怪談合宿 後編
殺人的描写あり、苦手な方は飛ばしてください
(博士視点)
そして、事件が起きた。
「博士!起きろ!」
俺はそんなうるさい友人の声で目が覚めた。聞こえるのは金属と金属がぶつかり合うような金属音。ぼやけた視界をこする。見えてきたのは先ほどまでとは雰囲気の違う夜天。身の丈ほどの鎌を振り回して何かと戦っている。最初は何と戦っているのかわからなかった。でも、それは月明かりに照らされて正体がつかめた。鎧を着た侍だ。刀を持って夜天と戦っている。
「な、なんだこれ!」
「はぁ!」
夜天は侍を鎌で切り裂いた。
「ひ、人殺し!」
「こいつらは人じゃない。ただの夢、虚実、虚言だ。」
「こいつ・・・ら?」
あたりを見回すと侍やナイフを持った男、バットを持った少年などがふらふらとおぼつかない足取りでこちらに近づいてくる。
「みんな、目に光が無い・・・。」
「あぁ、だがな、こいつらはどうやら僕達を殺すつもりらしい。」
「なんてこった。」
「だか・・・博士はそこでじっとしていて、こいつらを片付けたらみんなを探しに行く。」
俺は目の前で起こっている事がまるで現実で起きている気がしなかった。目の前ではクラスメートが鎌を振るってわけのわからない存在と対峙している。
「博士!よけろ!」
そして、振返ると刀がこちらに振り下ろされていた。俺はあわてて飛びのき回避した。
『こいつら、俺を殺す気だ。なんだ・・・頭が痛い・・・』
殺せ?そう聞こえた。殺さなければ生き残れない。
俺は眼鏡を外した。そして、床に転がっていた刀を拾う。
「博士?」
「・・・」
勢いよく走り出し刀を振るう。敵は想像していたよりも軟らかく簡単に切れていく。
『なんだ・・・簡単じゃないか・・・殺すのなんて・・・』
「はははは!簡単なことだったんだ。人を殺すなんて・・・あぁ、こいつらは人じゃないんだっけ。」
(唯一視点)
目の前で博士が刀を振るって敵を切り裂いていく。そして、敵を殲滅するとこちらにふらふらと歩いてきた。
「なぁ、行くんだろ?みんなのところに・・・」
「あ、あぁ。」
宿直室へ向かうと唯が敵を倒していた。
「召喚!」
唯が魔方陣から鎖を出して敵を拘束した。そこに電撃が流れ込み敵を消していく。
「唯、無事だったんだね。よかった。」
「唯一君も無事だったんだね。これ、虚実具現化だよね。」
「そう。だから、この学校のどこかにその根源が居るはずなんだ。」
「探さないと。」
「ところで、先生は?」
「この事態に驚いて気を失っちゃった。だから、結界を張って護ってる。」
「そっか、じゃあ七海達と合流しよう。」
保健室へ向かうと大量の敵が居た。七海が無双している。
「殺す・・・殺す・殺す・殺す!」
突然博士が飛び出して敵陣に切り込んだ。博士は狂気しながら狂喜し凶器を振り回している。
「七海。」
「七ちゃん。」
「あ、唯一、それに唯も。今回の原因は桔梗が原因よ。」
「なんだって。」
「あぁ、せっかく具現化させたのに、全部殺しちゃったんだ。博士。」
保健室から出てきたのは桔梗だった。
「桔梗・・・いや、奇矯かな?」と博士が言う。
「自分が、創られた存在だとも知らないでいい気なものね。博士。」
「何?」
「貴方は用済みなの、だから消えなさい。」
桔梗がそういうと博士は燃えていく。そして、存在そのものが消えていった。
「まさか、博士も虚実だったのか?」と僕は驚く
「そうよ、全ては私が仕組んだ虚実、虚言、嘘。みごとに騙されていたわね。滑稽で笑っちゃうわ。」
「あなた、人間?」と七海が聞く。
「人の狭間と書いて人間と読むならば人間ね。私は人間になり損ねた虚実。最初は浮遊意識でしかなかったけど、だんだん定着していきここまで来た。でも、その力も薄れてもう存在が不安定なの。だから、貴方達の命をもらって私は人間になるの。」
噂の具現化。浮遊する魔力が浮遊する意識に結合して稀にこのような自体を起こすことがあるけれど、実体を何ヶ月も保つなんて事は無かった。今回は特殊というやつか。いや、世界が違うから少し設定定義が違うのか?
「どちらにせよ。野放しにはできない。」と鎌を構える。
「さぁ、はじめましょう。一夜限りの虚言と虚実の夜を!」
翌朝 そこには何も無かったかのように平和な風景が広がっていた。戦闘の痕跡も殺したはずの存在も、全てが無かった、虚だった。はじめからそんなものは無かったのかも知れない。まるで、そう思わせるような。
いや、確かに無かったのかもしれない。僕達三人以外にあの夜の記憶が無い。そして、何処を探してもこの学園に白井九十九も桔梗言葉も存在していなかったのだから。