表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

3話

 



「ミスティア大森林に逃げ込んだ!?この時期にか!?」



 ミスティア大森林に隣接した領地を持つ帝国貴族、アルスター・ハイゼンの元に届けられたその報告は耳を疑うものだった。


 領内を荒らしていた傭兵くずれの盗賊団を討伐するために兵を出したのは少し前。すぐに殲滅の報せが入るはずだった。多少腕がたとうと領軍とは数も質も違う。



「はい。脅して従わせていた者たちを囮に使い主要なメンバーが人質として少数の女子供を連れて逃げたようです。」



 季節は冬になり始めている。魔境は気温が極端だからミスティア大森林はもう真冬のようになっている事だろう。すでに冒険者達も魔境には立ち入らなくなっているだろう。寒さで体が十分に動かせなくなり危険だからだ。



 冒険者が入らなくなれば魔物が増える。この時期にミスティア大森林に踏み込む、まして人質(足手まとい)を連れていくなど自殺と変わらない。



「だが…追わないわけにはいかんか…。」



「はい。討伐隊の隊長もそう判断し少数精鋭で魔境に突入したとのことです。」



 ミスティア大森林は国境のようなものだ。浅いところを経由して簡単に他国へ行けてしまう。どうせ死ぬだろうと放置は出来ない。万が一生きて他国にたどり着かれてそちらで暴れようものなら戦争の火種にすらなりかねない。


 今は戦争をしたがっている者が多い。平和がそれなりに長く続いていたために武功を求めている貴族が帝国内に多くいるのだ。



 別件でおそらくは開戦派であろう動きに頭を悩ませていることもあって最大限警戒しなければならなかった。



「きっちり処理した証拠がいるな。それがなければ間違いなく利用される。」



「生かして連れ帰るのが最善ですが…無理でも死体は回収しなければなりませんね。」



 死体がなければ生きて他国にたどり着いたことにされるだろう。帝国の貴族が人を使って他国で暴れさせるか、それとも他国の戦争を望んでいる貴族がそうするかはわからないが。


 そもそも今回の盗賊団も開戦派が用意したものの可能性もある。冬の大森林に踏み込むなど普通はしない。



「頼むぞ…。」



 悪い想像ばかりが浮かぶが、今アルスターに出来るのは上手く行くことを祈ることだけだった。




 §



「そりゃー」



 気の抜けた声を出しながら二足歩行する牛型の魔物の頭を吹き飛ばす。あれからなんの成果も無いまま季節は冬になった。ミスティア大森林に来てから8度目の冬、はじめて自分の意思で行動できる冬だ。今まではスキルが切れるたびに凍え死にそうになってすぐにスキル再発動して凌いでたからね…。



「うん。いい感じ。」



 手に持った金砕棒の柄頭にある輪っかに指を入れてクルクル回す。私の魔武器だけあってものすごくしっくりくる。



 魔武器とはスキルを進化させた者が自身の魔力から生成できるようになる道具の事だ。武器じゃないことも多々あるけど名前は魔武器。理由は知らない。


 その形や能力はそれまでの経験や適性によって変化すると言われている。私の魔武器が金砕棒で、能力が大小自在とひたすら重くて頑丈であるという脳筋仕様なのは必然と言えるだろう。スキルが進化するまでの経験とか最後のほう以外全部がミスティア大森林で狂化して暴れてたことだし。



 スキルが進化してから今まで魔武器のことを忘れてたのは進化直後に暴走の制御に頭を持って行かれたからだ。冬になり森に人が入らなくなって暇をしていた時にふと思い出したのである。そもそもその辺りの知識の出処は5歳未満の時に読んでた本だし。我ながらよく思い出したもんである。



「よっし。ご飯だ!」



 魔武器を消して魔物の死体に駆け寄る。スキルが進化してから食事も改善されている。



「ふんっ!よし、ファイヤー!」



 刃物は無いので魔物の足を力でちぎり取り、魔力を炎に変換して炙る。魔法だと詠唱か魔法陣が必要なのだが『鬼化』スキルで放出した魔力を炎に変えることができるのだ。まだ制御できてない暴走した私が全身から炎を吹き出して魔物を消し炭にしていたのには驚いた。



「ごちそうさまでした。」



 大きな魔物の足を丸々平らげて食事を終える。『鬼化』スキルの影響なのかどう考えてもお腹に収まらない量の食事をするようになった。まあほぼ消費なく常時発動しておける強力なスキルの代償と考えれば軽いものだろう。最初は意識持っていかれて暴走してたけど。



「さて今日はどうしようかな…。」



 冬は森に人が入ってこない。たしか冬の魔境は寒さが厳しすぎて体が動きづらいので入らないようにするらしい。春に暖かくなってきたら大勢の冒険者が連携して冬の間に増えた魔物を狩るはずだ。


 そしてそれは私が暇になることを意味する。冒険者が入らず魔物の巣窟になった魔境に踏み込むやつはまずいない。ましてやここはミスティア大森林、各国がしっかり見張りを置いてあるはずだ。冬で出入りがほぼなくて目立つだろうし。



(一応浅いところの様子を確認出来るくらいの場所にはいたいけど別にやることないんだよね…。)



 無謀で馬鹿な悪人が入ってきたら適当に奥まで誘導して服を奪いたい。ほぼないだろうけど。


 魔武器の能力はシンプルでそこまで試すことがある訳じゃない。魔力を炎に変えるのはそれなりに色々出来たがもう試し終わっている。半年以上あったのだから当たり前だ。



 いっそ冬は諦めてしまって行けるところまで魔境の奥深くまで行ってみるかと考えはじめたとき、スキルで鋭敏になった感覚が人の気配を捉えた。



(しかも数が多い…。10人はいる?)



 何故か魔物の気配も薄く他に人もいないのでかなりわかりやすい。ゆっくりだが森の奥に向かって進んでいる。


 冒険者のパーティは大体5,6人だし、どこかの兵士にしても今の時期に森の奥に向かう理由はないだろう。



(まさか馬鹿な悪人が本当に現れた?でもそれにしては追われてる感じもないし…。)



 森に入ろうとしただけで止められるだろうし、強行突破したならゆっくり進んでる時間はないはず。


 なんなのかよく分からないがとりあえず様子を見に行ってみよう。馬鹿な悪人ならラッキーだ。




 §



「オラさっさと歩け!」



「ギャハハハハハ!」



「テメエ等あんま油断してんじゃねぇぞ!強力な魔物避けがあるっつっても冬の魔境だぞ!」





 よし、間違いなく悪人だ。殺そう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ