再会
再会の王道です。
あれから1週間。
特におかしなこともなく、いつも通りに時間は過ぎて行った。
…のだが。
まだまだ秋と言うにはあっつい日が続いている9月末。
何とも中途半端な時期に転校生が来た。
「あ~、今日からこのクラスに編入になった永山朔≪ながやまさく≫くんだ。みんな、よろしくな。」
先生と共に教室に入ってきたのは、あの変質者!あの時みたいに黒いマントはつけてないけど、確かにアイツだ!
今日は、こないだのように不機嫌な顔ではなく、むしろ柔らかい表情でみんなに挨拶している。女子の皆さんはなんだかざわついてるぞ?ま、見た目はいいもんね。いわゆる王子様みたいな?
「じゃあ、あー、沢口の横、そうそう、三谷の後ろな。そこに座って。わからないことがあったら周りに聞けばいいから。教科書は沢口見せてやれ。」
「へーい。」
手を挙げて返事をする沢口くんを目指して、彼はやってきた。
私は廊下側の後ろから2番目の席。沢口くんは最後列で私の斜め後ろ。
お約束の『隣』ってのは免れたけど、真後ろって…。
「よろしくね。」
私、沢口くん、そして私の隣の堂川茉実≪どうかわまみ≫ちゃんににっこりとあいさつする変質者、もとい永山くん。王子スマイルになんてだまされないからね、わたしはっ!
「どしたの、音々?こっわい顔してるよー。せっかくカッコイイ男の子が近くにきたっていうのに。うふふ。」
のほほんとした声で、茉実に指摘される。そりゃ険しくもなるわよ。こないだの今日だし。
でも、編入したてで変な噂流すのもどうだかと思うので、とりあえず自分の心ひとつに収めておくことにした。
「そーゆーことよりも、次算数でしょ~!嫌いなんだもん。」
と、誤魔化してみる。
「あはは。また算数とか言ってるし。今日は当たらないでしょ?」
「ん、多分ね。」
茉実は、ふんわりとしたイメージの、女の子。肩の上でふんわり揺れるちょっと茶色がかったくせ毛と、くりくりパッチリお目目がキュート。男女ともに人気高し。私とは、いつも仲良くしてもらってる。私はどちらかと言うとサバサバさくさくって感じかなぁ?
茉実のかわいらしさで鋭気を補充して、気を取り直す。
と、そこへ永山くんが、
「三谷さんて、数学苦手なの?オレ、得意だからいつでも助けられるよ。」
って、爽やか笑顔で割り込んでくるな!
「あ~、その時はお願いいたします。」
多分しないけどねー。とりあえず空気を読んでさらりと返事しておく。
「ほんと、三谷って数学の時間死んだ魚の目してるもんなー。」
と、沢口くんまで。もういいから。
「はいはい。もう朝のホームルーム終わるよ。算数の用意しなくちゃ。」
なるべく背後を見ないように、私は言った。
それから一日。
ほとんど永山くんと沢口くんと茉実とで行動することになってしまった。
沢口くんは学級委員だからっていうことで、慣れるまでのお世話係ということなんだけど、やろー二人でずっと行動するのはさすがにどうかと双方が言って、仕方なくご近所さんの茉実と私まで巻き込まれてしまったのだ。
できるだけ関わりたくないのに~!って、そんな心の叫びなんて誰にも届かず、かといって不機嫌でいるのもはばかられ、適当に合わせて適当に流すことにした。
でも、永山くんは結構目立ってた。
そりゃ自分で言い切るほどのカッコよさだもんね。行くとこ行くとこで女子の視線が痛かったわ。
そしてやっと放課後。
やっと変質者、もとい永山くん(しつこい)から解放される~!と思ったのに
「みんな帰りはどっち方面?へえ、奇遇!三谷さん同じ駅だね!」
ニコーっと笑顔付きで言われた。
ウソつけ。何が奇遇だ。今初めて知りましたーみたいなこと言って。こないだ落ちてたでしょうが。うちの近所で!
「えーそうなんだー!じゃあ一緒に帰ろうよ。私は駅までだけど。音々、今日は塾なかったでしょ?」
って、茉実まで!なんで誘うかなぁ…。塾があるからダメって言おうとしたのに、休みなのも暴露されてるし。
万事休す。
「で、なぜうちのガッコに編入してきてるんでしょうか。」
「それはまあ、おいおいと。」
「で、なぜ私のガッコがわかったのでしょうか?」
「そりゃもちろん、お前を張ってたからに決まってんだろが。」
「…やっぱ、変質者…」
「それは違う。」
「じゃ、ストーカー。」
茉実と駅で別れた後。がたごとと電車に揺られながら。
まだ帰宅ラッシュには程遠い時間なので、ゆっくりと座れるのだけど、なぜか永山くんと隣り合って座っている今の状況。2駅の我慢。
永山くんの顔を見ることなく話す私と、長い足を組んでリラックスした感じの永山くん。
「てゆーか、なんで私を張る必要があったのでしょうか。」
「それも、おいおい。」
「いえ、そんなおいおいっていうほど関わる予定はございませんので、早目にお願いいたします。今すぐくらいの勢いで。」
「わかったけど、そのしゃべり方やめてくんない?よそよそしい。」
「いえ、それくらいの方がいいかと思います。」
「いちお、クラスメイトになったんだからさぁ、フツーに話せよ。そしたらいきさつも話してやるよ。」
「ええぇぇぇ!脅しですか。」
「脅してねーだろ!」
こっちは必要以上に距離を縮めたくないのですがー。
「…わかったわよ。で、とりあえずもう駅に着いたんだけど、永山くんの家ってホントのところ、どこなのよ?」
「おまえんち。」
「はあああ?」
もう、頭痛くなってきた。