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お風呂って、ありますか?

 バートさんに案内されて、今夜泊まらせてもらう部屋に到着しました。

 にしても、けっこう歩いたな。あのままあそこで一晩泊まってもいいと思ったのに、皇帝陛下の客人だからの一点張りで結局宿泊用の部屋に泊まることになってしまった。

 ドアを開けて中に入ってみると、三歩ほど進んだところにもう一つドアがあった。

 そのドアも開けて、部屋を見て……すぐにドアを閉めた。目の前にあったものが信じられなかったから。


「あの、部屋間違ってませんかっ!?」


 廊下で待機していたバートさんに身分不相応すぎる部屋について話します。

 まず真っ先に目に飛び込んできたのは、だだっ広いリビング、その先には窓があって、遠目で見てもわかるくらい広いバルコニーがあった。

 そして上には豪華絢爛なシャンデリア、とにかくキラキラしてました。

 ええ、こんな部屋に一人でお泊まりなんてできませんて。私は庶民ですよ、ホテルに泊まるときだっていつも普通の部屋です。スイートルームなんて夢のまた夢です。


「いいえ。こちらで合っています。陛下には最も上等な客室を用意するよう言われましたので」


「広すぎますよ!」


 現実に頭がついていきません。写真とかで見たことがあるスイートルームくらいを想像していました。どんなお部屋か、少し楽しみではあったんですよ、でもここまでいくと怖いよ。高級品が置いてありそう。壺とか、迂闊に触れない。


「しかし、ここが一番くつろげるはずだと陛下はおっしゃっていました」


 確かに広くてのびのびできるでしょうけど、庶民にはそれはきついんです。金持ちめっ!


「お呼びでしょうか」


 いつの間にか知らない女性がバートさんの横に現れていました。

 微笑みを浮かべた優しそうな女性。四十路くらいかな、白髪が混じった茶髪をお下げにして、丸い眼鏡をかけています。


「ああ、ミリナ、来たか。彼女が……」


「事情は陛下よりうかがっております。ミヤノナナミ様ですね。あなた様の身の回りのお世話をさせていただく、ミリナ・メアードでございます。何かご要望がございましたら何なりとお申し付けください」


 そう言い終えると、ミリナさんは丁寧に頭を下げました。私も思わず頭を下げます。

 そして、 混乱している頭でなんとか今の状況を整理しました。

 どうやら、私は身分不相応すぎる部屋を与えられて、しかもお手伝いをしてくれる方まで付けられたようです。


「えっと、あの……」


「ではミリナ、後は頼んだ」


 そう言ってバートさんはどこかへ行ってしまいました。

 待ってください!いきなり初対面のメイドさんと二人きりにさせられても私、何をすればいいのかさっぱりなんですが!

 私はたぶん今、おろおろしてるのが丸分かりですよね。ミリナさんはまだ私をにこにこと見つめてきます。


「一度お部屋に戻りましょう。お教えしなければならないことがいくつかございます」


 お部屋、あの豪華絢爛、庶民に優しくないお部屋に、ですか……


「あの、もっと狭い部屋に変更できませんか?私には広すぎて」


「ご安心ください。多少他よりも広いお部屋ではありますが、構造は単純でございます」


 いや、そういう意味じゃないよ。部屋の構造が理解できないとか、そういうのじゃなくて……

 ミリナさんは狼狽えている私を半ば強引に中に連れ込みました。強引に、といっても引っ張られてとかじゃなくて、ドアを開けてくれて、さあどうぞ、みたいな目で私を見ていたんです。私、押しに弱いんですよ……


「こちらが居間でございます。ソファーや机はご自由にお使いください」


 そして次に、このでっかい居間にあるいくつかのドアについての説明をされます。


「あちらが寝室でございます。衣装室へのドアも中にございますので、お着替えはそこでなさってくださいませ。奥に見えるドアも、同じ衣装室に繋がっております。続いてあちらのドアは……」


 ミリナさんの丁寧な説明を半分死んだように聞いた私は近くにあった、椅子に座り込みました。クッションがふかふかで、いつまでも座っていられそう。高級品だと直感します。

 ……こういうとき、どうすればいいんだろう。とりあえず落ち着きたい。でも、落ち着ける状況じゃない。

 私はそこで、はっとあることを思い付きました。


「あの、ミリナさん」


「はい。何かございましたか?」


 ミリナさんは笑顔を全く崩すことなく、丁寧に応じてくれます。


「お風呂って、ありますか?」

サブタイトルは主人公の台詞や心の声から取っています。

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