ここ、異世界?
私ははっと目を覚ましました。
まさか大好きなお風呂で溺れる夢を見るなんて、と少し沈んでいたら、寝ていたベッドの布団が、私の知ってる物じゃなかった。
ここ、どこ?
確かめようと顔をあげたら、私が寝ていたベッドの周りをぐるっと取り囲んでいる男の人達の一人とがっつり目が合いました。
誰っ!?そして本当にここはどこなんだっ!?どういう状況なの?これ……
兵士っぽい人が五人と、偉そうなおじさんが一人と、同じく偉そうな若い男が一人が、寝転がってる私をじっと見下ろしていた。
私はこの若い男の顔を見て絶句したよ。今まで見たことがないくらいの、イケメンがそこにいたから。
「貴様、何者だ?なぜあのようなところにいたのだっ!?」
ぽけーっとしながらそのイケメンを見ていると、偉そうなおじさんがとても怖い口調で問い詰めてきました。物凄く怖い。っていうか、その質問は私がしたいよっ!
「答えぬなら拷問にかける。それでもよいのかっ!」
よくないっ!でもね、答えられないもんは答えられないんですよ!
「バート、そうきつく訊ねるな。怯えて答えてくれなかったらどうする」
優しげな口調でそう言ったのは、偉そうな若いイケメン。ありがとうございます。あなたが唯一の救い主ですっ!
「むう……しかしですな、この女が所持していたものに問題が……」
「問題だと?そんなもの聞いていないぞ。武器ひとつ持っていなかったのではなかったか?」
当たり前です!寝る前ですもん。武器なんて持ってるはずがないでしょう!
「そうです!私は怪しい人間ではありません!」
これだけは自信を持って断言できる!私からすれば、あなた方の方が怪しい人間です。
「ではこれはなんだ!?このようないかがわしい書物など持ち込みおって!まさか貴様、こちらにいらっしゃる皇帝陛下をかどわそうと浴室に侵入したのではあるまいなっ!?」
そう言っておじさ……バートさんが取り出したのは、寝る前に読もうと思っていたファッション雑誌。お風呂に落っこちる時に手放していたらしく、表紙が濡れただけっぽい。そしてバートさんが見ろと言いながら開いているページは、人気グラビアアイドルの、今年流行りそうな水着の特集記事。
えっ?それくらいでいかがわしいの?って思ったけど、まあ露出多いし、見る人によってはいかがわしいいのかも……
ん?っていうか今何て言った?こーていへーかって言ったよね?皇帝陛下?バートさんが指したのは、さっき私に救いの手を差し伸べてくれたあの若い男。まさか……
「えーっと、この人は皇帝なんですか?」
「貴様!皇帝陛下をこの人呼ばわりするとはっ!無礼な、女といえど許せぬっ!」
バートさんが怒ると、兵士の一人がカチッという音を立てる。腰に付けてる物……剣に手をかけていた。身体が震えたよ、質問に答えられず、逆に質問を返したからって、剣を抜かれるなんて普通ありませんから。
「止めろ。そうやって脅していては彼女が何か話したくても話せぬだろう」
「しかし……」
「私がいいと言ったのだ。お前も、その手を剣から離せ」
皇帝陛下だというイケメンの人、さっきから色々とありがとうございます。兵士も剣から手を離しました。
「部下達が失礼なことをしたようで申し訳ない。貴女の名前と、どこから来たのかを教えてくれないか?」
ああ、普通の、話が通じそうな人だっ!この普通じゃない状況で、普通の人に会えて良かった!顔は普通じゃないレベルのイケメンで、しかも皇帝陛下らしいけどっ!
「えーっと宮野菜々美です。どこから来たかは……えーっと……その……」
「どこから来たのかと聞いておるのだ!早く陛下の質問に答えよっ!」
バートさんが物凄い剣幕で質問してきました。いや、あの、私はそもそもここがどこだかわかっていないのですが。
「あの、日本って国をご存知ですか?」
私は恐る恐る訊ねてみました。だって、ここにいる人の顔、全員が日本人っぽくないんだもん!どこからどう見ても外国の方です。じゃあ何で言葉が通じているんだろう。全くわからん。
「ニッポン?聞いたことがない。貴女はそこから来たのか?」
「はい……」
日本を知らない、この国でそもそもの知名度が低いのか、それとも……
「じゃあアメリカは?イギリスは?中国は?ご存知ありませんか?」
とりあえず思い付く限りの国名を並べてみる。これで知らないって言われたら……
「ふむ、国については詳しいと思っていたが、聞いたことのない国ばかりだ。バート、お前はどこから心当たりは?」
「陛下がご存知でない国をどうして私が知っていましょうか。この女、我らを騙そうとしておるのか?」
「そんなことはありませんっ!」
私は目で必死に訴えました。このバートさんじゃなくて、皇帝陛下に。
うーっ、これは悪い夢なんじゃないか、お風呂で溺れた夢の続きなんじゃ……
そう思って、私は夢か現実かを確かめるのによくやるあの動作、自分の頬を引っ張るあれ、をすることにしました。
「貴様、まさか自害する気かっ!?」
バートさんになにやら大きな勘違いをされました。
兵士の皆さんが一斉に飛びかかってきて、おもいっきり手やら足やらを押さえられます!
頬を引っ張ったら普通に痛かったし、押さえられてる部分もしっかり痛いっ!
鎧が当たっててあまりに痛いのと、知らない男に身体を押さえられて怖かったのがあって、私は無我夢中で暴れます。
「離してっ!」
「お前達、止めろ。女性相手にそのようなことをするな」
少し戸惑いながらも、皇帝陛下の命令に兵士の皆さんは手を離してくれました。
若干涙目になりながら、自由になった手で、さっき掴まれたところをさすります。少し赤くなってる。痣とかにならないといいけどなぁ……
にしても今ので、ここが夢ではないとわかった。そして、日本やアメリカなんて国は存在しない、ということもわかった。
信じたくないけど、今の状況を考えてみてある結論に達した。
ここ、異世界?