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公爵子息に夢中な悪役令嬢は、今更「もう戻れ」と言われても絶対実家には帰りません!  作者: ましろゆきな
第一部:実家には帰りません!

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第四話:爆買いイベントと、広がる『氷の公爵の恋人』の噂

 偽装恋人の契約を交わしてから、公爵邸には連日のように王都随一のデザイナーや宝飾師が出入りするようになった。

 私の専用工房は、今や最新の魔道具だけでなく、最高級の絹織物や宝石箱で溢れかえっている。


「――やはり、この青では甘すぎる。もっと深く、公爵家の威厳と、彼女の瞳の輝きを同時に引き立てる色を。妥協は許さない」


 中央に立つヴァイス様は、いつもの冷静沈着な姿はどこへやら、職人たちを前に熱のこもった指示を飛ばしている。

 舞踏会当日へ向けて、彼はメリアという「恋人役」を飾り立てることに、異常なまでの情熱を注いでいた。


「ベースは白金パールホワイト。そこから俺の瞳と同じアイスブルーへ。……さらに、この蜂蜜色のトパーズもすべて、彼女の髪の色に馴染むように配置してくれ。予算の制限などないと思え」


 提示されるのは、一着で城が建つほどの法外な注文だ。デザイナーの女性は冷や汗を拭いながら、連日の無理難題に震える手でメモを取っていた。


「か、かしこまりました、ヴァイス閣下。……ただ、これほど繊細な装飾を施すとなると、熟練の職人をさらに十数名、付き切りにさせる必要がございます」

「構わない。最高の技術を注ぎ込め。……彼女が、誰よりも美しく、誰よりも俺の傍にふさわしいと、国中の者に知らしめるために」


 ヴァイス様の青い瞳が、獲物を射抜くような鋭さと、狂おしいほどの執着を孕んで光る。

 傍から見れば、それはもう「溺愛」という言葉すら生ぬるいほどの熱量だった。


(わあ、ヴァイス様ったら。演技に気合が入りすぎて、すっかり『溺愛モード』が板についていらっしゃるわ!)


 私は、職人としてそのこだわりに圧倒されつつも、あくまでこれは「ビジネス」なのだと自分を納得させていた。


「ヴァイス様、あまり職人さんたちを困らせてはいけませんわ。皆様、連日の打ち合わせで随分とお疲れのようですし」


 私がそっと割って入ると、ヴァイス様はハッとしたように私を振り返り、すぐさま「しゅん……」と項垂れた。先ほどまでの威圧感は霧散し、捨てられた仔犬のような寂寥感を漂わせる。


「……すまない。君に最高の装いをしてほしくて、つい……」

「お気持ちはとっても嬉しいですわ! でも、最高のドレスは、職人さんたちが万全の状態で打ってこそ完成するものですから」

「……メリアがそう言うなら。……うん、分かった」


 ニコリ、と。これ以上ないほど眩しい微笑みが戻ってきた。

 その瞬間、背後でデザイナーたちが「ヒッ……!」と小さく息を呑んだ。


(……うわぁ、あの冷酷無比な氷の公爵様が、あんなに簡単に掌の上で転がされているなんて……!)

(あの令嬢、一体何者!? 公爵様、彼女を見る目が完全に『狂おしいほど執着する恋人』のそれじゃない……!)


 打ち合わせを終え、公爵邸を辞したデザイナーたちの口から、その衝撃的な光景は社交界へと漏れ出していった。

 準備期間の数週間のうちに、噂は雪だるま式に膨らんでいく。


『氷の小公爵がついに、本命の女性を見つけたらしい』

『彼女の一言で、あの閣下が一喜一憂していた。もはや骨抜きだ』

『閣下が自らデザインの細部にまで口を出し、彼女を自分色に染め上げることに執着している』


 その噂は瞬く間に王都を駆け抜け、ついには王城、そして国王陛下や王太子殿下の耳にまで届いたのである。


 ――当の本人である私は、日々増えていく最高級のドレスや宝飾品を眺めながら、ホクホク顔で考えていた。


(すごいわ、これだけの『備品』を用意してくださるなんて。やっぱり公爵家は福利厚生が手厚いわね! ヴァイス様の『虫除け』として、これだけの投資をしてもらう以上、本番では完璧な恋人役を演じきらなくっちゃ!)


「メリア、次は靴のフィッティングだ。……ああ、その素足も俺以外の男には見せたくないな。カーテンを閉めてくれ」

「はいはい、素晴らしい徹底ぶりですね、ヴァイス様!」


 ヴァイス様の瞳の奥に宿る炎の意味を、私はまだ一ミリも気づいていなかった。

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