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Snow White  作者: 湊 奏
2/4

二人目 想イノ大切

 世界は残酷だ。冷酷だ―――――――・・・



甘い一時が目の前にぶら下がっているときに、すべてを壊して奪っていった。



 私はだれを恨めばいい。誰を憎めばいい。彼のことを憎むのは不可能以上にお門違いだ。かといって、私に非があったわけでもない。



所謂、考え方の相違というもの。


 それでもわたしは受け入れていた。そういうものとして…でも彼は違ったらしい。受け入れられなかった。



 私が合わせる努力をすればよかったのだろうか。私の怠慢なのだろうか。





今更考えたところで、もう隣は、ガラ空きだ…





 

 冬、恋人たちの一大イベント、聖夜クリスマスを目前として、私は彼にふられた。



 結婚も考えていた。とても仲が良かったと思う。喧嘩しても仲直りができていたのに、何故だろう―――



 そんな終わりのない、出口のない思考の渦にのまれながら新宿のメインストリートを歩いていた。


 街はクリスマス一色…恋人だ、恋愛だ、そんな言葉を見るだけで哀しみが胸に込み上げてくる。孤独…



 世界と自分は居るところが違う。同じに見えても、私の周りには壁がある、膜がある。すべては向こう側の出来事で、私はこんなに悲しいのに誰一人解ってくれず、皆清々しい顔で、忙しそうで、でも、楽しそうで、通り過ぎてゆく…


ああ、まるで・・・異世界にでも紛れ込んだみたいだ・・・




「あれ? ミドリ、どうしてここに。あんた今日会社休んだのに」


馳せていた。完全に注意力散漫であった。同僚で昔からの友人とバッタリ会ってしまった。



「…へへっ。ちょっとおサボり、かな。みんなには内緒ね?」


 曖昧な笑いを浮かべておく。正直、今は放っておいてほしい。だれも、解りはしないのだから。


「うん…いいけど。大丈夫?」


「なにが?」


「…いや、よくわかんないけど」


 ほら、わからない。


 中途半端な優しさこそ、大きな傷になるというのに、何故人は適当な優しさをかけるのだろう。




もぅ、いや…




心中とは裏腹に私はまた曖昧な笑顔を浮かべていった。



「ごめん、私もう行かなきゃ」


「え? ちょ、ミドリ!」



きっと彼女の心はホンモノだ。でもそれを穿ってみる私はもっと醜い。

また悲しくなる。



だから私は彼女から逃げた…






――――カラン、カラン…




――――え?



どこをどう走ったのか。虚しさの中帆を止めた私の耳にふと、届く―――・・・


雑踏と喧噪のなか、一際鮮やかに、はっきりと耳に聞こえたベルの音。



気付けばすぐ横に、アンティーク調のかわいらしいお店があった。店の装飾はクリスマス仕様。だけれど、全体は木彫でシンプルにあまり主張していない。シックな感じだ。




 何故か…心惹かれた…


まるでその店が引力を持っているかのように、抗うこともなくふらふらと足を踏み入れてしまう。




カランカラン―――――・・・



「ようこそSnow Whiteへ」


 対応してくれたのは可愛らしい店員さん。高校生くらいだろうか。天然ものに違いない艶やかな亜麻色の髪を結いあげたのがとてもよく似合っていた。

 そして何より目を惹いたのが…



「めいど…」


「当店の女性の制服はメイド仕様となっております。因みに店長の趣味です」


「で、僕の制服が執事仕様なのも趣味かい? それはもういいよ」


 奥から出てきたのは執事の格好の中年さしかかりましたという感じの、おじさん。なんかファンが多そうな雰囲気をまとっている。



「えぇー、つまんないですよぉ。これが楽しみなのに」


「仕事しなさい」


「はぁい…ちぇ」


「これこれ…」


 呆れ顔で、それでいて楽しそうに微笑む店長。気を取り直してか、銀縁眼鏡をあげて私に臨んだ。



「ようこそ。さぁ、奥へどうぞ」


「あの…わたしお客ってわけでは… 何か足が入ってしまっただけで」


 というか、此処がなんのお店かも未だわからない。ウッドテイストの内装でショーケースもあるのに、何も飾られていない。あるのは一対のテラステーブルだけだ。


「いいえ、あなたはお客さんですよー。此処は入るべき人しか入ってこれないのですっ!」



「君…ぼくのセリフをとったね」


「別に良いじゃないですか。どうせ最初は信じませんよ」


「そういう問題じゃなくてね…もういい。ご案内して」


「はいっ! こちらへどうぞ~」



 目の前で繰り広げられる異様な光景に押されつつ、いつの間にかテーブルへと着いていた。そして向かいに座るのは店長。



これからいったい何が始まるのか…


「外は寒かったでしょう。何を飲みますか?」


 くったいない笑顔で言う。


「えっと…何があるんですか?」


 不本意とはいえ、案内されてしまって何も取らずに帰るのも申し訳ない。なのでとりあえず聞いた。


「基本的にはなんでも。因みに彼女が淹れてくれますよ。飲み物に関しては私よりも上です」


「へへっ。褒められちった」


 可愛くはにかむ店員さん。私はへー、と無粋に見てしまった。


「どうします?」



「じゃあ、マシュマロティーを」


ちょっとだけ得意げに。


そういうと店長と店員さんは驚いたような顔をして、それからすぐに良い笑顔になった。


「貴女、なかなか良い人ですねぇ」


「通ってやつですよっ! マシュマロティーを飲みたいなんて、存在自体なかなか知られていなのに」


嬉しそうにはしゃぐ店員さん。店長が彼女の額を軽く小突く。


「ほら。早く淹れてきなさい」


「了解です~」



 トタトタと奥へ消える。店長と私は二人きりになり、謀らずとも相対することになった。


「緊張は無用ですよ」


そんなこと言われても、逆に緊張するというものだ。しかし不思議なことに、心のこわばりが、スッと溶けて消えたような気がして、自然と体の力も抜けていく。


 そして緊張の糸が切れたことで…哀しみの渦が浮き上がってくる。



「此処は…何のお店なんですか?」


考えないため、誤魔化すために言葉を紡ぐ。


「ケーキ屋さん。お菓子屋さん。もしくは、願い、祈りの後押しをする店。かな」


「…―――」


「貴女も来るべくして此処に来た。と言って信じるかい?」


「え…」


突然の問いに当惑する。来るべくして来た、と言われても実感はない。ただ、立ち寄っただけだ。


「信じてない顔だね。まぁ、信じる信じないに大して意味はないのだけど。

でもね。どうだろう。たとえば、君の後。誰もお客が入ってこない」


確かに、こんなに可愛いお店で、この時期であれば誰かしら入ってきてもおかしくはない。それなのに皆、この店が存在していないかのように、視線すらよこさずに通り過ぎていく。





「例えば、何も並んでいないショーケース、飾り棚。本来ならケーキとかが入っているはずなのに何にもないのはなぜか。探せば不自然な点はいくらでもあるよ」


言われてみれば、といったところだ。気に留めなければ、留まらない。でも、ひとたび認識をすれば、考えてしまう。


「その答えはね。願いの形がお菓子を作るから見本なんて必要ないんだ。例えば、君の中にあるのは哀しみと諦め。でも、壊れたと知りながらそれでも縋る想い、か・・・」



「――――っ!?」


 思わず反応してしまった。何も言ってない。ポーカーフェイスには自信がある。なのに、何で…



店長は表情を消していた。



「話してみるかい? 解らないのは、君が話さないからだ。わずかでも変化を察することができるのは君をよく見ている証拠だよ? 長い間ね。分かってほしいなら、言葉を尽くさなきゃならない」


「私は…」


何か間違っていたのか? 話すべきなのだろうか。


話せば楽になるというのを信じるわけではないが、私は誰にも言わなかった事を訥々と話し始めた。



「私は…」







 私は一年近く付き合っていた彼にフラれた。理由はよく解らない。


「君とは付き合えないって解った。別れてくれ」


「え…?」


 私の家で、私の部屋で、一緒に私の手造りのご飯を食べ終った時に、唐突に言われた。


「なんて…?」


「君とは付き合えない。別れてほしい」


 彼は無表情で言う。


私は未だ現状を把握できていない。いや、把握は出来ているのだろう。だた、現実を受け入れられないだけだ。


「なんでそんな事言うの? 私、何かした? 何か気に障った?」


「そうじゃないけど… とにかく、別れてくれ」


「そんなんじゃ納得できないよ。私は、頑張って来たつもりだよ? 貴方に好かれたくて、貴方が嫌だというところは直して来たし、貴方を立ててきたつもりだよ? 何が足りなかったの? ねぇ、私頑張るから…」


「何も要らないよ。何もいらなかった。違う。いうなら、こんな関係、望んでなかったんだ」



そんな言葉で、私には理解の及ばないところで、今迄のモノが音を発てて全て崩れ去った…


とても仲が良かったと思う。喧嘩も殆どしないし、してもすぐに仲直りができていた。



私が折れれば事は丸く収まる。彼といることが幸せだから、多少の事には眼を瞑れた。




なのに…なのにフラれた。別れた…


結局私は、彼の言うままに別れてしまった。諦めたのか、どうなのか。今となってはわからない。そう思いたくはないけど、どうにかしようとしなかったのは事実だ。



それでも、私が悪いはずはない。ずっと彼に合わせてきたはずなのに、何でダメだったんだろう。



でももう遅い。今更原因がわかっても、もう意味はない。彼とは終わってしまった。この悲しみは然として此処に在る。




そうして、私と周囲は隔絶し、違う世界になってしまったのだ。







 私は出されたマシュマロティーをすする。口いっぱいに甘さと香りが広がる…でも、ただそれだけだった。


 おいしいけど、私はこれでは癒せない。



「君も案外莫迦だねぇ」


「てんちょーっ」


 店員さんが店長を可愛く睨んだ。


「だってそうでしょう。まぁ、これは君自身が気付かなければならない事。一つ言うのなら。君はもっと人間とのかかわり方を経験すべきだよ。分かっていない」



「でも、ずっと一緒に…」


「時間なんて関係ないんだ。短い時間でも深くなることもできるし、長くいても浅いままの事もある」


「…――――」


 返す言葉もなかった。当たり前のことだった。でも、深いモノだと信じたかった…


「私が、間違っていたのでしょうか…」


「君が間違っていたわけじゃない。それで成り立つこともある。でも、原因はそれだろうね。答えはわかるかな?」



答え。そんなものは最初から知っていた。



「考え方の…違い。ですよね…」


結局のところ、彼が求める恋愛、その関係と、私が求める恋愛関係がリンクしていなかったのだ。


彼がどういう関係を望んでいたかも知らなかった。いや、知ろうともしていなかったのかもしれない。


こういうものだと、自分の中で納得して、そのように振る舞ってきた。


きっかけは小さな齟齬程度だったのだろう。でも、それいつしか関係を壊すほど、大きな食い違いとなっていたんだ・・・





彼は何も答えず、紅茶をすすった。


すべて、見透かされているような気がする…


そして彼はまた口を開いた。


「きっと、君にはまだ見えていないものがあるよ。君に必要なモノはわかった」


「私に必要なモノ…?」



なんだろう。沢山あるようで、その実、何もない気がする。持たざる者は傷つかない。


なら、何もない方がいいとも思える。




その事を言ったら。店長は苦笑した。


「確かにそういう考え方もあるね。でもさ、報いることも大事だよ? これは言っていいかな。自分ひとりで生きられると勘違いしない方がいい」


「てんちょー、言いすぎですよ!」


「そうかい? 人は独りでは生きられない。独りで生きているようでも、衣食住ですら誰かの産物だろう?」


「そうじゃなくて…」


「あ…」


 小声で話す彼ら。店長はどうやらポカったらしい。でも、私には何の事だか分らなかった。


「気を付けてくださいよぉ」


店員さんが軽く店長の脇腹を小突いた。


「まさか君に諌められるとは…どうやら喋りすぎたみたいだね」


「もぉ~」


可愛く頬を膨らませる。それを彼が突いて、ぶぅっと吹かせた。





「さて」


 と店長が私に向き直った。


「これだけは聞いておこう。君には友と言える人は何人いる?」


友達…それは、どの程度のモノなのだろうか。友達…



話す人はたくさんいる。ご飯食べる人もいる。遊びに行く人も少なからずいる。気心知れて、気の置けない人は…


「7人、くらいでしょうか…」


そう言って、私は気づいてしまった。


友人関係など、所詮こちらの独りよがりかもしれない事。此方がどう思っていても、それが相手も思っているとは限らない。


そう思ったら、友人がよく解らなくなった。


――――ああ、こういうことか。わたしは相手のことを何も知らない・・・


でも、私が共にありたいと思う人は、きっとこの7人だ。


そんな私を余所に店長は楽しそうに微笑んだ。



「なかなか多いじゃない。この現代に7人も。一人もいないって言う人も珍しくないのに。君は恵まれているよ。それにちょうどいい」


「はい?」



「サキさん。後よろしくね」


「アイアイサーですぅ」


動き出した状況についていけない私を置いて、店長は奥へと消えていった。



「てんちょーが貴女のために、貴女だけのお菓子を作ってくれるんですよ。ソッコーで」


「え? 私だけの…?」


「うん、オーダーメイドっす!」


「オーダーメイド!?」


 思わず声を大きくしてしまった。オーダーメイドって…




願いがお菓子を作るって、オーダーメイドのことだったのか?それっで経営成り立つのだろうか。というか、一体どれくらいするのだろう…



「お値段は店長の気分しだいですねー。材料代だけだったこともありますし。でも、法外な値段を取ることはないですよ。安心してください」


 安心、していいのだろうか…



「此処は不思議なお店なんですよ。売上なさそうなのに、私のバイト代結構いいし、材料に関してはないモノはなくて」


「聞いても良いかしら。どうしてバイトしているのか」



彼女に、想い背に少し興味がわいた。でも、彼女は困ったような顔をした。



「実は…最近よくわかんないんです。最初は可愛いお店で飛び込みでいって雇ってもらったんですけど…」



彼女は訥々と話した。



今では、何かあるはずだけど、何が自分を動かしているのか判らない、と。


「お金貯めたい訳でもないんですけど、ほぼ毎日来てますし…」




彼女の中にも、何かが渦巻いている。それとも、何かが芽生え始めているのだろうか…




それから、色々と喋っているうちに…



「おまたせしました」



店長が戻ってきた。トレイにホールケーキを乗せて…



「え、え?」



いくらなんでも早すぎだ。オーダーメイドと言うならば作り置きなどしているわけもない。開始30分でケーキなど作れるのか。



「相変わらず早技ですね」


「ちょっとしたコツと不思議要素だよ」


二人はニヤッと笑いあう。


かたんっとトレイが置かれた。それに乗っていたのは見事なチョコレートケーキだった。


「私が作った君だけのケーキ。名は『Biancaneve(ビアンカネーベ) Bruno(ブルーノ)』イタリア語で『褐色の白雪姫』」



 チョコレートケーキは暗緑の森。その中心には飴細工で象られた雪の結晶。それを囲うように砂糖菓子で作られた七つのテディベアはそれぞれ違う帽子をかぶって結晶を守っている。


 生地の中段にあしらわれるはリンゴのペースト。



「グリム童話に在る白雪姫。彼女は継母の陰謀により殺されかけ、心ある人により森へと逃げた。彼女を支えたのは七人の小人たち。幾多の継母の陰謀を生き延びられたのは偏に彼らの助けがあったからだ。彼女は家事という形で彼らの想いに答え続けた。彼女が王子の許へ行く時、彼らは祝福してくれた。何の見返りも求めず」



 囲われて守られ続けた白雪姫。巣立ちの時に祝福してくれた小人たち。その想いとは、どれ程だったのだろう。どんなモノだったのだろう。


「サキさん、箱詰めよろしく」


「任されました!」


 店員さんが箱に詰めているあいだ、呆けていた私を店長が現実に引き戻した。



「君は気づかなければならないよ。もっと周りをよく見るといい。そして、気づいたなら、きっと君は… いや、これ以上は蛇足だね」


悪戯っぽく笑った店長。彼の言葉の意味するところは分かるようでわからない。

でもきっと。そう、きっと・・・




「お待たせしましたーっ!」




リボンが掛け終り、手渡されるケーキ。


「えっと、お代は…」


店長の気分次第。その言葉が頭をよぎった。


「そうだねぇ… じゃあ、4000円で。普通でしょ?」



 まさしく普通だ。大きさとしても申し分ない。頼んだモノではないとはいえ、とても満足だった。


 私は礼を言い店を出る。去り際、店長がこっそと言ってきた。


「速く行ってあげるといい」



店を出れば外は雪だった。都会では珍しい。年に一度降るか降らないか。そして降っても翌朝には消えてしまう儚いモノ。



空から舞い降りるパウダースノウは美しく世界を彩っていた。



そう思って驚く。


ああ、世界が美しいと思えるほど、自分は回復していたんだな、と。



「さてこのケーキ、どうしよう」


 買ったは良いけど独りで食べるものでもない。そういえば、行ってあげるって、何処へ?



聞いてみようと振り返れば…






「なんで…」



そこには何もなかった。ビルの壁があるだけで何処にもさっきのお店はない。全く、影も形も。



でも、手の中にはケーキがある。それが現実だと言っていた。



「いったい…―――」


驚きや戸惑い。でも、もうひとつ胸の内に在った。それは、『希望』。



森で暮らした白雪姫が王子様に嫁ぐように、私は少しだけ何か心が弾んでいた。



「ミドリ――――――…」



遠くから声。振り返ると彼女が雑踏の向こうから足って来ていた。


「カナ…」



息を切らして目の前に来る。それでも彼女は笑顔だった。


「よかった見つかって。いきなり走っちゃうんだもん、ヒールなのによく走れるね」


「ずっと、探してくれてたの?」



「あ、あははは…」


困ったような、照れたような笑み。それがとても嬉しかった。


こんな寒い中、ずっと捜してくれていた。こんなにも…



「ちょ、ミドリ、大丈夫?」


「うん、うん…っ。大丈夫」


いつの間にか涙が流れていた。とても嬉しくて、暖かくて…哀しみなんて何処かへ行っていた。



私は世界に再参加した。


「実はね…みんな捜してくれてたんだ。駅前で待ち合わせ」


はにかんだ様な、照れたような微笑み。



会いに行こう。そしてお礼を言おう。一緒にケーキを食べよう。



「ありがとう」


「うん、行こっ」


「うんっ」


 

繋がれた手。それは繋がれただけでなく、大きな支えとなっていた。


私には、こんなにも…









「てんちょー。結局、あの人に必要なモノってなんだったんですか?」


「今回は必要なモノっていうより、気付くべきモノだね。そこにあっても気付かなければ無いも一緒だから」


「気付かなければ…」



彼女の揺れ動きを店長はすでに感じ取っていた。


彼女はイレギュラーだ。願いがあって来たのではなく願いを確立するために、そのきっかけのために店に来たのだ。




そしていま、それが形になりつつある。これを潰すわけにはいかない。


「サキさん。昇給試験受けるかい?」


「昇給なんてあるんですか!?」


「ありますよ。どうする?」


「当然受けます! がんばりますっ」


「じゃあ、内容その他は追って連絡するよ」



「了解ですっ。じゃあ、今日は帰ります」


「はい、お疲れ様」


「お疲れ様です~」


 カラン―――…と音を立てて彼女は帰った。



彼はいつもの様にテラステーブルへ腰かけ、独りゴチる。



「君の願いは何なんだろうね」


 眼鏡を拭き、残った紅茶を飲んだ。


「ちゃんと見据えて、目指さなければみつからないかもしれないね―――」



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