分の心に誓った。食事が終わり、スィーツも食べ終わり、それぞれがカクテルなんかを呑んでいる時に…ボブが「ベイ博士…あの〜…明日から俺達は具体的に何をすればいいんですか?」と言う質問をして来た、ベイは微笑みながら「そうだね…まず、この船の事を知って貰うのと、あと色々なマシンの使い方を勉強してもらおうかな」と言った、するとボブは急に不安げな表情になって「リンダ〜勉強だって、俺…覚えられるかなぁ〜」と呟いた、すると母性本能が強いリンダは「大丈夫よボブ、私がついてるから任せて」と言いながら…ボブの膝を撫ぜている…その様子を見ているグレイもジョニーも決して他人事ではない、ベイは笑いながら「皆んな、大丈夫だから、皆んなの肩にはフリーが居るでしょ…ちゃんとサポートしてくれるからね…それよりもボチボチ、自分達の時間を取ろうか?…どうかな…」全員が笑顔で親指を立てた。すると今まで不安げな顔をしていたボブが急に元気な声で「じゃあ、いつも通りに男性陣が食器を運んで、女性陣に洗ってもらうって言う段取りで、…いいですか、ベイ博士」と言って微笑んでいる、ベイは「ありがとうボブ、でもね〜この船はなかなか優秀でね…グレイ、ルーシー、2人のフリーに食器の片付けを頼んでみてくれるかな」「えっ?はい、了解しました…」と先に応えたのはルーシーである。ルーシーはグレイの手を握りながら、「フリー・ルー、フリー・グー…食器を洗って、片付けて貰えるかしら…」と言った、すると2人のフリー達は声を揃えて「かしこまりましたルーシー様」と言ってテーブルの上、2メートルの高さに静止した。ベイ以外のメンバーは少しドキドキしながら2人の様子を見守った。まずフリー・ルーが右手を上げた、するとテーブルの上の食器が全て浮き上がった。次にフリー・グーが右手の上げると2メートル四方の泡のかたまりが床から上がって来た…食器類は泡の中に入って行く…フリー・ルーが左手を上げた、すると床から2メートル四方の透明な水槽が…中には熱湯が入っている…食器達は泡の中から熱湯に中に飛び込んで行く…フリー・グーが左手を上げた、天井から暖かい風のかたまりが降りてきた、食器達は順番に風の中に入って行く…まるで食器が踊っているかのように見える。ジョニーがボソッと呟いた「ベイ博士は…ワザと食器を宙に浮かせて洗ってくれているんだね〜…」ボブもグレイも頷いている、するとリンダが「…昔、物拾いをして帰る途中だったかしら…電気屋さんの前を通りかかっていたら…何の映画か覚えてないけど…魔法にかかった食器達が歌ったり踊ったりしていて…何にも解ってない私達は「ベイ、あたし達も…あんな魔法の家に住みたい、ね〜住みたい」って…ベイ博士は、あの時の事を覚えて居てくれたんだ…」と言って、リンダは泣き出してしまった。メリーもアンジーもルーシーも泣き出した…ベイは(あれ?皆んなが喜んでくれると思って造ったのに…泣かしちゃったよ〜、俺って気のきかない男だなぁ)と思いながら反省していると、メリーが急に抱きついて来て「ベイありがとう、本当に嬉しい」と言って何回もキスをして来た、(おっ、何だ…喜んでくれているのか〜)と思っているとジョニーが「ベイ博士、素敵な魔法の船…ありがとうございます…もう皆んな、感動と、感激と、感謝の連続で、もう失禁してしまいそうで…」と言っている内に、食器達の洗浄パフォーマンスは全て終った。ベイは微笑みながら、皆んなの顔を見回し「ジョニー、ありがとう、皆んなの言葉として受け取らせてもらうよ…。さてと、明日から忙しくなるからね…覚悟しておいてね。じゃあ…今から10時間後にデッキに集合っていう事でイイかな?」全員泣いているので、黙って親指を立ててくれた、ベイは更に「基本的にグレイとルーシーに料理の腕をふるってもらうのは、夜だけだからね、朝食と昼食はフリーに頼んで、ピザとかサンドイッチとかパスタとか。そう言った軽食を用意してもらうからね。でないと2人に負担が掛かりすぎるからね。さあ…食器達も自分の家に帰って行ったから、僕達も自分の部屋に帰ろう、明日の朝8時に、この場所で…じゃあ、おやすみ、良い夢を見てね…」と言った後、ベイはいきなりメリーを抱き上げて「メリー…2人でお風呂に入って、ベットに入って、イッパイ甘えてもイイかな」と言った、メリーは真っ赤な顔をして「いいわよ、私の身体は全部ベイのモノだもの」と言ってベイの首に手を回した。2人の姿が部屋の中に消えて行った…ボブは微笑みながら「8人揃ったね…本当に良かったね」と言ってリンダを抱き上げた。「8人揃えば怖いもの無しだよね」と言ってジョニーはアンジーを抱き上げた。「8人の、第二の人生のスタートだね…」と言ってグレイはルーシーを抱き上げた…そして、それぞれが心の中で(いっぱい愛し合うもんね〜)と思いながら、自分達の部屋の中に…入って行った。。

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