第五話:実家の自爆と、絶望のバートン家
公爵邸のメリアが、新作の焼き菓子を頬張りながら「この工房、天国すぎる……」と涙ぐんでいたその頃。
バートン伯爵家の地下工房は、阿鼻叫喚の図に包まれていた。
「……え、嘘。どうして動かないのよ!?」
金切り声を上げたのは、バートン家の『天才』と謳われていた次女、リリアンだ。
彼女の前には、王家から修繕を依頼された国宝級の魔道具――『極光の魔導核』が無惨な姿で横たわっている。
本来なら淡く美しい光を放つはずの魔石は、今やドス黒く濁り、嫌な熱を発していた。
「リリアン! 一体何をしているんだ、早く直さんか! 納期は明日なんだぞ!」
「わかってるわよ、お父様! でも、これにお姉様と同じように魔力を流しているのに、全然反応しないのよ! むしろ、私の魔力を拒絶しているみたいで……」
焦りに顔を歪ませたリリアンが、さらに無理やり魔力を叩き込む。
しかし、彼女は知らなかった。
この繊細な魔道具を維持していたのは、メリアの膨大かつ精密な魔力制御だったということを。メリアの十分の一にも満たないリリアンの雑な魔力では、回路を維持するどころか、逆に負荷をかけるだけなのだ。
――パチッ、ジジジ……。
「……変な音がしたわね?」
「よせ、リリアン! 魔力を止めろ――」
ダレンの制止も虚しく、次の瞬間。
バキンッ!! という心臓に悪い破砕音と共に、国宝の魔石が真っ二つに割れ、黒い煙が上がった。
「「…………あ」」
工房を支配したのは、死のような静寂だった。
王家から預かった国宝の破壊。それは、伯爵家の取り潰し、あるいはそれ以上の極刑を意味する。
「な、なによこれ……! 私のせいじゃないわ! きっとお姉様が、出て行く前に壊れやすく細工していったに決まってるわ! そうよ、最低の悪役令嬢ね!」
「そうだ……その通りだ! あの不孝者が、我が家を陥れるために罠を仕掛けたのだ!」
二人は真っ青な顔をしながら、凄まじい速度で責任をメリアへと押し付けた。自分たちが彼女を追い出し、ろくに中身も理解せずに仕事を引き受けたことなど、綺麗さっぱり棚に上げている。
「お父様、こうしちゃいられないわ! お姉様を探し出して、無理やりにでもこれを直させなきゃ! 責任を取らせるのよ!」
「ああ、だが、どこへ行ったというのだ……。ギルドに問い合わせても、守秘義務だと言って追い返されるし……」
そこへ、一人の下男が震えながら飛び込んできた。
「だ、旦那様! 大変です! 街で噂になっております……あのメリア様が、オルディス公爵閣下のお屋敷に囲われていると!」
「な……公爵家だと!?」
「しかも、近々開かれる王宮舞踏会に、公爵閣下の『最愛の恋人』として出席されるとか……!」
その言葉を聞いた瞬間、ダレンとリリアンの目に卑屈な光が宿った。
「……そうか、あいつ。公爵様に色目を使って、一人だけ贅沢三昧をしていたのか。育ててやった親への恩も忘れて!」
「許せない……! 私がこんなに苦労して、顔も煤で汚れているっていうのに!」
リリアンはチリチリに焦げた自分の髪を掴み、憎々しげに顔を歪めた。
「お父様、舞踏会へ行くわ! 公爵様の前で、お姉様の化けの皮を剥いでやる。そして、この魔道具を無理やり直させてから、また地下に閉じ込めてやるんだから!」
「ああ、そうだ。公爵家には招待状を無効にされたはずだが……我々は由緒正しき伯爵家だ。入り口で騒げば、メリアも世間体を気にして中へ入れざるを得まい」
自分たちが破滅の淵に立っていることも忘れ、彼らは「獲物」を見つけた喜びで笑い合った。
彼らが向かう先が、ヴァイスによって完璧に用意された『公開処刑場』であることも知らずに。
――こうして、バートン家の一同は、身の程知らずにも王宮舞踏会への乱入を決意したのである。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
ヴァイスとメリア、すれ違う二人の恋を楽しんでいただけてましたら嬉しいです。
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また、3月14日(土)12:00より、新作連載開始しました。
新作:『君の静寂が愛おしい』〜殺された記憶を持つ令嬢が沈黙を選んだら、ヤンデレ騎士の最愛になった件〜
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かつて自分を殺した騎士に嫌われようと「沈黙」を選んだ令嬢。
けれど、感情が「音」として聞こえてしまう彼にとって、その沈黙はこの世で最も心地よい癒やしの旋律だった――。
今回は「お昼の12時」という新しい時間帯でのチャレンジとなります。
「朝・昼・晩」と、皆様の日常のどこかで私の描く「執着と溺愛」を楽しんでいただけるよう、全力で更新してまいります。




