第7話 Lv.1の絵師
よろしくお願いします。
「じゃあひとまずここで待っておいてね」
僕は宿屋の一室でシアンの頭を撫でながら留守番を頼む。
さすがにこんなに小さい子と一緒に冒険者ギルドなどに行ったら変な勘違いをされてしまうかもしれない。
因みに宿屋はすれ違う何人かに聞いてオススメしてもらった宿屋だ。
そして宿屋のカウンターで硬貨の価値についても教えてもらうことが出来た。
どうやらウルブスさんは僕に結構な金額を持たせてくれていたようで、これだけでも節約して生活していけば二週間以上はやっていけそうな金額だった。
シアンに留守番を頼み、宿を後にした僕は早速ウルブスさんに言われていた通り冒険者ギルドへ向かう。
少し歩いて、その建物の前までやって来たが、これはまたかなり大きい。
恐らく行政的な何かの機関なのだろう。
初めての冒険者ギルドに僕は若干の緊張を抱きながら、その門をくぐる。
「……うわぁ」
ギルドの中は外から見た時よりも広く、そして賑わっていた。
テーブルにはたくさんの冒険者が何かについて話していたり、ちょっとした賭け事のようなものをしている冒険者もいる。
そして何より、皆がとても強そうだ。
筋肉が隆起し、身体も大きい。
とてもじゃないが、あんな人たちに敵うとは思わない。
恐らくこの人たちなら、僕が追い詰められたあの狼でさえも、簡単に倒したり出来るんじゃないだろうか。
出来るだけ目立たないようにするのが吉だ。
「えっと、確か冒険者登録をしなきゃいけないんだよね……?」
となるとやっぱりまずは受付の人に聞いてみるのが良いだろう。
ちょうど受付のカウンターも空いているので僕は出来るだけ目立たないようにそこへ歩いて行った。
「すみません、こんにちは」
「はい、こんにちは」
受付を担当しているのは、くりっとした目が特徴的な可愛らしい感じの女の子だった。
恐らく僕と同じか少し下くらい。
俗にいう美少女というやつだろうか。
少なくとも日本にいた頃は学校にはいなかったレベルだ。
「えっと、冒険者登録って出来ますか……?」
「はい、大丈夫ですよ」
ここで、無理ですなんて言われた日にはどうしようかと思ったけれど、どうやら順調に冒険者登録できるかもしれない。
「ここにサインしていただいて、掌を載せてください」
「は、はい」
まるで奴隷契約をした時と同じだ。
もしかして何かこういった手続きの時は全部こんな感じなのだろうか。
それだと簡単で助かる。
手を載せると、その書類はやはり光だし、それもすぐに収まる。
「これは、プレート……?」
手をのけたところにあったのは銅色のプレートだった。
「はい、これが冒険者であることを証明するためのプレートです。失くしてしまった際は再発行料をいただきますのでご注意ください」
「は、はい」
「それとプレートの色には冒険者ランクが関係しています」
「冒険者ランク、ですか……?」
これは冒険者としてやっていくなら知っていなくてはならない感じかもしれない。
僕は詳しい内容を尋ねる。
「冒険者ランクというのは、受けられるクエストの難易度のようなものです。Gから始まってAが最高です。そしてプレートの色は銅、銀、金の順で、FランクとEランク、DランクとCランク、BランクとAランクという風になっております」
「なるほど……」
「そしてプレートの色が変わるたびに昇級試験というのもあります」
「昇級試験、ですか?」
「はい、プレートの色が変わるたびに受けられる依頼の難易度もグンと上がるので、本当に適性があるか試験しているんです」
「そ、そうなんですか」
つまり試験に合格しなければ何時までたっても同じ色のプレートというわけらしい。
もしかしなくても冒険者ランクやプレートの色が上がっていくたびに、報酬も多くなってくるわけだから頑張らなくてはならない。
「ただ唯一例外としてSランクというものがあります」
「Sランク……?」
「はい、これはギルドからSランクに値すると見なされた者にのみ送られるランクで、重要な案件などを担ってもらっています」
「へ、へぇ」
Sランク、恐らく僕にはあまり関係ない話だろう。
それよりも今の説明からすると、つまり僕は今Fランクという訳か。
もう少し上げないと生計を立てるには厳しいかもしれない。
「あ、それともう一つ」
「なんですか?」
「プレートの裏を見てください」
「裏……?」
僕は受付の言う通りに、プレートを裏返す。
◇◆◇
名前:アタリ
絵師:Lv.1/10
◇◆◇
そこには何のことか分からないがこう書いてある。
絵師というのが10レベル中1レベルというのだけは分かるのだけど……。
「これってどういうことなんですか?」
僕は意味が分からず、そのプレートをカウンターに差し出す。
「え」
しかし何故か驚いたような声をあげる受付の女の子。
一体どうしたのだろうか。
「こ、これはあなた、アタリさんのスキルが書かれているんですよ」
「スキル、ですか?」
「どうやらアタリさんのスキルは『絵師』ということになりますね。わ、私も初めてのスキルなので詳しくは分かりませんが……」
「は、はぁ」
「あ、あとお節介かもしれませんが、自分のプレートの裏側はあまり人に見せるものではないんですよ……?」
「そ、そうなんですか……!?」
まさかの忠告に僕は慌てる。
だがもう時すでに遅しなので、今回は諦めるしかない。
「一応本人の意思でスキル欄だけは念じれば非表示になるので、普段からそうするのをお勧めします」
「あ、ありがとうございました」
言われた通り頭の中で非表示になるように念じる。
するとプレートに書かれてあったスキルが次第に薄くなり、見えなくなっていく。
これからはこうやってちゃんと気を付けなくてはならない。
それにどうやら僕のスキルは珍しいっぽいので、あまり知られないようにもしなくては……。
そう決心しつつ、僕は頭の中で自分の『絵師』というスキルについて考えていた。