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第4話 能力の勉強

よろしくお願いします。

「ん、んぅ……?」


 僕は重たい目蓋を何とか開きながら、陽の光を確認する。


 周りに少しだけ見える緑の木の葉だけで、ここが異世界だということを思い出させる。


 そういえばそうだった。


 この世界に繋がるようにして穴を「描」いたのは僕だった。


 僕は隣で気持ちよさそうに寝息を立てるポチの鼻先をつつきながら腰を起こす。


 ポチは夜の間見張っておいてくれたのか、少しだけ眠たそうに欠伸をする。


 僕もちゃんと目を覚ますために伸びをして、意識を覚醒させる。


「よし、今日は何しようかな」


 僕は今日の予定を考える。


 異世界での二日目、何をしよう。


 生憎と空は晴れ渡り、雲一つない。


 こんな時に雨でも降ってきたら辛かったが、今日は素直に助かった。


 昨日のうちに摘み取っておいた林檎を一つ頬張り、ポチの口にも二個ほど林檎を放りこんであげる。


「やっぱり、今まで出来なかったことがやりたいかな」


 僕はポチの頭を撫でる。


 これまでの僕はこの能力を自由に使うことが出来なかった。


 それは日本という世界では僕の力が異常だったから。


 でも、この世界は違う。


 この世界にはポチみたいなのが、恐らく普通にいる。


 そんな世界なら、この力もこれまでみたいに制限されたりすることなく使うことが出来るはずだ。


「とりあえずは、もうちょっとは自分の能力のこと知らないといけないよね」


 この世界で生きていくには恐らく必須と思ってもいい。


 そして自分の能力のことをどれだけ詳しく正確に把握できるかが、異世界で生きていくための鍵であることは分かり切っている。


 とりあえず、異世界二日目の最初の予定はそれに決まった。




「まず、この世界でもちゃんと能力が使えるのかを試そうかな」


 昨日は確かにちゃんと使うことが出来たが、今日はどうだろう。


 使えなくなったりしていない、よね?


 僕は恐る恐る棒切れで鳥を描く。


 するとすぐにその鳥が具現化して、宙を飛び始める。


 ぱたぱたと僕の目の前で翼をはためかせる鳥。


 僕が描いたのが分かっているからか、とても愛らしく見える。


「よし、ありがと」


 僕は手をぱちんと叩き、鳥に消えるように念じる。


 本当は念じれば消えるのだけれど、手を叩くのはオンとオフのスイッチを切り替えやすくするためだ。


 それまで目の前で飛んでいた鳥は、何時も通り霧散し、消えてしまう。


 少しだけ寂しいような気もするが、ただこれでこの世界でもちゃんと僕の能力が使えることが分かった。


「次は……やっぱり強さとか、かな?」


 それは昨日の窮地を通して感じたことだ。


 僕の絵にはどうやら描く絵が同じでも、強さというか生命力のようなものが違うらしい。


「……」


 僕は昨日の狼と同じ絵を、サイズを小さくしてから二つ描く。


 一つは雑に、一つはイメージを忘れずに丁寧に。


「……よし」


 出来上がった瞬間、二つのミニチュアサイズの狼が生まれる。


 どちらも可愛いが、なんというか存在感の差があるように感じる。


 もちろん僕が丁寧に描いた方の方が、ひと際存在感が強い。


「ごめん、戦って」


 自分で描いた絵同士を戦わせるなんて本当はさせたくないが、それでもこれから異世界で生活するためだ。


 今回は許してほしい。


「…………」


 結果は言うまでもなく、丁寧に描いた方の絵が勝った。


 雑に描いた方の絵は噛まれてしまい、もう消えてしまっている。


 ……可哀そうなことをしてしまった。


 これからは出来るだけそんなことしなくていいように、と思いながら、僕はもう一度手を叩いた。





「大体、分かってきたかな……?」


 僕は少しだけ座りながらため息を吐く。


 それにしても結構疲れてきた。


 これは、前の世界と変わらないんだな。


 というのも僕の絵で生き物を生み出すと、それが消えてなくなるまで、何故か僕の体力が減っていくようなのだ。


 昨日からポチをずっと守ってもらうためにいてもらったが、それなりに体力が減ってきている。


 これは出来るだけ早くどこか安全なところに行かないと、体力の限界が来てしまうかもしれない。


 安全な場所……といったらやっぱり人が多い場所だろうか。


 村、街、都、どこかこの近くに何かあるだろうか。


 しかし僕はこの世界にやって来てから、まだ誰とも会っていない。


 そもそも動くものに遭遇したのも、あの狼一匹だけ。


 そりゃあこんな森の中にいたらそれも仕方ないのかもしれないが、出来るだけ早くに安全なところへ行きたいものだ。


「……おっと」


 その時、立ちくらみでよろめいてしまう。


 正直足下もあまり覚束なくなってきた。


 これは本当に早々に安全なところを見つけなくてはならないかもしれない。


 この疲労は寝ていても治らないことは前の世界にいたころから分かっているので、眠っても意味がない。


 体調の悪そうな僕を心配してポチがすり寄ってくる。


 腰と腕の間に鼻先を押し込んでくるポチの優しさに思わず微笑みが浮かぶ。


「……ふぅ」


 ただそれでも僕の疲れが癒えるわけではない。


 どうにかして人里を見つけないと……。



『――――――っ』



 その時だった。


 僕の耳に人の叫ぶような声が聞こえてきたのは。


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