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公爵子息に夢中な悪役令嬢は、今更「もう戻れ」と言われても絶対実家には帰りません!  作者: ましろゆきな
第一部:実家には帰りません!

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第一話:推しの顔が良すぎるので、ブラック実家には絶対帰りません!

 朝。小鳥のさえずりと共に、天蓋付きのふかふかなベッドに柔らかな陽射しが差し込んでくる。

 目を覚ました私の視界にいの一番に飛び込んできたのは、神様が精魂込めて造り上げたかのような、圧倒的な『美』だった。


「ん……おはよう、メリア」


 透き通るような白金の髪が、朝の光を受けてキラキラと神々しく輝いている。氷のように冷たいはずの青い瞳は、熱を帯びたようにとろけており、ただ一点、私だけを甘く見つめていた。

 王国の若き英雄にして、完璧な貴公子と名高いヴァイス・オルディス公爵令息。


「お、おはようございます、ヴァイス様……っ!」


 近すぎる。顔面国宝の破壊力が極め(カンスト)している。

 私は心臓が口から飛び出しそうになるのを必死に堪えながら、自分に言い聞かせた。

 落ち着け、メリア・バートン。これはあくまでお仕事。彼に課せられた魔力循環不全を癒やすための、立派な『医療行為』なのだから!


「昨夜も一晩中、俺の魔力循環に付き合わせてしまったね。君の澄んだ魔力が流れ込んでくるのが心地よくて、つい……離し難くなってしまった」


 ちゅ、と。ヴァイス様が私の薄紅色の髪に顔を埋め、甘えるようにキスを落とす。

 ひゃあああ! と内心で叫びながらも、私は「推しが今日も尊い」という事実を噛み締めていた。

 他人の魔力を極端に嫌う彼にとって、なぜか私の魔力波長だけが『唯一の特効薬』らしいのだ。


「とんでもないです! ヴァイス様の痛みが和らぐなら、私はいくらでも魔力を流しますから!」


 ぎゅっと手を握り返して宣言すると、ヴァイス様はふわりと美しく微笑み、さらに力強く私を抱きしめ込んできた。

 ああ、なんてホワイトで素晴らしい職場なのだろう。

 こんな天国のような日々を送れるなんて、ほんの数ヶ月前までの私には想像もできなかった。


 ――そう、あれは私が『バートン伯爵家』という名のブラック魔道具工房から追い出された日のことだ。


『お姉様、ごめんなさい! 私たち、真実の愛で結ばれてしまったの!』

『メリア、お前のような可愛気のない悪役令嬢はバートン家には不要だ! 妹のリリアンの真似をして高位の魔道具をいじるしか能のない女など、今すぐ出て行け!』


 父のダレンと、私の元婚約者に腕を絡めた妹のリリアンから、ド定番の追放宣言を叩きつけられたあの日。

 地下の薄暗い工房に閉じ込められ、毎日毎日、身を粉にして顧客の国宝級魔道具を無給で修理し続けていた私に向かって、彼らは堂々と言い放ったのだ。


(えっ……つまり、これからは徹夜で魔力切れを起こすまで働かなくてもいいってこと!? 自由の身!?)


 絶望するどころか、あまりの喜びにスキップしそうになる足を押さえ、私は意気揚々と実家を後にした。

 その足で向かったギルドで、凄腕の技師を探していたヴァイス様の側近にスカウトされ、そのままこのオルディス公爵家で拾われることになったわけだが……。


「……メリア? どうしたの、上の空で」

「あ、いえ! ヴァイス様の専属技師になれて、私は本当に幸せ者だなぁと思い返しておりました!」


 あんな実家、今更「やっぱり魔道具が直せないから戻ってこい」と泣きついてきても、絶対に帰るもんですか。私には、この尊い推しの魔力を整えるという、世界で一番重要な使命があるのだから!


「……そう。君が俺のそばにいることを喜んでくれて、嬉しいよ」


 ニコリと、ヴァイス様がこの世のものとは思えないほど美しい微笑みを浮かべる。

 私の腰を抱く彼の腕が、逃げ道を塞ぐように微かに強くなったことにも。彼が私の頭越しに、実家のある方角へ向けて『絶対零度の冷酷な視線』を向けていることにも、私は全く気づいていなかった。

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