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第一話

初投稿です!よろしくお願いします!

 俺の名はルーク、用心棒だ。


 先日まで国の正規兵だった。


 大好きな国を守るため、正規兵をやりながら用心棒の仕事もしていた。

 それが上官にバレて、正規兵の立場を失った。

 つまり今の俺は、ただの用心棒だ。


 愛国心だけじゃ腹はふくれない。

 なので俺は、一日百ゴールドで仕事を請けることにした。

 手書きの看板を持って、今日から城下町の通りに立つ。


 ――仕事、何でもやる!――


 文字が読めない連中でも、この看板に興味を持って声をかけてくれればいい。

 話せば分かる。

 俺の人間力が。


 さらに、服装は信頼感溢れる正規兵の旧制服だ。

 新しい制服は回収されたが、古いのは回収されなかった。

 生地が上等なので私服として愛用している。


 元同僚には「変わってるね」と言われた。

 うるさい。


 もっとも、俺を甘く見ないでもらいたい。


 隊の中じゃ、剣の腕は上から数えた方が早かった。

 いや、もしかしたら一番だったかもしれない。

 とても強かった。

 多分。


 ただ、剣は官給品だったので、退職のときに没収された。


 家にあるのは木剣だけ。木剣だけに、外を歩くのは危険ってか。ははっ。


 だから今は、退職のときに上司から譲ってもらった槍を使っている。


 ……それにしても、剣士に槍を渡すとは、普段どれだけ部下を見てなかったんだって話だ。


 そんなことを考えながら、午前の日差しの中で看板を持って突っ立っていると、聞き慣れた声が飛んできた。


「おい、ルーク」


 上司がいた。

 いや、元上司だ。

 名をジョージという。


「隊長! おつかれまです!」

「いや、もう隊を抜けたんだ。そんなかしこまらなくていい」

「いえ、そういうわけには」

「徐々に慣れていけばいいさ」

「そっすか、うっす」

「早いな。そして年上としては敬え」


 今日も顔が渋い。

 相変わらず、笑うときも怒るときも、だいたい同じ顔をしている。

 俺は忙しい。

 金にならない話に耳を傾ける暇はない。


「ちょっと忙しいんで」

「看板持って立ってるだけだろう」

「これから忙しくなるんで」


 ジョージは小さくため息をついて、それから肩越しに親指を向けた。


「そうか。護衛の話を持ってきたんだが」

「隊長! 早くおっしゃってくださいよ!!」


 見ると、ジョージの横に恰幅のいい男が立っていた。

 腹が立派だ。商売で成功している腹だ。

 顔は丸いが、目は小さく鋭い。こういう目をした人間は、釣り銭一枚ごまかしても見逃さない。


「商人のエモドラさんだ。隣町まで荷馬車の護衛を探してる」

「エモドラだ。あんたが元兵隊さんか」

「ルークです。元兵隊で今日から用心棒一本です。仕事、何でもやります」

「看板にも書いてあるな」

「読めたんすね」

「読めるわ」


 握手した手が分厚い。

 商人ってのはもっと柔らかい手をしてるもんだと思っていたが、この人は違う。

 荷も持つし、揉め事にも慣れている手だ。


「相場は?」

「一日百ゴールドです」

「安いな」

「初仕事なんで」

「……死なないか?」

「隊長の紹介ですよ?」


 笑顔でジョージを見る。


「そこは俺じゃなくて自分を売れ」

「じゃあバッチリです!」


 俺は元上司より自分を信じている。


 エモドラはジョージと俺を見比べ、ふっと鼻で笑った。


「隣町まで頼む。道中の小物を追い払い、荷を無事に届けてくれ」

「任せてください。小物は追い払うし、荷も守る。ついでに面白い話もできます」

「最後のはいらん」


 話はそこでまとまり、俺たちはそのまま門へ向かった。


「出発、早くないですか?」

「日帰りだ。準備してる間に日が暮れる」

「商人ってのはせっかちですね」

「金になる話だけな」


 なるほど。分かりやすくていい。

 俺は槍を担ぎ、エモドラの荷馬車について城下町を出た。

 門を抜けるとき、ふと振り返る。


 ジョージは腕を組んだまま、さっきと同じ場所に立っていた。

 俺が手を振ると、軽く顎を引くだけで返してくる。

 愛想がない。

 そういうとこだぞ。


 そのとき、風にまぎれて、ジョージの声がかすかに聞こえた気がした。


「……目立つなよ、馬鹿」


 なんだ今の。

 聞こえたような、聞こえないような。

 相変わらず、言いたいことが分かりにくい隊長だ。

 まあいい。仕事だ。


 --


 街道は、昼過ぎの陽に焼かれて白っぽく乾いていた。

 荷馬車の車輪が土を噛むたび、がた、がた、と鈍い音が鳴る。


 積み荷は薬草、乾物、布。

 どれも地味だが、エモドラいわく「こういうのは薄利でいい、回してなんぼ」らしい。

 商売のことはよく分からん。


 ただ、そう言うときのこの人の顔が妙に真剣なのは分かった。


「で、その槍、使えるのか」


 荷台の横を歩く俺を見下ろして、エモドラが言う。


「もちろんです。隊で習いました」

「剣じゃなくて?」

「まあ、得意なのは剣ですけど。武芸百般ってやつですよ」

「便利な言葉だな」


 俺は歩きながら槍をくるりと回してみせた。

 型は完璧だ。自分で言うが、かなりきれいだ。脇は締まってるし、足運びも軽い。穂先のぶれも少ない。


「ほう」

「どうです」

「大道芸としては上出来だ」


 褒められたのか、馬鹿にされたのか、ぎりぎり分からない。

 いや、「上出来」ということは褒められている。はずだ。


 その直後、街道脇の茂みがざわついた。

 草を割って飛び出してきたのは、犬ほどの大きさの灰色トカゲが三匹。ハシリトカゲだ。よくいる小型モンスターで、群れで来てもこの程度なら大した相手じゃない。


「来たな。エモドラさん、下がっててください」


 俺は槍を構える。左足を引き、穂先を低く。お手本どおり。完璧。


 一匹目が飛びかかってきた。俺は狙いすまして突く。

 ――はずだった。


 穂先はトカゲの鼻先をかすめ、そのまま荷馬車の木枠にぐさりと刺さった。


「おい! 荷車!」

「わざとです! 威嚇です!」

「威嚇で荷車を刺すな!」


 槍が抜けない。まずい。

 二匹目が足元に食いついてくる。

 俺はとっさに蹴って距離を取り、柄で横殴りにして弾いた。

 三匹目が脇から来る。体をひねってかわし、今度は穂先じゃなく石突で腹を打つ。トカゲが転がった。


「……」

「……今のは実戦的な対応です」

「最初からそれをやれ!」


 結局、型どおりの突きは一度もきれいに決まらなかった。

 だが、柄で殴り、足で払い、最後は首根っこを踏んで仕留めた。


 勝ちは勝ちだ。息も上がっていない。

 俺は槍を肩に担ぎ、胸を張る。


「どうです」

「強いのは分かった」

「でしょう」

「でも百ゴールドはちょっと高いな」

「なんで!?」

「今のは俺でも二匹はいけた」

「三匹目を俺が倒したから無事だったんでしょう」

「荷車に穴を開けた」

「小さい穴です」

「商品に雨がかかったらどうする」

「今日は晴れです」

「そういう問題じゃない」


 道中、小言はずっと続いた。

 俺は半分聞き流し、半分は聞こえないふりをした。

 そんな調子で歩いているうちに、隣町に着く。


 俺が住む城下町よりずっと小さいが、ここは鍛冶で名の知れた町だ。

 通りに入った瞬間、鉄と炭の匂いが鼻についた。

 店先には包丁、斧、槍、剣。刃物がずらりと並んでいる。俺は少しだけ機嫌がよくなる。剣を見るのは好きだ。


「寄るぞ」


 エモドラが入ったのは、看板に槌の紋章が刻まれた鍛冶屋だった。

 店主と短く値切り合いをしたあと、布に包まれた剣を一本、やけに丁寧に受け取る。


「おお……」


 鞘の上からでも分かる。

 いい剣だ。

 重さの乗り方が違う。

 こういう剣は、握った瞬間に手に吸いつく。


「見るな」

「見ただけです」

「触るな」

「そんなに高いんですか」

「三千ゴールド」

「……三千!?」


 俺の三十日分だ。いや、穴のあいた荷車なら三十台は直せる。


「依頼品だ。傷一つでもつけたら、あんたのその旧制服を売っても足りん」

「これは大事な思い出なんで」

「じゃあ触るな」


 剣を荷台に積み直し、店を出る。

 日が傾きはじめ、道の影が長く伸びていた。

 町はずれへ向かう道は静かで、さっきまでの鍛冶の音が嘘みたいだった。


 そのときだった。


 前方の道の真ん中に、黒っぽい影がぬるりと這い出してきた。

 最初は大きな犬かと思った。だが、近づくにつれて分かる。


 あれは――うん、ハシリトカゲだ。


 しかし、さっきの連中とは比べものにならないほどでかい。

 色も何か違う。


「最悪だ」


 エモドラの声が、さっきまでとは別人みたいに低くなった。


「この辺じゃ出ない。ハシリトカゲの変異種だ。なんでこんな所に……」

「ちょっと大きくて、色が違うだけじゃ?」

「全然違う!」


 即答だった。しかも食い気味だ。


「強いんですか?」

「強いどころじゃない! 猟師を何人か集めて、罠を張って、ようやくやる相手だ!」


 言うが早いか、エモドラは手綱を引いて荷馬車を返そうとした。

 判断は早い。

 さすが商人だ。損をする前に退く。


 ……のはずだったが、焦りすぎて自分の足に自分でつまずき、見事に尻もちをついた。


「腰が、腰が抜けた!」


 騒がしい。


 トカゲごとき俺に任せろ、と言いたいところだが、たぶん今のエモドラさんには何を言っても届かない。

 目が完全に「終わった」って顔をしている。

 その間にも、変異種が地面を蹴った。


 速い。でかいくせに、速い。


 俺は前に出て槍を構える。今度こそ、だ。


 突く。――弾かれる。

 払う。――背中の棘に滑る。

 下がる。――詰められる。


 ……硬い。思ったよりずっと硬い。しかも、槍先が浅い。


 型は悪くない。

 むしろきれいに入ってる感覚はある。

 なのに、手応えだけが薄い。相手の動きに対して、こっちの判断が半歩ずつ遅れている。


 だが、防ぐのはできた。


 噛みつきは柄で受ける。爪は体をひねってかわす。

 踏み込みには足をさばいて距離を切る。

 正規兵時代に散々しごかれた動きが、考える前に勝手に出る。


 傷は浅い。致命傷はない。まだやれる。


 ――が、まずい。


 時間が経つほど、腕が重くなる。

 呼吸が荒くなる。

 相手はまだ元気だ。むしろ、こっちの疲れを見て嬉しそうですらある。


「ルーク! 下がれ! もう荷は――」

「エモドラさん!」


 俺は叫んで、変異種の横をすり抜けた。

 爪が肩をかすめる。


 熱い。

 だが浅い。問題ない。


 そのまま荷台に飛び乗る。


「その剣、使っていいですか!」

「は!? おまえ、さっき触るなって――」

「このままだと死にます!」


『エモドラさんが!』と言いかけたが、やめた。

 今それを言うと、たぶん泣く。


 エモドラは青い顔のまま、半分叫ぶようにうなずいた。


「……っ、助かるなら何でもいい! 折るなよ!」

「善処します!」


 荷台の布をひっぺがす。

 鞘を握って、刃を抜く。

 その瞬間、手の中で重さが消えた。


 ――やっぱりいい剣だ。


 こういうのは、握れば分かる。

 重いはずなのに重くない。刃の向きが、手首の先に勝手についてくる。


 変異種が跳ぶ。


 俺は荷台から飛び降り、半歩だけ前に踏み込んだ。

 槍と違って、考えることが少ない。

 いや、違う。考えなくていい。

 体が先に動く。


 一閃。


 銀の線が一度だけ走った。


 次の瞬間、変異種の巨体が前のめりに崩れる。

 二歩ぶん地面をえぐって止まり、そのまま動かなくなった。


 俺は剣を見て、変異種を見て、それからエモドラを見た。

「……剣なら、こんなもんです」


 言ってから、ちょっとだけ顎を上げる。


 か、かっこいい。

 褒めろ。できればすごく褒めろ。


 エモドラは口を開けたまま、しばらく閉じなかった。


 言葉にならない、ってやつだ。分かる。

 俺も自分でちょっとそう思った。


 ――で、次の瞬間。


 俺は手にした剣の刃先を見て、顔から血の気が引いた。


 よく見れば、変異種の硬い棘を斬ったせいか、刃にごく薄い曇りが出ている。

 言われなければ分からない程度だ。でも、新品じゃない。もう、新品じゃない。


「え、これ、まずくないですか」

「何がだ」

「中古にしました」

「……」

「三千ゴールド、弁償ですよね?」


 エモドラは一瞬、真顔で俺を見た。

 俺は剣を持ったまま固まる。

 頭の中で、百ゴールド×三十日分の計算が暴れ回る。長い。長すぎる。半年近くただ働きみたいなもんじゃないか。


 いや、待て。中古でも二千ゴールドくらいの価値はあるだろう。

 千ゴールドの弁償なら、何とかなる。気がする。

 俺が高尚な交渉を持ち出そうとした瞬間――。


「……はは」


 エモドラが笑った。

 小さく、じゃない。腹を抱えて笑い出した。

 さっきまで腰を抜かしていた人間とは思えない勢いで笑っている。


「いい。いいよ、ルーク」

「よくないでしょ」

「よくない顔してるのがおかしくてな」


 笑いながら、エモドラは尻についた土を払って立ち上がった。


「大丈夫だ」

「本当に?」

「命が助かったんだ、安いもんだ」

「……ですよね!」



 よかった。助かった。

 主に俺の財布が。

 その次にエモドラの命が。


 でかいトカゲ相手に苦戦したのは事実だが、最後に守れたなら文句はない。

 用心棒としては、たぶん合格だろう。きっと。


 エモドラは荷台を確かめ、死んだ変異種をちらっと見てから、ふっと息をついた。


「来週、時間あるか」

「あります。いつでもあります」

「だろうな。もう少しデカい護衛の話がある」

「本当ですか!」

「ただし条件がある」

「なんです」

「次は最初から剣を持て」

「それは無理です。没収されたんで」

「……そうだったな」


 俺たちは顔を見合わせて、同時にため息をついた。


 夕暮れの道を、荷馬車はまたゆっくり動き出す。

 俺は借り物の剣をそっと鞘に戻し、今度こそ本気で思った。


 用心棒、悪くないかもしれない。

 俺のサクセスストーリーは、ここからだ。

 ――帰り道でまた出てきた小さいハシリトカゲに、俺が槍で少し手こずったことは秘密だ。


 それでも日が落ちる前には城下町へ戻れた。

 剣は無事に返した。約束の百ゴールドも受け取った。

 今日は文句なしの成功だ。荷車の穴? あれは小さい。問題ない。多分。


 --


 その頃、城下町の詰所では、ジョージが部下から一枚の報告書を受け取っていた。

 目を通した先で、手が止まる。


 ――ルーク

 ――隣町街道にて、ハシリトカゲ変異種を単独討伐


 ジョージは眉間を押さえた。


 本来なら、隊で対応してもおかしくない案件だ。

 まともに依頼を出せば、討伐料は五千ゴールドは下らない。


「目立つなと言っただろうが、馬鹿が……」


 誰に言うでもなく、吐き捨てた。


 だが、その口元は、ほんの少しだけ緩んでいるようだった。


読んでいただいてありがとうございました!!

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