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一期一会

作者: パテうめ

「うわーお」

 目の前に広がる状況に絶句してしまった。

 あれれー、おかしいぞー、僕は『つよいぞ! こわいぞ!(こわくないよ) ドラゴン展!』に来ていたはずだ。

 なのに、何故目の前に美女が居るのでせう?

 背けていた目を前に向け、正座している僕の目の前に居る女性を改めて確認する。

 少々……中々、いや、随分と、特徴的な女性だ。

 まず一番に目につくのは、おしり――いや、きっと腰からだ、そうに違いない――から伸びた太い尻尾。

 なんだかツルツルしていそうな、それでいてひんやりとしていそうな、THE・爬虫類って感じの尻尾だ。ポコポコと尻尾の途中で大きさが変わるようなものではなく、なめらかで、しっとりしていそうな尻尾だ。余計な棘のようなものも付いていない。

 まるで蛇のような尻尾と言えば伝わるだろうか。

 触って感触を確かめてみたい欲が出てくるが、それが出来る相手なのかはまだ分からない。

 視線を徐々に下から上へと持っていく。

 ……折り畳まれた膝が見える。なんでこのヒト? 正座してるの?

 まぁ良い。

 随分短いスカートだと思いながら――とても肌理細やかで白く美しい太ももですねとか断じて思っていないぞ。本当だぞ――さらに視線を上へと向ける。

 正面から見ても分かるくびれた腰。そしてその上に乗ったとても大きい御胸様。……随分体型がハッキリと分かる服を着ていらっしゃるんですね。

 思わず凝視してしまいそうな暴力的な見た目をしているが、気合いでさらに上へと視線を向ける。

 首、そして艶々ぷっくりとした唇……から僅かに零れる細く二股に分かれた舌。……チロチロしてますね。

 僕は観察を続ける。温度を感じさせない頬にはほんの少し鱗のような痕がある。

 瞳はまるで透明な膜があるかのよう。その透明な膜の向こう側には金色の瞳。その中心には縦に線を描いたような黒く細長い瞳孔。

 そのまま視線を上に向ける。髪の毛は茶色で、少しボサボサとしている。長さは肩甲骨付近だろうか。

 …………うむ、分からん。

 なぜ僕の目の前に爬虫類っ娘が正座して僕の事を凝視しているのか。何故僕もつられて正座しているのか。

 説明を要求したいところだ。

「……どらごんというのは」

 目の前の美女が喋った。その言葉は長い舌が邪魔なのだろうか、随分と舌っ足らずで拙い。

 まるで言葉を覚えたての童女のような声の出し方だった。僕の保護欲が幾分か高まった。

「ドラゴンと言うのは?」

 どうやら彼女はこの状況を説明してくれるようだ。

「みそめたあいて……と、おなじように、へんげすりゅ」

 僕の保護欲が再び高まった。

「見染めた相手……というのは」

 つまりなんだ、あれか。僕に惚れたというやつか? いやぁ、参っちゃうなぁ、困っちゃうなぁ。モテる男は辛いなぁ。いまだかつてモテたことなんてないけど。

「つまり……その」

 口の中がカラカラだ。

 たとえ種族が違えど、美女が僕を見て、見染めたというのだ。それがどういうことか、わからいでか。

「わたひを、飼ってくだひゃい」

 そこまで言うと、彼女は白い煙を立てながら急激に姿が縮み……

 大体僕が抱えられる程度の大きさの、トカゲのような爬虫類へと姿を変えた。

 ……変えた? いや、元に戻ったと言った方が適切だろうか。

 そして彼女は甘えるように僕の膝に頭を乗せてきて……

「店長! この子! この子頂戴! 見てこれ! 超! 可愛いの!!!!!」

 僕の保護欲は天井を突破した。

「おぉ、一目で落ちたか。分かる分かる。そうやって甘えてくれると凄く可愛いよね」

「うん! そう! ぉぁ、目! 目細めて、気持ちよさそうにしてる! な、撫でていいの!? これ」

「あー、自分が見染めた相手にハンドリングされても別に怒らないよ。優しく撫でてやりな」

「おおう……おおう……凄い……つやつや……綺麗な肌……」

「気難しい子だったけど、良い相手が見つかったみたいだな」

「もう! 直ぐにでも! お持ち帰りしたい!」

「まぁ待て待て。この子を飼える設備は整っているのか? ここで買っていくなら直ぐにでも売ってやるぞ」

「言い値で買います。この美人さんは僕のだ!」

「毎度。その子の大きさだと、あれとこれと、それからご飯は……コオロギじゃ足りないな。ラットか。いや、この子は生物よりも固形物の方が好きだったな。となると……」

「店長! 一人で納得してないで僕にも教えて! 僕が飼うんだから、この子のこと知っとかないと!!」

「情熱が凄い。……とりあえず値段はその子を含め、こんなもんかなぁ」

「買った! いやちょっとまって、持ち合わせが微妙に足りない。店長! これから引き落とせる!?」

「おう、商用カードか。大丈夫だ」

「ありがとう! あぁ、念写機が欲しい!」

「承るぜ」

「畜生この商売上手め! もってけ泥棒!」

「毎度。愛してくれそうな奴で良かったなぁ」

 僕の太ももに頭と手を乗せたドラゴンは、『クルル』と愛らしく喉を鳴らした。

 ……ドラゴンは魂を見る。

 あまり知られていないことではあるが、魂に惹かれたドラゴンは、相手の種族を真似した姿をとる。魅力的な姿――未熟なドラゴンでは完璧な変化は無理なのだが――で現れ、己の要求を相手に通しやすくするために。

 そして懇願するのだ。一種の色仕掛けとも言おうか。

 ……だが、まぁ。

 時には相手の理想の姿を真似た時より、本来の姿を見せた方が要求が通りやすい時もあるのだ。

 ……『つよいぞ! こわいぞ!(こわくないよ) ドラゴン展!』とは、平たく言えば、ドラゴンを多く扱う爬虫類ショップ。

 一期一会の出会いによる衝撃的な衝動は、財布の紐を際限なく緩ませる。

 そしてここにまた一組の飼い主とペットドラゴンが生まれたのだった。

 ちなみにドラゴンの多くは見染めた相手よりも長生きする、一生寄り添うペットである。何かの拍子にドラゴンが先に亡くなった場合、飼い主は酷いペットロスに陥ることだろう。

 あまたの世界でのドラゴンがどういったものかは知らない。

 だが、ここのドラゴンは、酷く愛情深い。

 





女の子と一緒に過ごす話かと思った?残念!

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