6話
ガルーダはまだ小さくしか見えていないが、急速に近づいてきてる。御者台から飛び降りてガルーダを睨む。
(遠いときはあんまりわからなかったけど…ものすごく大きくない?)
気配が捉えられるようになってようやく距離感がわかったのだがめちゃくちゃ大きい。後ろを歩いている野盗たちを狙ってるのかと思ったが、どうも馬車ごとやられそうなサイズである。
強大な魔物は基本的に魔力が豊富な魔境の奥にいるはずなのだがどうなっているのだろう。実はデカイだけの雑魚だったりするのだろうか。
まああまり悩んでいる時間はない。想像よりデカかったから思ったより到達するまでかかっているが、とんでもないスピードだ。
「そーれ広がれ。それから燃えろ。」
魔力をごそっと上空に向かって出して広げる。限界まで高く飛ばして炎に変える。あの速度で突っ込まれたら吹き散らされるだろうけど、この炎の目的はタイミング合わせである。私の出した炎は私の支配下にある。炎でガルーダを感知する方が、あの速度に普通に目で見て合わせるより正確だろう。
金砕棒を取り出して巨大化させて両手で構える。重さも大きさに見合ったものになるのでちゃんと振れるギリギリのサイズまでだ。
準備が出来るとすぐに上空の炎が吹き飛び、ガルーダが迫る。それにあわせて金砕棒を全力で振り上げた。
ガルーダの頭に金砕棒がぶつかる。轟音が響き、足元の地面が砕ける。
「よい…しょおっ!」
声を上げて無理矢理振り抜く。ガルーダは吹き飛んで後ろの道の脇に叩きつけられた。よし、完璧。
すぐに駆け寄って確認したがどうやらしっかり仕留めれたようだ。
(死んではいるけど首が折れて頭がへこんでるくらいかな?翼とかも結構な勢いで叩きつけられてるはずだけど全然折れてない…。)
あの速度で私の全力の金砕棒に直撃してばっちり原型が残ってるなんてびっくりだ。ミスティア大森林のそれなりに深いところの魔物も余裕になって、ちょっと調子にのってたかもしれない。気を引き締めねば。
「あ、カーラさん!カシム隊長!終わりましたよー!」
少し離れた馬車のそばで呆然としている二人に声をかける。馬車もしっかり無事なようだ。
「あ、ああ。討伐、感謝する…。」
「えっと…、リスティアちゃん、怪我してない…?」
「無傷です!」
怪我はしてない。激しくはあったけど金砕棒で一撃ぶつけただけだ。かなり硬かったようだし普通に殴り合いになったら怪我してただろうけど。
ガルーダの死体を放置しておけない、という事でしばらくここで待機することになった。なんでもかなり希少で出来ればすべて回収したいらしい。最も希少な魔石は領主が買い上げて皇帝に献上、他は領主の名前で国営のオークションに出してお金が払われる事になるだろうとのこと。
見張りに私とカーラさんにカシム隊長が残って、他のメンバーで各所への報告、回収の手配に物資の補給、野盗関連の処理をするらしい。大変そうだ。
どこから湧いて出たのかオークが襲ってきた以外はとくに問題なく一夜明けて翌日、沢山の馬車がガルーダの死体の前まできて停まった。オークはおいしく頂きました。
「報告がきた時はなんの冗談かと思ったが…本当にガルーダだな。」
「私はまだ自分の目の方を疑っているよ。なぜこうも次から次に…。」
先頭の馬車の中から出てきたのはスキンヘッドの筋肉男と赤い髪をきっちりセットした貴族っぽいおじさんだった。
残りの馬車から出てきた人たちはガルーダを囲んでいく。回収班の人たちかな。
「「アルスター様!」」
「うむ。ご苦労。野盗捕縛の任がとんでもない事になったな。」
カーラさんとカシム隊長が貴族っぽい人に膝をつく。じゃああの人はハイゼン領の領主さんか。
「そっちのガキが野盗壊滅させてガルーダ殺したっていうやつか。おーい、降りてこい!」
ガルーダの上から様子を伺ってたら筋肉男にバレた。仕方ないので降りよう。
「俺はハイゼンの冒険者ギルドマスターのジークだ。一通り話は聞いてる。とりあえずこれがお前の表向きの冒険者カードだ。」
「リスティアです。はあ、冒険者カード…表向き、ですか?」
カードにはリスティアの名前と年齢、そして大きくCランクと書かれている。たしか冒険者はF級からスタートだった気がするのだが。首をかしげているとジークさんから説明が入った。
「Cランクなのはすぐ用意出来るカードで最高ランクがCランクだったからだ。登録と同時にってのは無理があるから二年前、10歳の時に登録したことにしてある。表向きってのはお前をSランクにするからだな。Sランクは正体を晒すも隠すも自由だからな。隠す時用のカードがあるんだよ。」
「Sランク…。」
私の知っているSランクは物語の中の英雄だ。このガルーダとかいう魔物はそんなにすごいのだろうか。突っ込んできたところを殴っただけなのだが。
「わかってないみたいだが、ガルーダは今まで二例しか討伐記録がない災害級の魔物だ。今回が三例目、単独討伐は初だな。Aランク並みの頑強さに魔力による肉体強化、これだけの巨体で肉眼で確認出来ないほどの高度からの超高速の突撃。前回確認された7年前には街を一つ滅ぼしてる。」
「化け物じゃないですか。」
「お前はそれを一人で殺してるがな。」
考えてみれば迎撃できる手段がないとあの突撃を繰り返されるだけで全部吹き飛ばされて詰みだ。私には正面からぶつかって打ち勝てるだけのパワーがあった。相性が良かったということだろう。
「そういえばガルーダはなんでこんな所にいたんでしょう?そんなに強い魔物なら普通は魔境の奥の奥にいるものだと思うんですけど…。」
「それについては私から話そう。」
私の疑問に返事を返したのは領主さんだった。
「ガルーダは魔物には珍しく聖属性の魔力を持っていてな。基本的には魔境の奥地にいるのだが、呪いを感知するとそれを全力で排除しにかかるのだ。滅ぼされた街も、処理する前の呪われた物品が貯められていた。」
「呪い…ですか。」
「そうだ。そしてその感知範囲はかなり広い。おそらくあのガルーダはミスティア大森林の奥から呪いを感知して追ってきたのだろう。なにか心当たりは?まあ余程でなければ見てわかるものでもないが。」
領主さんの言葉に考えてみる。ガルーダは馬車にまっすぐ向かってきた。御者台には私とカーラさん、荷台は野盗の死体とかだ。
(カーラさんは多分変なものは持ってないし、私ならとっくに森で襲われてるだろうし。多分野盗たちだろうけど…。あ、そういえば。)
「野盗のリーダーが魔力のないペンダントを魔物避けだって言って持ってましたね。やたら豪華なのが気になってたんですけど。」
「ふむ…。そのペンダントは何処に?」
「野盗の持ち物でしたので死体と同じ馬車に纏めておいたはずです。」
領主さんの問いかけにカシム隊長が答える。すでに馬車は他の兵士さんによって街に行ってるはずだ。
「では街に帰り次第回収しておくように。さてリスティアよ。いろいろと話すこともある故、街までは我らと同じ馬車に乗ってくれ。」
「あ、はい。」
気の抜けた返事をした私は、領主さんとジークさんの二人と一緒に街へ行くことになった。




