第6話 シアンとの邂逅
よろしくお願いしますm(__)m
聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。
という作品も書いてます。
「これは、大きいですね……」
僕の目の前にそびえ立つのは、巨大な外壁。
優に二、三十メートルはありそうだ。
「ここあたりはモンスターが多いですからね。昔の人たちの努力の結晶です」
本当にそうだと思う。
これだけ大きな外壁となれば、一体どれだけの人数で、どれくらいの年月をかけて築き上げたのか想像も出来ない。
「じゃあアタリさんは私のお店についてきてください」
「はい、お願いします」
僕はウルブスさんの後ろをついていく。
ウルブスさんのお店はかなり大きかった。
普通の家何個分か分からないほどの敷地面積で、さぞ儲かっているのだろうと簡単に想像できる。
「奴隷市場で売られる奴隷たちはこちらです」
そう言うウルブスさんの視線の先にはたくさんの奴隷と思わしき人たちがいる。
「因みに売値としてはこちらから高い順となっていますので、お好きなものをお選びください。
僕はウルブスさんの言葉にやはり引っかかる。
奴隷とは言え人間を「もの」と扱うなんて、僕には出来ない。
ウルブスさんは特に悪気があったわけでもなく、そもそもそれがこの世界での常識なのかもしれないが、そこだけは曲げるつもりはない。
ただウルブスさんの厚意を無視するのも良くないと思い、僕はウルブスさんの示す方から奴隷の子たちを見ていく。
やはりというべきか、女の子が多い。
男の子もいるが、屈強そうでとても僕なんかが主にはなれそうにない。
女の子も綺麗な女の子ばっかりで、僕と同じくらいの年かそれ以上がほとんどだ。
ただどうしてかあまりピンとくる女の子がいない。
僕はたくさんいる奴隷の子を見ていくが、やはりよく分からない。
この際ウルブスさんに全部任せてみたほうが良いかもしれない――。
「ん?」
その時、ふと一人の女の子が目に留まった。
留まった理由は僕の好みのタイプだったとかそういうんじゃなく、その女の子がとても幼かったからだ。
どうしてこんなところにこんな小さい子がと思うが、きっと何かあったのだろう。
ただ僕は、何故かその時既に、この子を引き取ろうと決めていた。
「ウルブスさん、この子でお願いします」
「あー、その子ですか……?」
だがウルブスさんはどういうわけかあまり良い顔は浮かべない。
何か不味いことでもあるのだろうか。
「実はこの奴隷、全く話さないんですよ。それどころか声すら上げたこと無くて私も一度もこの子の声を聴いたことがありません」
「全く……?」
僕はウルブスさんの言葉に思わず聞き返す。
それは確かに結構難ありの女の子かもしれない。
もっと日常生活を生きていく上でいろんなアドバイスをくれる奴隷の方がいいかもしれない。
ただこれから一緒に生活していくのだから、僕は自分の直感を信じたい。
それに同い年以上の女の子と寝食を共にするなんて、とてもじゃないが無理だ。
「うん、やっぱりこの子でお願いします」
僕の言葉にウルブスさんが分かりました、と頷く。
それから近くの店員を呼んで何かを伝えていると思ったら、僕は別の部屋に案内される。
「今回は窮地を救っていただいたので、お代は結構です。ただ主としての登録だけしていただきます」
そう言って差し出される一枚の書類。
僕はウルブスさんの教えてくれる通りに、その書類の真ん中に掌を押し当てる。
するといきなりその紙が光りだす。
かと思えばすぐにその光は収まってしまう。
きっと前の世界とは違った技術なのだろう。
僕は特に変わった様子の無い掌を見てそう納得する。
「もうすぐ奴隷も連れてこられると思いますので」
ウルブスさんの言う通り、部屋のドアが開かれ、さっきの小さな女の子が連れてこられる。
「これからお前のご主人様となられるお方だ、挨拶しなさい」
「…………」
しかし女の子は無反応のまま、ウルブスさんの言葉には全く耳を貸さない。
「まぁ挨拶は別に大丈夫ですから」
僕は意地でも挨拶させようと頑張るウルブスさんを宥める。
「で、ではこれで奴隷契約は終わりです。あと、この子の名前はシアンと言いますので」
「はい、ありがとうございます」
シアン、確か色の名前でそんな感じのがあったような気がする。
「あとこれは奴隷の初期費用で掛かる分と、助けていたいただいた時のささやかなお礼です」
「え、これって……」
袋に詰められて渡されたのは、硬貨だった。
この世界の通過なのかもしれない。
「何から何までありがとうございます、因みにこの街で生計を立てるにはどうしたらいいんですか?」
この女の子には聞けそうにないので、この際聞いておく。
「それでしたら冒険者になるのが手っ取り早いかと思います。もちろん危険もありますが街の人間の仕事の手伝いなんてものもありますし」
「冒険者になるにはどうしたら?」
「あそこに大きい建物がありますよね?」
そう言って僕の後ろの方を指さすウルブスさん。
振り返ってみてみると確かに大きな建物がある。
「あれが冒険者ギルドです。そこで登録をすれば冒険者になれますよ」
「そうなんでんすか、本当色々ありがとうございました」
「いえいえ、何か物入りの時はぜひウチの店をよろしくお願いします」
「はい、またその時はお願いします」
こういうところはさすが商人というべきか、思わず笑ってしまいそうになる。
僕は新しくこれから一緒に生活していく女の子、シアンの手を引きながら、ウルブスさんの店を後にした。